家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多

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大家のターン再び 10

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「お前の使役達を下げろ」
 気が付けば俺達の回りは先ほどの犬の使役以外にも沢山の使役に囲まれていた。
「誰が下げるか。
 あの姿!あの霊力!儂にふさわしい龍じゃないか!
 お前ら!あの人間を始末して龍を捕まえろ!」
 どんな夢を見たのか高笑いしながらの命令。
 緑青を見上げる目は憑りつかれた様に狂っていて、そして大家さんを完全に怒らせたようだった。

 ふざけるな……

 声にならなかった怒りに先ほどの容赦なさを思い出す。
 完全に今度はやる気だと思うも襲ってくる使役達に
「大家さん逃げよう!」
 囲まれていても手を引っ張ってそう言うしかできない俺とは別に大家さんは俺の手を振り払って
「智玄君子押さえろ!」
 誰?なんて聞く隙も与えられないうちに夜だというのに暗い影に覆われて振り向けば
「はーい」
 返事をした玄さんの体がどんどん大きくなっていって

「どーん!」

 実体はない付喪神だというのに風圧と言うか霊圧と言うのか襲い掛かる圧力にのけぞって尻もちをつきそうになってしまう。
 楽しそうな声とは別に見上げたその姿に思わずぽかんと口を開けてその全貌を見た。
 大家さんが初めて口にした名前。
 名前でみんなの力を封じたと言っていたが、まさか……こんな……

「ふふふ~。真~見て~!玄は本当はこんなにもおっきいんだよ~」
「玄さん大きすぎだろ?!もう山じゃないか!!!」
「かっこいいでしょ!」
 
 どーんと言った後玄さんは襲い掛かってきた使役をその巨体で抑え込んでしまったのだ。
 玄さんの下で無数にうごめく使役達は耐えている者もいるがやがてポン、ポンと音を立てて消えて行き、きっと本体へと戻ってしまったのだろう。だけど運よく逃げていた使役もいる。
 もちろんガチギレしている大家さんが見逃してくれるわけもなく
「岩路真君逃がすな」
「わかったー」
 そんなのんきな声に爺さん達を含め、もう何があっても驚かないと手を握りしめた次の展開は
 
 しゅるり、大きくなった。

「大丈夫。これはまだ想定内」

 玄さんが大きくなったのだ。真白も緑青も大きくなったのだ。
 これぐらいは想定内とどんどん大きくなる岩さんに。
 逃げるように走り出した爺さんの使役は後ろを振り返ったとたん全力のガチ走りへと変わった。

「がおぉぉぉー!
 緑青にいたずらする奴は食べちゃうぞー!」

 岩さん、蛇はがおーとは吠えないよ!
 そんな突込みもできない目の前の出来事にさっきの時に腰を落としていればよかったとのんきな事に反省をしていた。
 蛇独特の大きなお口で家の前の道を埋め尽くす太さの蛇が必死で逃げる使役達を追いかけていくシャレにならない光景。楽しそうなのは岩さんだけだ。いや、大家さんも暁さんも全力で応援している姿もかなりアレだ。
 何せ今の岩さんは太さからもあるように長さもある。
 大きくなったのでうろこも牙も大きいように、非常に迫力もある。
 どこかのジャングルに牛さえのみ込む蛇がいると聞いたことがあるが……
「やめてくれ!!!
 儂の!儂の使役を食べないでくれ!!!」
 それなりに大切にはしているようだったらしくさすがの爺さんもついに崩壊した。
 残りの二名も腰を抜かして口をパクパクしながら目を白黒とさせている。
 もちろん俺もその隣でただ何もできずに眺めていたさらに横で
「相変わらずお前のとこの付喪神は迫力があるよなー」
「山で遭遇した時はほんとビビったよ」
 そんな笑い話。
 いや、笑えないんですけど。
 誰かこのカオスを止めてください。
 手を伸ばして何とかしてくれと訴えるも大家さん達には綺麗に無視をされた。
 見ていれば一応岩さんは「がおー」と叫びながら使役達を追い回して躓いで転んだ子たちはそのまま体の下に巻き込まれてポンポンと消えて行くし、空に逃げようとした使役は緑青が尻尾でピシピシと打ち落としていた。これは何という無双状態だろうか。
「緑青頑張れー!岩さんかっこいいー!」
 そんな玄さんの応援に俄然やる気になった岩さんはどんどんスピードを上げて行いき、爺さんの家の一角をぐるりと囲むように走ったようで
「岩さんもう少しで尻尾に追いつくよー!」
 すごい!すごい!と拍手喝采の緑青に
「岩も頑張るー!」
 なんてやがて追いついてしまった尻尾をぱくりと咥えれば次々にその内側に居た使役がポンポンと消えて行った。
 もちろんその外にも逃げ出して無事だった使役もいるが誰もかれもが戦意喪失の状態。
 だけど大家さんのちみっこくないちみっこ達はそれでは収まらず外側の塀の上などに逃げた使役ももちろんロックオンしている。
 口を開けていただきまーすと元気な声を上げたかと思えば

「岩さんその子たちは止めてー!」

 突如緑青が空から降りてきて岩さんの背中に張り付いてダメ―と大騒ぎをしていた。



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