ああ、スライム。君はなんておいしいんだ!

空兎

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スライム、旅立ち。

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オークキングの討伐は無事成功した。

仕留めたのはキングが1体とジェネラルが3体にソルジャーとただのオークが多数という大戦果だった。

1度にすべては運べないから街から応援を呼んでくるという。これでこの街は暫く食料に困らない。豚肉が食べ放題です。

さて、それでギルドに戻ってからの功労賞についてなのだが、なんと驚くことに俺が今回のクエストの最大の功労者に選ばれてしまった。どうやらオークキングを倒したことが評価されたらしい。

全力で辞退して俺が選ばれるならミツバも、といったのに

『人の手柄を取るようなみみっちいことはしない主義なのです。それより上級ポーションとコンペイトゥの代金で1000s払っておかないといけないのです』

と金貨を押し付けられてしまった。

いや、この金貨いらないから一緒に壇上に上がってよミツバ。身の丈に合わない評価を貰っても嬉しいどころか恐ろしいです。

「エアトさんが降らせた光の剣がオークキングを斬り裂き絶命させたとのことです。よって、オークキングの討伐功績についてはエアトさんに付与されます」

しぶしぶながら前に立つとショートヘア眼鏡ことエイプルさんが俺のギルドランクをCにすることと報奨金30000sを贈呈することを発表し白金貨を渡された。

瞬間、歓声が上がる。それはオークキングの討伐を賞賛する声や俺のことについて言い合う声だった。

『エアトじゃねえか!あいつがオークキングを倒したのか?!』
『効果の高いポーションを作るからただ者じゃないとは思っていたがオークキングを倒すほど強かったのか!』
『確かポーション売っていた奴だよな?オークキングを倒す冒険者が作るポーションってなんか縁起が良さそうだ。よし、あとで買いに行くか!』

周りが騒めくがそれより俺は手の中の白い金貨の重みに呆然とすることに忙しい。

30000s、もはや桁が大き過ぎて何がなにやらわかりません。混乱する俺にエイプルさんが申し訳なさそうに耳打ちしてくる。

「オークキングを倒したエアトさんは本来ならランクAにすべきなのですが、ギルドの規則で一気にあげることのできるランクは3つまでと決まってまして、なんとか特例でCまではねじ込めたのですがこれ以上となると……。ご不満かもしれませんが、ご理解いただきますよう、お願いします」

なんかとんでもないことを言われてしまった。俺のギルドランクがめっちゃ上がるらしい。

いえいえ、Cランクでなんの不満もありませんよ?むしろCランクの実力なんて全然ないのでFのままでよかったくらいです。

オークキングを倒した輝刃の流星群エルデ・サンダ・キル・ライデントは俺のスキルではないしトドメを刺したのはスラりんだ。

うん、俺全然活躍してないよ。本気で申し訳ないから功労賞辞退させてもらえないかな。

功労賞で盛り上がる中こっそり、そうエイプルさんに相談したのだけどエイプルさんは、

「エアトさん、戦闘で貢献した人にしっかりとした報酬が支払われることは大切なことです。ギルドの歴史に“オークキングを倒した者に報酬が支払われなかった”なんていう歴史を残すわけにはいけません。貴方がオークキングを倒したことは何人もの証言から間違いありません。ちゃんと報酬は受け取ってください」

と言われてしまった。ぐうの音も出ない。エイプルさんのいう通りなので有り難く報酬を受け取った。

スライムを買うためにもお金はあった方がいいとは思っていたけれどいくらなんでも金額が違いすぎて持つ手が震えます。

こんな大金何に使えばいいのだろう。家でも買う?あ、スライムで出来た家なら欲しいな。スライムハウス、何処かに売ってませんかね?

そんなわけで功労賞は終わったのだがそこから俺の生活は一変した。オークキングを倒した英雄として一目注目されるようになってしまって街を歩いていたら子どもたちに

『あ、オークキングを倒したエアトだ!すげぇ!なぁ、オークキングを倒した光の剣を見せてくれよ!』

と言われたり、お店を出すと

『ここがオークキングを倒したエアトの店か?ポーションを10個くれ!』
『ここはあの赤竜の焔御用達の店って言うじゃないか。エアト、こっちはポーション20個くれ!』

と言った感じであっという間に売れてしまった。開店5分で作った80個のポーションが売り切れである。バーゲンセールに群がる奥さま方のような圧を感じる。

いや、もちろん売れることはいいことなんだけどなんというかちょっとこれはやり過ぎである。俺は日々のスライムを買えるくらいの収入があれば充分なのだ。

今の生活は身の丈に合っていない。俺は英雄だと騒ぎ立てられるよりスライムを食べもっと静かに暮らしたいのだ。

「というわけでミツバ、俺この街でるよ」
「そんな大事な話を軽く振るのやめてほしいのです。全くもって心の準備が出来てないんですが、どうしてくれるのです?」

今の生活環境が合ってないから街を出て行くというとミツバが額に皺を刻みながらそう答えた。

俺の結論はこの一言に集約しているのだけれどもミツバが俺の話を聞いてくれるのならば話すのもやぶさかではない。俺の愚痴を聞いて下さいよ。

「今この街、なんか俺がオークキングを倒したみたいな空気になっているじゃん」
「事実なのですよ」
「でも俺は実際強くないんですよ!オークキング倒せたのは素敵で無敵なアイテムがあったからなんだけど、もうそのアイテムもないし、それなのに『あいつは凄いぜ』みたい視線向けられるといたたまれなさ過ぎて心臓が縮み上がるんです。つらい!ということで俺はお引越しします!」

言いたいことを全てぶちまけるとミツバはジッと俺の目を見つめ、そしてハァとため息をついた。

「エアト、貴方は凄い人なのです。何故そんなに頑なになっているのかわからないのです。オークキングを倒したことも色々な珍しい道具を持っていることも全部引っくるめて貴方の力なのですよ。もっと自信持っていいと思うのです」

ミツバがそういう。俺が凄い?でも俺は魔法で山ひとつ吹っ飛ばしたり剣技で海を割ったりスキルでモンスター最強の王、魔王を倒したりすることはできない。

うん、俺は全然凄くないよ。俺が出来ることは精々、スキル“錬金術”で色々なアイテムを作るくらいだ。

「そういってくれるのは嬉しいけどやっばり俺は凄くないよ?」
「エアトは本当に強情なのです。わかりました。この街を出て行くのですね?」
「うん、ミツバ。ごめんね」
「別にエアトの人生だから好きにすればいいのです。……ただ、少し寂しくなるかもしれないのです」

ミツバがふぅ、と息を吐く。その姿にギュッと胸が締め付けられた。この街を出たらもう気軽にミツバに会えなくなる。広い世界だ、ひょっとしたらこれが今世の別れになることもあるかもしれない。

それでも俺はこの街を出ないといけない。英雄だともてはやされるのが落ち着かないからだけではない。もっと重要でどうしようもない理由が俺にはあった。

オークキングは倒した。それでもこの街は手遅れだったらしい。

この街のスライムがすべて売れ切れてしまったのだ。

オークたちは討伐までの間にすべてのスライムを刈り尽くしてしまったようだ。よって街からスライムが消え果て今は遠くの街からスライムを買い付けに走らせているとのこと。

街の人たちはスライムは買えないのは残念だなくらいの反応だけれども俺には死活問題だ。

スライムがぁ!スライムが食べれない人生になんの価値があるッ!もうこんなところにいられるか!俺は街を出て行くぞ!

はい、そんなわけでこの街の周辺からはごっそりスライムが消え果てているのでもう住んでられません。

コメット袋に溜め込んでいたスライムとスラりんが作ってくれるちびスラで食いつないでいるけどそれもいつまで持つか。

しかもレベルが上がったからかスラりんの作るちびスラがより熟成されているんだよね。つまりえぐみが上がった。……スラりんのちびスラはもうポーション用にしておくべきかもしれない。

「ごめんね、ミツバ。でも俺、スライムが食べられない街で生きていられない」
「それが本音なのですね。確かにエアトがスライム食べずに生きていける気がしないですし、仕方ないのです。いつ出て行くのですか?」
「今から」
「……もうちょっと早く相談して欲しいのです。なんの用意もできてないのですよ」
「ごめん、ミツバ。でもスライムがいない街から1分1秒早くしゅっぱつしたくて、」
「……まったく、エアトは本当に仕方ないスライムばかなのです」
「うん、ごめん」
「身体には気をつけるのです。変な人についていってもダメなのですよ?エアトは少し変なところが抜けているところがあるのですから」
「うん。ミツバ、お別れにこれをもらって欲しい。離れていても友達だから、それがわかるように」

コメット袋からスライムの形をした赤いクリスタルがついたブレスレットを取り出す。昨日ミツバに渡そうと思って錬金術で作ったのだ。別にスライムの形にしようとは思ってなかったのに気付いたらスライムの形になっていた。まあそこはご愛嬌だろう。

「スライムの形って、エアトらしいのです」
「なんか気付いたらそんな形になっちゃってた。もらってくれる?」
「見る度にエアトを思い出しそうなのです。もらいますよ。でもこんなものなくても私とエアトは友達なのですよ」

ミツバは赤いスライムのついたブレスレットをつけてくれた。俺とミツバが友達だという形ある記念が欲しかったのだがそんなのなくても友達だとミツバがいってくれる。それが嬉しい。俺はこの街から出て行くけどミツバとは一生友達だ。

「バイバイ、ミツバ。また会おうね」
「うん、エアト。また会うのです」

ミツバに別れを告げる。肩にスラりんを乗っけて俺は旅立つ。

山間にある街、ラスク・ハーゲンではミツバという友達とスラりんという仲間ができた。俺の冒険はまだまだ続く。

うん、だってまだ世界中のスライムを食べ尽くしてないからね!俺は行くよ!スライムを食べるために!


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