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遅い春に芽吹く蕾 7
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卒業パーティは高校生達が俺の檜風呂でまったりしてから解散となった。
植田達も今日は素直に家に帰り、飯田さんと先生と俺が麓の家に残ると言うフランス以来の緊張漂う空気が張り詰めていた。
因みに圭斗は……
「俺?俺は明日陸斗がまだ学校があるからな。当然家に帰るぞ?」
なんて胸を張って言う立派なお父さんだ。
「俺も蒼さんの家の事で少し話がしたいから圭斗の家に行くよ。実桜さんにも少し聞きたい事があるしね。お酒飲んでるから圭斗の家に泊めさせてもらうよ。戸締りはしっかりしてね」
なんてこの二人が揃う場に俺一人を置いて行くと言う恐ろしい現実が容赦なく襲いかかっていた。
今、あれだけ賑やかで煩かった室内は恐ろしいほどの静けさが広がっている。
声を出してはいけない、そんなルールがあるかのように物音すら微かな室内の中で先生がパシュッとビールのプルタブを音をたてて開ける。
ぐびっと喉を鳴らしてはーっと長く息を吐き出した。
その後おもむろに俺達の顔を見て
「それではこれより三者面談を始めます」
宣言と共に突如教師モードになった。
「つかさ、ビール片手に三者面談って何なんだよ」
思わずと言うように半眼で見てしまえば俺と飯田さんの分も用意してくれた。まあ、ありがたく貰うけど。
「シェフにも覚えのある通りの進路相談だ。
まあ、今のお前には親もなければ兄弟は元々ないが頼りになる親戚はおらず、逆に頼りにさせられる立場だ。
親族と離れたかったお前にとっては夢に見た一人ぼっちになった」
むっとしたように飯田さんは腰を浮かすも
「だが、逆に考えればやっとお前のやりたい事がやれる自由な時間が出来たと言う事だ。
そこで俺は提案する。
大学受験をしろ。日本じゃなく海外でだ」
「来年の秋とはずいぶん気の長い話だな」
「まあ、お前の両親がまさかこんなタイミングになるとは想像しなかったからな。
とは言えこれは前々から綾人にはさせてみたかったから。
一度挑戦させたから分かっていると思うがこの国での大学入学資格も必要となる。
陸斗達と一緒に大学受験をするぞ」
言いながら部屋の隅に放っておいた鞄を引き寄せてコピー用紙の束を俺に渡してきた。
「俺としては今のお前ならどこの大学でもいけると思う。憧れの工科大学は勿論、お前の好奇心があればより取り見取りだ。とはいえやはり数学やコンピュータ系に進むのがベターだと思う」
「ベストじゃないんだ」
そんなツッコミに先生は頷き
「お前が本気になれば教えれる奴がいるのかそっちの方が心配だからな。
ああ、でもアートとか音楽には手を出すな。おまえの無駄使いと言う奴だからな。語学は本を与えておけばいいだけだし、歴史なんてお前が少し真面目に調べればある程度はすぐに記憶できる。歴史の先生がぼやいてたぞ、何で高校生なのに教師より詳しいんだって。そんなわけでお前には歴史はお勧めしない」
「綾人さん、先生をいじめてはいけませんよ?」
飯田さん。そんなかわいそうな子を見る目で見るのはやめてください。
「いや、小学生の頃一時ゲームから歴史に嵌って図書館通い続けた程度だけどね」
それが回り回って高校で大活躍をすると言う結果で綾人が授業を放棄する理由でもあった。
「一応進路を提案する上で先生のおすすめとするとヨーロッパ方面がよろしいかと思う」
二冊の手作りパンフレット。
ネットで拾い上げてホッチキスで纏めただけの案内の大学名は誰もが一度は耳にした事ある大学名。
「何でイギリスに寄ってるの?」
「お前のレベルに合わせたら単純にこの二校しかなかったんだよ。それにイギリスならフランスの城からでも電車で行き来できる程度の距離だから、オリオールやオリヴィエ達が側に居ると言うのは先生としても安心できるからの提案だ」
「いや、海渡ってるし。国も違うし。時差も発生してるし。ご近所さんみたいに言わないで」
「ここから比べたら近いじゃないの」
そんな小さい事考えるななんて笑いながら
「それにこれは圭斗達の為でもある」
学生時代何度も真摯な態度で俺を説得する顔と重なって、今度は何をと思って黙って耳を傾けていれば
「お前と一緒にいる事で、圭斗達の為にならなくなる。
お前だってうすうす気付いているはずだ。
自分が圭斗達の害になっている事を」
飯田さんが立ち上がってテーブルバンと音をたてる様に叩いて立ち上がる。
けど俺は直ぐに飯田さんの手を掴み
「そんなの、言われなくたって分ってる」
素直に白状と顔を歪めながら反省をするのだった。
「俺だって先日陸斗が付けていた家計簿を見てぞっとしたぞ。
何だあの家計簿。特に食費だ!あんなのが生活費だなんて言えるかだ!」
立ち上がった飯田さんは眉を顰めながら俺と先生を見比べながらすとんと椅子に座ってビールで口を湿らすように飲んで聞く体勢を取っていた
「陸斗はちゃんとマメだからレシートを取って管理してたぞ。
食費の中身はなんだ?!加工食品ばかりで生鮮食品が全くなかった!
コメどころか野菜、肉、魚!殆どと言ってもなかったぞ!
お前が心配であれこれ食わそうとしているのは判ったが、お前に依存しすぎた生活になっている。勿論俺もシェフもお前に頼ってしまっている所もある事は勿論認める。だけどな、それとは次元が違いすぎる!
お前は圭斗達を支えたいのであって、甘やかしたいわけじゃないだろう?
成長と自立、それがお前が圭斗に学ばせたかった事じゃないのか?!」
先生の暴露に飯田さんの半眼となって俺を見る目が申し訳ないほどに痛くて顔を背けてくれる。
「家のローンの肩代わり、陸斗の大学の学費含めた諸経費、会社の設立、社員確保の為の岡野家の取り込み、離れの改築に空家の再利用!
最初こそ遠慮していた圭斗だったが段々麻痺して数字もだんだん大きくなってきておて、そこはお前だって判ってるはずだ。
お前の感覚から言えばまだまだ小さいかもしれないけどな、そして一般的な数字から言っても十分足りないくらいの数字だけどだ。
圭斗達をあの親戚のようにしたくはないだろう。あんな奴らみたいに、篠田らしくしてもらうのが当たり前、搾取と傲慢な圭斗達の親みたいになるように育てるつもりか?!」
「っ……」
一瞬言葉が出なかった。だけど、気付いていたけど止められなかった理由なんてただ一つで……
「お前が寂しくってそうしていれば構ってもらえる、判らないでもないがあいつらだってあいつらのちゃんと思い描いた未来がある。お前から見たら不安なくらい頼りないように見えるかもしれないが、この段階に入ればお前が出来る事はただ見守って、本当にどうしようもない時だけ手を差し伸べる。その段階に来てるんだ。
それともなんだ?圭斗はそんなにも頼りにならないのか?」
「んなわけない!」
「だったらお前の爺さんみたいにどんと構えてあいつがやる事を見守ってやれ。
まあ、俺はお前の爺さんに会った事がないから知らないけどな」
想像だけでジイちゃんがを語られるも悔しい事に何も間違ってなくて。
子供のころ、山に遊びに来て多少の怖い事をしても怒らずに笑って見守っててくれたり、たまに麓から人が上がって来た時向こうは必至な顔で何か訴えてるけどジイちゃんがはうんうんと頷くだけで笑顔で送り出す頃には相手もすっきりとした顔をしていて。
「お前がやれる事はあいつらが失敗した時声をかけて手を差し伸べてやれればいいんだ」
あまりに痛い位に響く言葉に俯き気味になる頭に先生の手がポンと乗り
「お互い慣れ過ぎたからすぐには無理だと思う。
その為の準備期間じゃないがその時間と強制的に物理的な距離を取る為に留学を先生は進める。
先生も戻って来たし、宮下もいる。お人よしだけど誰より逞しい実桜さんもいるし、お前が居なくてもこのシェフはシェフの為に作った離れの様子を見にこれからも来るし、麓の大工軍団だって頼んでおけば面倒位見てくれるだろ?
それぐらいお前は甘えても良いと思うんだ。
既にそれだけの対価は十分に支払っている。持ちつ持たれつ、回収する時が来ただけだ」
言って立ち上がり
「綾人はもっと自分の事を考える必要もあるついでに提案したまでだ。秋までまだ悩む時間はある。一つ真剣に考えてみると良い」
なんて言っておもむろに立ち上がり
「風呂入って来る」
すぐ側の風呂ではなく檜風呂の方へとゆったりとした足取りで日本酒とぐい飲みを持って行くスタイルはぶれないらしい。
植田達も今日は素直に家に帰り、飯田さんと先生と俺が麓の家に残ると言うフランス以来の緊張漂う空気が張り詰めていた。
因みに圭斗は……
「俺?俺は明日陸斗がまだ学校があるからな。当然家に帰るぞ?」
なんて胸を張って言う立派なお父さんだ。
「俺も蒼さんの家の事で少し話がしたいから圭斗の家に行くよ。実桜さんにも少し聞きたい事があるしね。お酒飲んでるから圭斗の家に泊めさせてもらうよ。戸締りはしっかりしてね」
なんてこの二人が揃う場に俺一人を置いて行くと言う恐ろしい現実が容赦なく襲いかかっていた。
今、あれだけ賑やかで煩かった室内は恐ろしいほどの静けさが広がっている。
声を出してはいけない、そんなルールがあるかのように物音すら微かな室内の中で先生がパシュッとビールのプルタブを音をたてて開ける。
ぐびっと喉を鳴らしてはーっと長く息を吐き出した。
その後おもむろに俺達の顔を見て
「それではこれより三者面談を始めます」
宣言と共に突如教師モードになった。
「つかさ、ビール片手に三者面談って何なんだよ」
思わずと言うように半眼で見てしまえば俺と飯田さんの分も用意してくれた。まあ、ありがたく貰うけど。
「シェフにも覚えのある通りの進路相談だ。
まあ、今のお前には親もなければ兄弟は元々ないが頼りになる親戚はおらず、逆に頼りにさせられる立場だ。
親族と離れたかったお前にとっては夢に見た一人ぼっちになった」
むっとしたように飯田さんは腰を浮かすも
「だが、逆に考えればやっとお前のやりたい事がやれる自由な時間が出来たと言う事だ。
そこで俺は提案する。
大学受験をしろ。日本じゃなく海外でだ」
「来年の秋とはずいぶん気の長い話だな」
「まあ、お前の両親がまさかこんなタイミングになるとは想像しなかったからな。
とは言えこれは前々から綾人にはさせてみたかったから。
一度挑戦させたから分かっていると思うがこの国での大学入学資格も必要となる。
陸斗達と一緒に大学受験をするぞ」
言いながら部屋の隅に放っておいた鞄を引き寄せてコピー用紙の束を俺に渡してきた。
「俺としては今のお前ならどこの大学でもいけると思う。憧れの工科大学は勿論、お前の好奇心があればより取り見取りだ。とはいえやはり数学やコンピュータ系に進むのがベターだと思う」
「ベストじゃないんだ」
そんなツッコミに先生は頷き
「お前が本気になれば教えれる奴がいるのかそっちの方が心配だからな。
ああ、でもアートとか音楽には手を出すな。おまえの無駄使いと言う奴だからな。語学は本を与えておけばいいだけだし、歴史なんてお前が少し真面目に調べればある程度はすぐに記憶できる。歴史の先生がぼやいてたぞ、何で高校生なのに教師より詳しいんだって。そんなわけでお前には歴史はお勧めしない」
「綾人さん、先生をいじめてはいけませんよ?」
飯田さん。そんなかわいそうな子を見る目で見るのはやめてください。
「いや、小学生の頃一時ゲームから歴史に嵌って図書館通い続けた程度だけどね」
それが回り回って高校で大活躍をすると言う結果で綾人が授業を放棄する理由でもあった。
「一応進路を提案する上で先生のおすすめとするとヨーロッパ方面がよろしいかと思う」
二冊の手作りパンフレット。
ネットで拾い上げてホッチキスで纏めただけの案内の大学名は誰もが一度は耳にした事ある大学名。
「何でイギリスに寄ってるの?」
「お前のレベルに合わせたら単純にこの二校しかなかったんだよ。それにイギリスならフランスの城からでも電車で行き来できる程度の距離だから、オリオールやオリヴィエ達が側に居ると言うのは先生としても安心できるからの提案だ」
「いや、海渡ってるし。国も違うし。時差も発生してるし。ご近所さんみたいに言わないで」
「ここから比べたら近いじゃないの」
そんな小さい事考えるななんて笑いながら
「それにこれは圭斗達の為でもある」
学生時代何度も真摯な態度で俺を説得する顔と重なって、今度は何をと思って黙って耳を傾けていれば
「お前と一緒にいる事で、圭斗達の為にならなくなる。
お前だってうすうす気付いているはずだ。
自分が圭斗達の害になっている事を」
飯田さんが立ち上がってテーブルバンと音をたてる様に叩いて立ち上がる。
けど俺は直ぐに飯田さんの手を掴み
「そんなの、言われなくたって分ってる」
素直に白状と顔を歪めながら反省をするのだった。
「俺だって先日陸斗が付けていた家計簿を見てぞっとしたぞ。
何だあの家計簿。特に食費だ!あんなのが生活費だなんて言えるかだ!」
立ち上がった飯田さんは眉を顰めながら俺と先生を見比べながらすとんと椅子に座ってビールで口を湿らすように飲んで聞く体勢を取っていた
「陸斗はちゃんとマメだからレシートを取って管理してたぞ。
食費の中身はなんだ?!加工食品ばかりで生鮮食品が全くなかった!
コメどころか野菜、肉、魚!殆どと言ってもなかったぞ!
お前が心配であれこれ食わそうとしているのは判ったが、お前に依存しすぎた生活になっている。勿論俺もシェフもお前に頼ってしまっている所もある事は勿論認める。だけどな、それとは次元が違いすぎる!
お前は圭斗達を支えたいのであって、甘やかしたいわけじゃないだろう?
成長と自立、それがお前が圭斗に学ばせたかった事じゃないのか?!」
先生の暴露に飯田さんの半眼となって俺を見る目が申し訳ないほどに痛くて顔を背けてくれる。
「家のローンの肩代わり、陸斗の大学の学費含めた諸経費、会社の設立、社員確保の為の岡野家の取り込み、離れの改築に空家の再利用!
最初こそ遠慮していた圭斗だったが段々麻痺して数字もだんだん大きくなってきておて、そこはお前だって判ってるはずだ。
お前の感覚から言えばまだまだ小さいかもしれないけどな、そして一般的な数字から言っても十分足りないくらいの数字だけどだ。
圭斗達をあの親戚のようにしたくはないだろう。あんな奴らみたいに、篠田らしくしてもらうのが当たり前、搾取と傲慢な圭斗達の親みたいになるように育てるつもりか?!」
「っ……」
一瞬言葉が出なかった。だけど、気付いていたけど止められなかった理由なんてただ一つで……
「お前が寂しくってそうしていれば構ってもらえる、判らないでもないがあいつらだってあいつらのちゃんと思い描いた未来がある。お前から見たら不安なくらい頼りないように見えるかもしれないが、この段階に入ればお前が出来る事はただ見守って、本当にどうしようもない時だけ手を差し伸べる。その段階に来てるんだ。
それともなんだ?圭斗はそんなにも頼りにならないのか?」
「んなわけない!」
「だったらお前の爺さんみたいにどんと構えてあいつがやる事を見守ってやれ。
まあ、俺はお前の爺さんに会った事がないから知らないけどな」
想像だけでジイちゃんがを語られるも悔しい事に何も間違ってなくて。
子供のころ、山に遊びに来て多少の怖い事をしても怒らずに笑って見守っててくれたり、たまに麓から人が上がって来た時向こうは必至な顔で何か訴えてるけどジイちゃんがはうんうんと頷くだけで笑顔で送り出す頃には相手もすっきりとした顔をしていて。
「お前がやれる事はあいつらが失敗した時声をかけて手を差し伸べてやれればいいんだ」
あまりに痛い位に響く言葉に俯き気味になる頭に先生の手がポンと乗り
「お互い慣れ過ぎたからすぐには無理だと思う。
その為の準備期間じゃないがその時間と強制的に物理的な距離を取る為に留学を先生は進める。
先生も戻って来たし、宮下もいる。お人よしだけど誰より逞しい実桜さんもいるし、お前が居なくてもこのシェフはシェフの為に作った離れの様子を見にこれからも来るし、麓の大工軍団だって頼んでおけば面倒位見てくれるだろ?
それぐらいお前は甘えても良いと思うんだ。
既にそれだけの対価は十分に支払っている。持ちつ持たれつ、回収する時が来ただけだ」
言って立ち上がり
「綾人はもっと自分の事を考える必要もあるついでに提案したまでだ。秋までまだ悩む時間はある。一つ真剣に考えてみると良い」
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