隣の古道具屋さん

雪那 由多

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隣の古道具屋

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 あのお食事会を最後に吉野様の開店前の襲撃はなくなった。
 お食事会の最後に料理を作ってくれた方があいさつに来て、その時に明日には帰るという事を話ししていた。
 もう開店前に来ることはないのかとほっとしつつもひょっとしてと言う思いが不安を生み、朔夜と少し警戒してしまったけど言葉通りに来なくなった日々の静かな朝を寂しく思うようになってしまったけど、いつの間にか今となればそれを当たり前と受け入れるようになった。
 吉野様が来なくなった代わりに九条との付き合いは続いている。
 むしろどんどん付き合いが深くなったような気がする。
 原因は俺がしっかり視えるようになったからだろう。あと修繕の仕事を通して力の使い方を教えてもらう様にしている。
 講師料は一回にコーヒーチケット一枚。
 力の使い方はもちろん太郎と菖蒲と一緒に心構えから学んでいる。
 時々九条の家で預かっている吉野様の付喪神を連れてきて太郎と菖蒲の良き先輩として付喪神の在り方を指導をお願いしていた。
 いや、あんたどれだけ付喪神が居るんだよ。自宅の方にもいるというのだからぜひ全員集めて問いただしたい。そんな勇気はないけど。
 茶釜のボディを持つタヌキの付喪神は長いこと付喪神として使役されていたという事から付喪神になりたての太郎と菖蒲、そして俺に対しても良き教師として学ばせてもらっていた。
 そうそう、太郎と菖蒲は渡り鳥での俺とのモーニングがルーティンになってしまった。と言っても太郎と菖蒲の食べれる量はパンの耳を少しだけ。なぜかふかふかな部分より耳のかりかりの部分がお好みの様子。俺はふかふか部分派なので問題は無い。
 むしろバターたっぷりな部分は苦手な様子。パンの耳ならいくらでもあげようと言っていたら朔夜の視線が少し痛かったけどそこは好みの問題だから仕方がないじゃんと言い訳をしておく。
 因みに菖蒲はコーヒーを含んだパンの耳がお気に入り。
 金魚の好みってどうなの?
 そこは九条にあっさりと
「人間と同じく個人差だ。だがたぶん金魚にもカフェインはあまりよくないだろうから控えめにしろよ」
 なんてもっともらしい言葉を使って適当な顔で一蹴された。

 最近の朔夜はいろいろ俺に試食をさせる。あの店に行って変なスイッチが入ったらしい。
 朝のモーニングにコーヒーの代わりにスープを選択の1つに入れたからだ。
 ポタージュ、ミネストローネ、コーンスープ、季節の野菜のスープ、ジャガイモのポタージュ、コンソメスープ、みそ汁。
 みそ汁……
 確かに和風スープって言っちゃえばそうかもしれないけどトーストにあうかぁ?
 お客様曰くあうそうです。
 みそ汁がコーヒーに続くこの店のモーニングのメインとなるとはこの時俺達は誰も思ってなかった。亡き渡り鳥のマスターも想像もしなかっただろう。統計的には平日に曜日ごとに具を変えて週末に季節の野菜スープになるという……
 世のサラリーマンよ、どれだけみそ汁に飢えているのか問いただしたいと朝の食卓の闇を見たような気がした。

 イギリス帰りの星崎さんは時計の修復を終えて戻ってきてからすぐに単身イギリスに修行に出かけてしまった。
 前回お世話になったお店の屋根裏に住み込みと言う形で本格的な修行となることになった。
 こっちとしては戦力が大幅に減ってしまって忙しくなったけど、代わりにうちの裏家業は俺と太郎と菖蒲のおかげでスムーズに事が運ぶようになった。
 その太郎と菖蒲だが菖蒲は悪い物から守る力が強く、そして太郎は悪いものを払う力が強いという、どれほどのものかわからないが呪いに変化しないだけありがたいというものだ。だけどその力は俺が見ている所では一切発揮されていない。それどころか菖蒲はお招きされたお店の鈴さんに憧れてしまい、お店にお客様が来ては店番をしてくれるお袋の隣で
「いらっしゃいませ」
 なんて真似をして声をかけていた。挙句に
「こちらのお品は……」
 なんてどこで覚えたのか商品の紹介を相手には聞こえないのにする始末。なんてごっこ遊びなんだと思ったけど……
「最近お客様が商品に手にして購入される回数が多いのだけど何かあったのかしら」
 それはいい事ではないのでは?なんて思うも大体が隣で菖蒲が商品説明を一生懸命している様子が見られたから、何かが伝わっているのだろうかと考えてみて、まさかなと空笑いをするのだった。今度九条に聞いてみよう。
 菖蒲が接客をしている間当然ながらその間は太郎は菖蒲に相手にされなくて俺達の工房にもぐりこんでは親父の手元を覗くように懐からチョンと仕事の様子を覗いていた。
 親父も俺同様いろいろ危ない目を何度も体験したらしいので太郎が側にいるのを気配でしか理解できないのでびくびくしていたのを悪いけどちょっと楽しく見ていたけど、太郎と菖蒲の気配にも段々と慣れたようで見分けもつくようになっていた。時間が経てばいつもそばにいてくれる太郎を気に入っているようで
「太郎、見てるだけじゃ退屈だろうから……」
 小さなお菓子をこっそり食べさせていた。
 そんな親父を見てしまった時そのまま立ち去って隣の朔夜の所に逃げ込んでしまったが

「いや、かわいく思ってるだけなんだから別に問題ないよな?」

 何が問題なんだよと言う朔夜に俺は心の中でうまく言葉にならない感情をぶちまける。

「だってあの親父が今まで息子にもデレた事がないのに視えない金魚相手にデレデレだなんてキモいだろ?!」
「あー、そゆこと……」
「そゆこと! 俺の記憶の限り無表情で感情のフラットの親父のあの姿……
 見たくなかった」
「いやいや、俺から見たらお前の親父さんもたいがい子煩悩だろ」
 あまり家族の縁が濃いとは言えない朔夜のどこか羨ましそうな声。
 俺の家族はいつも一緒に居る事からも来ているのだろうという事は分かっていたつもりだが

「九条のバカ高いお守りを買い続けたって所、愛情以外なんて言うんだ?」

 それを出されたら何も言い返せない。
 しかも俺に気を遣わせずにいたこの十数年。
 まだまだ修行の身のゆえに親孝行させてくれとは素直にまだ口に出せない俺は口をとがらせて
「そう言うところ、もっとわかるように言えって言うの俺のわがままか?」
 ふてくされたように言えば朔夜はしょうがないなという様にお冷を出してくれた。
 机の上に置いてカランと小さな音を立てながら崩れた氷の涼しげな音。暖かい店内には心地よい冷たさ。いつもの何でもないような日常にある当たり前の心地よい小さな雑音に耳を傾けながらも机につっぷしながら窓の外を見る。
 通り行く人、そしていつの間にか寒さを感じる季節になりどこか寒々しさを覚える景色に変わった世界を眺める。だけどいつまでも眺めているわけにもいかずに頭を持ち上げて目の前から少し外れた所に立つ幼馴染と言うこれまた見慣れた景色。
 古びた店内と使い込まれたカウンター。
 それを含めて見上げた視線の先では俺の事を見下ろす視線とぶつかって

「何だよ……」

 居心地悪くて聞けば

「なに、今日もいつもと変わらない良い日だって、な?」
「確かに。あんな騒動を体験した以上こういう日が続くことを願うね」

 そういって水を飲み干してから席を立ち
「また昼に来るな」
「ああ、七緒と一緒に待ってる」
 そんな俺を見送る視線を背中に感じながら俺の家でもあり職場でもある隣の古道具屋に足を向けるのだった。




ーおしまいー




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