家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多

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それぞれの結末 7

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 暁さんのおじいさんに大きな声で名前を呼ばれれば大家さんはいたずらがばれた子供のように肩をすくめて
「さびがとらわれた時世話をしてくれた三体の付喪神を頂ければそれで今回の事は終わりにしましょう。茶々とアゲハとおじじだっけ?さびから聞いた話だと大切にされていた様子はないからもらい受けても問題ないだろ?」
 言えば紫の兄も皺の深い顔を歪めて
「あのような付喪神で良ければ連れていけ。
 誰か三体を連れてこい」
 紫の代わりに決断して差し出してくれるようだった。
「あ、ちゃんと本体も忘れずにー。さすがにあの地下の部屋に行きたくないから」
 ちゃっかりと言うように大家さんがお願いすれば当然だろと言うように顔を歪めていた。
 結局あまり口を挟まなかったけどそれなりの落としどころで手を打ってくれたのだから兄として、家長として義理を果たしたとおもうことにした。
「って言うかお前これ以上付喪神を増やす気か」
 これでもう終わったというように場を和ませるように暁さんが陽気な声で口をはさむも
「うちの子が世話になったんだ。ちゃんと恩を返すのが礼儀ってもんだろ」
「お前の口から出る言葉だから余計怪しいんだよ」
「失礼だな」 
 なんてからからと笑うも
「そう言えばこの場って修験者とか陰陽師ばかりなのに静かだな」
 言われて耳を澄ますもほんとこの街で、しかもこの区画で普通なら耳にとどかない小さなささやき声すら聞こえないのだから珍しいと思っていれば
「当然だ」
 暁さんのお爺さんが口をはさんできた。ちょっとオコ気味なのが気になるし何が当然なのかと思えば
「昨日あれだけ暴れて付喪神を本体送りにさせておいてよく言うぞ!数日はどれも回復に時間がかかろうぞ!
 街中で玄と岩の封を解くなんて知っていたら援軍に連れて行かなかったわい!」
 どうやら岩さんに潰された付喪神達の中には応援に駆け付けた付喪神も混ざっていたようだった。
「あー、それは悪かったな」
 全く悪いとも思ってない声で謝るから暁さんのお爺さんのこめかみに血管が浮かび上がってて大家さん年より相手に挑発しないでよともうもそこは年の功。何回か深呼吸を繰り返していら立ちをやり過ごしていた。
 ストレス大変そうだなと思いながらも俺は温くなったお茶で乾いた口の中を湿らせながら大家さんと暁のお爺さんの言い合いにも近いやり取りを聞きながら緑青が言っていた付喪神が到着するのを待っていた。
 


 暫くしてすぐに賑やかな足音が聞こえた。
 静かな足音とトトト……そんな軽い足音。
 失礼しますと断って下座になる部屋の障子を開けて入ってきた人がお供の人を連れて風呂敷に包んだものを持ってきた。
 それからもう一度丁寧に頭を下げた後から風呂敷を広げ、包んでいた箱の中身を机の上に並べてくれた。
「お持ちしましたのは茶釜の茶々と簪のアゲハ、急須のおじじです」
 本体となるべく物の順番に付喪神も並び居心地悪そうにおとなしくしていた。
 まあ、これだけの怖い顔をした爺さん達に囲まれているのだから逃げ出したい気持ちもよくわかる。
 だけど大家さんはどうするか決めかねた顔で
「まずは、さびの相手をしてくれてありがとう。
 どういった意図でさびの側にいたのか分からないが、それでも一時の寂しさを紛らわせてくれた事を感謝する」
 なんてどこかとげのある言い方に三体の付喪神も居心地悪そうに視線を落としている。
「あまり歓迎してない言い方だのう」
 暁さんのお爺さんは判っているという顔をしていて俺だけが何がいいたいのかよくわからないまま何となく嫌な予感を覚えれば
「心寂しいちびに懐柔策とか腹が立つだろ。
 ましてや同じ過程で爺さんの所の付喪神になった奴らをそばに置くとか。
 うちの子が強い子だったからすぐにくじけなかったからよかったものの、ほんとうに耳を疑う事ばかりだな」
 言いながら三体の付喪神を見下ろせば恐怖からかぶるりと体を震わす様子に
「だけどお前がこいつらをよこせって言ったんだよな」
 暁さんが慎重に聞き直すのを横で見ていれば
「言った。
 これは俺どうこうの問題じゃなく、さびの問題だ。
 世間知らずのさびだが少なくとも感謝している。
 腹は立つが、さびの気持ちに沿って爺さんの家から切り離す。それだけだ」
「で?また真に世話をさせるのか?」
 その状態で大家さんが連れて帰るのかというかやっぱり俺が面倒を見るのかと思っていれば大家さんは首を横に振って
「こいつらをうちの子の側に置くわけないだろ」
 意外と大家さんは俺が思う以上に性格が悪かったようだ。
「じゃあ、飯田さんの家に置くのか?」
 ほう?なんて暁さんのお爺さん、お父さん。それに紫のお兄さんまで飯田という名前に興味を引いたらしく
「そう言えばあの料亭に何かしら気配があったな」
「ああ、姿は見せてはくれないが、別にいたずらしているようには思えなかったから放っておいたが」
「あの気配を覚える頃から居心地がよくなったが暁は何か知っているのか?」
 そこは自分の祖父の言葉というか前当主の言葉に少し失敗を覚えた顔で
「綾人が名前を与えた付喪神が四体います。本人も本日知ったばかりの様なので先ほど改めて指示を出した所ですが……」
 一斉に白い眼を受け止める事になった大家さんは白々しくも空っぽの茶碗でお茶を飲むふりをして聞いてないふりをしていた。いや、無理だって……
「お前さんはつくづく名前を付けたがるな」
 呆れる前当主に
「単なるマークですよ。だって同じ顔の二体がいたら区別する必要があるでしょう」
 そんな言い訳にそれなりに付き合いのある暁さん一家は生暖かい目で見守るあたりきっとこれが大家さんの照れ隠し。わかりにくいななんて勉強をさせてもらうが
「とりあえず飯田さん一家にも受け入れてもらえましたので大切にしてもらえるはずです」
「なるほど。更に三体頼むつもりか」
 視えなくても大切にしてもらえるのなら良い付喪神として精進するだろうとぼやいていたが
「爺さんぼけ始めたか?
 何で飯田さんの家によそ様の付喪神でこれ以上ご迷惑をかけるつもりなんだ」
「いえ、大家さんこの子たちを野良付喪神に?いえ、それは絶対だめでしょ?
 一度受け入れる事を決めたのなら最後まで面倒見ましょうよ!」
 おもわず野良猫相手のように言ってしまうも大家さんは誰がそんなことをすると言うようにそれこそ俺を軽蔑する目を向けて

「ここに格好の飼育係がいるんだ」

 ニヤリと笑った。
 俺はもう覚えたとてもよく無い笑い方。
 そしてタイミングを見計らったかのようにどこからか軽い足音が近づいてきた。
 全速力でそれこそ追いかけてくる足音の主が

「行っちゃダメー!」

 なんて悲鳴を響かせながら追いかけてきた。



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