隣の古道具屋さん

雪那 由多

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静かな庭を眺めながら 2

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 改めて明日お伺いします、そんな話をした次の朝

「やっぱ朝はこれだな」
「なにがこれだ。お前朝食を頂いてきているはずなのによく食えるな」
「お前と違ってうちの朝食は早いんだよ。六時前に朝食を食べるからちょうどいいおやつタイムだよ」
 
 想像以上の早起きにさすがに俺だってまだ寝てるよ、そんなことは言わずにコーヒーをすする。
 バターたっぷりのトーストを食べた使役の皆様はお気に入りの窓際のソファの上でまったりと時間を過ごし、次郎と太郎、菖蒲は時折みんなを連れて隣の家へとお散歩に出かけていた。
 
「だけど今日で帰るのも寂しいな」
 壁をすり抜けてうちへと向かう次郎さんの尻尾を眺めて言いうものの
「太郎と菖蒲が残るからそれで満足しろ」
 九条はそう俺に注意を促すけど羨ましいとかそういう意味ではないという様に
「太郎と菖蒲は見てるだけで癒しだから。仲良しって金魚でも微笑ましいよ」
 ペットを飼いたい、そんな子供心半分ただでさえ古くてぼろぼろの古道具たちを悪戯されたらたまったものじゃない以前に漆とか工具とかそういった危ないものもいっぱいある家だ。何か悲しい事が起きたらと想像したら飼わない事も十分選択の内だ。
「まあ、お袋には悪いけど俺だけ見える金魚だから申し訳ないていうか」
「ん、だったら普通にどっかで金魚買ってきてあの睡蓮鉢で一緒に育てればいいじゃん。
 うちにいるちびたちも時々近所の水槽で飼われている金魚と一緒に遊んでいるぞ」
「「なにそれ」」
 俺と朔夜も突っ込んでしまうその楽しそうな生活。
 九条はしかめっ面をして
「例の亀がこいつの地元の知り合いに預けているんだけど、こいつの別邸で飼っている金魚といっしょに遊ばせているんだと」
「まさかの金持ち?」
「いや、付喪神のいる家にいる時点でなんとなく察してたけど……」
 別邸とかガチかと若旦那様風スタイルが単なるコスプレじゃない事は理解できたが単なる着せ替え人形だとはさすがに思ってはいなかった。
「前にうちの生簀で遊んだら思いっきり餌に間違えたからうちじゃ遊ばせてあげれないからなwww」
「生簀……」
「餌って……」
「悲鳴が聞こえて慌てて駆け付けたら美味しく食べられててマジ絶叫だよ」
 途端に真顔になるはたきの人。
 これもガチか……
 こんな話聞きたくないんだけどと言うか
「それで大丈夫だったんですか?」
 優雅に空を泳いでいたから大丈夫なのは分かり切っているが
「九条曰く本体さえ無事なら復活するって言うからな」
 言いながら次郎さん達が消えていった壁を眺めて納得した。
 あんなボロボロの掛け軸を手に必死になって乗り込んできてでも補修を頼みに来た理由、それに尽きるのだろう。付喪神に愛される理由をなんとなくわかった気がした。
 
「じゃあ、あとで受け渡したらもう会えなくなるんですね」

 朔夜が少し目を伏せて言えば

「え?何、寂しいの?」

 容赦なく突っ込むはたきの人。
 だけど朔夜は少し困った顔をしながらも
「久しぶりに九条にも会えたしなんだかんだ言ってこの一週間楽しかったから」
 素直に寂しいといえばはたきの人は少し視線を反らせ、気持ち耳が……
「いうな。下手に突っ込むと火傷するぞ」
 そんな九条の俺だけに聞こえる耳打ち。
 やだ、はたきの人ひょっとして本気で照れてるの?
 なんかかわいいんだけどと逆に俺がそわそわしてしまう中

「そうだ。
 隣の店主とこいつと今夜修復の話を聞きながら飯食べる約束したんだけど朔夜も今夜は6時までには店は閉めれそうか?」
「ええ、まあ。大体6時以降はお客様が来ないから」
「だったらこいつも連れて来いよ。あと例の従妹もだ。
 体調的に大丈夫なら復活祝いに飯食わせてやるから店主と一緒についてこい」
「おい……」
 九条が止めようとするけどうるさいという様にその手で九条の口に封をして
「あと太郎と菖蒲も連れてきてくれ。
 しいさん達が住んでる場所も知っておいてほしいし、あと九条の所に居るおじじたちとも顔合わせだ。たぶん九条の子供たちもおまけで付いてくるけどな。
 ただ飯が食える気分で良いぞ」
「うわ、それは嬉しいな。それに九条の子供も見れるなんて」
「俺達も年をとったわけだ」
 いまだ独身の俺と朔夜はうんうんと頷く。
「とりあえず6時に九条に迎えに行かせるから準備だけはしてきてくれな」
 言って
「あとはお隣さんにも最後にご挨拶してくるから」
「待て、お前ひとりで行くな!
 また何かするつもりだろ!」
「失礼だな。毎朝ご迷惑おかけしましたって言いに行くだけだよ」
「自覚あるのかよ!」 
「お前と違い分別はわきまえている」
「お前がそれを言うか?!」
 なんてあの九条との言い合い。意外な一面を見続けた気もしたけど九条があんなふうに声を上げるなんて想像もつかなかった一週間前の俺達。
 九条にこんな友人が出来て良かったなと朔夜とアイコンタクトをしている合間にも自由なはたきの人は
「鈴、そろそろお隣に挨拶に行こうか」
「ですね。みんなもう先に行っちゃったし。主から離れるなんて使役にありえない事よ!」
 ぷんぷんと言うようなお顔だけど
「鈴は優しいね。だけどそこまで気を使わなくっていいんだよ」
「鈴は主のおそばに居たいのです。側に居られる間だけでもご一緒させてください」 
 この自由なはたきの人になんでこんなにもなついているのか不思議だけど、はたきの人はひょいと鈴さんを抱えて
「じゃあ、行こうか」
「つっきーもちゃんとついてらっしゃい」
「つっきー言うな!」
「いいぞー鈴!もっと呼んでやれ!」
 なんて賑やかに店を出て行ったけど……

「つっきーだって。朔夜言ってみろよ」
「香月が言って見せたらな」

 まずむりだ。そんなことは口にできないが
「6時に迎えに来るとなると5時過ぎにはラストオーダーにしないとな」
「前もって店先に張り紙はっておけば?」
「いや、その前に七緒に説明しないとな」
「あー、だな。
 お出かけしてご飯食べに行くのなら準備が必要だし」
 言って二人して苦笑い。
「女の子の準備、大変だからな」
「お出かけ用の服を持ってるかも怪しいしな」
 最近では主にここで働くときの服装しか知らない朔夜としては何か買ってこいと言わないといけないだろうか。
 そんな風に悩む朔夜に俺も気づいて
「今日は休みにするか?」
「なわけにはいかないだろ」
 そういって開店準備を始める朔夜に
「じゃあ、俺もそろそろ戻るよ。あの人がまた何をするかわからないからな」
 なんてごちそうさまをして慌てて追いかければ店先でお袋にお茶を頂く二人。
 なんでこんなにもマイペースなんだよと脱力をするのだった。



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