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スライム、レッドスライムみっけ!
しおりを挟む街に着いたばかりだけれどもそのままUターンして街の外へ出る。本来なら宿を取ったりギルドでクエスト受けといたりした方が良いのだけれどそんな暇はありません。今も外でレッドスライムが狩られていると思うと1分1秒が惜しいです。俺のおいしいスライムライフを完成させる為にも全力を尽くしますよ!
あ、でもおっちゃんの店のスライムの買い占めはしておきました。絶滅しかかっているスライムを手に入れる貴重な機会なのだから当然逃すつもりはない。
『……高いぞ』というおっちゃんに『問題ない、金ならある!』といって金貨を数枚机の上に載せる。こちとらスライム菓子に1000s払った男ですからね。スライムを手に入れる為に金は惜しみません。
おっちゃんは金貨を見るとギョッとした顔で俺と金貨に視線を往復させる。金貨は1枚でひとつの家庭が1ヶ月暮らしていけるほどの大金だ。おっちゃんにとって想像以上の金額だったのだろう、暫く呆けた顔をしていたがやがて金貨の入った袋をしまうと屋台の上いっぱいにレッドスライムを乗っけてくれた。
『よし、持っていけ!』と晴れやかな顔でいうおっちゃんに遠慮なくレッドスライムをカバンの中に入れていく。コメット袋をおおっぴらに使わずに済むように大きめのカバンを持ち歩くようにしたのだ。コメット袋に入れていた方が長持ちするので後で入れ替えておこう。
街を出て辺りを見渡す。ファイア・ウォールは荒野に囲まれた土地で遠くには火山っぽい山も見える。さて、レッドスライムはどこにいるのかな?
「リン、レッドスライムってどこにいると思う?」
「スライムが水を好むのと同じようにレッドスライムは恐らく炎を好むでしょう。火山に向かって進んでいくのが最も遭遇する確率が高くなると思われます」
「おっけー。じゃあ火山に向かって進もうか」
リンの意見を聞いて火山に向かう。一応道中もレッドスライムがいないか目を見開いて探してまくったが全く見つからない。おっちゃんが仕入れが出来ないっていうくらいだし街の周りにはもういないんだろうな。実に悲しいです。
火山に向かって歩いていると色々なモンスターも目にした。角の立派な鹿のようなモンスターに赤い毛皮の狼、空には『キシャー!キシャー!』と鳴く嘴が細長い鳥が飛んでいた。
で、それら全てが俺たちに向かって襲いかかってきた。目が合っただけなのに全力でこちらに突撃してくるのはいくらなんでも好戦的過ぎませんか?街のチンピラだってここまで手は早くないわ。
どうやらファイア・ウォールの街の周りのモンスターは皆喧嘩っ早いらしい。まあ手が早いのはこちらにもいるんだけど。
殺戮系天使ことリンさんが突進してくる鹿の鋭い角をスライムを絡めて無力化し、にじり寄る狼たちの足元にスライムを巻き足を封じ、最後に空から襲いかかってくる細長い嘴の鳥を網状に広げたスライムで見事捕獲していた。うわぁ、リンさんつよぃ。ハイ・スライムになってからのリンさんの活躍が凄すぎて俺の存在が霞みます。
「終わりましたエアト様」
「ありがとう。いやもうなんかリンさんが凄くて俺の出番全くなかったわ。オーク王倒してからリンさん本当に強くなったね」
「そんなことはありません。エアト様に比べれば私の実力など地を這うゴミ虫とさして変わりません。この場もエアト様が前に出られていれば彼らは一瞬にして空気中を漂う塵芥となっていたことでしょう。そのように気を使ってご謙遜なさる必要はありませんよ」
「俺はそんな危険生物ではありません。リンの視界が異次元に繋がっていると疑うレベルで現実との違いに差があるけど、本当に俺はそんな凄い人間ではないよ?何処にでもいる平凡な錬金術師です」
ガチトーンでそう言ってくるリンさんに俺も真顔で返す。リンさんの中で俺が超高性能塵製造マシーンと化しているようだが全くそういう事実はないです。
なんでこんなに俺のこと強いと思っているんだろうね?確かにレベルはそれなりにあるけどそれだけでこの反応はおかしいと思います。
もしかしてテイムのスキルに主人に対する意識補正みたいな物が含まれているのだろうか?テイム全然外れスキルじゃないじゃん。むしろ壊れ性能で恐ろしいわ。
そんなわけで道行く度に出くわすモンスター達はリンさんが全部倒してくれるんだけど肝心のレッドスライムが見つからない。もう結構な時間歩いているけれど影も形もありません。
まさかこの辺りのスライムは絶滅してしまっているのだろうか?なんてこった!カリカリもちもちのレッドスライムが食べれなくなるなんて人類にとって重要な損失です!うわあああん!レッドスライム生きていてぇー!!!
絶望的な思考が頭を巡ったその時だった。進路の先に砂埃が舞っているのが見えた。遠くて見えにくいが何やらモンスター同士が争っているらしい。
この地域のモンスターって本当好戦的だよね。モンスター同士の戦いに巻き込まれたくないし迂回しようかな。
だがそう思った足が止まる。砂埃が収まった。モンスター同士の争いが終わって勝者が決まったようだ。
戦っていたのは一方が小角猪だ。毛皮が赤いから小角猪の亜種かもしれない。
そしてもう一方は身体全体を大きく広げ小角猪を飲み込もうとする赤いゼリー……レッドスライムだ。
小角猪はレッドスライムの中で暴れていたがやがて動かなくなった。どうやら窒息したようだ。レッドスライムが小角猪を全身で覆い消化にかかる。
普通のスライムの戦闘シーンて初めてみたわ。いや、リンの戦っている姿は見たことあったんだけどリンさんは普通じゃないし最弱種族と言われるスライムが戦うのって凄く珍しいんだよね。単体で小角猪を倒すスライム?めっちゃレアだ。どんな味がするんだろう。
何時間も名指し求めていたレッドスライムだ。勿論逃がすつもりはない。
「リン、捕まえるよ」
「畏まりましたご主人様」
リンに目配せしてレッドスライムに向かって2人で走り出す。レッドスライムは今小角猪を消化しているところだ。しばらくは身動き取れなはず!と思った瞬間レッドスライムの中から小角猪が消える。
はい?なんで小角猪消えたの?これって手品?選ばれたスライムのみが使える手品?いや、そんなわけがないからおそらく消化したのだろう。一瞬にして小角猪を溶かす消化液って、……スライムやばくない?
目の前の出来事に驚いているとさらにレッドスライムは予想外の行動を取った。気付かれれば逃げてしまうだろうと思ったレッドスライムが俺に向かって飛びかかってきたのだ。
赤いゼリーが目の前で跳ねる。だけれどもこれはチャンスだ。飛びかかってきたレッドスライムを捕まえられればそのままテイムすることができるだろう。
両手を広げ『よっしゃー!バッチコイ!』と構えた瞬間、レッドスライムが燃え出した。
唐突に火の玉へと変わったレッドスライムにファ!?と驚きつつもなんとか回避する。避けた時に少し服の裾が焦げた。
え、ちょ、なんで急に燃え出したんだし。小角猪の時はそんな技出してなかったよね?俺が戦う時になって急に新しい技使うのはずるいと思います!
だけど俺が避けただけではレッドスライムは止まらない。地面に到達すると反動を利用し再び俺に向かって飛びかかってきた。
うわぁ、跳ねる燃える玉だぁ。当たったら絶対熱いではすまないよね?うわっ、回避回避っ!さっき避けたところだからこの体勢から避けるの結構つらいぞ?!
だがレッドスライムが俺に届くことはなかった。横から伸びた手が燃える赤い玉を捕まえた。
「ご主人様、お望みの通りレッドスライムを確保致しました。後はご主人様の望むままに煮るなり焼くなりして頂いて大丈夫です」
「え、リンさん、それ燃えているけど大丈夫なの?」
レッドスライムを捕獲したのはリンだった。だけれどもレッドスライムはまだリンの腕の中でメラメラと燃えている。
どうみても抱えられるものではないはずなのにリンは平然とした顔でいる。
「私は体内の水分量が多いのでこの程度の炎は問題ありません」
「普通は体内の水分量でどうにかなる問題ではないと思いますよ?でもありがとう。早速テイムするね」
手を翳して『テイム』と唱える。ピリッとした抵抗を感じたけどすぐそれは俺の中に馴染んだ。どうやら無事成功したらしい。
絶滅危惧種であるレッドスライムの捕獲ができましたよ!これでレッドスライムが食べ放題になったわけか。リンは美味しくは食べれなかったけどレッドスライムは好きなだけ食べられるぞ。
これからのスライムライフに胸が高鳴るのが感じた。
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