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第20話 力試し
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“なんだかおかしな展開になってきたな”
“盛り上がって参りました”
信護さんに連れていかれたのは、協会の敷地内にある訓練場。探索者向けに解放されてるところなんだって。
そんな訓練場には既に百人くらいの探索者が集まっていて、視聴者のみんなと同様に何が始まるのかと期待している様子だ。
こんな風に、ぐるっと一周たくさんの目から見られてる状況って初めてだから、ちょっと落ち着かない。
「君には、この場で模擬戦をして貰う。あまり長々と時間を取っている暇はないから、制限時間は三分。相手になるのは……こいつらだ」
そう言って、信護さんは自らの騎士剣を地面に突き刺す。
その途端、剣先から冷気が溢れだし、地面が凍り付き──氷で出来た、人型の兵士が四人生えてきた。
「《氷結兵》。俺のスキル、《氷雪之帝》で生成した、命なき氷の騎士達だ。《絶氷城》に出現する敵と同系統、かつ下層クラスの力を持った相手になる。力試しにはちょうどいいだろう……お前の本気を見せてみろ」
『…………』
信護さんの言葉を受けて、テュテレールが前に出る。
そんな姿に茜お姉ちゃんがボソリと呟いた。
「あの人、今もダンジョンを封鎖し続けてるのよね? その上で、一級探索者並のモンスターを四体も召喚するとか、チートにも程があるでしょ。……アリスちゃん、言いたいことがあるならハッキリ言っちゃっていいんだからね?」
「え? 別にないですよ」
私が答えると、お姉ちゃんは驚いたみたいに目を真ん丸に見開いた。
だって、心配することなんて何もないから。
「テュテレールは、絶対に負けません。頑張れー、テュテレール~!」
笑顔で手を振り、ついでにぴょんぴょんと飛び跳ねて存在をアピールする。
そんな私に、テュテレールは軽く手を挙げて応えてくれた。
『では、始めよう。だが、その前に一つだけ、進言させて貰おう』
「なんだ?」
『制限時間は、三分も必要ない。──一分だ』
自信に満ち溢れたその発言に、周囲からは戸惑いの声が上がる。
ただ一人、信護さんを除いて。
「大した自信だな、いいだろう。──行け、我が騎士達よ!!」
小さく笑みを浮かべた信護さんの指示を受け、氷の騎士がそれぞれ散開する。
まずは大きな盾と槍を持った騎士が正面から突っ込み、その後ろから大剣を抱えた騎士が狙う形だ。
わあ、ちゃんと連携まで取れるんだね。細かく指示を出してるわけじゃなさそうだけど、どういう理屈なんだろう?
『戦闘開始──撃破する』
私が色々と考察している間に、テュテレールが動く。
正面の騎士を、構えた盾ごと上から殴り付けて破壊し、飛び掛かって来た騎士の大剣を片腕で受け止める。
そのあまりの力業に、周囲が少しどよめいた。
「大したパワーだな……ならば、遠距離からの攻撃はどうだ?」
信護さんがそう言うと、砕けた騎士の体が形を変えてテュテレールの足を拘束し、左右から氷の弓矢を構えた騎士が二人、挟み込むようにテュテレールを狙う。
放たれた矢に対処しようにも、正面には大剣を持った騎士が未だ健在で──それでも、テュテレールは慌てなかった。
大剣持ちの騎士の体を無造作に掴んだテュテレールは、それを力任せに振り回し、襲い来る矢を叩き落としたのだ。
“うっはw”
“相変わらず凄まじいな、テュテレール君”
“この氷の騎士だってかなり強いはずなんだが、テュテレール君相手だと全くそう見えないから不思議”
盛り上がるコメントを余所に、テュテレールは淡々と次の行動に移っている。
振り回した騎士を地面に叩き付けて撃破し、その衝撃で足の自由を取り戻したテュテレールは、両腕の掌を弓矢の騎士へとそれぞれ向けた。
『強度計算完了。──これで終わりだ』
掌から放たれた二本のビームが騎士達を捉え、その体を半壊させる。
ここまで、僅か四十秒足らず。圧倒的な実力に、集まった探索者の人達は唖然としていた。
ただ、私としてはちょっぴり違和感の残る戦闘だったんだよね。
……テュテレール、本気ならもっと強いはずなのに、手加減してた? なんで?
「なるほど。……今のが、君の全力か?」
『私は、これが最善の戦闘だと判断したまでだ。そうだろう、氷室信護』
「ふっ……そうだな、違いない」
それまでの険しい表情を一変させ、信護さんが笑みを浮かべた。
そして、テュテレールの前までやって来ると、手を差し伸べる。
「君の実力を疑って申し訳ない。遠路はるばるの救援、心より感謝する」
『構わない。この程度で信頼を得られるならば、安いものだ』
握手を交わし、信護さんに応えるテュテレール。
……なんだろう、私はちょっと引っ掛かりがあるのに、信護さんとはちゃんと通じ合ってる感じがする。
むぅ~……!
『……どうした、アリス』
「何でもない」
モヤモヤとした気持ちを解消すべく、私はテュテレールの下に走ってその体にしがみつく。
ぎゅっと、いつも以上に強く抱き着く私に、テュテレールも、信護さんも戸惑ったように顔を見合せ……代わりに、視聴者のみんなが次々とコメントを書き込み始めた。
“アリスちゃん、テュテレールが盗られると思って嫉妬してる?”
“あー、絶壁とテュテレール、なんか男の友情が芽生えた感あったもんな、さっきのやり取り”
“なるほど、そういうことねw”
“やきもちアリスちゃん可愛い”
「ち、違うから!!」
図星だって自覚があるから、恥ずかしくて一気に顔が熱くなるのを感じる。
そんな私を安心させるように、テュテレールがそっと撫でるように手を添えた。
『私は、アリスの家族だ。誰にも奪われたりなどしない』
「……うん、分かってる」
嬉しいけど、なんだか余計に恥ずかしくなってきた。
そんな私達の微妙な空気を切り替えるためか、信護さんが一つ咳払いをする。
「さあ、あまり時間に余裕があるわけじゃないんだ、早速会議を始めるぞ。全員、ついて来い」
信護さんの号令で、探索者全員が協会内の建物へと入っていく。
そんな中で、私は当然のようにテュテレールに抱っこして貰って移動するのだった。
“盛り上がって参りました”
信護さんに連れていかれたのは、協会の敷地内にある訓練場。探索者向けに解放されてるところなんだって。
そんな訓練場には既に百人くらいの探索者が集まっていて、視聴者のみんなと同様に何が始まるのかと期待している様子だ。
こんな風に、ぐるっと一周たくさんの目から見られてる状況って初めてだから、ちょっと落ち着かない。
「君には、この場で模擬戦をして貰う。あまり長々と時間を取っている暇はないから、制限時間は三分。相手になるのは……こいつらだ」
そう言って、信護さんは自らの騎士剣を地面に突き刺す。
その途端、剣先から冷気が溢れだし、地面が凍り付き──氷で出来た、人型の兵士が四人生えてきた。
「《氷結兵》。俺のスキル、《氷雪之帝》で生成した、命なき氷の騎士達だ。《絶氷城》に出現する敵と同系統、かつ下層クラスの力を持った相手になる。力試しにはちょうどいいだろう……お前の本気を見せてみろ」
『…………』
信護さんの言葉を受けて、テュテレールが前に出る。
そんな姿に茜お姉ちゃんがボソリと呟いた。
「あの人、今もダンジョンを封鎖し続けてるのよね? その上で、一級探索者並のモンスターを四体も召喚するとか、チートにも程があるでしょ。……アリスちゃん、言いたいことがあるならハッキリ言っちゃっていいんだからね?」
「え? 別にないですよ」
私が答えると、お姉ちゃんは驚いたみたいに目を真ん丸に見開いた。
だって、心配することなんて何もないから。
「テュテレールは、絶対に負けません。頑張れー、テュテレール~!」
笑顔で手を振り、ついでにぴょんぴょんと飛び跳ねて存在をアピールする。
そんな私に、テュテレールは軽く手を挙げて応えてくれた。
『では、始めよう。だが、その前に一つだけ、進言させて貰おう』
「なんだ?」
『制限時間は、三分も必要ない。──一分だ』
自信に満ち溢れたその発言に、周囲からは戸惑いの声が上がる。
ただ一人、信護さんを除いて。
「大した自信だな、いいだろう。──行け、我が騎士達よ!!」
小さく笑みを浮かべた信護さんの指示を受け、氷の騎士がそれぞれ散開する。
まずは大きな盾と槍を持った騎士が正面から突っ込み、その後ろから大剣を抱えた騎士が狙う形だ。
わあ、ちゃんと連携まで取れるんだね。細かく指示を出してるわけじゃなさそうだけど、どういう理屈なんだろう?
『戦闘開始──撃破する』
私が色々と考察している間に、テュテレールが動く。
正面の騎士を、構えた盾ごと上から殴り付けて破壊し、飛び掛かって来た騎士の大剣を片腕で受け止める。
そのあまりの力業に、周囲が少しどよめいた。
「大したパワーだな……ならば、遠距離からの攻撃はどうだ?」
信護さんがそう言うと、砕けた騎士の体が形を変えてテュテレールの足を拘束し、左右から氷の弓矢を構えた騎士が二人、挟み込むようにテュテレールを狙う。
放たれた矢に対処しようにも、正面には大剣を持った騎士が未だ健在で──それでも、テュテレールは慌てなかった。
大剣持ちの騎士の体を無造作に掴んだテュテレールは、それを力任せに振り回し、襲い来る矢を叩き落としたのだ。
“うっはw”
“相変わらず凄まじいな、テュテレール君”
“この氷の騎士だってかなり強いはずなんだが、テュテレール君相手だと全くそう見えないから不思議”
盛り上がるコメントを余所に、テュテレールは淡々と次の行動に移っている。
振り回した騎士を地面に叩き付けて撃破し、その衝撃で足の自由を取り戻したテュテレールは、両腕の掌を弓矢の騎士へとそれぞれ向けた。
『強度計算完了。──これで終わりだ』
掌から放たれた二本のビームが騎士達を捉え、その体を半壊させる。
ここまで、僅か四十秒足らず。圧倒的な実力に、集まった探索者の人達は唖然としていた。
ただ、私としてはちょっぴり違和感の残る戦闘だったんだよね。
……テュテレール、本気ならもっと強いはずなのに、手加減してた? なんで?
「なるほど。……今のが、君の全力か?」
『私は、これが最善の戦闘だと判断したまでだ。そうだろう、氷室信護』
「ふっ……そうだな、違いない」
それまでの険しい表情を一変させ、信護さんが笑みを浮かべた。
そして、テュテレールの前までやって来ると、手を差し伸べる。
「君の実力を疑って申し訳ない。遠路はるばるの救援、心より感謝する」
『構わない。この程度で信頼を得られるならば、安いものだ』
握手を交わし、信護さんに応えるテュテレール。
……なんだろう、私はちょっと引っ掛かりがあるのに、信護さんとはちゃんと通じ合ってる感じがする。
むぅ~……!
『……どうした、アリス』
「何でもない」
モヤモヤとした気持ちを解消すべく、私はテュテレールの下に走ってその体にしがみつく。
ぎゅっと、いつも以上に強く抱き着く私に、テュテレールも、信護さんも戸惑ったように顔を見合せ……代わりに、視聴者のみんなが次々とコメントを書き込み始めた。
“アリスちゃん、テュテレールが盗られると思って嫉妬してる?”
“あー、絶壁とテュテレール、なんか男の友情が芽生えた感あったもんな、さっきのやり取り”
“なるほど、そういうことねw”
“やきもちアリスちゃん可愛い”
「ち、違うから!!」
図星だって自覚があるから、恥ずかしくて一気に顔が熱くなるのを感じる。
そんな私を安心させるように、テュテレールがそっと撫でるように手を添えた。
『私は、アリスの家族だ。誰にも奪われたりなどしない』
「……うん、分かってる」
嬉しいけど、なんだか余計に恥ずかしくなってきた。
そんな私達の微妙な空気を切り替えるためか、信護さんが一つ咳払いをする。
「さあ、あまり時間に余裕があるわけじゃないんだ、早速会議を始めるぞ。全員、ついて来い」
信護さんの号令で、探索者全員が協会内の建物へと入っていく。
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