403 / 976
震える足が止まらぬように 15
しおりを挟む
東京はびっくりするほど暑かった。
この一月ほど人すらあまりいない所に居たので人の多さにも驚かされた。
これから演奏会までお世話になるマサタカの家はマンションで、玄関を潜れば早速と言う様に
『オリヴィエ~会いたかった~!!!我が家であえるなんて感激!!!』
『ハルも久しぶり……』
玄関で待ち構えてたのかドアを開けた瞬間マサタカを押しのけて俺をハグとするその腕の力に窒息寸前にマサタカも笑っていた。
『ほら、長旅だったんだから少し休ませてくれよ』
『うーん。もうちょっと久しぶりのオリヴィエを堪能させてぇ?』
子供の居ないこの二人の間で俺は我が子の如く抱きしめられてぐちゃぐちゃになるのは出会った頃からの洗礼で、周囲の誰も止めてくれないと言うか止められないハルの歓迎ぶりはもう恒例となっていたので色々諦める事にしていた。
『そんなこと言ってないで、飯田君がお菓子を作ってくれたからお茶にしてくれる?』
休憩させてと言えばムフンと笑い
『それを早く言ってよ~』
やっと俺は解放されてやれやれとマサタカは笑っていた後ろからマサタカのマネージャーがやってきて、今回目的の演奏会で弾く曲の楽譜を持って来てくれた。
彼も俺をとてもよくしてくれて、足りない服とかそう言う滞在するに当たり色々な物をそろえてくれていた。だけど俺は
『マサタカ、今すぐ練習したいんだけど』
言えば目を細めて笑いながら
『じゃあうちのスタジオに案内するよ。うちはスタジオが二つあるから。
奥さんの仕事の集中する場所と俺の練習場があるから。奥さん今舞台やってるから日中家に居ないから好きに使っていいよ』
『ハルありがとう!』
言いながらコーヒーと飯田が用意してくれたケーキが並べられた。
卵とバターと砂糖と小麦粉を同量で作る俺の舌にもなじみのある、みんなには甘すぎると不評の甘さと重さのある素朴なケーキに足が止まってテーブルに着く。
ずっしりとした生地のケーキにこってりとした濃厚なバターと甘酸っぱいイチゴのジャムのコントラストが舌を楽しませてくれる。
とは言え綾人達同様ハルもマサタカのマネージャーもあまりの甘さにコーヒーにすぐに手が伸びたようだけど、この素朴さを是非とも楽しんでもらいたいと思っていればマサタカがもう一つケーキを持って来てくれた。
『こっちは奥様にって飯田君からのプレゼントだ』
そう言ってもう一つ何故かマサタカの鞄から取り出された長方形の箱からはチョコレート色のケーキが出てきて、どうやらこれはハルへのサプライズらしい。
『うわぁ!こっちも濃厚で美味しそう……』
このバターケーキの甘さに辟易したのか顔を引きつらせるもののマサタカはケーキを切り分けてこのバターケーキの隣にチョコレートケーキも並べて早速と言う様に口へと運ぶのを見て俺もチョコレートケーキを自分で取り分けて食べれば
『うわっ!濃厚!』
見た目よりも濃いチョコレートの味に驚いてしまえばハルもマサタカのチョコレートケーキを一口分取り分けて
『あら?これ美味しいじゃない。良いチョコ使ってるんじゃなーい?』
こっちの方が食べやすいと言ってマサタカのチョコレートケーキを引き寄せた代わりにバターケーキを押し付けて幸せそうに口へと運ぶ。ビターと言うか、甘さの少ないチョコレートケーキに俺は物足りなさを覚える物のハル達にはちょうどいいようで、俺はハルの食べかけのバターケーキを貰って口の中いっぱいに広がるバターと砂糖の甘さを堪能してから練習へと集中するのだった。
ケーキの美味しさとお礼をメッセージを山ほど送れば飯田は金曜日の早朝にいくつかのケーキを持って来てくれるようになった。時々店で残ったケーキも差入れしてくれたり、綾人からと言って沢山の野菜も貰ったりしてマサタカと一緒にお昼を作ったりして料理の練習をしながらあっという間に今回の出演者達との練習も重ねて公園の日を迎えた。驚くほどの集中した日々と綾人に送った未完成の曲の完成を目指して試行錯誤の時間を過ごす。ジョルジュにも助言をもらいながら曲作りは何時しか綾人の曲以外も作り始めていた。
与えられた楽譜以外の音を繋げて曲にする、こんなにも自由でこんなにも難しいパズルのような、それでいて心が供わないと響かない音があるのかと言う様に模索する時間は初めての出来事ばかりで、それは同時に今まで通り過ぎていた音楽を振り返る時間にもなった。こんなにも奥深い物だとは知らなくて、ジョルジュも言ってた音楽は生涯の友と言うのも今なら理解でき、それだけ俺は音楽に対して作業的だった事をプロになって十年近くたって初めて気付かされた。
いや、本当は自分でも知ってたのかもしれないけど、こうやって面と向えて考える事になったのは初めてだ。
一日中練習場で楽譜とにらめっこしたり、気分転換にタブレットのアプリを起動して音楽を作ったり。
中々にして充実な時間を過ごしていると思うのは向こうでは演奏の移動ばかりに時間を割いてこうやって音楽に向き合う時間が少なかったのだと思うもそれはただの言い訳だと自分を戒める。
俺だけが特別じゃない。
誰もが通過する過程を何思いあがってるんだと自分に言い含めながらバイオリンを構え没頭しているうちに演奏会の日になった。
この一月ほど人すらあまりいない所に居たので人の多さにも驚かされた。
これから演奏会までお世話になるマサタカの家はマンションで、玄関を潜れば早速と言う様に
『オリヴィエ~会いたかった~!!!我が家であえるなんて感激!!!』
『ハルも久しぶり……』
玄関で待ち構えてたのかドアを開けた瞬間マサタカを押しのけて俺をハグとするその腕の力に窒息寸前にマサタカも笑っていた。
『ほら、長旅だったんだから少し休ませてくれよ』
『うーん。もうちょっと久しぶりのオリヴィエを堪能させてぇ?』
子供の居ないこの二人の間で俺は我が子の如く抱きしめられてぐちゃぐちゃになるのは出会った頃からの洗礼で、周囲の誰も止めてくれないと言うか止められないハルの歓迎ぶりはもう恒例となっていたので色々諦める事にしていた。
『そんなこと言ってないで、飯田君がお菓子を作ってくれたからお茶にしてくれる?』
休憩させてと言えばムフンと笑い
『それを早く言ってよ~』
やっと俺は解放されてやれやれとマサタカは笑っていた後ろからマサタカのマネージャーがやってきて、今回目的の演奏会で弾く曲の楽譜を持って来てくれた。
彼も俺をとてもよくしてくれて、足りない服とかそう言う滞在するに当たり色々な物をそろえてくれていた。だけど俺は
『マサタカ、今すぐ練習したいんだけど』
言えば目を細めて笑いながら
『じゃあうちのスタジオに案内するよ。うちはスタジオが二つあるから。
奥さんの仕事の集中する場所と俺の練習場があるから。奥さん今舞台やってるから日中家に居ないから好きに使っていいよ』
『ハルありがとう!』
言いながらコーヒーと飯田が用意してくれたケーキが並べられた。
卵とバターと砂糖と小麦粉を同量で作る俺の舌にもなじみのある、みんなには甘すぎると不評の甘さと重さのある素朴なケーキに足が止まってテーブルに着く。
ずっしりとした生地のケーキにこってりとした濃厚なバターと甘酸っぱいイチゴのジャムのコントラストが舌を楽しませてくれる。
とは言え綾人達同様ハルもマサタカのマネージャーもあまりの甘さにコーヒーにすぐに手が伸びたようだけど、この素朴さを是非とも楽しんでもらいたいと思っていればマサタカがもう一つケーキを持って来てくれた。
『こっちは奥様にって飯田君からのプレゼントだ』
そう言ってもう一つ何故かマサタカの鞄から取り出された長方形の箱からはチョコレート色のケーキが出てきて、どうやらこれはハルへのサプライズらしい。
『うわぁ!こっちも濃厚で美味しそう……』
このバターケーキの甘さに辟易したのか顔を引きつらせるもののマサタカはケーキを切り分けてこのバターケーキの隣にチョコレートケーキも並べて早速と言う様に口へと運ぶのを見て俺もチョコレートケーキを自分で取り分けて食べれば
『うわっ!濃厚!』
見た目よりも濃いチョコレートの味に驚いてしまえばハルもマサタカのチョコレートケーキを一口分取り分けて
『あら?これ美味しいじゃない。良いチョコ使ってるんじゃなーい?』
こっちの方が食べやすいと言ってマサタカのチョコレートケーキを引き寄せた代わりにバターケーキを押し付けて幸せそうに口へと運ぶ。ビターと言うか、甘さの少ないチョコレートケーキに俺は物足りなさを覚える物のハル達にはちょうどいいようで、俺はハルの食べかけのバターケーキを貰って口の中いっぱいに広がるバターと砂糖の甘さを堪能してから練習へと集中するのだった。
ケーキの美味しさとお礼をメッセージを山ほど送れば飯田は金曜日の早朝にいくつかのケーキを持って来てくれるようになった。時々店で残ったケーキも差入れしてくれたり、綾人からと言って沢山の野菜も貰ったりしてマサタカと一緒にお昼を作ったりして料理の練習をしながらあっという間に今回の出演者達との練習も重ねて公園の日を迎えた。驚くほどの集中した日々と綾人に送った未完成の曲の完成を目指して試行錯誤の時間を過ごす。ジョルジュにも助言をもらいながら曲作りは何時しか綾人の曲以外も作り始めていた。
与えられた楽譜以外の音を繋げて曲にする、こんなにも自由でこんなにも難しいパズルのような、それでいて心が供わないと響かない音があるのかと言う様に模索する時間は初めての出来事ばかりで、それは同時に今まで通り過ぎていた音楽を振り返る時間にもなった。こんなにも奥深い物だとは知らなくて、ジョルジュも言ってた音楽は生涯の友と言うのも今なら理解でき、それだけ俺は音楽に対して作業的だった事をプロになって十年近くたって初めて気付かされた。
いや、本当は自分でも知ってたのかもしれないけど、こうやって面と向えて考える事になったのは初めてだ。
一日中練習場で楽譜とにらめっこしたり、気分転換にタブレットのアプリを起動して音楽を作ったり。
中々にして充実な時間を過ごしていると思うのは向こうでは演奏の移動ばかりに時間を割いてこうやって音楽に向き合う時間が少なかったのだと思うもそれはただの言い訳だと自分を戒める。
俺だけが特別じゃない。
誰もが通過する過程を何思いあがってるんだと自分に言い含めながらバイオリンを構え没頭しているうちに演奏会の日になった。
249
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる