人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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時間の流れにしみじみと……するにはまだ早い 2

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 何事もなく手を振って別れたから陸斗が改札口に入る所までを確認して終了となったプチ探偵園田の報告だが、どうやら今度は良い関係を作っているようでほっとしている。
 まあ、雅治の方も引っ越してからかなり辛い思いをしたようだ。確実にブーメランをくらっただけだと言いたいが、今度は逃げ場所も何もない上に誰にも守ってもらえず、金銭的な辛さも体験したのだ。
 浩太さん曰く高校の後は専門学校に通い、一人暮らしも始めた。最初こそ母親の実家で祖母と伯母の呆れた視線に居場所がなく家を出たのだがその後追いかけるようにやって来た妹の家族を壊した兄に対する視線の厳しさにそこでも居場所を失い、何とか高校卒業まで耐えて一人暮らしをしたと言う経緯。
 浩太さんも鉄治さんも二人してがむしゃらに働き続けた理由はそこにある。
 親として、家族として雅治が改心して立ち直る事を最後まで見捨てず、そして何かやりたいと言った時に手を差し伸べれるようにと長く続いた工務店をたたんでの再就職した経緯はそう言う事だった。
 最も圭斗にしたら誰よりも信頼する腕のお二方を迎えるので心強くて大歓迎なのだが、奥さんの放火未遂事件をとにかく心配していた。
 何せこの家が無くなったら陸斗と香奈の帰る家が無くなる。二人の父親になる決意をしてから色々なプレッシャーを抱えてきた圭斗だけど
「万が一の時は先生と一緒に住めばいい。
 それともうちの土地で家を作る?まけとくよ?」
 言えば盛大に顔を歪めてお断りされた。
 とりあえず陸斗と雅治の様子はLIMEの方を覗いた限りでは良好な関係を築いているようで心配はないと言う様にデータを渡したら何故か無言で睨まれてしまった。
「どこから吸い出したデータだ?」
って言いたいんだろうけど人間秘密の一つや二つ当然ある物だよと言えば軽く蹴られた。
 まあ、妥当だなと素直に蹴られておいて、この案は陸斗が自ら話してくれるのを待つ事になった。

 賑やかな食事風景に楽しくビールを飲んで眺めていれば水野が
「綾人さん」
と気持ち悪くも真顔を向けてきた。
「綾っち言わないのな?」
 いつものやり取りがないのを寂しく思いながらも警戒する様に何だと言う様に視線を隣に並ぶ植田も合わせて向ければ
「朝方お話をされていた女性はひょっとしてイギリスの時に出来た彼女さんですか?!」 
 年頃の皆様が興奮したように俺に視線を向けるのを見てこれがこいつらに感じた違和感だったかと納得しつつも溜息を零し
「陸斗、葉山、下田は会った事あると思うが彼女がフランスで雇ったアイヴィー・グルーだ。ちなみに人妻だよ」
 そんな紹介に全員のがっくりとした顔に俺は鼻で笑ってしまう。
「なに期待してるんだか」 
 言いながらビールをもう一缶貰ってぷしっと小気味良い音を奏でれば
「えー?だってさ、綾っちと付き合える女性の希少性を考えたら期待したいじゃん」
 と言う植田の言い分にそうか?と思うも
「まぁ、綾っちの周囲にいる女性って言ったらまず筆頭に宮っちのお母さんでしょ?」
「うちの母さんはカウント外にして」
 寧ろ綾人のお母さんのつもりなのだ。何も発展しようがない事は言わずとながらも
「次にゴリ姉さん。まあ、こっちもカウント外だし?」
 陸斗が姉の香奈の事をゴリ姉さんと言われる事に複雑そうな顔をするが圭斗はそれはあいつが悪いと仕方がないと言う。
 まあ、仕方がないよね。
 それだけパワフルだった事を思い出せばフォローは出来ない。
「後は実桜さんとか、銭投げさんとかみんな結婚した人ばっかりの年上じゃん。
 イギリスに行ってる間の学校の友達関係も男ばっかりだしさ。
 綾っちが女性って言うか結婚自体に興味ないの知ってるよ?お金で自分の晩年何とかすればいいって言う事も判ってるつもりだし」
 水野の言葉に確かにそうだけどさ、そうだけどちょっと言い方ってあるだろうと複雑な気分になってしまう。
「だからこそ綾っちが笑いながらおしゃべりをする相手がいるって言うのが気になります」
 園田も山田と川上と猪鍋の猪争奪戦をこなしながら口を挟む。いや、お前何気に進化してるなと感心しするも言葉は俺に気を配る様にと言う残念進化で俺はこのままどう進むのか好奇心を優先する事にして
「まぁ、アイヴィーは一度婚約者と破綻してるからな。相手が国際的な犯罪者になって、その時にアイヴィーの家の名前をフル活用されたらしくってさ。国に帰れないって言うのもあるし、そんなろくでなしの婚約者と付き合うって事は、これ以上聞くなよ?」
 怖い目にあった事を暗に濁して伝える。
 内容は言わない。言えるわけない。 
 だけど想像はつくだろう。どの具合かなんて当人次第。
 言わない事で最悪を想像させる。おぼこいこいつらにどこまで想像が追いつくか判らないが、漫画のような現実の狂気の日々を乗り越えて立ち直ろうと懸命に一日を過ごしているアイヴィーこそピンチの時には彼女の強さが発揮される素晴らしい人だと思う。
 ほら、俺の場合逃避ばかりして向き合う勇気をまだ持てない……一生持てないからこそアイヴィーの強さに憧れている、のだと思う。
「因みにアイヴィーとはフランスの城の仕事の内容を異性の相手に報告をする、と言う仕事件メンタルトレーニングと言う一度に二度おいしい治療法をしている。今はさらにステップアップして仕事以外の日常の会話をしましょうが加わっている状態。
 日常は一人で買い物ができるようにしましょうって所から知らない場所にも一人で行けるようになりましょうってトレーニングもしている。初対面の異性とも会話をしましょうと言う事もマイヤーにお願いして知り合いの演奏者とお茶をする時間を設けてもらっている具合だ」 
 そこまで伝えてぐるりと見回し
「やっと一年過ぎた所だ。変に邪魔をするなよ」
 釘を刺しておく。
 とてもデリケートで、またあんな目をしたアイヴィーを見たくない思いがこのような結果を生み出すとは……



「お、お前らなんで……」
「初めましてー!俺たち綾っちに勉強教えてもらった教え子ズでーっす!
『え?リクト、トール、ワタル?』
「お久しぶりです」
「フランスではお世話になりました!」
「お元気でしたか?」
 比較的穏やかな三人にビックリとして見開いた目は一度深呼吸して少しだけ落ち着いたようでふわりと笑う」
『みんな覚えてるよ』
 驚きながらの笑顔に今度は植田達が横から次々と自己紹介をしていく。
 背後では俺が何故か二人掛かりで羽交い絞めされ、先生が諦めろと言う様に苦笑していると言う状況なのに植田達の陽気な声がアイヴィーに笑い声を響かせていた。解せん!





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