没落令嬢はお屋敷ダンジョンを攻略します!

雪那 由多

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類は友を呼ぶと言うが、私は友ではありません

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 ギルドカードの地図を見ながら一軒の店が掲げる看板を見上げる。

 『クインブロッサム』

 外観は勿論シックな店構えだったがちらりと首を傾けただけでも見える背後は商人ギルド・アラベスクの本拠地。
 門前払いではないもののお断りされた身としてはその様子がチラリと見えてしまう事でもダメージを負ってしまう。
 だけど踏ん張って『クインブロッサム』の店へと入ればカランとこれまた品の良いチャイムの音が響いた。

「いらっしゃいませ、本日はどのようなお品をお求めでしょう」

 奥から品の良さそうな口調のお姉……おねぇ?……お兄ぃ……
 何と呼べばいいのか判らない人が現れた。
 声も素敵なハスキーボイスで品性もうかがえるのに、見上げる身長と肩幅と、むちっとした筋肉の胸元を半分ほど晒す素敵なタイトなドレスを身に纏う店員が現れた。
 思わずポカンと見上げながらルヴィ様が指名するわけだとなんとなくおっさんと言うよりおばちゃんと言う方が正しいような口調を思い出しながらやはり類は友を呼ぶんだなと考えながらも

「えーと、お城にお伺いしてもおかしくないようなフォーマルドレスを三着ほど。
 靴と服を合わせて、あと派手ではない髪飾りをこちらのお金で収まるように見繕って欲しいのですが……」

 言いながらもどうしても男性と言うのにその胸元に視線が向いてしまう。
 顔を赤らめてしまってもついついそちらに目を向けてしまう魅惑の店員さんはクスリと笑い

「承知しました。
 でしたらさっそくサイズを見ましょう」

 そう言って店の中をくるりと踊る様に移動しながら何着のドレスを店の中央奥に誂えたガラスのテーブルの上に並べる。
 こんなにもと驚きながらも店員さんは私を一枚の大きな鏡の前に立たせて次々に合わせて行く。

「そうね。フォーマルなら一応黒は必須ね。紺色も良いけど臙脂も捨てがたいわ。濃緑も良いけど、若いお嬢さんなら生成色の白さも悪くはないわぁ」

 暗い色ばっかりだと憂鬱だしねとニコリと笑顔が素敵な店員さんに戸惑ってしまえば

「お嬢さんはお城にお使いに行くの?」
「ええと、メリッサと申します。
 お仕えしている旦那様がお城でお勉強を教えて下さると言う事で、それなりにちゃんとした格好をしなさいって事になりまして……」
「メリッサちゃん!可愛いお名前ね!
 私のクイン・ブロッサムにも負けないわ!」
「ええと、店主さまでいらっしゃいましたか?」
「店主だなんて……マダムって呼んで?
 マダム・クインって呼ばれてるわぁ」

 どちらかと言えばクイーンだろとあまりの迫力にそう言いそうになるも

「失礼かもしれませんが、本名でしょうか?」
「ふふふ、奇跡みたいな本名よ。素敵な名前でしょう!」
「ええ、とても……」

 名は体を表すと言うが、まさにそれだなと感心しながら頷いてしまう。
 
「お城にお使いじゃなくってお勉強なら白い色は汚れちゃうから駄目ねぇ。
 黒と紺と……」
 
 私の顎をくいっと持ち上げて

「綺麗な翡翠の瞳ね。なら臙脂よりも濃緑のドレスが良いわ」

 そう言ってまた何着かドレスを持ってきて体に当てて

「やはり若い子ですもの。可愛いフレアタイプが良いわ。
 お勉強できます的なタイトスカートはもうちょっと大人になってからでも十分。
 そうそう、レースとフリルどっちが好み?」
「ええと、できるだけシンプルな方でお願いします」
「まぁ、注文の多い旦那様ねぇ」

 ふむと考える間にも華やかさとはかけ離れたフォーマルなドレスを選んでくれた。
 黒と紺は誰もが一枚は持つようなシンプルな物だけど濃緑のドレスだけは少し変わった物を選んでくれた。
 Aラインで少しだけ後は長く。そして総レースのボレロのアンサンブル。総レースなのに華やかさはなく寧ろ品の良いだけにこんなレースの使い方があるのかと感心してしまった。

「一枚ぐらいはこう言うのがあっても良いと思うわ。
 昼間の茶会に参加でるには失礼のない物よ」

 濃緑のドレスには同じ布で作ったリボンまで用意されていた。
 これがなくてもあっても着れるバリエーションに富んだもののようだ。

「となると靴は……ぺったんこのブーツ何て問題外ね。
 ストッキングは持ってる?」

 聞かれるも直ぐに頭を横に振ればマダム・クインはふむと考えて

「だったら足のサイズだけ教えて欲しいわ。
 ほかは私が完璧に見つくろうから」

 言いながら低めのヒールの靴をサイズごとに並べてくれて、私は痛くないサイズまで何度も履き替えさせられた。

「靴はこちらのサイズでドレスと合わせればいいのね~」

 踊るように歌う様に同じ色の靴を並べて黒は何の変哲もないものに。紺は小さなリボンが付いた物。そして濃緑は二つの靴より少し先が細く、足首まで紐で編み上げるも、ヒールが二つよりほんの少し高い可愛らしい物だった。

「まぁ、フォーマルでもこのぐらいは許される範囲よ」

 言いながら私の腰に紐を回し

「いくら既存品とは言え少し微調整する必要はあるわ。
 大丈夫、今日中に夕方の鐘が鳴るまでに修正して届けるから安心して」

 ウインクして紐にサイズのしるしを書き込んで行く。

「いい素材と出会うとたとえ既存品でも手を加えずにはいられないビョーキだからメリッサは気にしないで」
「ビョーキなのですか?」
「そうよ~。
 このビョーキのおかげで家を飛び出したくらいなんだから」
「飛び出したなんて……」

 驚きと先日の自分の行動と比べてしまえば夢を持って飛び出したマダム・クインと身勝手な私の行動に恥じてしまうも

「親が決めた人生なんてまっぴらごめんよ。私の人生は私が決めるのよ」

 可愛らしいウインクを私に送ってくれた。

「だから私はやりたい事を全身全霊で貫くの。
 ここ以外にもオートクチュールのお店はあるけど、お洒落したくても出来ない子の方が多いこの世の中で、既存品で少しでもいい物を安くが私の目指す所。
 だけど少しでも手を差し伸ばしてあげたい子に出会ったらそれこそ全身全霊で応援すると決めてるの」
「え、と……ありがとうございます」
「うーん!やっぱり私の目にかなった子だわあ!」

 何故か力一杯抱きしめられて、頬と頬をすり寄せあった後には頬にキスまでされてしまった。
 さすがに驚いて離れようとするもその前にマダム・クインは私を放り出して

「じゃあ夕方の鐘が鳴る頃までにはベルリオーズのお屋敷まで行くわー」
「ありがとうございます。って、え?」

 私がベルリオーズのお屋敷で働いてる事言ったっけ?と小首を傾げていれば

「首のペンダント。
 紋章を預かるメイドさんならどのお屋敷か聞く方が失礼と言うものよ」

 蠱惑的な笑みを浮かべて「集中する為に店を閉めるからまた後で会いましょう~」と私を追い出して鍵まで閉められてしまった。
 なんだか不思議な気持ちのままもう一度看板を見上げるも、日の光が入らないようにと閉ざされた扉に向かって頭を下げたのちパン屋へと向かう。
 今日は昨日のチーズパンを買おうと足取り軽く進むのだった。


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