クリスタライズ~ある狙撃手へのレクイエム~

浅倉優稀

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#26 取引

♯26ー2

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 翌朝。
「ミズキのクリスタライズのスイッチ……?」
 グスタフは目を丸くして、ミハイルの話を聞いていた。
 ミハイルから聞かされたミズキのクリスタライズの秘密。それは、グスタフが知っているものと明らかに違う情報だった。
 ミハイルは執務机で肘をついて大きなため息をついていた。
「あの老獪、ミズキを営倉から一生出さないとそう言っていました。以前彼は、ミズキはじめディスタンシアの残党の処刑に、クリスタライズを起動させればいいと平然と言ってのけていた。まさかとは思いますが、彼にミズキのクリスタライズの起動スイッチを渡すことは、彼の死を意味する」
「確かに……」
 グスタフはありえないとばかりに力なく首を左右に振る。
「そんなことして何になるんだよ。今度はクラリスうちが世界中からの非難を浴びる。あのヒゲじじいはそのことをちゃんとわかっているのかよ?」
「ちゃんとわかっているんでしょう。彼は言いましたよ。クリスタライズを使用した公開処刑を行えば、クリスタライズあれの爆破規模のデータが取れる。そして戦争が始まれば、捕虜たちに再びクリスタライズを抱かせて前線に出す……と」
「あのじじい、人の命を何だと思っているんだ」
「……戦略兵器。そう言っていましたよ」
「バカか。そんなことを本気でする気かよ?」
「本気なんでしょうよ」
 グスタフが苛立ちを隠せず、ミハイルの机をがんと拳で叩く。衝撃で彼の机の上にあるペンや書類が勢い良く跳ねる。普段ならここでミハイルが「人の机だと思って」とたしなめるところだが、ミハイル自身もグスタフと同じ気持ちだった。
「ディスタンシアの捕虜たちはクラリスに連行されてからクリスタライズの摘出手術を受けています。自分の命の手綱を握るモノクリスタライズがなくなったと、ほっとしている彼らに、また突然来る死を強要する……あの老獪ならやりかねない」
 ミハイルは、やりきれないとばかりにため息をつく。
「ブレーキの利かない車のようなものです。誰も止められない」
 そうまでして国民の溜飲を下げる必要があるのかとも思うが、どうもミハイルが知る限り、クラウスは言うほど国民感情に寄り添うタイプではない。
「彼はハノン大将の行方が気になるんでしょう。あの人はジュリアの父親代わりのような人でした。思えば、長兄とジュリアの結婚式の時だって、教会でジュリアの手を引いていたのは、ハノン大将ではなく、あの老獪でした。ハノン大将はジュリアの一切をあの老獪に任せていたようですし。それこそ、背中を預けられる唯一無二の存在」
「俺ならあんなのに、テメェの背中なんか預けねぇ」
 グスタフはどんと机に両手をついた。そのまま身を乗り出して、ミハイルに迫る。
「兄貴、まさか渡す気じゃないよな?」
「何を」
「ミズキのクリスタライズの起爆スイッチだよ。あの老獪に渡したら、遅かれ早かれミズキは死ぬぞ」
 ミハイルは何も答えず、沈黙を守っていた。
 実際、クラウスにスイッチを渡してしまえば、ミズキの意思とは無関係に爆殺されてしまう。
 国民はミズキが弾け飛ぶ様を見て、ようやく戦争が終わった「ような気にさせられる」のだろうが、後味は良くないに決まっている。
「グスタフ、私はスイッチを老獪に渡そうと思っています」
「兄貴!」
 グスタフが再度両手でバンと机を叩く。憤激した彼の両手は硬く拳に握られ、ぶるぶると震えている。
「何考えてんだよ! それじゃあのヒゲじじいと何も変わらないじゃないか!」
「渡さなくても!」
 グスタフがすべて言い終わらないうちに、ミハイルが悲痛に満ちた声を上げた。
「……渡さなくてもミズキは」
「兄貴……」
「ミズキは……死んでしまう。罪人が海軍の尋問に耐えた平均日数は1週間程度。ミズキが連れ去られてもう何日です? 私たちには切れるカードが手元にない」
「でも」
「グスタフ、あなたの考えも思いもよくわかります。ですが今はスイッチを渡すのが最善」
 ミハイルは静かに引き出しを開けると、チャックのついた透明の小さな袋を取り出した。
 その中にはキャラメルくらいの大きさで、薄いカードのようなものが入っている。中央にはボタンがあり、おそらくそれを押すことでミズキのクリスタライズは起動するのだろう。
 ミズキが抱えていた運命を左右するスイッチ。こんな小さなものがとてつもなく重く感じる。
「兄貴、あの老獪に渡すってことは、兄貴はミズキを見殺しにするんだな?」
「バカをおっしゃい」
 ミハイルはそのスイッチを机の上に置くと、グスタフの目を真っ直ぐ見据えた。
「手元に残るたった1枚のカードを切るのです。この勝負は短時間でつけますよ」
「短時間で?」
「ええ」
 ミハイルはニヤリと笑った
「この私を本気にさせたのです。必ずミズキを取り返しますよ」


 *******
 

 グスタフはミハイルの執務室を出た。
 兄の考えていることが今一つ理解できない。
 もともとミハイルと言う人は秘密主義ではある。幼いころからずっとそうだ。
「あーっ、くそっ!!」
 心の中のもやもやをどうしていいかわからず、グスタフはわしゃわしゃと無造作に頭を掻く。
 ミハイルは常に核心を言わず、こちらがやきもきしているのを知っているくせに、ちゃんと手は打っている、そういう人だ。
 家族間の問題ならそれでいいだろうが、相手は海軍の上級大将、七つの海を渡り歩いた百戦錬磨のクソじじいだ。しかもミズキはあちら側にいる。
 ミズキを取り戻すためにミハイルに協力したいのに、ミハイルときたら、ミズキの命ともいえる起爆スイッチを老獪に渡すのだという。
 計算高い兄ミハイルのことだ。おそらく何かしらの手は打っているのだろう。
 だが。
「手の内教えてくれなきゃ、サポートできねえじゃねえかよ」
 おかしなものだ。
 自分たちの仇であり、いずれ死刑になるであろうミズキのことが、こんなに気になるなんて。
 思えば、ミズキを殺すために、ミハイルと綿密な計画を練り、ディスタンシアに潜入して、クラリスに連れてきた。あの作戦のことを思い出す。
 ディスタンシア軍に新兵として潜り込み、しばらくは軍の作戦で功績を残した。
 敵地で信用を作る時間が掛かってしまったが、亡き兄の仇のためと理不尽な暴力や横暴な上司の注文にも歯を食いしばって耐えた。
 いずれこの我慢は異色光彩の狙撃手の処刑をもって解き放ってやると、グスタフはそれだけを心に刻んで己を律し、ミハイルとの作戦を遂行していったのだ。
 運がよかったのはグスタフがアルベルトの傘下に入ったことだった。アルベルトは、どこからか最近話題の新兵のうわさを聞き付け、宿舎まで会いに来てくれた。
 アルベルトの顔を見た瞬間、思わず「ジュリアのオヤジじゃねえか、こんなところでなにしてんだよ」と叫びそうになったのを覚えている。
 アルベルトも同様だったようで、自分の執務室にグスタフを呼び出しては、クラリスの現状、ミハイルのこと、そしてジュリアのことを聞いてきた。それからはアルベルトの下でしばらく働いた。
 アルベルトには、ディスタンシアに来た目的を何も話さなかったが、彼はグスタフの思惑をすべて見抜いていた。
『おまえ、ミズキを攫いに来たな? そっちでは異色光彩の狙撃手オッドアイスナイパーで通ってるだろう。ミハイルの指示か?』
 そこからは隠しても仕方がないと思い、執務室でアルベルトにはすべてを話した。
 彼の性格を考えると、ディスタンシアにグスタフを売るようなことはないと思った。
 だがしかし、ディスタンシア軍の要人であるアルベルトを信用するというのは、グスタフにとっては賭けだった。
 だがグスタフの賭けはいい方に流れた。ディスタンシアにいる間、アルベルトは事あるごとにグスタフに便宜を図ってくれた。
 アルベルトの協力がなかったら、ミズキまでたどり着けていない。
『兄貴の敵討ちのためだけにミズキを連行するのか。ミハイルあいつらしくないな』
『兄貴らしくない?』
『あいつの性格考えたら、ミズキの現れる場所に見当をつけ、自分で殺しに行くだろう。こんなまだるっこしい方法は採らないってことだ。ああみえてあいつは兵士としてはオールラウンダーだ。すべてにおいて一級の腕を持っている。ミズキを罠に陥れるくらい朝飯前だろうに』
 アルベルトはそう言って首をかしげていた。
『まあいい。ミズキをクラリスに連れていくなら、それなりのセッティングをしてやる。必ず生きて二人ともクラリスへ戻れ。そして、クラリスという国を、外の世界をミズキに見せてやってくれ。ミズキの奴は大人になるまで何も知らずに育った。グスタフ、ミズキの友達になってやってくれ』
『友達になんかなるつもりはないですよ。俺はあいつを母国で邪魔されずに殺すため、この国から拉致するんですから』
 憮然とするグスタフに、アルベルトははははと腹を揺すって笑っていたが、ふと淋しそうにつぶやいた。
『ミズキは……この国にいてもどうせ死ぬ』
 その目は目の前のグスタフではなく、彼にだけは見えている別の景色を見ているようだった。
『だからこそ、おまえにミズキを託すんだ』
 アルベルトの瞳に映るものは、悲しみの暗雲が渦巻く近い将来か。
 すでに彼なりに腹をくくっているのだろう。覚悟のようなものを感じた。
 オヤジはどうするんだ?――とは訊けなかった。
 まさかこの瓦礫の国に埋まるつもりではないだろうが、グスタフは彼の思惑を聞けなかった。
 どうしてクラリスを出てディスタンシアにいるのか。滅びの道を歩んでいる国になぜ留まろうとするのか。
 たくさんの「なぜ?」があった。
 でもどういうふうに訊けばいいのか、話の糸口をつかめない。
『俺たちと一緒にクラリスに帰りましょう』
『いや、俺は戻らん』
『どうしてですか』
 アルベルトほどの男なら、この戦争の行方は見えているはずだ。
『ジュリアだって心配しているし、兄貴だって喜びます。この国に留まっている理由なんてないでしょう? それにミズキを連れて一緒に帰れば……大手柄になるじゃないですか』
『確かにこの国はもうもたん。国を動かすはずのトップがすでに行方不明だ。国自体は既に死んでいる。妄念という魔法で、死んだ国をゾンビとして無理やり動かしている。指揮も統制もなく軍の勝手で続く戦いに、もはや信念はない』
 確かに現状はアルベルトの言う通りだった。クラリスによる焦土作戦が行われ、ディスタンシアの中心部の景色は瓦礫が積み重なる灰色一色。資源だって無いし、よく戦いを続けられるものだと感心する。
 だからこそグスタフは、アルベルトを連れ帰りたいのだ。
『そこまで見立ててるんなら、やっぱり一緒にクラリスへ戻るべきです』
『父親の感覚とでも言うのかな。ミズキを見ていると、戦争の記憶しかないまま死んでほしくないと思うんだ。大人はいつも子供を面倒事に巻き込んでばかりだ。俺はジュリアには何もしてやれなかった。だから代わりに少しくらい、両親の記憶すら曖昧な子どもに、父親の真似事をしてやりたいのさ』
『父親?』
 どういうことだ。
『あんたはジュリアのオヤジだろ。国に帰ってからジュリアにいろいろしてやればいいじゃないか。まだ時間はある』
 一緒に連れて帰りたい一心で、グスタフはあれこれと引き下がらずに説得したが、アルベルトは静かに首を横に振った。
『俺はもうクラリスの裏切り者だ。国には戻れん。それにミズキがまだ生きているうちに、見たことのない世界をみせてやりたい。5歳の時に自分の手で両親を殺し、それからずっと地下の牢獄で過ごしてきた。夜伽の真似事をして、両親がディスタンシアから奪ったものを補填するという名目でな』
『すみません、俺には言ってることがよくわかりません』
『そうか。ならわからなくてもいい。だがミズキをちゃんとクラリスに連れて行け。せめて演技でいいから、ミズキが気軽に話せる唯一のパートナーとなれ。おまえの腹を探られないようにな。クラリスに帰るまでがミッションだろう?』
『ええまあ……』
『道中ミズキと二人で不安かもしれないが、ミズキの戦闘能力は折り紙付きだ。見た目は女のように華奢で頼りないかもしれないが、重装備兵に囲まれても、あいつならその包囲網を撹乱し、突破できるぞ。狙撃手だけにしておくのは勿体無いくらいだ。お前も油断するな。あいつが本気になったら、お前ひとりくらい、あっという間に無力化テイクダウンされる』
 そう言って、ディスタンシアから送り出してくれたアルベルトは、いまどこにいるのか。
 戦争は終わったが、アルベルトの消息は伝わってこない。
 なんのかの言っても、みんなミズキが気になっているのだ。
 ミズキは敵国の狙撃手。ミハイルとグスタフ、そしてジュリアにとっては肉親を殺した罪人。恨みしかないのに、みんながミズキを助けようとしている。
 アルベルトなんかは、ミズキをディスタンシアから亡命させたようなものだ。
 ミズキの雰囲気がそうさせるのか。それとも、ミズキと話すとなにか心に温かいものが生まれ、そこに根付いたはずの恨みや悲しみを洗い流してしまうのか……少なくとも、ミズキと過ごすようになって、グスタフもミズキの命でもって敵討ちなど考えることは無くなった。
 グスタフだけじゃない。ミズキをクラリスに連れてくるよう指示したミハイルでさえも、ミズキをなんとかクラリスで生き延びさせようとあれこれ知恵を絞っている。
 そうでなければ、ミハイルがミズキを傷ひとつないままで生かしておくわけがない。
 ミハイルが壮大な復讐劇を計画していたとして、どのような方法でもいずれは殺す人間だというのに、ミズキを老獪に攫われてからというもの、ミハイルは表情を失った。
 悲痛に満ちた目で、声には出さないものの、その口唇がミズキの名を呼んでいる。
 そんなにまでミズキを取り戻したければ、グスタフを頼ってほしいのに、次兄ミハイルはそれをしない。
 少なくとも、ミハイルを失望させる真似はしない。老獪と刺し違えても、ミズキを必ず取り返してくるのに。
「どいつもこいつも秘密主義が過ぎるぜ。ゴールは同じなのにな」
 舌打ちしながら廊下を歩いていると、誰かと肩がぶつかった。
「あ、サーセン」
 相手が誰かろくに見なかったが、こういう場合グスタフは自分から頭を下げることにしている。自分から謝ってしまえば、相手の矛を封じられる。
 そのまま立ち去ろうとすると、いきなり肩を掴まれた。
「待て、ブライデン少尉」
「……?」
 下っ端の自分をちゃんと役職付きで呼ぶ人間は限られている。
 誰かと思って足元を見ると、相手の白いマントが見えた。
 海軍の人間だ。まさかミズキの次は自分を闇討ちに来たのかと、グスタフは慌てて顔を上げる。
 短く刈り上げた白銀の髪に、外の寒さよりも凍てつく冷気を噴き出していそうな鋭い視線。たくさんの勲章がじゃらじゃらとにぎやかな、白い軍服を着ている男が立っていた。
「あんた、ヒゲじじいんとこの……」
 海軍のナンバー2であるヴィルヘルム・クレッチマンだ。面倒な人間に捕まったと、グスタフは内心でため息をつく。
「ヒゲじじいとはなんだ。クラウス海軍大将と呼べ。失礼だぞ」
「へいへい……」
 ヴィルヘルムはクラウス直属の部下だ。とかく細かいことにやかましく、事あるごとにミハイルを目の敵にしている人間だ。神経質が不機嫌という服を着ているのか、それともその逆か、どっちでもいいが、先に出世したミハイルを嫉みまくっているらしいという話を、グスタフは聞いたことがある。
 もちろん、その話はミハイル自身からだが。
『聞いた話ですけどね、同じ地位カウンターパートでないことがよほど悔しいらしいのです。つまらないケンカを吹っかけてきて面倒だったらありゃしない。下の者達も気分屋の彼にかなり振り回されているらしく、よく庁舎で愚痴ってます。人望なさそうですし、あれじゃ出世なんて一生できない。賭けてもいい。老獪がヴィルヘルムに地位を委譲することはないでしょうよ』
 次兄ミハイルの見立て通り、ヴィルヘルムはいまだナンバー2だ。「いつまで」ナンバー2か、それとも「いつまでも」かはわからないが。
 どっちにしろ、ヴィルヘルム如きに付き合っている場合ではない。
「で、海軍の永久ナンバー2が、俺みたいな前途洋々の下っ端に何の御用ですか」
「くっ、君たちは兄弟そろって口のきき方がなっていないな。永久とはなんだ。私だってそのうち」
「サーセン、生まれ持った俺の魅力なんで」
「そんなものは魅力とは呼ばないが、今はこんなつまらないことを議論している場合ではないんだ。ブライデン少尉、少し時間あるか」
「……?」
 グスタフは返事を返さなかった。
 老獪の部下がわざわざ自分のところに来るには、それなりの理由があるが、ミズキの一件があるので簡単に乗るわけにはいかなかった。
 ヴィルヘルムはクラウスの直属で、彼の片腕と言われている。ミズキのことについてもヴィルヘルムは絶対絡んでいるはずだ。
 それがわざわざグスタフのところに来るなんて……今度は自分を拉致でもして、いやが応にもミハイルに残された交渉のカードを奪い取るつもりか……。 
 警戒して身構えると、ヴィルヘルムは「そんな怖い目をするな」とグスタフをたしなめた。
「別に君をどうこうしようというつもりはない。さっきのクラウス大将についての暴言も今は聞かなかったことにしてやる。ただ、少し教えてほしい」
「ヒゲじじいのことなら、あんたの方が詳しそうですが? 俺に答えられるのは、あのひげの長さくらいのものだと思いますよ」
「そうじゃない。真面目な話なんだ」
「どういう話です?」
「クラウス上級大将の件だ。ここではまずい。行くぞ少尉」
 ヴィルヘルムはグスタフの腕を引っ張り、歩き出すではないか。
「ちょっ、何するんですか」
「本当に真面目かつ人に聞かれても困る話だ。できれば君の兄上にもこの話を通してほしい」
「だからってどこに行くんです」
 グスタフが聞くと、ヴィルヘルムは足を止め、振り返った。
「君の兄上の執務室だ。なんなら自室に案内してくれてもいい。この3人だけで話をしたいんだ」
「兄貴の……?」
「3人だけで話せればどこでもいいが、一番安全な場所は君の兄上のところだろう? さあ、ミハイルに連絡をしてくれ。今から行くから、部屋にいろと。さあ早く、早く!」
「わーっかりましたよ。そんな急かさないで」
 グスタフはそういうとスマートホンをポケットから取り出し、ミハイルの内線番号をタップする。
 昨日今日の話だろうか。それなら、海軍のナンバー2が知らないなんてこと、あるものか……?
 それとも何か別の話か。しかしミズキの件以外で、海軍がこちら側に絡む理由が思いつかない。
 とはいえ、ヴィルヘルムは演技しているわけではなさそうで、その表情や言葉には切羽詰まったものが感じられる。
『グスタフ? どうしたのですか?』
「あ、兄貴。ちょっと時間とれますか? 客を連れていきたいんですが」
 グスタフは電話に出たミハイルに状況を説明する。
 ミハイルなら、逆にヴィルヘルムから情報を聞き出せるかもしれない。
 そんな期待を込めながら。
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