流星物語

雪那 由多

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星屑物語 8

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 ファウエル様の騎士団の話に変わるとラウイール様も魔法騎士団に憧れているのかこれから3年間養成学校に入って魔法騎士団を目指す事を熱烈に語ってくれた。
 その姿はさっきまでのどこか卑屈そうな少年の姿ではなく、初対面の時の親の地位を笠に着る貴族の子供でもない。
 夢を語らうどこにでもいる使用人の子供と何ら変わらない少年のような瞳を輝かせていて、セシルのように将来を語る領主の姿を重ねながらその情熱に耳を傾ける。

「それでアリアーネ嬢の目標は?」
「お嫌いでなければどうぞアリーとお呼びください」
「では私の事をエルと」
「なら俺の事もラウイと呼んでくれ」

 メインのリンゴが敷き詰められた皿に乗せられた肉料理が運ばれる頃にはかなり遅まきながらもやっと打ち解けて三人で盛り上がるのを侯爵夫妻は目を細めて微笑んでいるばかりだった。

「実は来年私の弟が成人の年になります。
 それからは私が王都から弟をサポートする形になりますので、可能な限り王都の話題をクレヴィング領へと届けなくてはなりません。
 それと我が領土の産業がほぼ農作物や狩猟の加工品と言ったものの収入がメインとなるので、販売ルートの新規開拓を務めなければなりません。
 とりあえずやりたい事はやらなければならない事の後になるのでゆっくりとその合間に考えて行こうかと思います」

 言えば「まぁ!」と口を挟んだのは侯爵夫人。

「アリーさん、「とりあえず」と言う言葉は良くありませんよ。
 とりあえずと言う言葉は二度とやってこない物なの。
 そうだわ。ねえ旦那様。
 アリーさんをラウイと同じ学校へと通わせる事は出来ませんか?」

 侯爵様に話を振れば驚いた顔が妻を、私を含めた子供達の顔を確認をする。

「同じ学校と言うリンヴェル王立学園へか?」
「はい。アリーさんの云う事には情報集めと顔を売りたいという事なのですから、貴族としての社交の場を学ぶと言う意味合いも含めて学園に通うのが一番の近道かと思います。
 それにラウイと同じ年の娘が夜な夜な夜会に出かけるのは親心から見ても心配が付きません」

 そう言ってくださった視線は心から心配をしてくれたもので、侯爵様をじっと見つめて視線を外さない奥様にさすが侯爵夫人ですと心から尊敬した。

「ですがお母様、女性でも授業には剣や体術、魔術と言った授業もありまして、そう言った事は既に基本を学んだ事を前提に授業が進められるんですよ」

 令嬢がそのような事いきなり始めるなんて無茶だとエル様が慌てて口を挟めば、さっきまでシェラード様と楽しそうに話をしていた叔父様が穏やかな口調で口を挟む。

「その点でしたら大丈夫ですよ。学問はもちろん剣術、体術、魔術、馬術、弓術、槍術に至ってはクレヴィング家は特化しておりますので」

 その言葉に侯爵様を始め全員が驚いたように私達を見る。

「ああ、皆様昔過ぎてご存じないかもしれませんが、クレヴィング領初代の夫はその類稀な魔力の保持量と術者としての腕をもってクレヴィングの地と統治させて頂きました。
 クレヴィング領は王都より馬車で5日の距離と砂漠の隣国と2千エール級の山脈を背に持つ、辺境と言うべき田舎なので馬を扱えなければ隣家にもたどり着けないし敷地内でも迷子になれば飢えて死ぬ可能性もあり、魔術を駆使しなければ魔物に襲われて死ぬだけの運命の地です。
 武術に関してはアリーの年で騎士団に引けを取らない自信はありますよ」

 驚く面々を他所に私は叔父様を見上げ

「そう言われても騎士団の強さがわかりませんので比べようがありませんよ」

 叔父様ってどこまで叔父バカですかと言うか、何を我が国最強の騎士団の隊長さんを前に姪っ子自慢してるのかと思えば

「それは面白い事を聞いた。
 エル、練習用の剣を持っておいで。
 今からちょっと打ち合ってみなさい。
 それ次第で私が学園に話を付けよう」
「ち、父上!」
「叔父様!
 話がなんか変な方に向いてます!!」

 何が?と言うように可愛らしく小首かしげるしぐさが妙に似合う30歳にシェラード様が盛大にむせていた。
 それを無視して奥様が

「まぁ、食事中ですよ?」

 なんて怪訝な顔をするも

「満腹になったら動きが悪くなるじゃないか。
 料理はまた後で温めて直してもらおう。
 さ、みんなで庭に出ようじゃないか」

 何処か楽しそうにうきうきとした足取りで奥様を連れて一番に外に出て行ってしまった侯爵様に続くしかない状況の中

「ったく、アリーがドレスアップしてるの忘れてないか?」

 そう言うエル様も正装とまでは言わないけどドレスアップしてるのはお忘れじゃないですか?
 しかも私のドレスとは比べ物にならないくらいの高級素材ですよね?

「まぁ、軽く打ち合うくらいなら問題はないでしょう?」

 カナル叔父様の苦笑に私も諦めて苦笑を零す。

「そうですね。
 こういった服装でも剣を振るえるか試す機会と思いましょう」
「女って大変だなー」
「ですよねー」

 今頃になってすっかり打ち解ける事の出来たラウイ様と相槌を打てば、この家の家令が練習用の刃をつぶした剣を用意してくれた。

「ファウエル様にはいつもの訓練用の剣を。
 アリアーネ様には練習用の剣の内一番軽いものをご用意いたしました」

 ビロードの敷き詰められた長箱の中の剣を取り

「ありがとうございます」

 家令の方にも丁寧なお礼を述べて離れてから重さになれるように軽く剣を振り回してみる。

「どう?」

 エル様の心配気な声に

「だいぶ軽いけど大丈夫です」
「じゃあ始めようか」

 チンと剣先を重ねて軽くぶつけ合うように、その長さになれるように2、3度重ねる。

「じゃあ、ちょっと打ち込んできて」

 全くお互いの技量が判らない中での打ち合いほど危険な物はないので、軽く打ち込みながら癖を見るらしい。
 この程度の打ち込みで癖すら見抜けるなんてさすが隊長だと、安心して打ち込んでいけば両手で剣を握って左右に私の打ち込みをいなしていくその技量に私も思いきり剣を振るう事が出来ると剣を重ねて行く。

「うん。ちゃんとセシルと訓練してるようだね」

 叔父様のどこか確認するかの、でも長閑な声に

「でもルードには未だ勝てません」
「あの子相手じゃアリーでは無理だよ」

 くすくすと笑う叔父様との会話に

「ルード?」
「クレヴィング本宅の庭師です。
 剣の腕は本宅一だと思っております」
「その言い方だと魔術は…」
「ちょっと難しい所の生まれなので私も詳しくは……
 なので家令のラウドと親戚の兄様が剣術を育ててました」
「そう聞くと庭師にそこまで教え込むラウドさん怖いなぁ」
「はい。50歳過ぎてるのにいまだに父でさえぼこぼこにされてます。
 最近でこそ若さでルードの勝ちが続いてますが」
「ラウドは相変わらずか。戻ったら僕も鍛え直してもらおうかな?」

 なんて笑いあいながら剣で打ち合っていれば

「そろそろ体も温まった頃だろ?少し本気を見せてくれ」

 侯爵様よりの指令が下った。
 エル様は肩をすくめてじゃあ、ちょっとだけ真面目にやろうかと距離を少し開けて正しく剣を構えた。
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