家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多

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小さいながらも作る夢の国 5

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 お風呂を嫌がる真白と朱華を何とか盥にお湯を入れて洗わせてもらった。
 朱華は最近玄さん達と水遊びをしているので盥の中の浅いお湯だったら大丈夫な事に気が付いてくれた。
 それでもお湯の中に立っておなかが付かない程度。
「1㎝もないんだけど?!」
「真安心してね。そーっとつかれば怖くないからね」
 朱華はそう言いながらお湯におなかを付けてほっとしたような顔をするけどあえて言おう。
「水遊びの延長で大家さんのお家に行く事は許されません」
 むずっと掴んで薄い石鹸水をかけてからゆっくりお湯をかけて綺麗にしていけば

「真!お顔にお水が付いた!タオルでお顔拭いて!早くタオル!」

 どこの子供かとあまりの必至な様子にほっこりしてしまうけど軽くパニックになった朱華によって指をかまれたり、暴れる足のかぎ爪でひっかかれたりとなかなかな姿となってしまった。
 玄さんと岩さん、そして緑青はその様子に
「朱華はお水になれないねー?」
「真が怖い事するわけないのにー」
「真は一生懸命だから朱華も頑張ってー」
 そんな応援。
 何とかして洗い終わった朱華はタオルに包まれて空っぽの桶の中で
「真に汚されたー」
 なんて失礼な事を言うけど、俺にはもう一体大仕事が待っていた。
「真白待たせて悪かったな」
「真白はね、お湯でちゃぷちゃぷしたからもう綺麗だよ?」
 最初に桶に入れた後飛び出してドリルして以来ずっと風呂場の隅っこで朱華が洗われる様子をふるえて見ていたある種の貧乏くじを引いてしまった真白だったが
「それで綺麗になるわけないだろ?
 ピカピカになって大家さんに褒めてもらおうなー?」
「……」
 垂れた尻尾と耳が哀愁を覚えるのでもうひと踏ん張りできる言葉をかける。
「みんなでピカピカになったら大家さんの家の坂を下りた所のお店でアイスをお土産に買いに行こうな?」
 ぴこんと言う効果音がどこからか聞こえてきたかのようにピンと耳と尻尾が立ち上がり

「真!あずきおばあちゃんにも会えるかな?!」
「お散歩でお留守をしていなければたぶん会えるよ。
 ぴっかぴかになった綺麗な姿で会おうなー?」
 
 その言葉に真白は自ら桶の中に入って尻尾と耳を下げて一思いに洗ってくれと言うようにぎゅと目を瞑るので苦笑しながらも石鹸水をかけて手早く泡立てて、どこで遊んできたのかというくらいの汚れを綺麗なお湯で洗い落とした直後のドリル。
「真白ー!もっとやってー!」
「真白ー!もう一回ー!」
「真ー、真白にもっとお湯をかけてあげてー!」
 きゃっきゃ喜ぶ玄さん、岩さん、緑青だけどさすがに真白がかわいそうなので
「あんまり遊んでいると大家さんのお家に行くのが遅くなっちゃうぞ」
 そんな言葉にみんなもうお風呂を出るーと言ってドリルをした後敷いておいたタオルに体をこすりつける真白の所に駆けつけて一緒にタオルで水けをふくと言うよりタオルで遊びだしてしまう遊びの天才の子供達はしばらく置いておいて
「さ、朱華。ドライヤーで乾かそうな」
「朱華はお風呂は嫌いだけどドライヤーは好きー」
 タオルに包まれたままの朱華事居間のテーブルの上に置いて朱華に風を当てれば羽を広げドライヤーに向かってご満悦なお顔で飛んでいる気分を味わっているようだった。
 相変わらず飛べないひよこだけど少しだけしゅっとしだした朱華に再びあの低空飛行が見れるようになるかななんて食事制限は今も続いている。
 朱華の後は真白も丁寧に拭いて、玄さん達は俺が手をかける前に乾いてしまって早く行こうと玄関で待機をして待ってくれていた。
 早く主に会いたいのねーと戸締りとガスの確認をしてみんなを肩に乗せて車に乗り込めば助手席に置いたタオルを詰めた籠の中にみんなを入れた。
 緑青が攫われた後、兄貴をお見送りした時にみんなに電車を見せればすごく興奮していた事を思い出してからもっと外の景色を見せてやろうと丁度良いものが無いかななんて探せば遠藤さんと出かけた農協で手作りの籠がいい感じにあり、これだと思ってさっそく設置してみたけど……
「真ー、お外みたいよー」
 全然高さが足りなくってお役に立てないようだった。
「お外見たかったら後ろの席だぞー。前は運転する人の邪魔になるから籠の中に居れないのなら後ろの席だぞー」
 そんな妥協案に
「緑青は後ろでおとなしくしてます!」
 お外の風景をもっと知りたいと言うようにすぐにぱたたたた……と後部座席の窓際に張り付いていた。
「玄はー、この籠の中にいるねー」
「じゃあ岩も一緒ー」
「一緒ー」
 相変わらずの仲良しだが岩さんよ、もうちょっと自分の意志を持ってくれと思う俺がおかしいのだろうかと疑問を持つものの
「真白も後ろに行くー」
「朱華は、なんだかこの籠が気になるので籠に居ますー」
 なんて言うものの朱華が気になったのはかごの取っ手の部分。
 なんでそこかなー?なんて思うもある種の納得がいった。
 ちょうど良い止まり木なのですね?!
 バランスが悪くても平たんな単調な道のりにあまり揺れる事はなく、それでも多少のカーブなんかは鳥独特のバランスの良さを生かして絶妙に止まり木にしがみ付いていた。
 あれか?
 バランスボールみたいなものか?
 って言うか、バランスボールって今も売っているのか?うちにはあるけど何か?
 ちらちらと落ちないように気になってみてしまうもののとりあえず大家さんの家に向かう手前のあずきおばあちゃんのいるお店の前に着いてドアを開ければ

「あずきおばあちゃーん!真白が会いに来ましたー!」

 真っ先に飛び出して危ないと思うよりも早く犬小屋の中に突撃しに行って
『おやおや、この元気な子はまたご主人様の家に行くのかい?』
 のっそりとした動きで出てきたあずきおばあちゃんの大きさにみんなは俺の背中に隠れて覗き込んでいたけど
「今日は主のお家にお呼ばれされたからみんなで遊びに行くのです!」
『よかったね。それに綺麗にしてもらってご主人様も立派になったねって褒めてくれるよ』
「褒めてくれるかなー?」
『ご主人様は優しい方だからね。おばあちゃんも綺麗にしてもらうといつも褒めてもらうよ』
 そう言って綺麗にしましょうねとぺろぺろと毛づくろいしてくれた横で

「すみませーん、お会計お願いしまーす」

 真白が自分の何倍もある大きな犬と仲良くしているのを気になるけど怖くて固まっているちみっこ達はピクリと動かず、でもじっと眺めている様子に吹き出しそうになりながらも店の奥からやって来たお店のおばさんに
「あら京都から?観光?」
 なんてしっかり詮索されてしまったけど
「この坂の上の大家さんにお家を借りています九条と言います。今日はご飯に呼ばれされたので手土産に」
 しっかりと暑くなった世の中にケーキよりもアイスだよなと買い込めばお店のおばさんはにっこりと笑い
「そう、綾人君のお家を借りてる方だったのね」
 最初の不審そうな営業スマイルは取り払われ、まるで近所の子供を見守るかのような目で
「これからもよろしくね」
「はい、お願いします」
 とりあえず受け入れてもらえた、と思っていいのだろう。
 さて、大家さんの所に行くかと言う前に真白を回収しに行けば
「あずきおばあちゃんくすったいよ~」
『ふふふ。子供は大人に遊んでもらうものよ』
 毛づくろいしてもらって、でもくすぐったくて転がって、地面の土をたくさんつけて真っ白だった毛並みは大地の色に染まって……
「あずきさん、悪いけどもう行きますので……」
 あの努力が……なんて思わない。
 真白の幸せそうな顔を見ればそんな事かけらも思わない。
「あずきおばあちゃんまたねー!」
『また遊びにおいで』
 尻尾をぶんぶん振り回してのお見送り。
「真白良かったな。たくさん遊んでもらえて」
「うん!あずきおばあちゃんに主の家に行くって言ったらよかったねって言ってくれたんだー!」
 テレテレと嬉しそうな報告を聞けばこれはまた遊びに来なくてはと考え、こうやってこの店のリピーターになる事が決定した事実にまだ気づいてない真だった。

 
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