だから俺には春が来ない。

入巣 八雲

文字の大きさ
10 / 16

10 さらに免故地 愛梨は世話を焼く。

しおりを挟む

「うわー、やっぱりか...。」

 俺の部屋を見て愛梨は呆れたようにそう呟く。

「休みの日ぐらい掃除しなさいよ!」

「だからお前はオカンかよ...。」

 でも確かにこの部屋に越してきて適当に家具や荷物を配置はしたが、まともに掃除したことはない。

 俺の部屋は目立つゴミこそ落ちてたりはしないものの、衣服や本などが所々に散乱した状態だった。

「ったくほんとだらしないんだから...。」

 そんな惨状を見かねた愛梨は腕を捲り上げると床に脱ぎ捨てられた服を拾い始め、もう完全にオカンスイッチが入っているのだった。

「別にいいだろ、ほっといてくれよ...。」

「いいからあんたも片付ける!」

 問答無用であった...。
 愛梨は肌着や下着などはどんどん洗濯機へ投げ入れる。
 上着なんかは畳んで俺に渡して収納させた。

 それにしても脱ぎ捨ててある男のパンツを恥じらいもなく片付ける女の子ってどうなの?
 そこまでいくといよいよもう母親とか嫁さんの領域だよ?普通...。
 俺は現状を心の中で冷静に客観視してみた。

「ねぇ、...ってなに?」

 愛梨は俺に振り向くと不信な目をした。
 気づけば俺は突っ立ったまま愛梨の方を眺めてしまっていたのだ。

「いや......なんだ?」

「これ捨てちゃっていいよね?」

「あぁ。」

 どうやらテーブルに置かれていたチラシの処遇を尋ねたかっただけらしい。 
 俺はそれに頷くと再び考える。

 いくら幼馴染とはいえ、好意も抱いてない男にここまで世話を焼いてくれる年頃の女の子は二次元にも三次元にも居はしない。
 俺もラブコメ主人公ほど鈍感な男ではない、こいつが俺をどう意識しているかはおおよその察しくらいつく。
 おそらくこいつは未だにーーー

「うーん...。」

「どうした?」

 ふと愛梨を見ると何か真剣な表情をして顎に手を当てていた。

「エロ本が、ない...。」

 こいつ...。
 部屋を片付けながらエロ本がないか探ってやがったのか...。

「ふっ、残念だったな。そんなものは置いていない!」

「えー、だって実家にいた時は普通に持ってたじゃん。」

 なんでこいつ知ってんだよ...。
 母さんにも見つかってない自信があったのに。
 いや、きっと憶測で言ってるだけで隠してある場所も知らないはずだ。

「デタラメだ。カマをかけても無駄だぞ。」

「ふーん、今になってもシラを切るんだ?」

 大丈夫、こいつがいくら幼馴染といえどあそこまで完璧に隠してあったんだ...。見つけられてはいなかったはず...。

「あんたの部屋にあったクローゼット、天井の一部分がダミーの板にすり替わってたよね? おばさんに言っちゃおっかなー?」

「なっ!?」

 ここに思わぬ名探偵がいた...。
 まじかよ、完璧にカモフラージュしてあったのに...。

「私が知らないと思った?」

 愛梨は不敵な笑みを浮かべている。
 いやそれより母さんにチクられるのはまずい!
未だにあそこには俺の5年間は貯めてきたコレクションが置かれている。
 天井をすり替えた件もあるし母さんに知られるわけにはいかない...。

「それは勘弁してください...。」

「なんか動いたら甘いもの食べたくなってきたなー。あ、そういえば羽衣音はいねが駅前にパンケーキが有名な店があるって言ってたなー。」

 女というのはこうもみんなあざといのか...。

「......わかったよ、それで手を打ってくれ。」

「いいの? 仕方ない、今後もおばさんには黙っといてやるか。いい幼馴染を持ったねー!」

 こんなことで抜け目なく交渉を持ちかけてくる奴はいい幼馴染とは言わない。

「にしてもこの部屋からは見つからないんだよなー...。」

 そりゃそうだ、ここにはまじで置いてないからな。

「だから置いてないって! あらゆるものがデジタル化されてるんだ、いまどきそんなもの持ってる方が珍しい...。」

 とは言っても本でしか感じ得ない興奮というものもあるんだよなぁ...。

「ふーん、スマホやパソコンでは見ていると...。」

 俺ってけっこう墓穴を掘っちゃうんだよなー...。

「どうだろうな...。」

 俺は愛梨から何食わぬ顔で目をそらした。

「ま、それもそうか。男ってそういうものだし。」

 わかってるならどうか放っといて下さい...。

「なら...で......いのよ...。」

「え?」

 小声で何か言ったようだが全く聞き取れなかった。

「ううん、なんでもない。」

 そうは言っても愛梨の表情はどこか寂しさを帯びている。
 だが俺は再び聞きなおそうとはしなかった...。

 ピーンポーン。

 俺が愛梨の微妙な怪態さを疑問に思っているとインターホンが鳴った。
 誰だ? 愛梨と武彦ぐらいしか家を知られていないはずだが...。 宗教か?
 俺は不信感を持ちつつ恐る恐る玄関のドアを開けた。

「ヨッスー!しづ兄ひっさしぶりー!」

「なっ! 琴葉!?」

 何故かそこには実家で暮らしているはずの我が妹が立っていた...。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

9時から5時まで悪役令嬢

西野和歌
恋愛
「お前は動くとロクな事をしない、だからお前は悪役令嬢なのだ」 婚約者である第二王子リカルド殿下にそう言われた私は決意した。 ならば私は願い通りに動くのをやめよう。 学園に登校した朝九時から下校の夕方五時まで 昼休憩の一時間を除いて私は椅子から動く事を一切禁止した。 さあ望むとおりにして差し上げました。あとは王子の自由です。 どうぞ自らがヒロインだと名乗る彼女たちと仲良くして下さい。 卒業パーティーもご自身でおっしゃった通りに、彼女たちから選ぶといいですよ? なのにどうして私を部屋から出そうとするんですか? 嫌です、私は初めて自分のためだけの自由の時間を手に入れたんです。 今まで通り、全てあなたの願い通りなのに何が不満なのか私は知りません。 冷めた伯爵令嬢と逆襲された王子の話。 ☆別サイトにも掲載しています。 ※感想より続編リクエストがありましたので、突貫工事並みですが、留学編を追加しました。 これにて完結です。沢山の皆さまに感謝致します。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...