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ガーナ草原
しおりを挟むガーナの草原に出ると白くてまん丸な耳の長い生き物が飛び跳ねていた。多分あれが丸兎だろう。耳が長いから兎だとわかったけどあれだけ丸いともはや兎という気はしないな。風船みたいです。
それを何人かの冒険者が狩っている。俺と同い年くらいか年下っぽい人が多いしおそらくここは初心者用の狩場なのだろう。あと人じゃない人も多い。獣人もふもふ。
「ん。ひなたどうする?」
「取り敢えず周りの様子見ておきたいかな」
「わかった」
ギルドでトラストを受けたのは冒険をしたかったからも勿論なんだけど他の人達の戦いを見ておきたかったっていうのがある。【童貞の妄想】で好きな人に変身できるからね、なんか凄そうな人がいないか見ておきましょう。
というわけで周り様子を見る。人間だと槍を使っている人が多くて獣人だと自分の爪と牙を使っている人が多いな。俺は槍より剣が好きです。だって勇者っぽい。
こう見るとあの丸っこいウサギに皆意外と苦戦している。別に強いわけではないのだけどボンボン跳ねて飛び回っているから攻撃を当てにくいのだ。しかも割と速い。もはや風船というよりはスーパーボールという方が合っている気がする。
あー、だから槍使う人が多いのかな?斬るより刺す方が倒せそう。なんにせよ丸兎は意外と手強いようだ。
「よっしゃ、大量だぜ!これだけあれば大銅貨3枚くらいにはなるよな?」
「貢献も3つくらい溜まるさ!さあ街まで運ぼうぜ」
「ああ、頼むな、ヤース」
「おう、任せてくれ」
その中でも4人組の少年達が荷車いっぱいに丸兎を載せているのが見えた。おおっ、すごっ、あんなに小さい頃から狩りが上手だなんて将来有望な人達ですね。でもあの荷車あの子達よりも積み上がっているんだけどあんなの運べるの?
その心配は杞憂だった。4人組のうちヤースと呼ばれた子が何やら叫ぶと突然上半身がムキッと膨れ上がった。
顔はそのままなのに上だけマッチョな身体つきなったヤースに唖然としといると彼らは荷車を引いて行ってしまった。全然問題なさそうである。
いやぁ、ビビったけどあれもスキルだよね?上半身だけムキムキになるとは凄いスキルだな。いや、スキルの奇抜さでいえば俺も負けないんだけど。なんだよ童貞しか使えないスキルって。嫌味か。
なんにしても新しいスキルを見ることができたわけだしせっかくだから変身してみよう。将来力技でなんとかしないといけないことがあるかもしれないしできることは増やしておいて損がない。
「よし、【童貞の妄想】!」
いつものように上半身ムキムキの少年をイメージしてスキルを使う。
だけれども何にも変化がない。背も変わらないし髪の長さも変わらないし服装も変わらない。あれ?これスキル発動してないよね?なんで?
ふと【童貞の妄想】の説明を思い出す。確か説明書きには俺の憧憬したものに姿を変えることができるの書いてあった。
憧憬ってことはあこがれ?俺が憧れてた物に変身できる能力なのか。あー、だったら無理かも。あの上半身筋肉ムキムキになりたいかって言われたら微妙だし。身体はムキムキ顔はそのままってちょいっとバランス悪くて微妙です。
手当たり次第スキルを使えるようにしとこーと思ったけどちょいっと難しそうだ。まあ今変身できる2人がむっちゃ優秀だし取り敢えずいいか。
「様子見はもう大丈夫かな。俺達も丸兎狩ろうかどろ子」
「ん、わかった。どろ子たおす」
どろ子はそのままタタタッと駆け出すと近くにいた丸兎を鎌で真っ二つにした。あんなポンポン跳ねるうさぎを斬れるなんてさすがどろ子。俺も負けていられんぞ。
といってとこのままの姿だとただの童貞でしかないので変身しましょうか。どろ子とエルフ君のどちらにしよう。
どろ子の力でも充分すぎるほど通用するのはわかったけど丸兎はあちこちポンポン跳ねてるしここは遠距離攻撃の方がいいだろう。
いつも通り【童貞の妄想】を使ってエルフ君に変身する。ガストンとの戦いで壊れたと思った弓も直っていた。よかったよかった。
やはりエルフ君の弓の腕は凄かった。視界に入った丸兎はものの見事に打ち落とされていく。イケメンで強いなんてやはりエルフはファンタジー界のチートキャラだったのか。ん?待って俺今エルフだよね?もしかしてイケメンになれてるのか!?
早急に鏡が欲しいところだが取り敢えずは目の前の丸兎を倒していく。俺、この戦いが終わったら家に帰って鏡を見るんだ。もしかしたらこれからモテ期が来るのかもしれない。
どろ子と共に順調に丸兎を倒し俺達の前にはさっきの少年達とは比較にならないほどの丸兎の山が積み上がっていた。
「ふー、めっちゃ狩ったねどろ子。これだけあれば今日はもういいか」
「ん。いい」
「おい、ヤバイ、錬鍛兎がでたぞ!!逃げろ!」
ふと向こう側が騒がしくなる。何事だろう?と思って視線を向けるとそこにはマッチョなうさぎがノシノシと歩いていた。……は?
え、何あのうさぎいかつくない?ボディビルダーの頭がうさぎになったようなモンスターだ。はっきり言ってめっちゃ不気味。
マッチョ兎の登場に皆狩った丸兎を放り出して一目散に逃げ出した。え、あいつそんなにヤバイモンスターなの?
そんな中、狩った丸兎を惜しんで一生懸命袋詰めしているパーティがあった。男女2人ずつの4人組のパーティで袋に丸兎を詰め込んでいる。
『はやくはやくっ!』『まてって。よし、いけるぞ!』と言いながら袋をいっぱいにし背負った瞬間マッチョ兎が跳ねた。
両足を地面につけて跳ね上がる。そして一気に4人組と距離を詰めると黄色い獣耳の少年につかみかかった。
「え?うわあああっ!??」
「きゃあっ!リック!!」
「リック!やめて!リックを離して!!」
「リック!おいこのうさぎ野郎!リックを離しやがれ!!」
リックと呼ばれた少年が足を掴まれ宙ぶらりんになる。彼の仲間らしき少年少女が声を張り上げ武器を取ろうとするが遅かった。
いやそもそもマッチョ兎に出会った時点で彼の運命は決まっていたのだ。
ブチッとおよそ人の人体からすべきでない音がした。マッチョ兎が少年の腕を引きちぎり草原が赤く染まる。
「ぐわあああっ!!!」
「あ、あ……」
「うそっ、リック…」
「よくもリックをッー!!」
そうして1人の男の子がマッチョ兎に斬りかかって行ったんだけど、うわあああっ!??
嘘だろッ!?あの子腕千切れたんだけど!!え?マジで?この世界ゆるふわファンタジーストーリーとかじゃないの?※P18Gとかつく世界なの?
衝撃に胸がバクンバクン言っているのがわかる。俺、冒険者舐めてました。ガチだ、ここはガチの世界だ。気軽に夢想してハーレム作るとか言ってる場合じゃないわ。ガチで死ぬ。
「馬鹿な奴らだな。丸兎を捨てないから錬鍛兎が追ってきたんだぜ。もう錬鍛兎がいたんじゃ狩りにならねえから街へ戻るぞ」
別のパーティーがそんなこと言いながら俺の隣を通り過ぎていった。どうやらあのマッチョ兎は錬鍛兎という名前らしく丸兎を持って帰ろうとすると襲ってくるらしい。
え?なんで襲ってくるの?実は親子?このまるまるふわふわな兎が成長するとマッチョな兎になるとかなの?え、進化形態おかしすぎるだろ。身体が生えてきとるぞ。
「うわああ゛ッ!くそっ、離せよ!」
「ザトっ!」
「いやぁ!ザトを離してッ!」
そんなこと考えていたら別の少年も錬鍛兎に捕まった。あのマッチョ兎ホントの本気で容赦ないから早く助けないとザトと呼ばれた少年までバラバラ殺人事件になってしまう!
即座に弓を構え錬鍛兎に狙いを定める。そして緑の矢が装填された瞬間指を離した。
「ピョッ!ピョピョピョッ―――!!!」
「うわあああっ!??」
「ザト!」
「ザトっ!」
矢はザトを掴んでいた錬鍛兎の腕に当たった。その衝撃に錬鍛兎はザトを落す。取り敢えずザト少年のバラバラ事件は防げたがあいつ鳴き声変ですね。ピョピョってなんだ、お前はヒヨコか。
そうこうしてたら錬鍛兎がこちらを向いた。ですよねー。普通に考えて腕射抜いたらおこですよねー。
弓を構えると錬鍛兎が全力でこちらに向かって走ってくる。ムキムキマッチョの兎が全力で迫ってきて怖い。どうせ迫られるのなら可愛い女の子に迫られたいですよ。
てか錬鍛兎マジ速い。結構距離あったのにもうだいぶ詰められている。弓って絶対近距離戦不利だぞ?ちょ、こっちくんなし。
その時俺の後ろにいたどろ子が飛び出した。『ん。ひなた守る』というどろ子の手は既に鎌に変わっている。やだ、どろ子さんかっこいい。これ本当にどっちが主人公かわからんな。
だけど錬鍛兎はどろ子のことは眼中になかったらしい。その場で両足を揃えて屈むと勢いよくジャンプした、ってうわあああっ!!??
錬鍛兎が俺に向かって拳を突き出し降ってくる。親方!空からマッチョ兎がぁ!筋肉ムキムキ兎のダイレクトアタックは本当勘弁して!
人間の腕を引きちぎれる筋力持つマッチョ兎のパンチなんて食らったら身体が貫通してしまいます。童貞の妄想でどろ子に変身している暇もないぞ。どうする?
今の俺にできることと言えば装填された矢を放つことくらいだ。でもこの矢を外したら、いや当たっても仕留められなかったら俺死ぬよね?やだやだやだ!童貞のまま死にたくない!死ぬなら童貞卒業式で死なせてくれよ!
全身全霊の力を込める。この目の前のデカイ兎を必ず仕留めようと思って矢を放つ。
瞬間、緑の矢が膨張した。
「ビョッ、ビョビョビョーーッッ!!!?」
「え?」
矢は錬鍛兎の胸元を突き抜けた。だが大きさがおかしい。まるで丸太でくり抜いたみたいに錬鍛兎の胸には穴が空いていた。向こう側の景色が見えるよ。わお。
錬鍛兎は空いた胸元押さえながら『ビョビョッ』と呻いている。お前はお前で何故死なない。体力までも化け物かよ。
トドメを刺そうと弓を構えた瞬間視界に光を反射しない漆黒が視界に映った。あ、おいしいところは持っていかれましたね。でもどろ子なら大歓迎だよ。
黒い鎌が一閃する。ゴトリと兎の生首が地面に落ち一拍置いて胴体が地面に倒れた。
首と胴体の分かれた錬鍛兎が地面に転がる。うん、倒した。ついに俺達はマッチョ兎を倒したのだ。
つっかれたー!速いし筋肉盛り盛りだしこいつ絶対Fランクの狩場に出ていいモンスターじゃないよね?まあ何にせよ倒せてよかったよ。じゃなかったら今頃俺はひき肉だ。
にしてもガムシャラに射った矢が大きくなったんだけどアレはなんだったんだろう?これもエルフくんのスキルなのか?自分のスキルじゃないとこういう時困るよね。スキルの能力がいまいちわからん。
なんにせよせっかく倒した強敵た。ギルドに持って帰ったら貢献になるかもなーと思っているとゾクリと肌が粟立った。
何かのやな予感!?と思って顔を上げるとそこには本家エルフ君がその端正な顔立ちを怒りの表情に変えて立っていた。
「何故、僕のスキルを使えるのだ」
……やべえ、修羅場かもしれん。
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