隣の古道具屋さん

雪那 由多

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静かな庭を眺めながら 4

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 店の中に入れば女将さんだろうか女性が待っていた。
 品の良い着物に落ち着いた色合いの帯、だけど帯留めは見事な大粒の翡翠を使ったもの。骨董商としては目が離せない。大きさの割にはあまり嫌味もなく、まるでこの帯の為に誂えた帯留めだと思った。
 のちに聞けば実際そうなのだから伝統ある料亭の女将って怖いなと身震いを起こすのだった。
 だけどそれより気になるのは隣で女将さんと一緒に俺達をお迎えに来てくれた鈴さん。視えない七緒がいるからあまり声はかけられない事は前もって伝えてある。
 だけどせっかくお迎えに来てくれたので七緒の背後から軽く手を振れば
「いらっしゃいませ、主が気合を入れてお待ちしてますので楽しみにしてくださいませ!」
 お耳と尻尾を楽しそうに揺らせながらこっちという様に女将と一緒にピョンピョンと案内してくれる。
「やば、かわいすぎだろ鈴女将」
 思わず身もだえてしまえば
「分かる。しいさんとこまさんにもふもふお出迎えしてもらってここで鈴さんに挨拶をもらう、視える俺達にはご褒美だよ。
 九条も強く頷いてくれた。
「それよりも次郎さんがいつの間にか居なくなったんだが……」
「そこは久しぶりに帰ってきた我が家だ。一番会いたい人に挨拶に行ったんだろ」
「はたきの人とは毎日会っているから掛け軸のご主人か?」
 なんて悩んでいれば
「いいか、この席では絶対はたきの人って言うなよ」
「お、おう。さすがに俺だってそれぐらい分別はある」
 すぐさま頷けば朔夜もやってきて九条の話に耳を傾けていた。
 全く聞こえてない顔でしっかり話を聞いているこういう所が喫茶店のマスターだよなとこいつが天職につけて良かったなと思っていれば
「ここはアイツの庭、違うな。もう実家みたいな所だ。そして今日これから会う人はアイツのファンクラブの集団だと思えばいい」
 その言い方に朔夜も笑い
「なにそれ」
 俺も笑うも九条は全く笑わってない目で俺達を見て
「あいつに嫌われるとそこで人生終了になる。あいつがわざわざ手を下さなくても過去にどれだけ人生強制終了した人を見てきたか俺の職業を考えて判断してもらいたい。
 そしてうちの一族は数百年前からあの家とは友人と言う関係を続けている。
 なんとなく分かってると思うがあいつは人をからかうのが好きだ。俺もからかわれるが、それでも気に入ってもらえれば……時々猪の肉とか鹿の肉とかもらえる」
「うん。食べてみたいけど……」
 なんて言葉にしようかと悩むそぶりに言いづらいものがあるのかと思えば
「悪いようにはならない、そういう恩恵もある」
 考えようによってはすごくいいんじゃね、なんて思うもふと思い出したのはあの時計の修復だろうか。
 イギリスの知人を紹介してもらったが星崎さん達は舌を巻くような技術を学び、そしてアンティークの世界も学んでいるという。とても遊んでいる暇なんてないくらい貪欲に与えられる技術以外も盗み取り、今まで未知の分野だった世界も飛び込み

「そういえば最終日前日にはフランスに行って吉野様のお城にも泊まらせてもらうんです!」

 なんて報告があった。
 当時の俺も星崎さん達もなんかの揶揄かと思ったら本当にお城で最上級のおもてなしを受けたとか。
 ただ残念な事に寝て帰るだけの場所の日程に一番度肝を抜かされ、戻ってきてから見せてもらった動画を見て絶対ケンカ売っちゃいけない人だと改めて思うのだった。
 
 それはさておきはたきの人に案内されながら女将さんと親父が交わす話しではこの店一番の座敷に案内してもらうらしい。
 長い廊下を歩けば遠くから子供の声が聞こえ、他のお客様もみえるんだ。子供のころからここに通えるなんてどこの坊ちゃまだ?なんて思えば

「お待たせしました。
 本日のお客様をお連れしました」

 なんてお言葉のはたき……ではなく吉野様。
 こういう言葉遣いも出来るのねと切り替えの幅が半端ないだろうと思えば

「ようこそおいでくださいました。
 当店主人の飯田稔ともうします。これは妻の沙凪です」
「沙凪と申します。よろしくお願いします」

 はたき、ではなく吉野様が良く着ていた着物を身に着ける少し頑固そうなかたがこのお店の店主。そして先ほど出迎えてくれた女将さん。二人とまず挨拶をすれば親父を始め上座から座っていくという一生に一度のこの機会。
「ダメだ。緊張して絶対味判らない」
「それよりずっと正座とか……」
「朔ちゃん、立ち上がった時転んだらどうしよう」
 小声でどうしようかと話し合っていれば

「ほら、お前らも挨拶に来い」

 絶対はたきの人と呼んではいけない吉野様が部屋の奥に声をかければ別の部屋から軽い足音が二つ、そして足音もなくやってきた方が一人。

「同級生なら顔合わせぐらいしとけよ、ってことでつっきーの奥さんの志月さん。長男の晴朝に長女の陽菜乃だ」
「晴朝です」
「陽菜乃です」
 元気な子供の声は晴朝くんだったかと九条にはない元気よさにやっぱり子供ってこういうものだよと思いつつお母さんの後ろに隠れてしまった陽菜乃ちゃんは足にしがみついていてこれもまたほっこりとしてしまう。
「はじめまして、志月と申します。
 主人からお二人のお噂は聞いておりました」
「ええと……」
 こういう時はいつもみたいに「よろしくー」なんてフランクに返すのではなくどんな返事をすればいいのかと思えば
「ご丁寧にありがとうございます
 佐倉古道具店の店主、佐倉巌でございます。これはせがれの香月になります。
 隣は隣に住む香月の幼馴染で渡瀬朔夜と申します。彼女は七緒と申しまして二人は従妹同士になります。二人のご両親の実家でもあったうちの店の隣の喫茶店を切り盛りしてます」
 そんな飯田さん一家にも向けての簡単な、でも丁寧な説明。
 俺達はさっき九条の子供がしていたみたいに名乗って頭を軽く下げれば
「ここ毎朝通ってた喫茶店の方たちです。
 七緒ちゃんだっけ。風邪をこじらせて寝込んでいたって聞いたけど調子はどう?」
 なんてまさか呪いに侵されて倒れたとは言えない真実を知らない七緒はいつもの通りの笑顔で
「ぐっすり休めたおかげで元気いっぱいです!
 あ、でも今は資格を取るためにちょっと無理してるので吉野様がご来店の時にお会いして挨拶も出来なくて申し訳ありませんでした」
 そうやって頭を下げる事の出来る七緒。立派になってと思うも
「だったら今日はいっぱいごちそう用意してもらったからしっかり食べて帰ってくれよ?」
「はい!今からすっごく楽しみです!」
 吉野様に一瞬で素を曝される結果。
 あ、なんて小さな声がこぼれたけどそれを見た店のご主人たちも楽しそうに顔をほころばしてくれて場が一気に和んだ。
「では、料理をお願いしようか」
 そう言って店主のかたはいつの間にか廊下に待機していた仲居さんに視線を向けただけでさっと下がり、しばらくの後に次々に料理が運ばれてきた。



 


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