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めぐる季節の足跡と 1
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「「宮っち!圭ちゃん先日ぶりでっす!」」
玄関開けての挨拶は植田と水野のステレオ放送で始まる何とも能天気な挨拶だった。
「圭ちゃん言うな」
綾人を思い出すようなブスッとした顔の圭斗を宮下は笑いながら
「植田も水野もお帰り。無事卒業おめでとう!」
卒業制作を終えて長い春休みではない物の卒業を待つ身となってやっと昨日卒業式を迎える事になった植田水野コンビは相変わらずいいコンビだ。
「「あざーっす!!」」
直角に腰を上げても顔は俺達を見るように上げる仕種は本当にありがとうと思ってるのかは疑問を覚えるものの、大体何時もこんなんだから気にしないでおく。
「幸治と一樹も卒業おめでとう」
そして水野と植田のせいで見えなかった姿が現れた所でのおめでとう。
「ありがとうございます」
「……っす」
内田さんにしっかりと挨拶をするようにと言い含められてきちんと言えるようになった幸治と相変わらず距離がある物のしっかりと俺達に馴染んだ一樹のこれは植田と水野みたいになりたくないと言った物だろうと思っている。
やっと全員集まった所室内をぐるりと見渡し
「それにしても今年はみんな大移動だね」
宮下が務めて明るく笑うも
「だからって何でうちに……」
圭斗は頭を抱えていた。
「まあまあ。綾っちの家が山の上で今誰も住んでなくって極寒の地だからに決まってるじゃないですか。
あ、陸、俺も手伝うよ」
そう言って春休みを利用して戻って来た上島ブラザーズは我が家の如く台所を活用している。
解せん。
つい去年まではこれは綾人の家の出来事だったはずなのにとそれを代わりにやるとなるとこんなにも煩かったのかと途方に暮れてしまう。
というかだ。
「植田も水野も無事就職できて良かったね」
「はい!俺は東京のIT関係の会社に務めれたし水野も東京の大手の系列会社に就職できて今なら何でも踊れそうな気がします!」
なんて言いながら謎の踊りを踊り出す上だと水野に春休みを利用して戻ってきた園田達も大笑いだった。
「それで一樹は跡継ぎになるって決めたんだって?」
「はい。修行に行こうかとしたのですが、父さんからまずは大学に進めって言われて一応受験して合格してきました」
「おふっつ、一君それは初耳だよ」
植田の驚きは勿論全員の驚き。いつの間に受験してたのかと思うも
「俺的には記念受験のつもりだったので。
だけど受かってしまったからには行けって父さんが勧めてくれて……
因みに仏教系の大学です」
どこか恥かしげな告白に誰もが笑みを浮かべるのを微笑ましく見守っていた。
最初この街に来た時は親子ともども疲れ切った顔をしていた。
檀家の居ない寺の維持の為に置かれ、清貧さながらの生活をしていた十五年は子供の成長と共に虚しさを覚える十五年でもあった。本山から支給される給料のみの生活は心も肉体にも限界を迎えようとした所で半ば逃げる様にこの街へとやって来た。
全く縁もゆかりもなく、知人すらいない初めましての土地は前に住んでいた土地より寂れた上に寒い土地に家族全員が言葉を失っていた。
だけど一軒の檀家が訪れた事で今までの生活はガラリと変わった。
俺達家族をここに導いた前の住職の家族と檀家の皆様に本日お見えになる『吉野』には無礼のない様にと口酸っぱく言われて一体何なんだと思えばびっくりするような金額のお布施を置いてこれからよろしくお願いしますと言い残して山へ帰って行ったのだった。
俺とお袋と親父と三人で帯の付いた万札を暫くの間見つめ
「とりあえず寒いからしっかり冬支度をしようか」
年も明けた一月だと言うのに暖房器具は間に合ったけど服を買い足したり布団を温かい物を買い足したり、今まで買えなくて我慢していた新しい靴を買ったり、前の住職さんの奥さんと檀家の奥さん達が毎日境内の掃除に来てくれるのでその時にお出しするお茶を用意したり、必要経費としてすごく助かったと言っていた。
俺にも寒いだろうからと布団からベットに変ったり、居間の茶たくで宿題をせずに自分の部屋で勉強用の机が用意されたり、本当ならお寺の為に使うお金のはずなのに俺に使ってくれる事を申し訳なく思うも
「大丈夫だよ、って言ってはいけないのだろうがこのお寺はたくさんの檀家に支えられている。今まで苦労かけてたけど人並みの生活をしても良いんだよ。その為にここに移って来たのだから」
親父がそう言って用意してくれた部屋は引っ越す前に遊びに行った友達の部屋と何にも変わらない部屋が用意されていた。
嬉しくも思うも、こんなにも簡単に手に入るのに何でと今までの生活をどうしても思い返してしまえば
「素直に喜べばいいんじゃね?
住職はお前の事を思って用意してくれたんだから、それはお前が思うよりもっと悔しい思いを抱えてきた住職の心なんだから」
しれっとした顔で薪を割りながら帯付きの束を渡してくれた人はそう言った。
「使い方は俺の知る所じゃないし、元々必要なものがあればと言って渡した物だ。住職が必用だと思えばそれは正しい使い方だと俺は思う」
だけど、何だか理不尽な気がして……
結局の所預かったお寺一つでこんなにも生活が変わる事を受け入れられないと言う思いを口に出せずにいれば
「前の口の悪い住職が、お前達の事をずっと心配していたんだ。
人が良くって今時真面目な坊主なのに、だからこそ理不尽な思いをしているって」
真っ直ぐに俺を見た瞳をきっと俺は一生忘れられないんだろ。
「正面からよろしくと言われたわけじゃない。
遠回しにだが助けてやってくれと言われたから、うちのバアちゃんやジイちゃん達に倣っただけだ。そうすれば檀家のほとんどはうちで働いてくれた人達が多いから俺が丁寧に接すればちゃんと丁寧に接してくれる。こう言う繋がりが前のお寺ではなかっただけで、ここではそうやって助け合うのが当たり前だ。
吉野がそっぽを向けば他もそっぽを向く。そう言う関係だから吉野は世話になる人には丁寧に、とは一樹からしたら言い難いかもしれないが、結果吉野がそうだから丁寧にって扱う。
単純に怖い事だけど、お盆に毎年あんな山奥に一番に来てくれる住職への恩返しとなるならそれぐらいの事幾らでも聞いてやる。ただそれだけだよ」
その言葉の通り檀家の人達に大切にお寺を一緒に守ってもらい、そして数多くの檀家さんに支えてもらううちに大学に進学するだけのお金がたまっていた。
親父が行っても良いと言う言葉に甘えて俺は決意する。
親父の後を継いでこのお寺を継いでお盆には真っ先に綾人さんの家にお経を上げに行こう、その程度の恩返しだけど綾人さんはあの山の上で山を守ると決意したのなら、麓の町でお墓を守るぐらいの決意は許して貰えるだろう。
「お前もまた難儀な選択をしたな」
そんな笑い声が聞こえるようだ。
「そうなると一樹も四年の大学に行って本山で修行になるのかな?」
水野先輩の疑問にざっくりとそう言う流れになるはずだと頷く。
「本山の修行はどれだけになるか判らないけど、とりあえず十年見ておけって言われたから。もっとも大学に進学したから本山に数年、こっちに戻ってきて修行って言う事にもなるかもしれないって親父言ってました」
「うーん、つまり綾っちが早いか一君が早いかの勝負だね」
どうせ綾っちはどこぞで道草食って早々には帰ってこないんだろうけどさと笑う植田先輩にみんなもそうだなと笑い声を立てる。
この何もない寒い冬の長い街に来て後悔した日が嘘のように俺は今凄い恩人のおかげで一生の友達と笑いあっている事をすごく幸せに思うのだった。
玄関開けての挨拶は植田と水野のステレオ放送で始まる何とも能天気な挨拶だった。
「圭ちゃん言うな」
綾人を思い出すようなブスッとした顔の圭斗を宮下は笑いながら
「植田も水野もお帰り。無事卒業おめでとう!」
卒業制作を終えて長い春休みではない物の卒業を待つ身となってやっと昨日卒業式を迎える事になった植田水野コンビは相変わらずいいコンビだ。
「「あざーっす!!」」
直角に腰を上げても顔は俺達を見るように上げる仕種は本当にありがとうと思ってるのかは疑問を覚えるものの、大体何時もこんなんだから気にしないでおく。
「幸治と一樹も卒業おめでとう」
そして水野と植田のせいで見えなかった姿が現れた所でのおめでとう。
「ありがとうございます」
「……っす」
内田さんにしっかりと挨拶をするようにと言い含められてきちんと言えるようになった幸治と相変わらず距離がある物のしっかりと俺達に馴染んだ一樹のこれは植田と水野みたいになりたくないと言った物だろうと思っている。
やっと全員集まった所室内をぐるりと見渡し
「それにしても今年はみんな大移動だね」
宮下が務めて明るく笑うも
「だからって何でうちに……」
圭斗は頭を抱えていた。
「まあまあ。綾っちの家が山の上で今誰も住んでなくって極寒の地だからに決まってるじゃないですか。
あ、陸、俺も手伝うよ」
そう言って春休みを利用して戻って来た上島ブラザーズは我が家の如く台所を活用している。
解せん。
つい去年まではこれは綾人の家の出来事だったはずなのにとそれを代わりにやるとなるとこんなにも煩かったのかと途方に暮れてしまう。
というかだ。
「植田も水野も無事就職できて良かったね」
「はい!俺は東京のIT関係の会社に務めれたし水野も東京の大手の系列会社に就職できて今なら何でも踊れそうな気がします!」
なんて言いながら謎の踊りを踊り出す上だと水野に春休みを利用して戻ってきた園田達も大笑いだった。
「それで一樹は跡継ぎになるって決めたんだって?」
「はい。修行に行こうかとしたのですが、父さんからまずは大学に進めって言われて一応受験して合格してきました」
「おふっつ、一君それは初耳だよ」
植田の驚きは勿論全員の驚き。いつの間に受験してたのかと思うも
「俺的には記念受験のつもりだったので。
だけど受かってしまったからには行けって父さんが勧めてくれて……
因みに仏教系の大学です」
どこか恥かしげな告白に誰もが笑みを浮かべるのを微笑ましく見守っていた。
最初この街に来た時は親子ともども疲れ切った顔をしていた。
檀家の居ない寺の維持の為に置かれ、清貧さながらの生活をしていた十五年は子供の成長と共に虚しさを覚える十五年でもあった。本山から支給される給料のみの生活は心も肉体にも限界を迎えようとした所で半ば逃げる様にこの街へとやって来た。
全く縁もゆかりもなく、知人すらいない初めましての土地は前に住んでいた土地より寂れた上に寒い土地に家族全員が言葉を失っていた。
だけど一軒の檀家が訪れた事で今までの生活はガラリと変わった。
俺達家族をここに導いた前の住職の家族と檀家の皆様に本日お見えになる『吉野』には無礼のない様にと口酸っぱく言われて一体何なんだと思えばびっくりするような金額のお布施を置いてこれからよろしくお願いしますと言い残して山へ帰って行ったのだった。
俺とお袋と親父と三人で帯の付いた万札を暫くの間見つめ
「とりあえず寒いからしっかり冬支度をしようか」
年も明けた一月だと言うのに暖房器具は間に合ったけど服を買い足したり布団を温かい物を買い足したり、今まで買えなくて我慢していた新しい靴を買ったり、前の住職さんの奥さんと檀家の奥さん達が毎日境内の掃除に来てくれるのでその時にお出しするお茶を用意したり、必要経費としてすごく助かったと言っていた。
俺にも寒いだろうからと布団からベットに変ったり、居間の茶たくで宿題をせずに自分の部屋で勉強用の机が用意されたり、本当ならお寺の為に使うお金のはずなのに俺に使ってくれる事を申し訳なく思うも
「大丈夫だよ、って言ってはいけないのだろうがこのお寺はたくさんの檀家に支えられている。今まで苦労かけてたけど人並みの生活をしても良いんだよ。その為にここに移って来たのだから」
親父がそう言って用意してくれた部屋は引っ越す前に遊びに行った友達の部屋と何にも変わらない部屋が用意されていた。
嬉しくも思うも、こんなにも簡単に手に入るのに何でと今までの生活をどうしても思い返してしまえば
「素直に喜べばいいんじゃね?
住職はお前の事を思って用意してくれたんだから、それはお前が思うよりもっと悔しい思いを抱えてきた住職の心なんだから」
しれっとした顔で薪を割りながら帯付きの束を渡してくれた人はそう言った。
「使い方は俺の知る所じゃないし、元々必要なものがあればと言って渡した物だ。住職が必用だと思えばそれは正しい使い方だと俺は思う」
だけど、何だか理不尽な気がして……
結局の所預かったお寺一つでこんなにも生活が変わる事を受け入れられないと言う思いを口に出せずにいれば
「前の口の悪い住職が、お前達の事をずっと心配していたんだ。
人が良くって今時真面目な坊主なのに、だからこそ理不尽な思いをしているって」
真っ直ぐに俺を見た瞳をきっと俺は一生忘れられないんだろ。
「正面からよろしくと言われたわけじゃない。
遠回しにだが助けてやってくれと言われたから、うちのバアちゃんやジイちゃん達に倣っただけだ。そうすれば檀家のほとんどはうちで働いてくれた人達が多いから俺が丁寧に接すればちゃんと丁寧に接してくれる。こう言う繋がりが前のお寺ではなかっただけで、ここではそうやって助け合うのが当たり前だ。
吉野がそっぽを向けば他もそっぽを向く。そう言う関係だから吉野は世話になる人には丁寧に、とは一樹からしたら言い難いかもしれないが、結果吉野がそうだから丁寧にって扱う。
単純に怖い事だけど、お盆に毎年あんな山奥に一番に来てくれる住職への恩返しとなるならそれぐらいの事幾らでも聞いてやる。ただそれだけだよ」
その言葉の通り檀家の人達に大切にお寺を一緒に守ってもらい、そして数多くの檀家さんに支えてもらううちに大学に進学するだけのお金がたまっていた。
親父が行っても良いと言う言葉に甘えて俺は決意する。
親父の後を継いでこのお寺を継いでお盆には真っ先に綾人さんの家にお経を上げに行こう、その程度の恩返しだけど綾人さんはあの山の上で山を守ると決意したのなら、麓の町でお墓を守るぐらいの決意は許して貰えるだろう。
「お前もまた難儀な選択をしたな」
そんな笑い声が聞こえるようだ。
「そうなると一樹も四年の大学に行って本山で修行になるのかな?」
水野先輩の疑問にざっくりとそう言う流れになるはずだと頷く。
「本山の修行はどれだけになるか判らないけど、とりあえず十年見ておけって言われたから。もっとも大学に進学したから本山に数年、こっちに戻ってきて修行って言う事にもなるかもしれないって親父言ってました」
「うーん、つまり綾っちが早いか一君が早いかの勝負だね」
どうせ綾っちはどこぞで道草食って早々には帰ってこないんだろうけどさと笑う植田先輩にみんなもそうだなと笑い声を立てる。
この何もない寒い冬の長い街に来て後悔した日が嘘のように俺は今凄い恩人のおかげで一生の友達と笑いあっている事をすごく幸せに思うのだった。
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