人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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恵みの雨が来る前に 4

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 山の柵の張替はとにかく体力勝負だ。
 重機の入らない崖の上、手作業で運ぶ荷物、基礎のコンクリートも崖の下で作って荷揚げ機で運び上げそれから固まる前に急いで運ぶと言う時間との勝負に職人さん達は走って運ぶもここは高原地帯。酸素が薄くてコンクリのバケツを運ぶだけでも大仕事で酸素不足から運ぶたびに寝込んでいるのは慣れるまでの辛抱ですと言うしかない。
 その作業を横目に俺も畑仕事にいそしむ。
 昨日植えたハーブは枯れてる様子もなく昨日植えたばかりでまだ元気がないと言った所だろうか。明日になれば落ち着くだろうと柵の中の畑へと向かい同時期に収穫が重ならないようにとじゃが芋の種芋を植えていく。今年もとうもろこしを沢山植えたいなと思うのは主に烏骨鶏の飼料として。陸斗も喜ぶし、またあいつらも夏場にやってくるだろう。作らない理由はないと思うもこの地域ではまだとうもろこしを植えるには早い。さてさてと思いながら一通りの植え付けと家の周辺の草刈りを終えた所で休憩する事にする。水分補給のお茶とほんの少しの甘味。だいぶ前に買った賞味期限ぎりぎりのアーモンドチョコレートを発見したのでぼりぼり食べながらスマホをちょいちょい動かしている間にお昼寝の時間になってしまった。
 朝十時からのお昼寝とは何ぞやと言い訳しながらも今はもう四時過ぎには明るくなりだしているのでお昼寝位許されると畑仕事頑張るような日はこの時間から小一時間のお昼寝はルーティンのうちだ。

「吉野さんは朝からお昼寝するタイプですか?」

 幸田さん達と猟友会の事で一緒にお昼を食べながら話をしていれば隣で長谷川さん達も食べていると茶髪でよく日に焼けた石原が続けて
「吉野さんって昼間から昼寝何て暇そうだねー」
 一緒に仕事しません?なんてこの引きこもり生活に対してどこか馬鹿にしたような声をかけてきた。
「仕事によっては昼寝は必須だね。今は朝四時から起きてるから、ちゃんと休んでおかないと夜まで持たないからね」
 ぎょっとした顔を見せて
「四時って早起きしすぎ!おじいちゃんじゃないんだからまだ寝てる時間だって!」
 腹を抱えて笑う石原は悪い奴じゃないんだろうけど、あんたの所の親分の目が厳しくなってるのに気付いた方が良いよーと心の中で突っ込んでおく。
「鶏飼ってるから昼夜逆転の生活できないし、明るいうちじゃないと畑仕事出来ないから」
「ふーん?じゃあ夜は暗くなったら何やってるんですか?」
 ゲーム?ネット?何やってますと好奇心を隠せない言葉に
「今は何人かの受験生の勉強の面倒見てて六時から十時までWeb会議とかで使うアプリを使って教えてる」
「は?」
 何を言ってるんだと理解できないと言うように石原は目を点にし
「綾人君にはホント頭が下がるよ。
 高校卒業も危うかったバカ孫を人並み以上の成績で卒業させてくれた挙句に専門学校だけど進学もさせてもらえた。畑を継がせないといけないかと思ったが、何とか自立するめどが立った」
 うんうんと言いながら一人で頑張って生活をしてると誉めるジジバカは何故か石原の顔を見て話をするのだった。
「必死になって勉強したからね。おかげで草刈りも剪定もどこでバイトしてもやっていける程度の実力はつきましたね」
「ああ、畑の草刈りに連れてったら一人で草刈り機の準備をするわ刃の整備をするわ、吉野で何を学んでるんだって息子と頭を抱えたな。孫に出来ないよりはできた方が良いだろって言われて確かにって吉野には感謝したぞ」
「だけどそれなりに使える様になったら卒業して行くからな。
 先生からの斡旋ももうなくなったし、これからの草刈り要因どうするって所だよ」
 あははと笑う俺に水野さんも幸田さんも手伝うぞと笑いながら言うのはしっかりバイト代をせしめようと言う所だろう。バイト代でいいのなら構いませんよといえば今日も挨拶の前に現地集合と言って一人一足早くやってきてハーブ畑の見学をする遠藤も
「良ければ俺も手伝いに来ます。休日ゲームとパチンコしかしてないので」
 なんて最も生産性のない言葉には笑っておく。昨日今日知り合った人とそこまで仲良くしないといけないんだなんてと心の中で自問自答していれば
「お前は若様になれなれしい!」
 与市さんのげんこつが飛んで水野さん達も笑っていた。グッジョブ。
「まぁ、そこは大和さんや圭斗にも手伝ってもらったりするんで今年一年様子を見て決めます。ああでも猟友会の人達は山を知っておくためにいつでも募集しておきますよ?」
「人使いが荒い!」
 なんて下川さんも嬉しそうに仕方がないな任せておけと言ってくれる。
「でも飛び地の竹林とか畑も手を入れないとヤバいしな」
 ぼやかずにいられないのは去年冬が来る前に竹林の整備をしなくてはいけない状況を思い出したから。
「そう言えば国道沿いの竹林を水野と孫と友達が騒いどったな?」
 与市さんはその時の事を知っていたようで思い出すように言えば
「綾人君に頼まれて国道側に倒れる前に処分したんだよ」
「あれだけ人数が居たから朝見かけて夕方見た時は随分とさっぱりしていたな」
 なるほどと与市さんも家が近いから感心しながら言ってくれたが、そこまで近隣の人達の問題になるくらいに放置した身としては居た堪れなく小さくなるのだった。




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