クリスタライズ~ある狙撃手へのレクイエム~

浅倉優稀

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#5 アンバランス

#5 アンバランス

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 軍人たるもの、強靭な精神を持っていなければ、戦場を生き抜けない。
 それどころか、平穏な空気の中で、突然混乱するようなことでは、戦場ではあっさり死んでしまうだろう。
 ミズキを捕らえてからの記憶を遡る。
 営倉で拘束し、尋問を開始しようとしたとき。
 そして、さっき。
 自分が発した言葉を思い返しながら、ミハイルははっとした。
「そうか……」
 クラリス軍に与えた損害の責任を取らせるため、ミハイルは「あなたを罰します」とミズキに言った。
 ミズキが自分を失って錯乱したのは、その直後だ。
「彼自身を失わせるキーワードは『罰』……なのか」
 ベッドに目をやる。そこには子供のように安らかな寝息を立てているミズキがいる。
 どうもあまり寝相はよくないようだ。よく寝返りをうっては掛布を床に落としていることが多い。
 今にもずり落ちてしまいそうな、ミズキの掛布をなおしながら、ミハイルはため息をつく。
 罰という言葉をミハイルが口にしたとたん、ミズキの様子が一変した。
 それまでの彼が纏っていた強気な空気が一瞬にして凍り付き、彼はまた目に見えざる何かに恐怖し、怯え、許しを乞いながらも死を与えろと懇願した。
 そして、なにかしら「許す」と言われると、取り乱した彼が少しだけ大人しくなることにも。
 その時の表情も独特だ。
 怯えた子猫のように、がくがくと全身を震わせているのに、何もしないことがわかると安堵する。
 だが、目尻を赤く染めて妖艶さを漂わせた瞳で見つめてくる。
 このおかしなアンバランス感はなんだ。
 並の男なら押し倒してしまいそうになるほどの美貌と淫靡さをもって、ミハイルに縋るのだ。
 もはやこの二つの言葉は何かのトリガーとしか思えない。ミハイルはそう考えていた。
 心理学など学んだことはないが、刷り込みが強いほどに、身体が条件反射してしまうのだろう。
 彼が「罰」として、ディスタンシアで何をさせられていたのか個人的に興味がある。
 何せ彼は、クラリス全軍を本気にさせた「異色光彩の狙撃手」だ。
 しかし、事前に斥候が持ち帰った写真を見たときは、その凛とした芯の通る美貌を見て、女なのかと疑った。
 イージーショートに整えた、くせのないさらさらで柔らかい茶髪、日焼けひとつしていない白磁のような肌、涼やかな目許、すっと通る鼻梁に薄い唇……軍人とは大抵逞しくあるものなのに、ミズキにそんな男らしさはないし、身長だって178センチのミハイルよりかなり低い。推定160センチあるかないか。黙って立ってたら、本当に少女だ。
 狙撃手は作戦をコンパクトかつ最大限に打撃を与える任務を担う。
 時には何日もの間ターゲットを追って配置につくこともざらだ。
 見つかれば軽装の狙撃手など、アサルトライフルの餌食にされて終わり。狙撃手がもつ武器は、貫通力が高い分、連射性能は劣る。
 だからこそ高いサバイバル能力と一撃必中が求められる。
 捕らえた際に軍人の割にはずいぶん華奢であることが気になった。鍛えていないわけではないのだろうが、たいていの軍人のような筋肉はない。
 こんなにも華奢な彼で、サバイバルに身体が保たないだろうとはミハイルの勝手な憶測だ。
 戦場という過酷な状況下に本当に耐えてきたのかはなはだ疑問だが、クラリスには実害が出ている。
 だがそんなもの以上に、彼は恒常的に何か怯えるほどのことをさせられていたのだろう。
 本国で何をさせられていたのか、今のミズキにそれを言わせるのはおそらく無理だろうし、こんな調子では本格的な尋問に移行できるかどうかはわからない。
 とはいえ、一瞬で自分を失わせるような洗脳技術が、はたしてディスタンシアにあるのだろうか。
 ミズキの腕はミハイル自身、よく知っている。
 ミハイルは、自分の部下を目の前で失ったし、他にも現場で指揮を執る者達が次々凶弾に倒れた。
 クラリス軍内では異色光彩の狙撃手は別名、異色光彩の死神と言われ、ここクラリスでは激しい憎悪の対象となっている。
 だがその反面、あんな狙撃手は今後出ないと評価もされている。
 その彼が、たった一言で己を失い、子どものようにしゃくりあげて泣いては「罰はイヤだ、殺せ」と暴れる。最初は演技かとも思ったが、どうも違う。
 美しい異色光彩の双眸が光を失って、焦点すらぶれさせているのだ。
 そして同時に、彼の内面に潜む危険なほどの色香が溢れだす。
 彼の仕事は狙撃手だ。チームワークが要求される任務ではない。チームを最終目標に導くための個人戦、そしてそのミズキの戦績は、クラリス軍にあっては忌々しい記録だ。
 静かな寝息を立てるミズキの顎を指でなぞる。
「あなたは心の闇の中に、何を隠しているのです?」
「…………ん」
「眠っているときは、まるで少女のように見えるのに」
 もそりとミズキが寝返りを打つ。ミハイルの方に身体を向けたものの、彼は布団をまきこんで、ミノムシよろしく頭まですっぽり隠れてしまった。こんなふうに身体を丸くする寝相は子供のそれだ。
 このような寝相は、心の奥底にとてつもない不安要素を抱えているせいだと聞いたことがある。
 それを隠すため、もしくは自分を守るために丸くなって身を守っているのだと。
「……その美しきオッドアイは、何を見てきたのやら」
 ミズキの柔らかい髪をそっと撫でていると、不意にドアがノックされた。
「ブライデン中将、宜しいですか」
「どうぞ」
 返事をすると、静かにドアが開き、ミハイルの部下が書類を片手に部屋に入ってきた。
「調査結果をお持ちしました」
「ああご苦労様。グスタフ。君には今回、苦労をかけたね」
「いえ、俺も彼に会ってみたかったんで」
 グスタフは笑みを返し、ベッドで眠るミズキに視線をやる。
 ミズキが今起きたら、さぞかし驚くだろう。ここにいるグスタフは、ミズキをクラリスに売ったあの観測手なのだから。
「こいつ…じゃなかった、彼にとって、俺はもう死んだ人間になってるんですよね?」
 グスタフが肩をすくめると、ミハイルは深く頭を下げた。
「彼から本心を引き出すには、それしか方法がなかった。彼から味方を遠ざけて孤立無援にしたほうがいいと判断したんだ。君を幽霊扱いにして本当にすまない」
「それが任務だったんで。あの……彼は俺を恨んでますかね」
「……どうだろうね」
 あの雪原で、グスタフに裏切られたと知った瞬間、ミズキはひどく悲しそうに唇を噛んでいた。ミハイルはあのミズキの顔を今も忘れることが出来ずにいる。
 人が騙しあい、殺し合うような血生臭い戦場で、彼は昨日今日組んだばかりのパートナーに、全くの疑いも持たず、全幅の信頼を置いていたのだ。
 確かに狙撃手スナイパー観測手スポッターは息を合わせなければ仕事の成功は見込めない。だからといって、そう簡単に人を信じられるほど、この世界は平和でもない。
「彼は君には心を許していたようです。そんな君に騙されたのだから、彼はひどく傷ついただろう。だからとっとと君のことを忘れてほしかった。とっさの判断とはいえ、君には申し訳ないことをした」
「あいつは優しいヤツです。軍人には向かないほど人懐こくてお人好しで。あの場所に着くまでにも、彼は俺のことをずっと気遣ってくれた。食事だって俺を優先して、あいつは俺の残り物を少しかじっていた。ディスタンシアの腐れた奴らの中にいたくせに、あいつからはあの国の腐臭が漂ってこない」
「本当ですか? 彼はクラリス全軍を本気にさせた暗殺者ですよ」
 クラリス軍はミズキによる要人暗殺への報復として、民間人への攻撃も含め、ディスタンシアを瓦礫の街にした。
 そこまでしても、ミズキの足取りを追えなかったのだ。
   だがグスタフは、ミズキとの偽りのミッションを思い出しているのか、口元をほころばせていた。 
「道中、皮肉のつもりでクラリスの要人殺害の戦績を褒めたりしたことがありますが、あいつは眉を寄せてとても苦しそうな顔をした。まるで、自分の大切な人を手にかけたように。あいつは根っからの殺人鬼ではなく、人に寄り添い、痛みを理解できる心を持ってる。短い間でしたが、あいつは俺にとっていい友人だった……だからこそ騙していることが心苦しい」
「私たちは彼に家族を殺されている。それでも?」
「はい」
「恨んではいない?」
「クラリスに連れ帰り、厳しい尋問と拷問を科して、兄上ともにこの手で殺してやりたい。そう思ってました。……最初は」
「兄上?」
 ミハイルの眉が釣りあがる。鋭い視線で睨まれ、グスタフは「あ」と口を押さえた。
「し、失礼しました」
「よろしい」
 ミズキは穏やかな寝息をたてている。
 目の端を赤く染めて、時折すんすんと鼻を鳴らしている。その仕草に、グスタフは目を細めた。
「……彼は、無垢な少女のようだ。俺たちの敵であるのに、コイツと接していると、不思議とそんな恨みなどどうでも良くなってくる」
「だが、彼にはクラリスに重大な損害を与えた代償を支払ってもらわなくてはならない。いつまでもお客様扱いは出来ない」
「では、仕事の話を」
 グスタフは姿勢を正すと、手に持っていた書類をミハイルに差し出した。
「彼の両親について、興味深い情報があります。彼の父親はハイネ・ブランケンハイム。当時二十四歳。かつて我が軍の斥候任務に当たっていた軍人です。戦争における新型兵器の開発を行っていたようです」
「斥候……」
 当時、クラリスでは軍事技術が急速に発達していた。
 他国を寄せ付けないほどの強力な戦略兵器を次々と開発、急激に国力を強化した時代だった。
 その影響もあって、隣国ディスタンシアはクラリスの軍事機密を手に入れようと躍起になり、両国の間ではその機密をめぐって、熾烈な攻防戦が行われた。
 実力行使ではクラリスには太刀打ちできないから、クラリスから優秀な技術者を拉致してくる事も行われていた。
 黒か青系の瞳のクラリス人の中で、茶色の瞳のディスタンシア人がクラリスで秘密活動するにはリスクが高すぎる。
 そこでディスタンシアはクラリス国の人間に似た瞳の色を持つ東洋の小国・リーベットと手を組んだ。
 潜入するには目立たないことが絶対条件だ。
 クラリスから遠く離れたリーベットの人間がクラリスに留学や観光目的で入国してもまず怪しまれないし、蒼いカラーコンタクトを入れれば、ぱっと見はクラリス人に変装もできた。
 ディスタンシアはとにかくクラリスの技術がほしくて、もはやなりふり構わずだった。
 それほどまでにクラリスの急激な発展を妬み、恐れをなしていたのだ。
 一方で、当時のリーベットは度重なる自然災害により、国自体が疲弊してしまっていた。 
 自国で何かを生産できる資源もエネルギーも人出も何もかも不足し、極めつけは国のへそとも呼ばれる大きな火山の大爆発だった。
 火山に近いところは火砕流で焼き払われ、国全体に灰が降り注いだ。
 身体の弱い老人や子供達は呼吸器をやられてばたばたと死に、残った人間も何かしら病気にかかってしまっていた。
 国内では降灰と火山性ガスのため、人が活動できないし、ライフラインもままならない。復旧の見込みすら立たない中、水すらもないから、まともに作物が育たず食料も手に入らない状態だった。
 各国は金銭や物品で支援を行ったが、火山のおかげで入国が難しく、善意の資源は国民にほとんどいきわたっていない。
 歴史学者などは、「かつての大戦で、国土が焼き払われた悪夢が再び蘇った」と評していた。
「もともとリーベットは勤勉実直で知られる国です。リーベットが保有していた技術や知識は東洋でも一、二を争うほどだ。しかし国自体に資源はなく、災禍に見舞われる前も外国からの輸入に頼っていた。それなのに、援助なくして何も出来ないほどに天災によって国家は痛めつけられた。世界的に不況だった背景もあり、各国も継続して支援できるほど懐事情も良くない。リーベットはとにかく援助がほしかった。ディスタンシアはそこに目をつけたのです」
 グスタフは続けた。
「リーベットの技術者や健康な成人や子供をディスタンシアに呼び、そこで技術者は兵器の開発を行い、一般人、とりわけ子供には斥候となるための軍事訓練を受けさせた。今のディスタンシアの兵器のほとんどに、かつてのリーベットの技術が使われているのはご存知のとおりです」
 国を存続させるため、また自国民をなんとか救うために、リーベットは国の誇りと国民の努力で築いた宝を、暴君の言うまま差し出すしかなかった。
「そして彼の母親もまた、リーベット人の工作員でした。ディスタンシアの命令のもとで諜報活動を行っていたようです。彼の父親と母親は任務中にクラリスで出会い、母親がミズキを妊娠、彼が生まれました」
 斥候同士の結婚、しかも互いの腹を探りあう敵同士、本来ありえてはいけない関係の落とし胤として生まれ、かつての大戦後に二つの国を友好関係で結んだ花の名前をつけられてしまうとは皮肉としかいいようがない。
「二人はそのあと行方不明になっています。我が軍でも彼の消息をたどりましたが、未だに生きているのか、死んでいるのかも確認できていません」
 報告を聞きながら、ミハイルが眉根を寄せ、懊悩に溜め息をつく。
 軍にいた人物が出奔して行方知れずになるなんて穏やかじゃない。しかも斥候任務にあたっているのなら、それなりに自国と敵国の機密を持っている。
 死んでいるならまだしも、足取りや生死すら明らかでないのは気になった。
 何の情報が誰に渡ったか不明なままのに、なぜか子供だけは助かっている。
 ディスタンシアのやり方であれば、家族全員皆殺しが普通のはず。それこそ骨も徹底的に砕かれて、その痕跡をきれいに消して。
「ミズキは当時五歳だったと推測されます。両親の消息が途絶えた頃に、誰かに拾われたようです。孤児であった期間があったかどうかもわかりませんが、あの国の現状を鑑みると、恐らく彼を育てたのは一般人ではなく、ディスタンシアの軍人でしょう。軍が法律みたいな国では、軍人以外はまともに生活できません。そして彼は軍に入って訓練を受け、クラリスの要人を次々暗殺、ディスタンシアにとっては輝かしい成果をいくつも上げた……ですがこれもまた奇妙なのです」
「奇妙、とは?」
「これほどの狙撃手に関する情報が、まったく拾えないのです。階級、所属、なにもかも。軍のどこで活動しているのか、全く出てこない」
「全く?」
 ミハイルは聞き返す。
 確かに奇妙だ。
 クラリス軍をひとりで引っ掻き回しているのだから、ディスタンシア軍ではさぞかし重用されているのではないのか。
「その話は本当なのですか?」
 念押しして問うと、グスタフは「はい」と頷いた。
「あれほどの成果を上げているのに。それでもミズキの胸には、ディスタンシア軍人の証だけはあるようで」
「証?」
「あの国の軍人なら誰もが体内に埋め込んでいる自爆装置、クリスタライズです。ミズキが捕らえられた時点で起爆しなかったのが不思議ですが。それでもあの国に、軍人としてのミズキの存在を知るものは誰もいない」
「あれほどの狙撃手なのに?」
「ですが運よくミズキの事を知る司令部の人間と知り合いになれて、その彼が言うには…………」
「言うには?」
「その……。彼は、あの」
 先を促すが、何か言葉を選んでいるのか、グスタフは言いづらそうに眉をしかめて答えない。
「グスタフ?」
「中将、ミズキが」
 グスタフがベッドを見ると、ミズキが目を覚ましていた。
 グスタフは無言で一礼すると、ミズキに気取られぬよう、静かかつすみやかに部屋を出ていく。
「ん……」
 深い海のような蒼、黒曜石のような黒、両親が彼に与えた二つの宝石が、夢と覚醒の間で無防備に揺れている。ぼんやりしたその瞳は、まだ状況を把握しきれていない。
 ミズキは布団の中で大きく延びをして、トロンとした目で天井を見つめていたが、のそのそと布団から起き出した。
 上半身を起こし、子どものようにこしこしと目を擦っている。まだ眠り足りないのか、ぼんやりと視線が揺らいでいる。
「目が覚めましたか?」
「……うん」
「ここが今日からあなたの部屋です」
 言われてミズキがゆっくりと室内を見渡した。捕虜のおかれている環境にしてはおかしいと思ったのか、ミズキは目を丸くしている。
「ここはクラリス軍の営倉ですか?」
「ここは私の自室です。クラリス軍の基地の中にあります。ですから簡単には逃げられませんよ」
「窓に鉄格子も何もない、兵士の宿舎なのに?」
「ええ。この部屋からは想像もつかないでしょうけど、軍の施設である限りセキュリティは厳重です。我々は皆、セキュリティチップを持っています。あなたにはそれがない。セキュリティチップは基地内の至る所でサーバーと常に通信を行い、身元の判定をしています。つまり判定ができないあなたは、ゲートにさえたどり着けないということです」
「僕がこの部屋から出たら?」
「途端に監視兵が飛んでくるでしょうね。彼らは容赦ありませんから、面倒ごとは起こさないように。ですが、この部屋の中は自由ですよ」
 陽光が部屋一杯に降り注ぐワンルーム。そこにある大きな窓から見える煉瓦づくりの建物が、歴史を残すクラリスの街並みだという。
 ミズキは景色を眺めながらぼそりと問う。
「なぜ僕を営倉に入れない?」
「あなたの消耗のほうが激しいのでね。今のあなたに尋問を科すことは、国際規定に違反します。あなたにはまず、体力と精神の回復に努めていただく。そしてその間にクラリスという国を知りなさい。外の世界を知ることが、あなたにとって重要だ」
 この戦時下でも、物資が豊富なクラリスでは、一般人が平和に暮らすことができているとミズキに伝えると、「それは空想の中だけの話では?」と驚いている。
 無理もない、ディスタンシアという国は軍部が好き放題にやっている国家だ。
 かつては美しい国だったと誰もが言うが、ミハイルだってそれを老人の昔話でしか聞いたことがない。一般市民はいまだに原始人かというほどの不便な生活を強いられているうえ、クラリス軍を本気で怒らせたこともあり、焦土作戦が展開されている。
 一般的なディスタンシア国民の生活水準は、お世辞ではなく原始人レベルに近いはずだ。
 いや、原始人のほうが自給自足で食える分、まだマシかもしれない。
「部屋の中を案内しておきましょう。起きられますか?」
 ミハイルが手を差し伸べると、ミズキはその手を取り、ゆっくりとベッドから出てくる。
「こちらがバスルーム、トイレはそちら。テレビもありますよ」
「テレビ?」
「ご存じないのですか? 毎日の情報を伝えてくれたり、楽しい娯楽番組などを放送していますよ」
「……放送局がまだ生きてるの?」
「ああ、ディスタンシアではテレビ局がもう機能していないのですね」
 ミズキにとって、この部屋はカルチャーショック以外の何物でもないのだろう。
 恐る恐る、でも興味津々の子猫のようにきょろきょろと部屋を見渡し、「これは何?」とミハイルに尋ねながら、恐る恐る機器に触れようとしては、すぐに手を引っ込めるミズキを見て、ミハイルは穏やかな笑みを浮かべた。
「いいから自由に触ってごらんなさい。爆発なんかしないから」
     
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