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アルベルム〜(10〜)
10 最西端の街アルベルム
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アルベルムは、周囲を高い壁に囲まれた大きな円形の街である。
街のやや北側のちょっとした丘に領主である辺境伯の立派な城が聳え、街の中央には増改築を繰り返して少しばかり前衛的な造形の塔と化した冒険者ギルド会館がある。そこから街の外壁までは店や家屋で埋まっており、しかしながら東西南北の外壁に設置された門と冒険者ギルドとを繋ぐ広い道と、そこから枝分かれする道の全てが整然と、合理的に作られている。
教会前の広場にある鳥と天使の像が戯れる美しい噴水は冒険者たちの憩いの場であり、近くの市場は豊富な品揃えで常に客が絶えない様子。夕方からは市場の向こうの酒場が毎夜朝まで大盛り上がりだ。
住人の殆どが冒険者と商人と装備系の職人で、他に多いのはギルド関係者と教会関係者、城の兵士、それからたまに物好きな貴族も紛れている。
約二十万の人口のうち、所謂「人間」と呼ばれる人族が全体の半分、残り半分は「亜人」と呼ばれる獣人族、ドワーフ族、エルフ族、竜人族などで、混血も少なくない。中には他種族に偏見を抱いている者も居るので喧嘩が起きることもあるが、領主やギルドが腕のたつ冒険者へ依頼を出すなどして保全にあたっているため、ある程度の治安は安定して保たれている。
冒険者ギルドが定めるルールさえ守れば、来るもの拒まず去るもの追わずの自由な場所。
そのギルドの信頼性の高さ故にあらゆる難度の依頼が絶えず舞い込むここは、正しく冒険者のための街といえるだろう。
少年リュークが三人の冒険者に連れられてアルベルムへ足を踏み入れたのは、ワイバーンを返り討ちにしてから五日後の昼のことだった。
「さて、先ずは教会ね」
初めて見る色鮮やかな煉瓦道、建ち並ぶ様々な造形の建物と、その一階を埋める店や住居。道の真ん中を通る馬車。どこからか聞こえてくる陽気な音楽。漂う美味しそうな料理の香り。沢山の人、人、人──。
そのどれもに落ち着きなく驚くばかりのリューク少年の注意を引き戻そうと明るい声で言ったのは、リュークの小さな手を引いて歩くミハルだった。
リュークがフードの下から覗く真ん丸の目をミハルに向けると、ミハルは優しい笑みを浮かべて頷いた。
「教会へ行って〈ステータス〉を授かりましょう。ステータスがあれば、冒険者ギルドで身分証を発行してもらえるからね。それに、あなたは迷子の申請をしておかなくちゃ。そうすれば、ギルドがあなたの家族や知り合いを見付け次第すぐに知らせてくれるわ」
ミハルも、後ろを歩くソロウもギムナックも、本当は疲れきっていて一刻も早くベッドへ直行したい気持ちで一杯だったが、このひとりぼっちの少年の不安を想像すれば、誰一人としておくびにも出さず努めて明るく振る舞っているのだった。
優しい彼らは教会までの道の途中にある露店でジュースやパンをリュークに買い与えた。リュークは物心ついてから初めて口にしたそれらにとても感動して、嬉しそうに頬張った。また、彼らは少年の小さな足に合うブーツを買って、噴水の近くで足を洗ってやり、奇妙なことに傷どころか、これだけ歩いても胼胝の一つも出来ていなかったその足に真新しいブーツを履かせてやった。リュークは、馴れない感触にも喜んで、楽しそうに噴水の周りを跳ね回った。
未だひどく汚れてはいるが、こうしていればごく普通の少年に見えるのに──。
ソロウたちは複雑な面持ちで少年を見つめていた。
街のやや北側のちょっとした丘に領主である辺境伯の立派な城が聳え、街の中央には増改築を繰り返して少しばかり前衛的な造形の塔と化した冒険者ギルド会館がある。そこから街の外壁までは店や家屋で埋まっており、しかしながら東西南北の外壁に設置された門と冒険者ギルドとを繋ぐ広い道と、そこから枝分かれする道の全てが整然と、合理的に作られている。
教会前の広場にある鳥と天使の像が戯れる美しい噴水は冒険者たちの憩いの場であり、近くの市場は豊富な品揃えで常に客が絶えない様子。夕方からは市場の向こうの酒場が毎夜朝まで大盛り上がりだ。
住人の殆どが冒険者と商人と装備系の職人で、他に多いのはギルド関係者と教会関係者、城の兵士、それからたまに物好きな貴族も紛れている。
約二十万の人口のうち、所謂「人間」と呼ばれる人族が全体の半分、残り半分は「亜人」と呼ばれる獣人族、ドワーフ族、エルフ族、竜人族などで、混血も少なくない。中には他種族に偏見を抱いている者も居るので喧嘩が起きることもあるが、領主やギルドが腕のたつ冒険者へ依頼を出すなどして保全にあたっているため、ある程度の治安は安定して保たれている。
冒険者ギルドが定めるルールさえ守れば、来るもの拒まず去るもの追わずの自由な場所。
そのギルドの信頼性の高さ故にあらゆる難度の依頼が絶えず舞い込むここは、正しく冒険者のための街といえるだろう。
少年リュークが三人の冒険者に連れられてアルベルムへ足を踏み入れたのは、ワイバーンを返り討ちにしてから五日後の昼のことだった。
「さて、先ずは教会ね」
初めて見る色鮮やかな煉瓦道、建ち並ぶ様々な造形の建物と、その一階を埋める店や住居。道の真ん中を通る馬車。どこからか聞こえてくる陽気な音楽。漂う美味しそうな料理の香り。沢山の人、人、人──。
そのどれもに落ち着きなく驚くばかりのリューク少年の注意を引き戻そうと明るい声で言ったのは、リュークの小さな手を引いて歩くミハルだった。
リュークがフードの下から覗く真ん丸の目をミハルに向けると、ミハルは優しい笑みを浮かべて頷いた。
「教会へ行って〈ステータス〉を授かりましょう。ステータスがあれば、冒険者ギルドで身分証を発行してもらえるからね。それに、あなたは迷子の申請をしておかなくちゃ。そうすれば、ギルドがあなたの家族や知り合いを見付け次第すぐに知らせてくれるわ」
ミハルも、後ろを歩くソロウもギムナックも、本当は疲れきっていて一刻も早くベッドへ直行したい気持ちで一杯だったが、このひとりぼっちの少年の不安を想像すれば、誰一人としておくびにも出さず努めて明るく振る舞っているのだった。
優しい彼らは教会までの道の途中にある露店でジュースやパンをリュークに買い与えた。リュークは物心ついてから初めて口にしたそれらにとても感動して、嬉しそうに頬張った。また、彼らは少年の小さな足に合うブーツを買って、噴水の近くで足を洗ってやり、奇妙なことに傷どころか、これだけ歩いても胼胝の一つも出来ていなかったその足に真新しいブーツを履かせてやった。リュークは、馴れない感触にも喜んで、楽しそうに噴水の周りを跳ね回った。
未だひどく汚れてはいるが、こうしていればごく普通の少年に見えるのに──。
ソロウたちは複雑な面持ちで少年を見つめていた。
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