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#18 プライドの処理
#18 プライドの処理
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「ブライデン陸軍上級大将、もうそろそろいいんじゃないか?」
不満さに満ちた低い声が、部屋の森閑なる空気を震わせた。
ミハイルは直立不動の姿勢で、ことさら役職を強調して呼ぶ海軍大将・クラウスの前に立っていた。地位は同じではあるが、海軍の大将はミハイルよりかなり年上で、もともとはアルベルトの親友でもあった。
クラウスは筋骨隆々の海の男だ。髪をぼうぼうに伸ばし、頬から顎まで豊かな髭を蓄えている。なぜか髭だけは長いながらも手入れはしているようで、中国の武将のあだ名にあやかって美髯公と呼ばれるクラウスは、七つの海で名を轟かせたというのが自慢だ。
とはいえ、彼はいつもアルベルトに続いて二番止まりだった。戦闘も策略も、そして度胸も。
だが残虐性においては軍で一番だとも言われている。とりわけ罪人の処刑等においては、最近になってやたらとひどいやり方を採るようになった。
そんな彼の唯一無二の友人がアルベルトなのだが、クラウスは今でも、アルベルトがディスタンシア軍に拘束されているのだろうと思っている。
爆発した場所ではない、他のどこかに監禁されているのだと、今でもそう思っている。
つまり、ミハイルと違い、「真実を知らない」人間だった。
それでも親友をまだ死亡だとは思っておらず、クラウスはアルベルトの娘・ジュリアの店によく部下を大量に連れて行っては売り上げに貢献したりして、親友の帰還を待っている。
「なあブライデン大将」
役職で呼ばれるのが嫌いなのを知っていて、こうして呼ぶところを見ると、クラウスはかなり苛立っているように見えた。
「戦争は終わったんだ。君が無理だというから、あの戦犯には時間をやった。しかし、若干時間が長すぎている気がする」
「――申し訳ありません」
腰で身体を折り、頭を下げる。
「ミズキ・ブランケンハイムは、いまだ精神状態が安定しません。尋問にはまだ耐えられないかと」
「とはいってもだ、ブライデン大将」
クラウスは椅子を立つと、ゆっくりとミハイルに近づいてくる。ゆっくりと硬い靴音をコツ、コツと響かせ、ミハイルの周囲を歩く。
「彼を生かしておくために必要なものは、国民の税金から出ているんだぞ」
「はい、存じております」
「なら、そろそろ国民が納得できる形をとるべき時期なのではないかな」
「……と、申しますと?」
「ブライデン陸軍大将よ」
ミハイルの横でクラウスは足を止め、意味ありげのミハイルの肩に手を置く。
その重みにとても気味の悪いものを感じ、視線だけをクラウスに走らせる。
「どんな方法でもいい、ディスタンシアの軍内部のこと、そしてかの国の秘密兵器のことを聞き出せ。彼はディスタンシアの狙撃手だから、持っているのだろう?」
クリスタライズを、とクラウスはミハイルの耳元で囁く。
「……どうせ処刑するんだ。ならばその処刑において、楽しいショーを開催しようじゃないか。彼に示してもらおう。かの国のプライドの威力を」
「プライド……?」
クラウスの言葉に全身が硬直する。視線だけをクラウスに走らせると、不気味に底光る彼の目とぶつかった。
この人は何を言っているんだ……? ミズキにクリスタライズの威力を示してもらう?
「お言葉ですが、それは」
「国民の溜飲を下げるのにはちょうどいいし、わが軍としてはデータが取れる」
「……データ?」
ミハイルは怪訝そうに眉を寄せた。
「何のデータでしょうか」
「クリスタライズの爆破規模のデータだ。それによっては、わが軍の戦略が広がる。なにせ自軍を投入せずとも、コントロールのきく爆薬をお見舞いできるんだからな。試験用にできるディスタンシアの捕虜はまだいるだろう? 彼らにもう一度抱かせればいい。プライドを」
理もなく、非も行き過ぎたクラウスの言葉に、ミハイルは驚愕した。
クラリス軍には、まだ若干名のディスタンシア兵が捕虜として抑留されている。
無論、彼らのクリスタライズはクラリス軍によって無力化されている。
脱走や自殺にいちいち利用されていては、クラリス軍の収容施設がもたないからだ。
おかげさまで戦争中は、クリスタライズを抜きとる軍医の数が足りず、捕まったディスタンシア兵たちは手術が終わるまでマウスピースを噛まされたうえ、麻酔薬などを強制的に投与されていた。自らの意志で勝手に動けないようにしていないと、事故の危険が大きいからだ。
とはいえ、クリスタライズが実際に起動した瞬間を見た人間はほとんどいない。
どこかが爆破され、捜索して初めて「まさか」と気づくくらいのデータしかクラリス軍にはないのだ。
クラウスはミズキ自身のクリスタライズを起動させ、その爆破の瞬間を戦争で不平不満がたまった国民に晒し、国家のガス抜きを行うつもりだ。
「クラウス大将、あなたは自分の言っている意味が分かっているのですか? あまりにも人命を軽んじている。私はその考えに賛同はできません」
「軽んじている? バカ言え、あの国は自軍の兵士に死ねと強要して前線に送り込んでいるんだぞ。そしてクリスタライズを起動させ、自らもそして、わが軍にも損害を与えている。あれは兵士ではない。兵器だ。その兵器を我々で処理しようと言っているだけだ」
「だからといって、私たちがそれをやると、ディスタンシアと変わらない。むしろあの国以下だと世界から非難されます。我が国をあの国と同じレベルに貶める必要はありません」
「なら、いつミズキ・ブランケンハイムの尋問を再開するんだ」
クラウスは硬い表情を崩さぬまま、ミハイルの外堀を固めていく。
「聞くところによると、ミズキ・ブランケンハイムは、行方不明になったハイネ・ブランケンハイムの息子らしいじゃないか。私もハイネの事はよく知っている。優秀な斥候だった。彼の持ち帰るデータは緻密で恐ろしいくらい正確だった。おそらく彼は、ディスタンシア軍の深いところにもぐりこんでいたのだろう。加えて若く、聡明で美しい男だった……」
クラウスは目を細め、舌なめずりをする。それはミハイルが知らない昔の話だ。
「ハイネの息子なら我が国の国民だ。にも関わらず、息子はディスタンシアの兵として、クラリスに向かって凶弾を見舞った、いわば国家に反逆した人間と同類だ。それなのに、どうしてちゃんと扱ってやる必要があるんだ?」
「罪人となるかどうかはまだわかりません。それに決めるのは私たちではない。決めるのは法廷だ」
「……法廷? はん、それはどこだ? ブライデン大将」
「……どこ、とは?」
「犠牲者が最後に命乞いをした、無数の銃弾の穴がある営倉の壁のことか、それとも公平な天秤が眩しい大法廷か? なにせ大将殿は残忍極まりない黒衣の悪魔。秘密裏に罪人を壁で処分する方が得意だったと記憶してるが。なあ、ブライデン大将?」
ミハイルは直立不動の姿勢を崩さず、黙したまま、クラウスの話を聞いていた。
「それにあやつは戦犯だ。戦犯の処理をこの国がどうしているのか……君なら知っているはずだ。犬畜生以下の扱いだと」
クラウスの勝手な物言いが癇に障るどころか、怒りが大きく膨らんで、ふざけるなと怒鳴ってやりたくなる。
「あのような綺麗な戦犯がクリスタライズで散華するか、それとも生きたままあの場所へ送るのか。どちらにしろ、処理はせねばな?」
爪が皮膚に食い込むほどに手を握りしめ、今にもクラウスを殴りそうになる気持ちをやり過ごす。
「そういうことだ、ブライデン大将。早々にミズキ・ブランケンハイムの処理を行ってもらおう。貴殿もご存じだろう? ――私は待つのが好きではない」
自分の言い方まで真似られ、ミハイルは瞋恚の視線でクラウスを刺し貫いた。
クラウスも老獪だ。何をしてくるかわからない。
ミハイルの頭の上を飛び越えて、知らないうちに何かしそうな予感さえする。なにせ上級大将だ。クラウスに意見できる者など、軍の中でも数少ない。
たとえ彼の部下が「おかしい」と咎めたところで、ひとたび凄まれれば、それ以上逆らえる部下などおそらくいない。
ミハイルの全身に不安がまとわりつく。着ている衣服すら、クラウスの意思で操られているようで気持ち悪い。
ミズキはクラリス軍の将校を多数殺害した罪人。いずれ彼には罰は受けてもらう。
だが今は、まだその時期ではない。
ミズキから聞きたいことはたくさんあるが、それは慎重に段階を踏まなければ、彼を壊してしまいかねない。そうなってはしまっては、何もわからないままだ。
(こんな老獪に、ミズキを触れさせてなるものか)
来たるその時、ミズキの処遇を決めるのはミハイルでなければならないのだ。
彼の名を鬼籍に書き込むその時まで、ミズキを守らなければいけない。
絶対に。ミハイル自身が。
不満さに満ちた低い声が、部屋の森閑なる空気を震わせた。
ミハイルは直立不動の姿勢で、ことさら役職を強調して呼ぶ海軍大将・クラウスの前に立っていた。地位は同じではあるが、海軍の大将はミハイルよりかなり年上で、もともとはアルベルトの親友でもあった。
クラウスは筋骨隆々の海の男だ。髪をぼうぼうに伸ばし、頬から顎まで豊かな髭を蓄えている。なぜか髭だけは長いながらも手入れはしているようで、中国の武将のあだ名にあやかって美髯公と呼ばれるクラウスは、七つの海で名を轟かせたというのが自慢だ。
とはいえ、彼はいつもアルベルトに続いて二番止まりだった。戦闘も策略も、そして度胸も。
だが残虐性においては軍で一番だとも言われている。とりわけ罪人の処刑等においては、最近になってやたらとひどいやり方を採るようになった。
そんな彼の唯一無二の友人がアルベルトなのだが、クラウスは今でも、アルベルトがディスタンシア軍に拘束されているのだろうと思っている。
爆発した場所ではない、他のどこかに監禁されているのだと、今でもそう思っている。
つまり、ミハイルと違い、「真実を知らない」人間だった。
それでも親友をまだ死亡だとは思っておらず、クラウスはアルベルトの娘・ジュリアの店によく部下を大量に連れて行っては売り上げに貢献したりして、親友の帰還を待っている。
「なあブライデン大将」
役職で呼ばれるのが嫌いなのを知っていて、こうして呼ぶところを見ると、クラウスはかなり苛立っているように見えた。
「戦争は終わったんだ。君が無理だというから、あの戦犯には時間をやった。しかし、若干時間が長すぎている気がする」
「――申し訳ありません」
腰で身体を折り、頭を下げる。
「ミズキ・ブランケンハイムは、いまだ精神状態が安定しません。尋問にはまだ耐えられないかと」
「とはいってもだ、ブライデン大将」
クラウスは椅子を立つと、ゆっくりとミハイルに近づいてくる。ゆっくりと硬い靴音をコツ、コツと響かせ、ミハイルの周囲を歩く。
「彼を生かしておくために必要なものは、国民の税金から出ているんだぞ」
「はい、存じております」
「なら、そろそろ国民が納得できる形をとるべき時期なのではないかな」
「……と、申しますと?」
「ブライデン陸軍大将よ」
ミハイルの横でクラウスは足を止め、意味ありげのミハイルの肩に手を置く。
その重みにとても気味の悪いものを感じ、視線だけをクラウスに走らせる。
「どんな方法でもいい、ディスタンシアの軍内部のこと、そしてかの国の秘密兵器のことを聞き出せ。彼はディスタンシアの狙撃手だから、持っているのだろう?」
クリスタライズを、とクラウスはミハイルの耳元で囁く。
「……どうせ処刑するんだ。ならばその処刑において、楽しいショーを開催しようじゃないか。彼に示してもらおう。かの国のプライドの威力を」
「プライド……?」
クラウスの言葉に全身が硬直する。視線だけをクラウスに走らせると、不気味に底光る彼の目とぶつかった。
この人は何を言っているんだ……? ミズキにクリスタライズの威力を示してもらう?
「お言葉ですが、それは」
「国民の溜飲を下げるのにはちょうどいいし、わが軍としてはデータが取れる」
「……データ?」
ミハイルは怪訝そうに眉を寄せた。
「何のデータでしょうか」
「クリスタライズの爆破規模のデータだ。それによっては、わが軍の戦略が広がる。なにせ自軍を投入せずとも、コントロールのきく爆薬をお見舞いできるんだからな。試験用にできるディスタンシアの捕虜はまだいるだろう? 彼らにもう一度抱かせればいい。プライドを」
理もなく、非も行き過ぎたクラウスの言葉に、ミハイルは驚愕した。
クラリス軍には、まだ若干名のディスタンシア兵が捕虜として抑留されている。
無論、彼らのクリスタライズはクラリス軍によって無力化されている。
脱走や自殺にいちいち利用されていては、クラリス軍の収容施設がもたないからだ。
おかげさまで戦争中は、クリスタライズを抜きとる軍医の数が足りず、捕まったディスタンシア兵たちは手術が終わるまでマウスピースを噛まされたうえ、麻酔薬などを強制的に投与されていた。自らの意志で勝手に動けないようにしていないと、事故の危険が大きいからだ。
とはいえ、クリスタライズが実際に起動した瞬間を見た人間はほとんどいない。
どこかが爆破され、捜索して初めて「まさか」と気づくくらいのデータしかクラリス軍にはないのだ。
クラウスはミズキ自身のクリスタライズを起動させ、その爆破の瞬間を戦争で不平不満がたまった国民に晒し、国家のガス抜きを行うつもりだ。
「クラウス大将、あなたは自分の言っている意味が分かっているのですか? あまりにも人命を軽んじている。私はその考えに賛同はできません」
「軽んじている? バカ言え、あの国は自軍の兵士に死ねと強要して前線に送り込んでいるんだぞ。そしてクリスタライズを起動させ、自らもそして、わが軍にも損害を与えている。あれは兵士ではない。兵器だ。その兵器を我々で処理しようと言っているだけだ」
「だからといって、私たちがそれをやると、ディスタンシアと変わらない。むしろあの国以下だと世界から非難されます。我が国をあの国と同じレベルに貶める必要はありません」
「なら、いつミズキ・ブランケンハイムの尋問を再開するんだ」
クラウスは硬い表情を崩さぬまま、ミハイルの外堀を固めていく。
「聞くところによると、ミズキ・ブランケンハイムは、行方不明になったハイネ・ブランケンハイムの息子らしいじゃないか。私もハイネの事はよく知っている。優秀な斥候だった。彼の持ち帰るデータは緻密で恐ろしいくらい正確だった。おそらく彼は、ディスタンシア軍の深いところにもぐりこんでいたのだろう。加えて若く、聡明で美しい男だった……」
クラウスは目を細め、舌なめずりをする。それはミハイルが知らない昔の話だ。
「ハイネの息子なら我が国の国民だ。にも関わらず、息子はディスタンシアの兵として、クラリスに向かって凶弾を見舞った、いわば国家に反逆した人間と同類だ。それなのに、どうしてちゃんと扱ってやる必要があるんだ?」
「罪人となるかどうかはまだわかりません。それに決めるのは私たちではない。決めるのは法廷だ」
「……法廷? はん、それはどこだ? ブライデン大将」
「……どこ、とは?」
「犠牲者が最後に命乞いをした、無数の銃弾の穴がある営倉の壁のことか、それとも公平な天秤が眩しい大法廷か? なにせ大将殿は残忍極まりない黒衣の悪魔。秘密裏に罪人を壁で処分する方が得意だったと記憶してるが。なあ、ブライデン大将?」
ミハイルは直立不動の姿勢を崩さず、黙したまま、クラウスの話を聞いていた。
「それにあやつは戦犯だ。戦犯の処理をこの国がどうしているのか……君なら知っているはずだ。犬畜生以下の扱いだと」
クラウスの勝手な物言いが癇に障るどころか、怒りが大きく膨らんで、ふざけるなと怒鳴ってやりたくなる。
「あのような綺麗な戦犯がクリスタライズで散華するか、それとも生きたままあの場所へ送るのか。どちらにしろ、処理はせねばな?」
爪が皮膚に食い込むほどに手を握りしめ、今にもクラウスを殴りそうになる気持ちをやり過ごす。
「そういうことだ、ブライデン大将。早々にミズキ・ブランケンハイムの処理を行ってもらおう。貴殿もご存じだろう? ――私は待つのが好きではない」
自分の言い方まで真似られ、ミハイルは瞋恚の視線でクラウスを刺し貫いた。
クラウスも老獪だ。何をしてくるかわからない。
ミハイルの頭の上を飛び越えて、知らないうちに何かしそうな予感さえする。なにせ上級大将だ。クラウスに意見できる者など、軍の中でも数少ない。
たとえ彼の部下が「おかしい」と咎めたところで、ひとたび凄まれれば、それ以上逆らえる部下などおそらくいない。
ミハイルの全身に不安がまとわりつく。着ている衣服すら、クラウスの意思で操られているようで気持ち悪い。
ミズキはクラリス軍の将校を多数殺害した罪人。いずれ彼には罰は受けてもらう。
だが今は、まだその時期ではない。
ミズキから聞きたいことはたくさんあるが、それは慎重に段階を踏まなければ、彼を壊してしまいかねない。そうなってはしまっては、何もわからないままだ。
(こんな老獪に、ミズキを触れさせてなるものか)
来たるその時、ミズキの処遇を決めるのはミハイルでなければならないのだ。
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