家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多

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そわそわタイム? 2

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 緑青たちの初日は概ね

「岩さんが鳥にさらわれたー!」
「真白がネズミに囲まれてるよ!」
「朱華は、朱華は二階からの景色が見たいのです!なんで階段を登れないのでしょう!!!」
「緑青の秘密の基地に入っちゃダメー!」
「雑草がいっぱいでおうちは何処かなー?あ……」

 相変わらず山の上と変わらない日常だった。ただ……

「主ー!助けてー!」
「主ー!どこー?」
「主ー、抱っこしえー?」
「主ー、おうちに入れて!」
「主ー!ごはんはー?」

主がお迎えに来ない事を理解していない緑青たちは夜になって電気もつかないおうちの前で主の帰りを待って

「朱華が猫さんにさらわれたー!」
「主、怖いよー!」
「主、助けてー!」
 
 そんな絶叫の一日、山の上と変わりのない一日だった。

 それから何日か過ぎて……

「岩さん!そっちにネズミさんが行ったよ!」
「岩がおとりになるから真白頼んだよ!」
「真白!今日こそネズミさんを仕留めるチャンス!」
「真白頑張れー!」
「真白のご飯逃げるなー!」

 迎えに来ない主に期待することはやめ、箱入りで甘えんぼの性格はいつの間にかサバイバルで生き残る事を覚えた付喪神に昇華していた。
 食事は必要ないと言われた付喪神とはいえ一度食事を覚えた以上食事と言う欲は捨てきれず、こうやって主を見習って狩りができるまでになった。

「みんなありがとう!
 久しぶりにお肉が食べれるよ!」

何とかして倒した小さなネズミを真白は前足で抑えながら腹を鳴らせていた。
「ずーっと雑草で我慢してたからね」
「真白ちょっと細くなっちゃったね」
「前に緑青が小さな鳥さんを持ってきてくれた以来だね」
「真白ごめんね。緑青が弱いから鳥さんの赤ちゃんも持って来れなくて」
「大丈夫、ありがとう!緑青も気にしないで!
 一番悪いのは真白の狩りが下手なのが悪いんだから……」
 しょぼんと耳と尻尾を垂らしてしまうけど
「それより早くご飯食べておいで!やっぱりご飯は温かいのに限るからね!」
 そんな岩さんの言葉に真白がぱくりとネズミの背中を咥えて
「ご飯食べてくるね!」
 そういって茂みの中に隠れて……

 ばりっ、ぼりっ……

 骨の砕ける音が響く草むらを緑青たちは聞きながら少しだけ背筋に寒さを覚えるものの

「冷蔵庫があったら真白にもっと美味しいもの食べさせてあげるのにね」
「ソーセージとかハムとか」
「お魚さんもいた!」
「あまーい果物もあったね」

 思い出しておなかをぐーっと鳴らす。

「いつになったら主はお迎えに来てくれるんだろうね」
「主来てくれるのかな?」
「美味しいご飯持ってきてくれるかな?」
「温かいお部屋に入れてくれるかな?」

 いつまでたっても迎えに来ない主を思い出せば恋しくなってしょぼんとしてしまう。
 ばりばり骨のかみ砕く音を聞きながら主を思えばめそめそと涙が出てくるけど

「ごちそうさまー! 真白おなかいっぱいだよ!」

 口の周りをべったりと汚して戻って来た真白の姿。思わずみんな涙も引っ込んでしまったけど久しぶりの満足げな真白の姿に主を思っていたことも吹っ飛んでしまえば
「真白お水飲んでくるね!」
 家の横を流れる川に喉を潤すように駆けて行ったことでちょっと安心するのだった。



 そんなサバイバルな日常にも慣れたある日、家の前の駐車場に一台の車が停まった。

「誰か来たよ?」
「主の車じゃないよ?」
「見た事ある車だ!」
「あ、実桜さんだ。何かご用事かな?」
「主はお留守なのに何のご用事かな?」

 知らない人が来たことで少しだけ警戒してみたもののよくよく見れば主の家にも来る人だった。
 雪が深い時は居なかったけど暁達が帰ってから時々お庭の手入れに来るようになった人。美味しい山菜を見つけては主に献上していたことを思い出した。
 献上なんて語弊はある物の、雪の下に芽を出したばかりの山菜を見つけては綾人の分を置いて行っただけの話。山菜取りは宮下の母親に教えてもらって覚えた実桜の楽しみの一つ。とってきてもらった代わりに綾人が烏骨鶏の卵を持たせるというのもお約束だった。
 
「このお庭に山菜なんてないのにね?」
「ウコ達ももういないのにね?」 

 そしてやっと自分たちがウコ達を全滅させたことを思い出してばつの悪い顔をするものの

「実桜さん大きなはさみ持って来たね?」
「のこぎりも持って来たよ?」
「なにをやるのかな?」
「なにをするんだろうね?」
「ついていこうよ!」
「「「「そうしよう!」」」」

 好奇心には勝てずという様に車からいろんな荷物を下ろす姿についていけばまず取り出したのは……

ウィーン!!!

「やだー!怖い音!」
「真白この音苦手!」
「やー!怖いよ!」
「主助けて!」
「みんな逃げよう!」

 そういって家の裏側まで逃げて建物の影か伺えば
「草を刈ってるね?」
「だけど真白あの音苦手!」
 小さな前足で耳を抑えているものの休みなく草刈り機は止まる事のない音に
「真白おうちの中にいるね!」
 なんて逃げ込む始末。
「朱華もおうちの中に居ます!」
「緑青もおうちに行く!」
 なんて残されたのは玄さんと岩さんで……
「岩さん、玄は刈り取ってる草ちょっと食べてくるね?」
「だったら岩もついていくよ!」
 大きな音が嫌でも玄さんに何かあったらどうしようとついてこようとする岩と普段は食べたくても食べれない高い位置の葉っぱややっと芽吹いた柔らかそうな葉っぱが食べられるチャンス。
 玄さんの期待に応えないわけがない岩さんは実桜が通って綺麗に刈られた庭にそーっと近づきながら玄さんが目当てだった葉っぱの実食を見守る。そして視界の縁には草を刈られたことで慌てて出てきた虫たちを発見して思わず

「ぱくん!」
「岩さん良かったね!虫さんこんなにもいっぱいいたね!」
「美味しいね!」

 主が見たら絶叫しそうな光景だけど、この味を覚えさせたのも主なのだから文句は言わないだろうなんてことは考えない玄さんと岩さん。
 だけど作業している人のそばに近づいてはいけません。
 そんな注意を教えてくれる人もいないので夢中になって虫を追いかけたり普段食べられないお花に夢中になっていればいつの間にか聞こえなくなった草刈り機の音にも気が付かずにいて

「玄さん、岩さん危ない!」
「玄さん、岩さん逃げて!」
「緑青の梅の木を切っちゃダメー!」

 そんな叫び声に首を傾げればバサッ……

 玄さんと岩さんは意識をなくしたけど緑青たちは切り落とされた梅の木の枝に潰されるという様子を見る事となり……

「あー、びっくりした」
「木の枝の下敷きになっちゃったんだね」

 すっかり本体に戻ることに慣れてしまった精神は本体に戻される原因をちゃんと分析できるくらいに逞しくなっていたのだった……
 
 



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