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本日の「えいっ!」
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「まさかメルちゃんに掃除させてるんじゃないわよね……」
信じらんないと言わんばかりに頭を抱えるマダムに
「いやおれっちとしても信じらんないのよ。
このお嬢ちゃんが通路の草刈りしたり屋敷の周りに草を刈ったりしてね、アンディならどれぐらいで出来る?」
「私ですか?
あちらの通路だけでしたら一日頂ければ」
有能ぶりをアピールするけどルヴィ様は死んだような目を私に向けたまま
「この子、街にお使いに行くついでに綺麗にしてくれたわよ。
挙句にこの屋敷も北棟の使用目的でぐるりと綺麗にして中庭もちゃんと草刈りしてくれたわ」
「まあ、有能何てかわいらしい物じゃないじゃない」
驚きに口を押えて目を瞠るマダムと何故かやたらとライバル心むき出しのアンディに睨まれる中
「メル、ギルドカード」
本日も私のプライバシーは覗かれるらしい。
ギルドカードを手渡した後右手を差し出せばその手を掴んで捜査を始めた。
暫くの間無言でマダムと二人ギルドカードを覗き込んだ後にマダムは机に突っ伏してしまったものの、執事のアンディさんに見られなかったのがせめてもの救いだと思う事にして置いた。
「ねえメルちゃんこれ何の冗談?」
「ええと、今日は昨日ほど数はないようなのですが……」
「あのな、数が増えてるぞ?
しかも現在進行形で。今日は何をやったのか言いなさい」
ルヴィ様は呆れた目で私を見ながらソーセージにフォークを突き立てて齧り始める。
「今朝は特にこれと言った事はしておりません。
ただルヴィ様がお仕事に向われた後庭師に教えてもらった害獣駆除の為の毒団子を北棟の各所に設置しました。
マダムのお店で買い物を済ませた後の昼過ぎに毒団子で仕留めたネズミー達を処分しただけです……のはずです」
ネズミー?なにそれかわいい名前何てマダムはルヴィ様をこれほどとなく冷たい視線で睨んでいるも
「とりあえず北棟に行くぞ」
半眼で何故か今も数がカウントされる討伐数にマダムもアンディさんも見学と言って一緒に行く事になったが、北棟について明りをつけた所で納得した。
私が倒した後も残しておいた毒団子の罠にかかって死んだネズミーを食べたのだろう。その側にはネズミーが横たわっており、それに群がる黒い奴らもひっくり返っていた。
誰ともなく「うわっ……」なんて悲鳴を上げたものの、そのおびただしい数は目の前だけの惨事だけではない。
私は恐る恐ると言う様にメインキッチンの扉を開けて明かりを灯せばそこには目を疑う数のネズミーと黒い奴の死骸が転がっていた。
明日の掃除は大変だなと眺めていればマダムがバンと派手な音を鳴らして大きく扉を開けて
「ルヴィちゃん、片づけるわよ」
「えー……」
「ビックラットが死滅する事は別に問題ないわ。
だけどね、衛生的じゃないでしょ!私こんな所でメルちゃんがお料理してくれた物を食べるのは反対だわ!」
ごもっともで。
こんな所で調理した物を食べたら絶対お腹壊して病気になる確信がある。
「幸い水場はメルちゃん使えるようにしてくれたのよね?」
「はい。明日から食器棚を綺麗にして食器を片づけようかと思ってます」
床の上に転がる皿やコップ、更には調理器具に中身はなく袋だけが残された調味料の残骸。果ては糞尿……
「明日、なんて言わなくてもいいわ。今からやるわよ」
もうマダムなんて言葉が消えうせた男前なクイン様が食器棚を動かせば壁には巨大な穴が開いた。
「どうせその食器棚何て使えないんだからアンディ、穴を塞ぎなさい」
「は、はい」
空っぽの食器棚の棚を外して壁へと押し当てようとするも肝心の釘もとんかちもない。さて、どうすするべきかと思ったものの
「クイン、壁は放置でいい。ここはひとつ工事を入れようと思う」
「あら?ルヴィちゃんにしてはまともな答えね?」
「ん?いや、まあ……」
別の食器棚を見ていた顔がゆっくりと私達を見てその食器棚の扉を大きく広げ、一歩横に退いた。
何があったんだと思うも私達もそれを見てなるほどと思わずにはいられなかった。
そこには食器棚の背板を食い破り、壁と壁の中に隠してあるはずの配管がむき出しとなっていた挙句に一面真っ黒なカビとネズミーの死骸が山のように積んであった。
「多分ここがメイン通路だったんだろうねぇ。
床もないし地面が丸見えって言うか配管が錆びて食い破られてるわぁ。位置からすれば二階の風呂場からの排水管だと思うんだけどねぇ……
とりあえず食器とか使えそうなものは廊下を掃除してそっちに並べちゃいましょう」
「ルヴィ様、そもそも北棟はこの状態になっても使えるのでしょうか?」
私は根本的な質問をすれば
「んー、一応北棟は石造りだから基礎は大丈夫だと思う。
一部屋一部屋が広い作りだったから壁を作って仕切ったりしたって聞いた事あるから。いっその事壁を取っ払っちゃいましょうかしら」
「ルヴィ、そこは私に任せて。私の知り合いに腕のいい大工がいるから。貴方は下手な事を考えない様に」
と言ってメインキッチンをどうするか考えるルヴィ様に顔色を悪くして止める様子にこれも何かあったのかと思えば
「学校の授業でねダンジョンの仕組みを理解する為に模擬的なダンジョンを作る授業があったの。
出来た模擬ダンジョンを私達は攻略して体験するの。ほら、一応学生だから本物のダンジョンに入って命を落しちゃうわけにはいかないでしょ?そうやってダンジョンはどう言う物かを学ぶ授業なの。
だけどこのルヴィったらね……」
キッと睨みつけて
「本格的な迷宮を作って私達脱出できなくなって騎士団に救助されると言う酷い目にあったの!
騎士団も大半が怪我をする大惨事で『ジェルヴェの悲劇』何て今も騎士団と学校で語り草になってるのよ!」
「まぁ、そんな事もあったわねぇ」
「おかげで私達の時代では模擬ダンジョンを作る事はなく座学の授業のみとなっております」
いつの間にか水場で皿洗いをしてピカピカになった皿を廊下に運んでいたアンディの有能ぶりには驚かずにはいられなかった。
そんな姿に慌てて私も箒を持って廊下の黒い奴らとネズミーを外へと向かって掃きだす。
私達にお構いなしにマダムとルヴィ様の学生時代の会話が弾む中、山のようなネズミーの死骸をどうしようかと思えば
「これだけあると穴も深く掘らないと掘り返されるな」
シャベルは何所だと言う様にきょろきょろするアンディに
「あ、私が魔法で穴を開けます。
放り込むのを手伝ってください」
数があるので早く終わらせるためにもと言えば
「だったら私達も手伝うわー。
ここ空気が悪いんだもの。お外に行きたいー」
と叫びながらルヴィ様に腕をからめてついてくる。どう見ても連行されている姿にしか見えなかったけど、ほんと仲良しさんだねぇと友達の居ない私は少しだけ羨ましく見守りながらもネズミーを運んできてくれたアンディさんを待たせるわけにはいかず慌てて草むらの一角を刈り取って
「えいっ!」
右足で地面を強く踏み付ければぐぽっという音と共に深い大きな穴が出来た。
「「は?」」
マダムとアンディさんの声がハモった所で
「今日の「えいっ!」はグランフォールか……
ここまで深く大きな穴を作られるとなかなか這い上がって来れないな。うん、底が見えないって深すぎねえ……」
「這い上がってこられたら困るじゃないですか!
さあ、早く放り込んじゃいましょう!」
言いながらネズミーは勿論黒い奴もついでに放り込む。
恐る恐ると言う様に穴を覗くアンディさんは私に困惑の目を向けるも、仕事を思い出したと言わんばかりにネズミー達を箒で掃くように落して行く。
一応キッチンからも集めれるだけ集めて掘り込んだ後にまた「えいっ!」と気合を入れて地面を踏みしめればまるで何事もないように穴は閉ざされていた。
「うん。これで大丈夫!」
「ええ、大丈夫かもしれないけど、大丈夫じゃなくなったのがいるからね。
とりあえず部屋に戻ろう。おっさんなんだか自分の肩書に自信なくなってきたからね。
アンディの紅茶飲みたいから、ああ、ワインの方がいいかな?」
ふうとため息をこぼせばもうさっきまでのにぎやかな会話はどこにもなかった。
信じらんないと言わんばかりに頭を抱えるマダムに
「いやおれっちとしても信じらんないのよ。
このお嬢ちゃんが通路の草刈りしたり屋敷の周りに草を刈ったりしてね、アンディならどれぐらいで出来る?」
「私ですか?
あちらの通路だけでしたら一日頂ければ」
有能ぶりをアピールするけどルヴィ様は死んだような目を私に向けたまま
「この子、街にお使いに行くついでに綺麗にしてくれたわよ。
挙句にこの屋敷も北棟の使用目的でぐるりと綺麗にして中庭もちゃんと草刈りしてくれたわ」
「まあ、有能何てかわいらしい物じゃないじゃない」
驚きに口を押えて目を瞠るマダムと何故かやたらとライバル心むき出しのアンディに睨まれる中
「メル、ギルドカード」
本日も私のプライバシーは覗かれるらしい。
ギルドカードを手渡した後右手を差し出せばその手を掴んで捜査を始めた。
暫くの間無言でマダムと二人ギルドカードを覗き込んだ後にマダムは机に突っ伏してしまったものの、執事のアンディさんに見られなかったのがせめてもの救いだと思う事にして置いた。
「ねえメルちゃんこれ何の冗談?」
「ええと、今日は昨日ほど数はないようなのですが……」
「あのな、数が増えてるぞ?
しかも現在進行形で。今日は何をやったのか言いなさい」
ルヴィ様は呆れた目で私を見ながらソーセージにフォークを突き立てて齧り始める。
「今朝は特にこれと言った事はしておりません。
ただルヴィ様がお仕事に向われた後庭師に教えてもらった害獣駆除の為の毒団子を北棟の各所に設置しました。
マダムのお店で買い物を済ませた後の昼過ぎに毒団子で仕留めたネズミー達を処分しただけです……のはずです」
ネズミー?なにそれかわいい名前何てマダムはルヴィ様をこれほどとなく冷たい視線で睨んでいるも
「とりあえず北棟に行くぞ」
半眼で何故か今も数がカウントされる討伐数にマダムもアンディさんも見学と言って一緒に行く事になったが、北棟について明りをつけた所で納得した。
私が倒した後も残しておいた毒団子の罠にかかって死んだネズミーを食べたのだろう。その側にはネズミーが横たわっており、それに群がる黒い奴らもひっくり返っていた。
誰ともなく「うわっ……」なんて悲鳴を上げたものの、そのおびただしい数は目の前だけの惨事だけではない。
私は恐る恐ると言う様にメインキッチンの扉を開けて明かりを灯せばそこには目を疑う数のネズミーと黒い奴の死骸が転がっていた。
明日の掃除は大変だなと眺めていればマダムがバンと派手な音を鳴らして大きく扉を開けて
「ルヴィちゃん、片づけるわよ」
「えー……」
「ビックラットが死滅する事は別に問題ないわ。
だけどね、衛生的じゃないでしょ!私こんな所でメルちゃんがお料理してくれた物を食べるのは反対だわ!」
ごもっともで。
こんな所で調理した物を食べたら絶対お腹壊して病気になる確信がある。
「幸い水場はメルちゃん使えるようにしてくれたのよね?」
「はい。明日から食器棚を綺麗にして食器を片づけようかと思ってます」
床の上に転がる皿やコップ、更には調理器具に中身はなく袋だけが残された調味料の残骸。果ては糞尿……
「明日、なんて言わなくてもいいわ。今からやるわよ」
もうマダムなんて言葉が消えうせた男前なクイン様が食器棚を動かせば壁には巨大な穴が開いた。
「どうせその食器棚何て使えないんだからアンディ、穴を塞ぎなさい」
「は、はい」
空っぽの食器棚の棚を外して壁へと押し当てようとするも肝心の釘もとんかちもない。さて、どうすするべきかと思ったものの
「クイン、壁は放置でいい。ここはひとつ工事を入れようと思う」
「あら?ルヴィちゃんにしてはまともな答えね?」
「ん?いや、まあ……」
別の食器棚を見ていた顔がゆっくりと私達を見てその食器棚の扉を大きく広げ、一歩横に退いた。
何があったんだと思うも私達もそれを見てなるほどと思わずにはいられなかった。
そこには食器棚の背板を食い破り、壁と壁の中に隠してあるはずの配管がむき出しとなっていた挙句に一面真っ黒なカビとネズミーの死骸が山のように積んであった。
「多分ここがメイン通路だったんだろうねぇ。
床もないし地面が丸見えって言うか配管が錆びて食い破られてるわぁ。位置からすれば二階の風呂場からの排水管だと思うんだけどねぇ……
とりあえず食器とか使えそうなものは廊下を掃除してそっちに並べちゃいましょう」
「ルヴィ様、そもそも北棟はこの状態になっても使えるのでしょうか?」
私は根本的な質問をすれば
「んー、一応北棟は石造りだから基礎は大丈夫だと思う。
一部屋一部屋が広い作りだったから壁を作って仕切ったりしたって聞いた事あるから。いっその事壁を取っ払っちゃいましょうかしら」
「ルヴィ、そこは私に任せて。私の知り合いに腕のいい大工がいるから。貴方は下手な事を考えない様に」
と言ってメインキッチンをどうするか考えるルヴィ様に顔色を悪くして止める様子にこれも何かあったのかと思えば
「学校の授業でねダンジョンの仕組みを理解する為に模擬的なダンジョンを作る授業があったの。
出来た模擬ダンジョンを私達は攻略して体験するの。ほら、一応学生だから本物のダンジョンに入って命を落しちゃうわけにはいかないでしょ?そうやってダンジョンはどう言う物かを学ぶ授業なの。
だけどこのルヴィったらね……」
キッと睨みつけて
「本格的な迷宮を作って私達脱出できなくなって騎士団に救助されると言う酷い目にあったの!
騎士団も大半が怪我をする大惨事で『ジェルヴェの悲劇』何て今も騎士団と学校で語り草になってるのよ!」
「まぁ、そんな事もあったわねぇ」
「おかげで私達の時代では模擬ダンジョンを作る事はなく座学の授業のみとなっております」
いつの間にか水場で皿洗いをしてピカピカになった皿を廊下に運んでいたアンディの有能ぶりには驚かずにはいられなかった。
そんな姿に慌てて私も箒を持って廊下の黒い奴らとネズミーを外へと向かって掃きだす。
私達にお構いなしにマダムとルヴィ様の学生時代の会話が弾む中、山のようなネズミーの死骸をどうしようかと思えば
「これだけあると穴も深く掘らないと掘り返されるな」
シャベルは何所だと言う様にきょろきょろするアンディに
「あ、私が魔法で穴を開けます。
放り込むのを手伝ってください」
数があるので早く終わらせるためにもと言えば
「だったら私達も手伝うわー。
ここ空気が悪いんだもの。お外に行きたいー」
と叫びながらルヴィ様に腕をからめてついてくる。どう見ても連行されている姿にしか見えなかったけど、ほんと仲良しさんだねぇと友達の居ない私は少しだけ羨ましく見守りながらもネズミーを運んできてくれたアンディさんを待たせるわけにはいかず慌てて草むらの一角を刈り取って
「えいっ!」
右足で地面を強く踏み付ければぐぽっという音と共に深い大きな穴が出来た。
「「は?」」
マダムとアンディさんの声がハモった所で
「今日の「えいっ!」はグランフォールか……
ここまで深く大きな穴を作られるとなかなか這い上がって来れないな。うん、底が見えないって深すぎねえ……」
「這い上がってこられたら困るじゃないですか!
さあ、早く放り込んじゃいましょう!」
言いながらネズミーは勿論黒い奴もついでに放り込む。
恐る恐ると言う様に穴を覗くアンディさんは私に困惑の目を向けるも、仕事を思い出したと言わんばかりにネズミー達を箒で掃くように落して行く。
一応キッチンからも集めれるだけ集めて掘り込んだ後にまた「えいっ!」と気合を入れて地面を踏みしめればまるで何事もないように穴は閉ざされていた。
「うん。これで大丈夫!」
「ええ、大丈夫かもしれないけど、大丈夫じゃなくなったのがいるからね。
とりあえず部屋に戻ろう。おっさんなんだか自分の肩書に自信なくなってきたからね。
アンディの紅茶飲みたいから、ああ、ワインの方がいいかな?」
ふうとため息をこぼせばもうさっきまでのにぎやかな会話はどこにもなかった。
応援ありがとうございます!
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