ダンジョン孤児の配信生活~探索者でもないのに知らないうちに全国配信されて有名人になっていました~

ジャジャ丸

文字の大きさ
19 / 42

第19話 《絶壁》

しおりを挟む
 北海道に到着した私達は、飛行機を降りてすぐに探索者協会の支部に連れていかれた。

 《機械巣窟》の側にあるのと同じ、大きな建物。
 実のところ、協会支部の中に入るのは今回が初めてなのはもちろん、建物を目にするのもまだ二度目だ。

 まだまだ見慣れない大きな建物が放つ威容に目を奪われた私は、思わずその場で立ち尽くす。

『アリス、そんなに上ばかり見ていては転んでしまうぞ』

「わわっ」

 そうしていると、私はテュテレール──今はドローンじゃなくて本体だ──に抱き上げられた。

 これなら、周りを見てばかりいても大丈夫ってことなんだろう。

「えへへ、ありがとう、テュテレール」

『どういたしまして』

“はい可愛い”
“俺もアリスちゃん抱っこしたい”
“いくら子供だからってアリスちゃんのこの身長だと結構重いぞ? 出来るのか?”
“アリスちゃん抱っこするためなら鍛えるわ”

「お、重くないもん! ……重くないよね?」

 ちょっと不安になって、思わずテュテレールに問い掛ける。

 すると、テュテレールはこくりと頷き、言った。

『ここ一週間ほどで、平均四〇〇グラム増量している。しかし、アリスは元々平均体重より少なかったため、それが正常であると判断する』

「それ、太ってるってことじゃん! テュテレールのばかぁ!」

 ポカポカと叩きながら、私は自分のお腹に手を当てる。
 うぅ、ここ最近はずっと美味しいものばっかり食べてたからなぁ……少し控えた方がいいかも……。

「大丈夫だよアリスちゃん、子供は少しくらい太ってた方が健康的だから」

「そうよ! いい? 人生何が起きるか分からないのよ? 今日まで普通に食べられていたものが、明日突然食べられなくなることだってあるの……!! だから、ダイエットなんて絶対ダメ!! 食べられるうちに食べる、それが生物として当たり前の行動よ!!」

「う、うん、分かった」

 菜乃花さんに続いて、茜お姉ちゃんがそれはもう凄まじい形相で必死に訴えかけてきた。

 その剣幕には、最初に口火を切った菜乃花さんでさえちょっと引き気味で、困ったように笑ってる。

 そんなお姉ちゃんにフォローを入れたのは、意外にも視聴者のみんなだった。

“茜ちゃん、お金ないもんね”
“菜乃花さんのお陰で一応借金は減ったんだっけ?”
“それでも億は残ったって言ってなかった?”
“頑張れ茜ちゃん! 応援してるよ!”

「あぁぁぁぁ!! もう借金はいやぁぁぁぁ!!」

 頭を抱えて絶叫するお姉ちゃんに、うるさいだなんて注意出来る人は、協会にいる人達を含め誰もいなかった。

 泣き崩れるお姉ちゃんをよしよし、と撫でてあげながら、私は思う。

 今度、私の分のハンバーグ、分けてあげようかな……。

「君たち、騒がしいぞ。ここは公共の場だ、私語をするなとは言わないが、声量には気を配るべきだ」

「あ、すみません……」

 そんなところへ、鋭く注意を飛ばす一人の年若い男性がいた。
 パッと目につくのは、スラリと伸びた長身。
 テュテレールと比べたら流石に低いけど、それでも私みたいな子供からすれば巨人と言えるくらいの背の高さに加え、それを支える手足もしっかりと鍛え上げられ、線の細い印象は全くない。

 どちらかといえば、モンスター由来の軽くて丈夫な革鎧や布服に近い装備が好まれる探索者において、金属の鎧を纏っているのはちょっと珍しい。

 何せ、モンスターの攻撃はちょっとやそっとの鎧なんて簡単に貫通しちゃうからね。防御力より、回避しやすくするための機動力を重視する人が多いの。

 整った顔立ちに、鮮やかな蒼髪。鎧のイケメン騎士っていう評価がぴったりと当てはまるその人を見て、コメントがにわかに活気付いた。

“おお! 絶壁じゃん!”
“ニュースくらいでしか見たことなかったけど、声までイケメンなんだなこいつ”

「絶壁……っとことは、この人が……」

 たった一人で、今この時もダンジョンの迷宮災害を押さえ込んでるっていう、超級探索者の一人。

 ほわぁ、と、有名人を前にした感嘆の息を漏らしていると、その絶壁さんが私の方をジロリと見た。

「君が、《機械巣窟》を鎮圧したという新たな超級か」

「ええと、初めまして、天宮アリスです」

「氷室信護だ。そちらのお嬢さんは《炎姫》だったな、最近の活躍は俺も聞き及んでいる。期待しているぞ」

「ど、どうも」

「それと、そっちの二人は……」

「あ、ウチは今回、で防衛には参加出来ないから、よろしく。ちなみに、こっちは照月歩実、ウチの同僚だよ」

「よろしくお願いします~」

「そうか……君が協力してくれれば、かなり楽になると思ったんだが」

「買い被り過ぎだよ。ウチはそんなに得意でもないし」

「客観的な事実を言っているつもりなんだがな」

 菜乃花さんと知り合いなのか、気安いやり取りを交わす信護さん。
 だけど、もう一度私の方を見た時、その眼差しは一転して険しいものになった。

「だが……君たちのことは、果たして信用していいものかと疑っている」

「あー、また始まったよ……東京近郊では、間違いなく一番強い子だよ? 《絶氷城》の状況を考えたら、間違いなくウチより役に立つって」

「だが、本人はまだあまりにも幼く、実際に戦うのもそこのロボットだろう。人間ですらないものを、そう易々と信用出来ない」

“うーんこの取り付く島もない感じ”
“菜乃花さんの言ってたお堅いってこういうこと”
“まあ言ってることは実際その通りだが”

 菜乃花さんの呆れ声を、信護さんはバッサリと切り捨てる。

 それを受けて、今度はテュテレールが口を開く。

『アリスの戦闘能力が乏しく、前線に出るのが私であることは確かだ。その上で、あなたは私に何を望む? 氷室信護』

「話が早くて助かるな」

 踵を返し、信護さんが歩き出す。そして視線だけをこちらに向け、告げた。

「ついて来い。お前が信頼に足る存在かどうか、この俺自ら確かめさせて貰おう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

こうしてある日、村は滅んだ

東稔 雨紗霧
ファンタジー
地図の上からある村が一夜にして滅んだ。 これは如何にして村が滅ぶに至ったのかを語る話だ。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

ガチャから始まる錬金ライフ

あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。 手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。 他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。 どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。 自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...