異世界召喚に巻きこまれたらスマホがバグって騎士団団長の妻になるそうです

雪那 由多

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少女の強さ、恐ろしい……

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 周囲もかたずをのんで見守っているので居た堪れなさが半端ない。
 何とも言えない苦痛の時間にどうしようと焦る俺はだんだん落胆して行く聖華ちゃんに下手な希望を持たせて申し訳ないと謝ろうとした時

 ピコン

 聞き覚えのある電子音が聞こえて俺と聖華ちゃんはハッとする様に画面を見る。
 電池マークは真っ赤の最低ラインを飾り、充電率を計る数値はまだ一ケタ台。
 だけどここにきてもう三週間ほど経ってすっかりバッテリー切れを起こしたスマホが再起動したのだ。
 それだけでも感動もので、いかに俺達がスマホに依存しているかよくわかる。
 とりあえず無事起動したから聖華ちゃんに渡せば、そこで充電マークが切れた。
 
「あっ!」

 すぐに充電が切れる案内が出た所で俺の手に戻し

「もう少し、もう少しだけ充電させてください!」
「あああ、ついに人間発電機になってしまった」

 必死の聖華ちゃんに思わずぼやいてしまう俺は苦笑まみれに預かりますねとスマホを向けながら手の上に置くのだった。

「まあまあ、それは一体どういう原理か聞いてもいいのかしら?」

 エルヴィーラ様はよくわからないと言う顔をしていらっしゃいますが

「魔石だと思ってください。
 魔石に魔力を溜めると魔道具が使えるようになります。
 それと同じ原理で魔道具がこのスマホになります。魔石がこのスマホに内蔵されているバッテリーで、魔力がアトリさんがチャージしてくれている謎の力です」

 確かに謎の力だ。
 まあ、これがスキルだと一言で終わらせれるのだから便利な世界だけど、思えばこちらの世界に来た時やたらとおなかがすいたり寝てたりしたのはスマホへのチャージへの体の負担だと思えば納得する。最近はそこまで眠くなることはない物の寝て起きたら100%のバッテリーのスマホの理由に納得が出来て、ならなんでスマホを持ってないのにチャージしているのか考えればやっぱりあの生体リンクなる物がミソなのだろう。数字が減るのはチャージするより早くバッテリーの消費をするだけだと思えば納得。
 俺は聖華ちゃんにスマホの中をのぞき見ないように持って見せていれば、聖華ちゃんはすぐにロックを外してサクサクとスマホを操る。
 一心不乱に何を見ているのかと思えば

『聖華、ちゃんとこっち向いてドレス姿を見せて』
『お母さん恥かしいから撮らないでよ』
『何言ってる、折角バイオリンの発表会の為に買ったドレスなんだ。記念に撮らなくてどうする』
『そうよ、ちゃーんと後で聖華のスマホに送っておくから変に隠れないの』
『もうお父さんもお母さんも!』
 
 そんな声に俺は目を伏せてしまった。
 誰よりも恋しいご両親との思い出はまだ聖華ちゃんには生生過ぎた。
 笑いあう親子三人とやがて流れ出したバイオリンの音。
 さすがお嬢様だけあって嗜みはあるようだ。
 スマホを持つ俺の手事握りしめた聖華ちゃんは

「お父さんっ!お母さんっ!聖華は無事だよっ!聖華はここに居るよっ!会いたいよ!」

 涙をぽろぽろと零しながら泣き叫ぶ様子に周囲の侍女さん達はおろおろとするし、エルヴィーラ様も聖華ちゃんがまだ十六歳の少女だと言う事を思い出したように目を伏せていた。
 何度も家族との動画を見ている中、アレックスが迎えをよこした侍従達がやって来た。エルヴィーラ様も気付いてそこで止まる様にと合図をする。
 そこは陛下の伯母様。いつもは俺達にお構いなしの侍従の人達もそこで止まってくれた。

「アトリさん、今聖女様が見ているのがスマホと言う物ですか?」

 いつまでも感傷に浸せてあげれないと言う様に問われる声に

「はい、スマホの機能の一つでその時の光景を映像と音声を記録として残す事が出来ます。
 今見てるのはきっとこちらに来る前の聖華ちゃんの日常ですね」
「そう、聖女様にも私達と変わらない日常をご両親のもとでお過ごしになられてたのですね」
「はい。ですので聖女と言うお役目よりもこちらの世界の同じ年頃の女の子と何ら変わりがない事を覚えていただければと思います」
「そこは私がノルドシュトロムの名のもとにお約束しましょう」
 
 さすが元王女様貫録ハンパねーなんて思うも先ほどと空気が変わった事を理解してか侍従さん達が迎えに来た。

「聖華ちゃん、そろそろ移動しないといけないから……」

 手を離してくれた。だけど縋るように俺を見上げ

「だったら帰るまでスマホを預けておくので充電がフルになるまでお願いします!」

 涙を拭っての潤んだ瞳での懇願。
 何だろうか。
 さっきまで昔の映像のご両親に涙を流していたはずなのに途端に現実に戻されたこの感覚。
 いや違う。
 会社の後輩の女の子達も仕事のミスで怒られてしおらしくしていたけど昼食時にはもうどこにランチに行くー?なんて笑い声を上げるあの感覚は既にこの頃から装備されているのかと少しだけ恐ろしくなる天鳥だった。



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