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#4 恐慌
#4 恐慌
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頭の芯が熱い。記憶の奥に何か強い違和感を感じていた。
寝返りを打つとふんわりと柔らかい感触が全身を包んでいるのに気がついた。
その感触が気持ちよくて頬をすり寄せる。身体を纏っているのも生地が薄くてどこか生臭い囚人服ではなさそうだ。
さらりとした気持ちいい肌さわりの衣服、さらに両手と両足の拘束もなく、布団の中で自由に手足が動かせる。
「……ん?」
額にひんやりとしたものを感じた。
耳を澄ませばパチパチと火が弾けるような音がする。そういえば自分はクラリス軍の営倉に居たはずだと思い、ゆるゆると目を開けた。
「……?」
目に飛び込んできたのは黒い軍服、そしてミズキの傍らに座っていたのはミハイルだった。
眉間にしわを寄せている彼の表情から、何か気に入らないことがあるのだろう。冷たいその手はミズキの額から頬を包むように移動し、ミズキが目覚めたのを確認すると、「起こしてしまいましたか?」と問われた。
思わずこくりと頷いてしまったが、そこで初めて自分はベッドに寝かされている。
「――!」
得体の知れない危険と、爆薬を取り上げられたと感じ、ミズキは飛び起きたが、背中に激痛を感じ、息を詰めた。
そこで初めて自分が白い木綿のパジャマを着せられていることに気付いた。
「これ……」
ミズキが襟を軽く引っ張る。
「汚い囚人服では衛生上宜しくない。ケガはしてなかったようですが、背中に違和感でもありますか?」
「……別に。でもなぜケガがないとわかるんだ」
「捕らえたときにどこも痛がらなかったからです。そしていま飛び起きた瞬間に顔を顰めた。だから背中だと思っただけです。一時的なものなら問題ありませんが、背中の痛みは内臓疾患の恐れもあります。痛みが酷いなら、軍医を呼びますが」
「……別に。必要……ない。」
ゆっくりと呼吸を整えながら痛みを逃していると、ミハイルが呆れぎみにため息をこぼす。
「別に、という顔ではありませんね。強情張らずに正直におっしゃい。本当はかなり痛いのでしょう?」
「僕は軍人だ。これくらいなんでもない」
「強がりは何の得にもなりません。脂汗が出てますよ。ほら寝て」
ミハイルはミズキの肩を軽く押し、布団へとリターンさせる。
「背中の痛みはいつから?」
背中の痛みはここ最近になってからだが、しばらくすれば治まる。きっと極度のストレスと、不安定な姿勢での狙撃が原因なのだろう。
そのことを正直にいうと、ミハイルは「なるほど」と納得した。
「緊張を強いられる狙撃手の宿命ですね。あなたひとりにクラリス軍は引っかき回された。我が軍の損害もさることながら、あなた自身にも代償は出ていたということか」
「……今は戦争だ。殺すか殺されるかの時代だろう? ミッションを成功させるためなら、こんな痛みくらい取るに足らないことだ。軍人なら、皆、我慢するだろう」
「こんな痛みくらい……ね」
ミハイルは薄く微笑みを浮かべ、クスクス笑う。
「営倉での尋問に耐えられず、意識を失ったあなたが?」
「……」
小馬鹿にするような挑発的な物言いに、ミズキは内心むっとした。
しかし正直なところ、尋問で何をされたかよく覚えていなかった。
ただ彼らの前で何か醜態を見せた事は間違いないのだろうが、なんでこんな清潔なベッドに寝かされているのかもわからない。
自分が何をしたのかこの部屋に来るまでの顛末をミハイルに聞きたかったが、ミハイルとの戦いはすでに始まっている。
こちらの不利になるような会話は避けなければ。
彼から情報を得るには、それなりにうまく立ち回らなければ答えは引き出せない。
そして余計なことも喋ってはならないのだ。
「あの尋問室で何があったか、教えてあげましょうか?」
ミズキは目を丸くした。この男は人の心を読めるのか。
今まさに聞きたかったことを正確に言い当てられ、ミズキは狼狽える。
なんとか平静を装ったが、ミハイルは口元に手をやり、楽しげに笑う。
「おやおや、あなたはまるで嘘がバレた子供のような反応をしますね。視線がその辺を彷徨ってますよ」
「なっ……」
「隠密行動を旨とするあなたのような狙撃手は、自らの感情に振り回されていては、狙いを外す恐れがある。だからこそ自分を律することが大切なのです。その専門でない一般の兵士ですら、敵の前で感情や思惑の起伏を露わになどしない。あなたは新兵以下、いや幼子と同じだ」
「…………」
今さらに兵士の心構えを諭され、ミズキは心の中で腹を立てる。会話するほどに自尊心を傷つけられる気がして無言を貫いていたが、それもなんだか居心地が悪い。
ミハイルはミズキを睥睨し、「さあ、次はどのような態度に出ますか?」とばかりに、次を待っているようにも見える。
この眼光を相手に、真っ向から睨み返す勇気も立ち回る方法もミズキにあるわけもなく、かわりに布団を頭まですっぽり被った。
話せる気分ではないと、具合の悪さを装って会話拒否の意志を示す。
「実にお可愛らしい。大人ならそんな風にふてくされたりしませんよ?」
「ふてくされてなど……」
「そういえば、あなたはやたらと『軍人』という言葉を使いますね。『兵士』ではなく。変なところでこだわるのも、子供がよくやることです」
頭上からミハイルの楽し気な笑い声が降ってくる。
捕虜どころか、子供扱いされて悔しくてたまらない。
どうして早く殺してくれないのか。
ミズキをクラリス軍に売ったグスタフのことはさっさと片づけたくせに、クラリス軍に実害を負わせたミズキを殺す気配がないどころか、こんな清潔な部屋と衣服、暖かなベッドが与えられていることがおかしい。
こんな扱い……惨めだ。敵兵扱いされないなど、プライドが許さない。
それとも、これも黒衣の悪魔のやり方だというのか。
言葉巧みに腕に抱いて殺す悪魔の罠。
それともすでに自分は悪魔のマントの中なのか……。
優しくしてくれると見せかけて、すべてを壊しにかかる。そんな残酷さを潜ませてでもいるのか。
「ほら出てらっしゃい」
小さな子をあやすようにぽんぽんと優しく布団を叩かれ、ミズキはそっと顔の半分だけを外に出した。
顔を出した瞬間に撃たれてしまうことを無意識に警戒したからだが、ミハイルは銃を構えていなかった。
ほっとした瞬間、またもミハイルはおかしそうにクスクス笑う。
「いたずらが見つかった子供のようだ。悪いことをして、罰を怖がっているように見えますね?」
「ば……つ……?」
「ええ、クラリス全軍の恨みを浄化するためには、あなたにはどのみち苛烈な罰を受けてもらわなくては」
「浄化……? 罰……?」
その言葉に心臓が一瞬で凍りつく。
ミズキの意識を黒い何かで鷲掴みにされて、身体が恐怖で竦みあがる。
「罰は……いやだ……」
目の前が真っ暗になる。
脳裏に蘇るのは、男たちに身体を貪られたディスタンシアでのあの日々。
あんな風に嬲られるのは嫌だ。味方も敵も自分を辱めることしかしないのなら、いっそ背中から撃たれてもいいから、ここから逃げ出さなくては。
布団をはねのけ、ベッドから飛び降りようとしたが、ミハイルが柔らかな掛布ごとミズキを抱きしめてくる。
一刻も早く逃げ出さなくてはならないのに、ミハイルがそれをさせない。
「罰はいやだ!」
また男たちに貫かれる。ミズキの知る罰とはそういうものだ。
そんな惨めな行為に耽るくらいなら、銃殺された方がどんなにいいか。
「離して、僕を殺して!」
「落ち着きなさい!」
「いやだ…いや……僕は…僕はもうあんなのは嫌だ……っ!」
「ブライデン中将! どうかされましたか!」
騒ぎを聞きつけ、ミハイルの部下たちが3人ほど部屋になだれ込んできたのが見えた。
「誰か鎮静剤を持っていないか。そうでなければ軍医を呼べ! 彼が危険だ、早く!」
ミハイルの指示にひとりが懐からシルバーのケースを取り出した。ふたを開け、そこから注射器を取り出す。
部下が手早く薬剤を注射器に吸い上げるのをみて、ミズキは「ひっ」と悲鳴を上げた。
――今日はこれだけの人数に奉仕しなければならないのか。こんな人数を相手にしていたら、自分は壊れてしまう!
ミハイルが注射器を部下から受け取っているのが見えた。今日はどうやら怪しげな薬まで使われる。
なんとかして逃れなくては、汚液を求めて懇願する汚らわしい獣に堕ちていく。
「い……や……いやだ、いや……!」
ミハイル含め四人分の性器で身体の中を「浄化」され、口で子種を搾り取る。気が狂うような射精感を身体の中でくすぶらせながら、贖罪として男に抱かれ続ける自分の姿が脳裏をよぎり、ミズキは涙を零しながらしゃくりあげて泣いて懇願する。
「変なこと……しないで!」
「何もしません。さあとにかく腕をお出しなさい」
「やだ……やだぁ!」
ミハイルの命令など断固拒否だ。腕を出せなんて要求、聞けるわけがない。
「僕を殺せぇぇ!」
その薬で何をするのか、その痴態を存分に楽しむ男たちの欲求も、己の淫乱さもが透けて見える。
まもなく始まるであろう、この部屋で繰り広げられる「淫罰」がくっきりと浮かび上がる。
掛布ごと抱き込まれ、ミズキはろくに動けない。
その窮屈な圧迫感が逆に不安と恐怖を増大させる。呼吸がどんどん浅くなり、空気の吸い方を忘れてしまう。
ミズキは頭を左右に振ってミハイルから逃れようと暴れた。
「離して!」
ミハイルがチッと小さく舌打ちをこぼす。
「困りましたね。少々手荒いがこの場合仕方ない。痛い思いをさせることを許しなさい」
「ゆる……す……?」
ミズキの身体を支配する恐慌の波が少しだけ緩んだ。その瞬間をミハイルは見逃さない。彼の手の注射器が、ミズキの首すじに突きたてられる。
「うあ……っ!」
一瞬で薬剤が体内に注ぎ込まれ、目の前のミハイルがぼんやりと歪み、視界が白く塗りつぶされる。
「僕は……? やだ、こわい……いやだ……」
「眠りなさい。あなたを罰するものはここにはない」
ミハイルの穏やかで優しい声がすとんと心に落ちる。
「罰……な……い?」
「誰もあなたを罰しない。だから安心なさい」
鎮静剤の効果で意識が途切れそうだ。ぼやけた視界の中、ミハイルが優しく頭を撫でてくれるのがわかった。
「怖いことは何もない。目を閉じて、そう……眠りなさい」
眠りに落ちそうになる瞼にミハイルの唇が触れる。
(あったかい……)
全ての悪夢がそこから吸い取られていくように、ミズキの心が静謐を湛えた水底に還っていく。
穏やかな温もりを感じながら、ミズキは意識を手放した。
寝返りを打つとふんわりと柔らかい感触が全身を包んでいるのに気がついた。
その感触が気持ちよくて頬をすり寄せる。身体を纏っているのも生地が薄くてどこか生臭い囚人服ではなさそうだ。
さらりとした気持ちいい肌さわりの衣服、さらに両手と両足の拘束もなく、布団の中で自由に手足が動かせる。
「……ん?」
額にひんやりとしたものを感じた。
耳を澄ませばパチパチと火が弾けるような音がする。そういえば自分はクラリス軍の営倉に居たはずだと思い、ゆるゆると目を開けた。
「……?」
目に飛び込んできたのは黒い軍服、そしてミズキの傍らに座っていたのはミハイルだった。
眉間にしわを寄せている彼の表情から、何か気に入らないことがあるのだろう。冷たいその手はミズキの額から頬を包むように移動し、ミズキが目覚めたのを確認すると、「起こしてしまいましたか?」と問われた。
思わずこくりと頷いてしまったが、そこで初めて自分はベッドに寝かされている。
「――!」
得体の知れない危険と、爆薬を取り上げられたと感じ、ミズキは飛び起きたが、背中に激痛を感じ、息を詰めた。
そこで初めて自分が白い木綿のパジャマを着せられていることに気付いた。
「これ……」
ミズキが襟を軽く引っ張る。
「汚い囚人服では衛生上宜しくない。ケガはしてなかったようですが、背中に違和感でもありますか?」
「……別に。でもなぜケガがないとわかるんだ」
「捕らえたときにどこも痛がらなかったからです。そしていま飛び起きた瞬間に顔を顰めた。だから背中だと思っただけです。一時的なものなら問題ありませんが、背中の痛みは内臓疾患の恐れもあります。痛みが酷いなら、軍医を呼びますが」
「……別に。必要……ない。」
ゆっくりと呼吸を整えながら痛みを逃していると、ミハイルが呆れぎみにため息をこぼす。
「別に、という顔ではありませんね。強情張らずに正直におっしゃい。本当はかなり痛いのでしょう?」
「僕は軍人だ。これくらいなんでもない」
「強がりは何の得にもなりません。脂汗が出てますよ。ほら寝て」
ミハイルはミズキの肩を軽く押し、布団へとリターンさせる。
「背中の痛みはいつから?」
背中の痛みはここ最近になってからだが、しばらくすれば治まる。きっと極度のストレスと、不安定な姿勢での狙撃が原因なのだろう。
そのことを正直にいうと、ミハイルは「なるほど」と納得した。
「緊張を強いられる狙撃手の宿命ですね。あなたひとりにクラリス軍は引っかき回された。我が軍の損害もさることながら、あなた自身にも代償は出ていたということか」
「……今は戦争だ。殺すか殺されるかの時代だろう? ミッションを成功させるためなら、こんな痛みくらい取るに足らないことだ。軍人なら、皆、我慢するだろう」
「こんな痛みくらい……ね」
ミハイルは薄く微笑みを浮かべ、クスクス笑う。
「営倉での尋問に耐えられず、意識を失ったあなたが?」
「……」
小馬鹿にするような挑発的な物言いに、ミズキは内心むっとした。
しかし正直なところ、尋問で何をされたかよく覚えていなかった。
ただ彼らの前で何か醜態を見せた事は間違いないのだろうが、なんでこんな清潔なベッドに寝かされているのかもわからない。
自分が何をしたのかこの部屋に来るまでの顛末をミハイルに聞きたかったが、ミハイルとの戦いはすでに始まっている。
こちらの不利になるような会話は避けなければ。
彼から情報を得るには、それなりにうまく立ち回らなければ答えは引き出せない。
そして余計なことも喋ってはならないのだ。
「あの尋問室で何があったか、教えてあげましょうか?」
ミズキは目を丸くした。この男は人の心を読めるのか。
今まさに聞きたかったことを正確に言い当てられ、ミズキは狼狽える。
なんとか平静を装ったが、ミハイルは口元に手をやり、楽しげに笑う。
「おやおや、あなたはまるで嘘がバレた子供のような反応をしますね。視線がその辺を彷徨ってますよ」
「なっ……」
「隠密行動を旨とするあなたのような狙撃手は、自らの感情に振り回されていては、狙いを外す恐れがある。だからこそ自分を律することが大切なのです。その専門でない一般の兵士ですら、敵の前で感情や思惑の起伏を露わになどしない。あなたは新兵以下、いや幼子と同じだ」
「…………」
今さらに兵士の心構えを諭され、ミズキは心の中で腹を立てる。会話するほどに自尊心を傷つけられる気がして無言を貫いていたが、それもなんだか居心地が悪い。
ミハイルはミズキを睥睨し、「さあ、次はどのような態度に出ますか?」とばかりに、次を待っているようにも見える。
この眼光を相手に、真っ向から睨み返す勇気も立ち回る方法もミズキにあるわけもなく、かわりに布団を頭まですっぽり被った。
話せる気分ではないと、具合の悪さを装って会話拒否の意志を示す。
「実にお可愛らしい。大人ならそんな風にふてくされたりしませんよ?」
「ふてくされてなど……」
「そういえば、あなたはやたらと『軍人』という言葉を使いますね。『兵士』ではなく。変なところでこだわるのも、子供がよくやることです」
頭上からミハイルの楽し気な笑い声が降ってくる。
捕虜どころか、子供扱いされて悔しくてたまらない。
どうして早く殺してくれないのか。
ミズキをクラリス軍に売ったグスタフのことはさっさと片づけたくせに、クラリス軍に実害を負わせたミズキを殺す気配がないどころか、こんな清潔な部屋と衣服、暖かなベッドが与えられていることがおかしい。
こんな扱い……惨めだ。敵兵扱いされないなど、プライドが許さない。
それとも、これも黒衣の悪魔のやり方だというのか。
言葉巧みに腕に抱いて殺す悪魔の罠。
それともすでに自分は悪魔のマントの中なのか……。
優しくしてくれると見せかけて、すべてを壊しにかかる。そんな残酷さを潜ませてでもいるのか。
「ほら出てらっしゃい」
小さな子をあやすようにぽんぽんと優しく布団を叩かれ、ミズキはそっと顔の半分だけを外に出した。
顔を出した瞬間に撃たれてしまうことを無意識に警戒したからだが、ミハイルは銃を構えていなかった。
ほっとした瞬間、またもミハイルはおかしそうにクスクス笑う。
「いたずらが見つかった子供のようだ。悪いことをして、罰を怖がっているように見えますね?」
「ば……つ……?」
「ええ、クラリス全軍の恨みを浄化するためには、あなたにはどのみち苛烈な罰を受けてもらわなくては」
「浄化……? 罰……?」
その言葉に心臓が一瞬で凍りつく。
ミズキの意識を黒い何かで鷲掴みにされて、身体が恐怖で竦みあがる。
「罰は……いやだ……」
目の前が真っ暗になる。
脳裏に蘇るのは、男たちに身体を貪られたディスタンシアでのあの日々。
あんな風に嬲られるのは嫌だ。味方も敵も自分を辱めることしかしないのなら、いっそ背中から撃たれてもいいから、ここから逃げ出さなくては。
布団をはねのけ、ベッドから飛び降りようとしたが、ミハイルが柔らかな掛布ごとミズキを抱きしめてくる。
一刻も早く逃げ出さなくてはならないのに、ミハイルがそれをさせない。
「罰はいやだ!」
また男たちに貫かれる。ミズキの知る罰とはそういうものだ。
そんな惨めな行為に耽るくらいなら、銃殺された方がどんなにいいか。
「離して、僕を殺して!」
「落ち着きなさい!」
「いやだ…いや……僕は…僕はもうあんなのは嫌だ……っ!」
「ブライデン中将! どうかされましたか!」
騒ぎを聞きつけ、ミハイルの部下たちが3人ほど部屋になだれ込んできたのが見えた。
「誰か鎮静剤を持っていないか。そうでなければ軍医を呼べ! 彼が危険だ、早く!」
ミハイルの指示にひとりが懐からシルバーのケースを取り出した。ふたを開け、そこから注射器を取り出す。
部下が手早く薬剤を注射器に吸い上げるのをみて、ミズキは「ひっ」と悲鳴を上げた。
――今日はこれだけの人数に奉仕しなければならないのか。こんな人数を相手にしていたら、自分は壊れてしまう!
ミハイルが注射器を部下から受け取っているのが見えた。今日はどうやら怪しげな薬まで使われる。
なんとかして逃れなくては、汚液を求めて懇願する汚らわしい獣に堕ちていく。
「い……や……いやだ、いや……!」
ミハイル含め四人分の性器で身体の中を「浄化」され、口で子種を搾り取る。気が狂うような射精感を身体の中でくすぶらせながら、贖罪として男に抱かれ続ける自分の姿が脳裏をよぎり、ミズキは涙を零しながらしゃくりあげて泣いて懇願する。
「変なこと……しないで!」
「何もしません。さあとにかく腕をお出しなさい」
「やだ……やだぁ!」
ミハイルの命令など断固拒否だ。腕を出せなんて要求、聞けるわけがない。
「僕を殺せぇぇ!」
その薬で何をするのか、その痴態を存分に楽しむ男たちの欲求も、己の淫乱さもが透けて見える。
まもなく始まるであろう、この部屋で繰り広げられる「淫罰」がくっきりと浮かび上がる。
掛布ごと抱き込まれ、ミズキはろくに動けない。
その窮屈な圧迫感が逆に不安と恐怖を増大させる。呼吸がどんどん浅くなり、空気の吸い方を忘れてしまう。
ミズキは頭を左右に振ってミハイルから逃れようと暴れた。
「離して!」
ミハイルがチッと小さく舌打ちをこぼす。
「困りましたね。少々手荒いがこの場合仕方ない。痛い思いをさせることを許しなさい」
「ゆる……す……?」
ミズキの身体を支配する恐慌の波が少しだけ緩んだ。その瞬間をミハイルは見逃さない。彼の手の注射器が、ミズキの首すじに突きたてられる。
「うあ……っ!」
一瞬で薬剤が体内に注ぎ込まれ、目の前のミハイルがぼんやりと歪み、視界が白く塗りつぶされる。
「僕は……? やだ、こわい……いやだ……」
「眠りなさい。あなたを罰するものはここにはない」
ミハイルの穏やかで優しい声がすとんと心に落ちる。
「罰……な……い?」
「誰もあなたを罰しない。だから安心なさい」
鎮静剤の効果で意識が途切れそうだ。ぼやけた視界の中、ミハイルが優しく頭を撫でてくれるのがわかった。
「怖いことは何もない。目を閉じて、そう……眠りなさい」
眠りに落ちそうになる瞼にミハイルの唇が触れる。
(あったかい……)
全ての悪夢がそこから吸い取られていくように、ミズキの心が静謐を湛えた水底に還っていく。
穏やかな温もりを感じながら、ミズキは意識を手放した。
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