人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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さあ、始めようじゃないか 5

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 もともとかつての農家の作業部屋だった小屋は陸斗の遊び場となる様にそれなりに手は付けていた。床を直し、壁を直し、天井も直し、ただ屋根は雨漏りしてなかったので放置していただけ。だけど住むのなら雨漏りしないように手を加えるのは当然。どのみち小動物侵入防止の為の外壁工事に足場を組むのならついでに屋根も張り替えれば安上がりだろう。
 色は全員一致でこだわり無く作れる量があれば何色でもいいと言う所にこだわりを持ってきた。
 それでいいのか職人集団。
 だけどお金の問題もあり在庫処分と言う形で安くお買い上げさせてもらえるので色が複数になるファンキーな屋根が出来上がる予定となった。資材は届いてあるので明日の朝一から始めようと本日は室内に手を入れる。
 とりあえず生活の基盤、台所の完成を目指す。
 台所と居間の辺りは人が住めたり遊ぶだけならすでに高校生ズが利用してたりで幾らでも直ぐに住める環境は整っている。ただし、古いペンダントライトとかそう言った所にお金を一切かける余裕がない圭斗の家の懐事情、その上に高校生男子はそう言う所に一切気をかけない図太さになあなあでここまで来てしまった違和感は半端ない。
 とりあえず住む環境を整える為にも
「じゃあ、俺は実桜さんと凛ちゃん連れて買い物に行くから。あとよろしく」
「あー、ほんとは俺も行きたいのに……」
 蒼さんは言う物の
「トラック二台で出かけるのに蒼さんの保険無いじゃないか」
「それは判ってるけど……」
「だったら圭斗、代わりに行く?」
「俺金無いからここで働く」
 その返答になるほどそう言う事かというように手を叩く蒼さんはぴしっと背筋を伸ばし」
「どうぞよろしくお願いします!」
 ピシッと腰を九十度に折り曲げて俺達を見送ってくれるのだった。
 ちなみに俺は圭斗のトラックを借りて乗ってるけど便利な事に一日保険って言うのがあってそれに登録すると五百円ほどで保険に入れると言う割高だけど優れもの。
 車の保険の事を調べてたらそう言うワンデイパスポートみたいな保険があって覚えていただけ。後は必要な登録は前に車検の話しでいろいろ覚えていたからポチポチ入れるだけ。登録簡単だけどそれを蒼さんに言わないのはこれだけ近くに住む事になりなあなあにしない為。
 俺の方がなあなあになってる?それは言わないのがお約束だ。
 とりあえず内装は実桜さんにお任せと蒼さんも言うので凛ちゃんを連れて大型家具チェーンへと向かう。
「まずベットとかテーブルとか先に決めて配送の手配をしよう」
「はい!」
 凛ちゃんを抱っこで気合を入れて案内板通りに足を運ぶも……
「綾人さん、家具のお値段が……」
 予算以上だと言うのだろう。総額三十万の予算。だけどそこは無視をして
「予算以上は引っ越し祝いで俺が出すから。そこは考えずにさっさと決めよう」
 時間の方が大切だと、顔を引きつらせる実桜さんを無視して決めさせるも選ぶのはシンプルな家具ばかり。
 ベットヘッドもない足だけのシングルベットを二つ。シンプルすぎるベットで良いのかと思うも注文カードを手に取りマットレスとかも決めて行く。
 当面は圭斗の家の布団を借りる予定となっている為無駄は一切出さない事に決めているのでシーツやまくらなども次々と決めて行く。
 さすが実桜さん、誰よりも男前なので決めて行くの早いなと思う間にスマホのメモを見て既製品のカーテンも選んでいく。ちなみにカーペットは購入しないそうだ。
「凛がカーペットの厚みでよく転んだからね」
 そう言いつつも玄関マット、トイレ、バスマットだけは購入するつもりだと言う。
「机はテーブルが一つあれば十分だし」
「作らせるかと思った」
 言えば凛さんはそれも魅力的だけどと言って
「当面やる事いっぱいなのに下手に仕事増やせれないし、それにこれなら後から幾らでも改造できそうだから」
 極端にまでシンプルな机を見て納得。そして仕事の時間を増やさない考えは作る時間をお金で買ったと言う姿勢も悪くはないと思う。
 俺の支払いだけど、そこは傷物テーブルでお安くなってる物を選ぶ当り文句は言わない。むしろ本当に良いのかと不安になるも
「これならすぐ直すだろうし、どうせすぐに凛が傷つけるから後悔もないし」
 母逞しい。
 逆にそう言った家具を買わせてごめんなさいと言う気分になったがそれでも実桜さんは
「下駄箱と食器棚は作りつけにするから。テレビ台は何かあった木箱をリメイクするってサンダーかけてもらった奴使うし、タンス代わりに押入れ改造するからそこをクローゼットにするって。だから細かい物入れるコンテナをとりあえず九個あればいいかな」
 何だろう。
 圭斗がこっちに来た時に宮下と家具を買いに行かせた時のあの不安さが一切ない安心感。
 瞬く間に食器や調味料器具も一式そろえてしまった。
 配送手続きの間俺はトラックに往復する役目をくりかえす。割れそうな食器はトラックの中でコンテナに詰めてタオルとかをクッション材に詰める。
 購入した机と椅子は持ち帰りオンリーだったのでスタッフに助けてもらいながら荷台に入れてロープで固定。ずれないように食器の入ったコンテナでも固定すれば安心感も出来た。
「お待たせしました」
 何やらくまのぬいぐるみをゲットしてきた凛ちゃんを抱っこして小走りにやって来た実桜さんを見て俺は視線をそらす。決して買ったばかりのくまさんのお耳をしゃぶしゃぶしている可愛さに悶えているわけではない。
 そして実桜さんも同じ方向に視線を向けて……
「次、電気屋に乗り込むぞ」
「よろしくおねがいします!」
 どうしても高額になりやすい家電にとりあえず予算オーバーの半額は支払わせてくださいと言うただ貰いはいけませんと言う説得に俺もその意気込みに納得して了承をする。実桜さんはそこでも男前に頭を下げる姿勢に家具選びでも数時間かかった物をまたくりかえす気力を気合を入れて振り絞るのだった。



「お疲れ様。
 すごい買い物だねえ……」
 森下さんが帰って来た俺達を見て呆れを通り越した溜息をもらしていた。
 疲れ切った凛ちゃんはベビーシートから降ろされてもぐっすりとお疲れの様子。
 学校から帰って来た陸斗に凛ちゃんを任せ、一緒に居た葉山と下田に晩ご飯を買いに行けとパシらせた。
「当面はこれでいいはず、だけど足りない物はアホほどあるだろうからそこはまた後日」
「うんうん、必要な物って生活しないと判らないからね」
 なんて言う森下さんは暮れるのが早い山間の夕暮れに帰る準備をしていた。
 俺は謝礼を包んで圭斗を連れて隠れて渡す。
 何とも言えない顔の圭斗だけど森下さんは当然と言う様に受けとり
「もし手が空いてたらまた連絡下さい」
「今ちょうど待ちだから明日も来れるよ。なんだったら応援も連れて来るから」
 言って小屋だった離れを見上げ
「屋根張り替えるんだろ?ガルバニウムの張替の練習したい奴はいっぱいいるから。寂しいけど茅葺屋根にトタン改めガルバニウムかぶせたいって言う家は多くてね。俺達もいろいろ覚えないといけないから」
 言葉通り寂しそうにはにかむ様子の森下さんはじゃあ明日よろしくと言って車に乗って去って行くのだった。






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