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時間の流れにしみじみと……するにはまだ早い 1
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アイヴィーとの通話を終えて暫くの休憩の後は貰った元気に部屋に電気が欲しくなるまで集中してプログラムを組み続けていた。
依頼主はアメリカ方面の友人。
今日はノリにノってサクサク進んだ所で
「綾人ー、ごはんだよー」
ちょうどいいタイミング。
宮下のご飯コールに現実に戻った俺はドアを開けて忍び込む夕食の匂いにつられるように急激に空腹を意識したとたん「くー……」何て可愛らしくもない腹の音をならせていた。宮下と二人で笑った所でデータを保存、そしてシャットダウン。
強張った筋肉をほぐすように軽くストレッチをしてから部屋を出る。
まだ夏だと言うのに帰って来た時にはすでにいつでも使える状態の囲炉裏を見てそこまで使いたいのか?ひょっとして一年間出しっぱなしだったのかという感想しか思い浮かばなかったが、安全に使えているのなら文句は言えないだろう。四年間全部お任せだったので言える訳もないのだが
「水野、使った薪の分ぐらいは割っとけよ」
「っす!幸田さん達に山から木を一本貰ってみんなで割らせていただきました!」
「話のスケールなんかおかしくね?!」
いやぁ、そんな風に照れ笑う一同は
「林業で食って行こうなんて思ってないけど、引退後の事を考えるとこっちに戻って来るとするでしょ?そうすると何か仕事を見つけないといけないじゃん?」
「手に職はあっても一線を退いたら俺達の価値なんて大暴落だし、今と同じように働く事なんて無理だからもう一つ何か職を探しておいた方がいいと思ったんだ」
あっけらかんと植田と水野は言う。
「てっとり早く綾っちの所の山の世話なら年金と合わせれば十分食べて行けるだけの給料は貰えると思うし?」
「やっぱり実家に近い職場って安心できていいよね」
上島兄弟は既にここを再就職先と決めているようだ。
「綾っち言うな。
っていうかさ、お前ら自分ちの畑があるだろ?」
と言うも
「歳を取ってからの専業農家無理なので」
きりっと言い切る上島兄の言う事ももっともだ。
今まで農家としての実績はお手伝い程度しかないのに、やるならやれそうだけどそれだけで食べて行くと言うのはないようで、趣味程度ならいくらでもやる程度なのだろう。その規模が半端ないのは二人の父親が十分証明しているが……
大学進学の時の蕎麦職人になりたいと言う情熱はどこ行ったのだと言う様に思いはフラフラしているようだが、今は関東方面であまり日本ではかなりお目にかからない高級野菜やレア野菜の栽培を手がける会社に勤めていると言う。
広大なハウスでノウハウを学び、そしてレストランに卸すと言う、三つ上の先輩が立ち上げた企画に大学時代から乗っかっていてそこからの就職だったらしい。給料面ではこのメンツの中では一番頼りないが、それでも成人してからコツコツと始めた長期投資はそこそこ大きくなって不安な給料面を補うくらいの収支は得ていると言う。まあ、危険がない程度に俺が教えたがそこは教え子。性格が示すように忠実に冒険もせずにコツコツと石橋を渡るように慎重に運用していると言う。
「いや、綾っちみたいに城が買えるほどの資産があるわけじゃないし」
半眼で睨まれてしまったのは良い思い出だ。
とりあえず弟も見よう見まねで始めて時折アドバイスと言う世間話をしながら勉強をする勤勉さは中学生の頃から育てただけあって今も真面目に遂行しているようだ。
どこに向かってるかは全く不明だが人の人生だ。当人に責任持たせておけば問題ないだろう。
そうこうしている間に瞬く間にご飯も猪汁も行き渡って全員ビールを掲げて
「「「カンパーイ!!!」」」
なんて、このメンツが揃っていた頃はまだビールも飲めない未成年だった事からこの月日の流れにちょっと感動する。いつの間にか陸斗までビールを楽しそうに飲んでいて、前に圭斗と一緒に飲んだ事もあるとは言えあのもやしっ子がこんな風に育ったことを誇らしく思っていれば何やらニヤニヤしている水野と植田がお互いをつつき合っていた。
これは何かあるなと思うも園田達はさわらぬ神にたたりなしと言う様に真夏でも美味しい猪鍋をつついていた。いや、猪鍋に猪汁って何なんだよと思えば上島曰く次の狩りのシーズンまでに冷凍庫の猪と鹿の処分をしろと長老衆に言われていての苦渋の判断らしい。
まあね、美味しいから良いけど何だったら帰りに持ち帰ってもらってもいいぞと言うのは俺もさすがにヤバいなと冷凍庫を見ての判断。きらりと圭斗の視線が光ったのを見て、俺は力強く頷いた。
そうだ。
圭斗の所にも巨大な胃袋を持つ人々がいるじゃないか。
園芸部事遠藤と元職場の本職草刈り部隊の人達(違う)。
ほんと空き地の草刈りや国道沿いの竹林の整理、そして地元の学校への貢献……
そんなパワフルな方達へ差入れをすれば一瞬で消えたのを見て何で楽して弁当屋の弁当で済まそうとしたんだと言うもの。
圭斗の家にある竈でご飯を炊いて何気に俺の倉庫にあった業務用の寸胴鍋を持ち込んでおけば十分にたりたあの炊き出しは俺がイギリス滞在時の合間に宮下が撮影した動画が証拠として残っている。耐熱煉瓦でつくった即席の竈で作られた猪汁は何と長谷川さんや内田さんの奥さん達が作ってくれた物。
かつてトラブルから事故へと発展させてしまう危険性もあった内田さんの奥さんも今ではすっかり落ち着きを取り戻していた。
家業を辞めた事もかなり大きく、安定した収入と今まで休みなく働きづくめだった心労も十年一昔ではないがだいぶ落ち着いたようだ。十年はまだ経ってないけどな。
一番下のお孫さんの沙良ちゃんも今では専門学校に通う様になり、この夏の始めの頃ひとりで電車を乗り継いで遊びに来たと言うのだから大したものだと思う。
そして長兄の雅治もなんと東京で陸斗と再会して……
本人は何も言わないがどうやら二人で会っているらしいと言う園田の目撃情報があった。
どうやら乗換駅が一緒らしくちょくちょく合うようで、マックで少しだべってたりしている様子をビックマックセットを食べながらスマホ撮影してくれていた。
依頼主はアメリカ方面の友人。
今日はノリにノってサクサク進んだ所で
「綾人ー、ごはんだよー」
ちょうどいいタイミング。
宮下のご飯コールに現実に戻った俺はドアを開けて忍び込む夕食の匂いにつられるように急激に空腹を意識したとたん「くー……」何て可愛らしくもない腹の音をならせていた。宮下と二人で笑った所でデータを保存、そしてシャットダウン。
強張った筋肉をほぐすように軽くストレッチをしてから部屋を出る。
まだ夏だと言うのに帰って来た時にはすでにいつでも使える状態の囲炉裏を見てそこまで使いたいのか?ひょっとして一年間出しっぱなしだったのかという感想しか思い浮かばなかったが、安全に使えているのなら文句は言えないだろう。四年間全部お任せだったので言える訳もないのだが
「水野、使った薪の分ぐらいは割っとけよ」
「っす!幸田さん達に山から木を一本貰ってみんなで割らせていただきました!」
「話のスケールなんかおかしくね?!」
いやぁ、そんな風に照れ笑う一同は
「林業で食って行こうなんて思ってないけど、引退後の事を考えるとこっちに戻って来るとするでしょ?そうすると何か仕事を見つけないといけないじゃん?」
「手に職はあっても一線を退いたら俺達の価値なんて大暴落だし、今と同じように働く事なんて無理だからもう一つ何か職を探しておいた方がいいと思ったんだ」
あっけらかんと植田と水野は言う。
「てっとり早く綾っちの所の山の世話なら年金と合わせれば十分食べて行けるだけの給料は貰えると思うし?」
「やっぱり実家に近い職場って安心できていいよね」
上島兄弟は既にここを再就職先と決めているようだ。
「綾っち言うな。
っていうかさ、お前ら自分ちの畑があるだろ?」
と言うも
「歳を取ってからの専業農家無理なので」
きりっと言い切る上島兄の言う事ももっともだ。
今まで農家としての実績はお手伝い程度しかないのに、やるならやれそうだけどそれだけで食べて行くと言うのはないようで、趣味程度ならいくらでもやる程度なのだろう。その規模が半端ないのは二人の父親が十分証明しているが……
大学進学の時の蕎麦職人になりたいと言う情熱はどこ行ったのだと言う様に思いはフラフラしているようだが、今は関東方面であまり日本ではかなりお目にかからない高級野菜やレア野菜の栽培を手がける会社に勤めていると言う。
広大なハウスでノウハウを学び、そしてレストランに卸すと言う、三つ上の先輩が立ち上げた企画に大学時代から乗っかっていてそこからの就職だったらしい。給料面ではこのメンツの中では一番頼りないが、それでも成人してからコツコツと始めた長期投資はそこそこ大きくなって不安な給料面を補うくらいの収支は得ていると言う。まあ、危険がない程度に俺が教えたがそこは教え子。性格が示すように忠実に冒険もせずにコツコツと石橋を渡るように慎重に運用していると言う。
「いや、綾っちみたいに城が買えるほどの資産があるわけじゃないし」
半眼で睨まれてしまったのは良い思い出だ。
とりあえず弟も見よう見まねで始めて時折アドバイスと言う世間話をしながら勉強をする勤勉さは中学生の頃から育てただけあって今も真面目に遂行しているようだ。
どこに向かってるかは全く不明だが人の人生だ。当人に責任持たせておけば問題ないだろう。
そうこうしている間に瞬く間にご飯も猪汁も行き渡って全員ビールを掲げて
「「「カンパーイ!!!」」」
なんて、このメンツが揃っていた頃はまだビールも飲めない未成年だった事からこの月日の流れにちょっと感動する。いつの間にか陸斗までビールを楽しそうに飲んでいて、前に圭斗と一緒に飲んだ事もあるとは言えあのもやしっ子がこんな風に育ったことを誇らしく思っていれば何やらニヤニヤしている水野と植田がお互いをつつき合っていた。
これは何かあるなと思うも園田達はさわらぬ神にたたりなしと言う様に真夏でも美味しい猪鍋をつついていた。いや、猪鍋に猪汁って何なんだよと思えば上島曰く次の狩りのシーズンまでに冷凍庫の猪と鹿の処分をしろと長老衆に言われていての苦渋の判断らしい。
まあね、美味しいから良いけど何だったら帰りに持ち帰ってもらってもいいぞと言うのは俺もさすがにヤバいなと冷凍庫を見ての判断。きらりと圭斗の視線が光ったのを見て、俺は力強く頷いた。
そうだ。
圭斗の所にも巨大な胃袋を持つ人々がいるじゃないか。
園芸部事遠藤と元職場の本職草刈り部隊の人達(違う)。
ほんと空き地の草刈りや国道沿いの竹林の整理、そして地元の学校への貢献……
そんなパワフルな方達へ差入れをすれば一瞬で消えたのを見て何で楽して弁当屋の弁当で済まそうとしたんだと言うもの。
圭斗の家にある竈でご飯を炊いて何気に俺の倉庫にあった業務用の寸胴鍋を持ち込んでおけば十分にたりたあの炊き出しは俺がイギリス滞在時の合間に宮下が撮影した動画が証拠として残っている。耐熱煉瓦でつくった即席の竈で作られた猪汁は何と長谷川さんや内田さんの奥さん達が作ってくれた物。
かつてトラブルから事故へと発展させてしまう危険性もあった内田さんの奥さんも今ではすっかり落ち着きを取り戻していた。
家業を辞めた事もかなり大きく、安定した収入と今まで休みなく働きづくめだった心労も十年一昔ではないがだいぶ落ち着いたようだ。十年はまだ経ってないけどな。
一番下のお孫さんの沙良ちゃんも今では専門学校に通う様になり、この夏の始めの頃ひとりで電車を乗り継いで遊びに来たと言うのだから大したものだと思う。
そして長兄の雅治もなんと東京で陸斗と再会して……
本人は何も言わないがどうやら二人で会っているらしいと言う園田の目撃情報があった。
どうやら乗換駅が一緒らしくちょくちょく合うようで、マックで少しだべってたりしている様子をビックマックセットを食べながらスマホ撮影してくれていた。
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