人生負け組のスローライフ

雪那 由多

文字の大きさ
955 / 976

ジャックするって言うけど俺達ただ巻き込まれた系だよねと大声で叫びたい 6

しおりを挟む
「もう寝てるし……」
 蓮司は呆れながらも寝つき良すぎるだろと俺の寝顔を写真撮りはじめながら
「うわ、お前この近距離で起きないとかありえないだろう」
 言いながらもパシャパシャと写真を撮る。
 それを見て多紀さんも真似して写真を撮っていたのを綾人は知らない。
 蓮司と多紀さんが撮り出せば当然のように波留さんも写真を撮り始め、何がありがたいんだと言うような圭斗と宮下だが
「綾人さんってこうやって黙って寝てると二十代前半で通用しますよね」
 その場の流れに乗るように飯田さんも撮っていた様子に目をそらしていた。
「わかるわあー。おじいちゃん、おばあちゃん子だから精神年齢高いけど、やっぱりまだまだお子様なのよねー。あ、睫ながーい」
 三十代でお子様と言われる同級生二人は何も言えないでいるけど
「波留ちゃん、そろそろ僕達もお暇しようか」
 居た堪れなさそうな圭斗と宮下をちらちらと見ながらチョリが申し訳なさそうに戦線離脱宣言をしてくれた事なんて寝ている綾人からすればどうでもいいと言うように寝息を落としていた。
「そうねー。これだけ気持ちよく寝ているのを見ているとこっちも眠くなっちゃったしね」
 アヤさんの寝顔いっぱい撮っちゃったなんて言いながらご機嫌に立ち上がり
「多紀さんも帰るよ」
「えー?」
「えーじゃない。明日も打ち合わせがあるんだから帰るよー」
「じゃあ俺が家まで送ります」
「蓮司君ありがとう~」
 蓮司も立ち上がり、強制的に多紀さんを家に送るように駐車場に止めた車に押し込めて
「じゃあ、アヤさんによろしくね」
「俺達も失礼します」
「すみません。お付き合いいただいて」
 代表で飯田さんが挨拶をする。
「気にしないでー。蓮司君預けた時に比べたら大した事ないから」
 からからと笑う波留さんに皆さん苦笑。
 あれはほんと酷かったと預けられた蓮司も逃げ場があれば逃げ出したい突然の出会いは死にかけた心でもこんなにも恐怖があるのかと今も心の中に強く残っている。
 テレビ局を出た所で一瞬みせた綾人のあの表情、俺が初めて山の家に案内された時と重なる顔をしていたがそれはほんの一瞬。気のせいかと思うようなわずかな時間。
 だけど、知らない人が怖いと言う綾人の言葉を聞けば、恐怖する顔とその後の陽気な声は心を奮い立てるための取り繕う声。
 自分自身をだますためのもの。
 こうやってその場を凌いで来たのかとそっとため息をこぼせば
「蓮司君」
 車の運転を始めた所で多紀さんに呼ばれた。
「綾人君って本当に脆く崩れやすい子だね」
 俺様な姿しか見せないけど、自然にその場に合わせるくらいに対応するぐらいの器用さは心の防衛のもの。
「不器用でバカですよね」
 あれだけ俺達を頼れと言うのにこれぐらい何てことないと言う態度に腹が立つ。
「ほんと目が離せないよ」
「まあ、そのくせやる事もバカだからな」
 大金積んで購入した家をたった一年で売るなんて考えられんと耳を疑ったが、それでも本人は真剣だからどうしようもない。
「まだまだ綾人君から目が離せないから、悪いけど付き合ってね」
「俺も目が離せないから問題ありませんよ」
 俺も大概だが俺以上に歪な成長を遂げた親友を思えばこれぐらいお安い御用。
 願わくば
「あんな丸まって寝なくて済むくらい、寝る時くらい安心して寝ろよっていいたいっすね」
 寒くも狭くもないのにまるで自分を守るように丸まって眠る子供の姿に何も言えなくなって退散した俺達はまだまだ綾人の事をわかってない事だけが分かった。
 


「・・・・・・気持ち悪い」
「うおっ?!急に起きていきなり何を」
「綾人、ほらトイレはこっちだよ。お酒強くないのにどれだけ飲まされたんだよ」
「お水持ってきます」
 多紀たちが撤退して三十分もしないでむくりと起きだした綾人の言葉に布団を敷いて寝る準備をしていた圭斗はぎょっとするも宮下は慣れたように綾人をトイレに連れて行った。
「って、なんて介護だ」
 いきなり体を起こした綾人に驚いて心臓が未だにバクバクと全力疾走状態だけど、こちらも慣れたようにミネラルウォーターの蓋を緩めてトイレにいる綾人に渡せば気持ちいいほど飲んだ後・・・・・・以下略。
「慣れてるなって言うか、吐くほど飲むなよ」
「たった三杯だけど、緊張して死にそうだった」
「うんうん。綾人は頑張ったね」
 なんて便器を抱いて泣く綾人に適当に相槌を打つ幼馴染の姿の目の前で飯田さんが酔い止めの薬を綾人に飲ましていた。
「これ以上飲むの苦しい」
「飲まない方が苦しいですよ。さっきで出すもの出したのだから薬飲んで寝ちゃいましょう。盥置いておくので安心して寝ましょう?」
「むり、動けない。もうここで寝るから」
「トイレの独占はやめてください」
 この家に複数トイレがあるとはいえトイレで寝るなって言うものだが
「お家に帰りたい」
「はいはい。明日には帰るから、明日帰れるように寝ようね?」
「うん。寝る。ウコを抱っこするんだ」
「お酒の匂いが残ってるとまたつつかれるから、朝起きたらシャワー浴びようね」
「うん。山に帰ったら……」
「あー、だから便器抱えて寝ないの!」
 なんて酔っ払いだと宮下がずるずると廊下を引きずりながら客間に戻ってくる合間にも飯田が盥やミネラルウォーターのペットボトルを枕元に用意してるのを見て
「お前ら甘やかせすぎだ」
「それは判ってますが・・・・・・」
「圭斗、ここで放置しておくと熱出したり家中汚れて片づけさせられることを考えると絶対こっちの方がましだから」
 経験で言わせてもらいますと言う頭で覚えさせるより体で覚えさせた綾人の粘り勝ちだろうか。
 俺が知る限りそんな悪酔いしないだろうと圭斗は言いたかったがここで一人の人物を思い出した。
 今ここに居ない飲んだくれの姿を。
「先生か?先生が綾人をこうしたのか?」
「俺は綾人さんをこんな悪酔いするような飲ませ方させません」
 きりっと言い切る飯田だけど
「自慢にならないから」
と言う冷めた目で言う。
「結局の所綾人をおとなしくさせる方法がこれだから仕方がないんだよ」
「理由はわかるが、お前ら鬼だな」
 何をこれぐらいと言いながらやっとの思いで布団に寝ころばせて程よい空調に調節し、部屋を暗くしたところで再び聞こえ出した穏やかな寝息にほっとできない圭斗は当然のように寝不足の顔で目を覚ますのだった。







しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

処理中です...