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10 さらに免故地 愛梨は世話を焼く。
しおりを挟む「うわー、やっぱりか...。」
俺の部屋を見て愛梨は呆れたようにそう呟く。
「休みの日ぐらい掃除しなさいよ!」
「だからお前はオカンかよ...。」
でも確かにこの部屋に越してきて適当に家具や荷物を配置はしたが、まともに掃除したことはない。
俺の部屋は目立つゴミこそ落ちてたりはしないものの、衣服や本などが所々に散乱した状態だった。
「ったくほんとだらしないんだから...。」
そんな惨状を見かねた愛梨は腕を捲り上げると床に脱ぎ捨てられた服を拾い始め、もう完全にオカンスイッチが入っているのだった。
「別にいいだろ、ほっといてくれよ...。」
「いいからあんたも片付ける!」
問答無用であった...。
愛梨は肌着や下着などはどんどん洗濯機へ投げ入れる。
上着なんかは畳んで俺に渡して収納させた。
それにしても脱ぎ捨ててある男のパンツを恥じらいもなく片付ける女の子ってどうなの?
そこまでいくといよいよもう母親とか嫁さんの領域だよ?普通...。
俺は現状を心の中で冷静に客観視してみた。
「ねぇ、...ってなに?」
愛梨は俺に振り向くと不信な目をした。
気づけば俺は突っ立ったまま愛梨の方を眺めてしまっていたのだ。
「いや......なんだ?」
「これ捨てちゃっていいよね?」
「あぁ。」
どうやらテーブルに置かれていたチラシの処遇を尋ねたかっただけらしい。
俺はそれに頷くと再び考える。
いくら幼馴染とはいえ、好意も抱いてない男にここまで世話を焼いてくれる年頃の女の子は二次元にも三次元にも居はしない。
俺もラブコメ主人公ほど鈍感な男ではない、こいつが俺をどう意識しているかはおおよその察しくらいつく。
おそらくこいつは未だにーーー
「うーん...。」
「どうした?」
ふと愛梨を見ると何か真剣な表情をして顎に手を当てていた。
「エロ本が、ない...。」
こいつ...。
部屋を片付けながらエロ本がないか探ってやがったのか...。
「ふっ、残念だったな。そんなものは置いていない!」
「えー、だって実家にいた時は普通に持ってたじゃん。」
なんでこいつ知ってんだよ...。
母さんにも見つかってない自信があったのに。
いや、きっと憶測で言ってるだけで隠してある場所も知らないはずだ。
「デタラメだ。カマをかけても無駄だぞ。」
「ふーん、今になってもシラを切るんだ?」
大丈夫、こいつがいくら幼馴染といえどあそこまで完璧に隠してあったんだ...。見つけられてはいなかったはず...。
「あんたの部屋にあったクローゼット、天井の一部分がダミーの板にすり替わってたよね? おばさんに言っちゃおっかなー?」
「なっ!?」
ここに思わぬ名探偵がいた...。
まじかよ、完璧にカモフラージュしてあったのに...。
「私が知らないと思った?」
愛梨は不敵な笑みを浮かべている。
いやそれより母さんにチクられるのはまずい!
未だにあそこには俺の5年間は貯めてきたコレクションが置かれている。
天井をすり替えた件もあるし母さんに知られるわけにはいかない...。
「それは勘弁してください...。」
「なんか動いたら甘いもの食べたくなってきたなー。あ、そういえば羽衣音が駅前にパンケーキが有名な店があるって言ってたなー。」
女というのはこうもみんなあざといのか...。
「......わかったよ、それで手を打ってくれ。」
「いいの? 仕方ない、今後もおばさんには黙っといてやるか。いい幼馴染を持ったねー!」
こんなことで抜け目なく交渉を持ちかけてくる奴はいい幼馴染とは言わない。
「にしてもこの部屋からは見つからないんだよなー...。」
そりゃそうだ、ここにはまじで置いてないからな。
「だから置いてないって! あらゆるものがデジタル化されてるんだ、いまどきそんなもの持ってる方が珍しい...。」
とは言っても本でしか感じ得ない興奮というものもあるんだよなぁ...。
「ふーん、スマホやパソコンでは見ていると...。」
俺ってけっこう墓穴を掘っちゃうんだよなー...。
「どうだろうな...。」
俺は愛梨から何食わぬ顔で目をそらした。
「ま、それもそうか。男ってそういうものだし。」
わかってるならどうか放っといて下さい...。
「なら...で......いのよ...。」
「え?」
小声で何か言ったようだが全く聞き取れなかった。
「ううん、なんでもない。」
そうは言っても愛梨の表情はどこか寂しさを帯びている。
だが俺は再び聞きなおそうとはしなかった...。
ピーンポーン。
俺が愛梨の微妙な怪態さを疑問に思っているとインターホンが鳴った。
誰だ? 愛梨と武彦ぐらいしか家を知られていないはずだが...。 宗教か?
俺は不信感を持ちつつ恐る恐る玄関のドアを開けた。
「ヨッスー!しづ兄ひっさしぶりー!」
「なっ! 琴葉!?」
何故かそこには実家で暮らしているはずの我が妹が立っていた...。
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