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アルベルム〜(10〜)
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ソロウが書類を書き終えたところでエリンが戻ってきた。
それから彼女に連れられて応接室を訪れた一行は、木製のローテーブルを挟んで置かれている大きな黒のソファに並んで座った。
彼らが着席してすぐに部屋へ入ってきた四十がらみの大柄の男は、きちんとしたボタン付きのグレーのシャツと綺麗な黒のパンツで整った身なりをしていたが、やや日焼けした顔にはいくつもの古い傷痕があり、体は鍛え上げられていて逞しく、いかにも屈強な冒険者といった風貌であった。
彼の名はフォスター・ルーデル。アルベルム冒険者ギルドのマスターを務める男である。
フォスターは四人と向かい合ってソファへ腰かけると、ソロウ、ギムナック、ミハルの顔を順番に眺めて「無事で何より、ご苦労だった」と低く、それでいて温かみのある声でパーティーを労った。また、その後で革袋を抱えてきょとんとしている少年リュークの顔をまじまじと見つめ、「こいつは……」と、何かを言い淀み、説明を求めるようにソロウを見やった。
ソロウは困ったように「ああ」と間延びした声を置いてから話し始める。
「クエスト帰りに西の草原で拾ったんだ。本人が言うにはさらに西から来たらしいんだが、まあ、そりゃあ勘違いだろう。で、とにかく近くには親も連れも居ないって言うんで取り敢えず保護した」
「ステータスは?」と、フォスター。ソロウは一寸驚いたようないぶかしむような表情を見せたが、すぐに気を取り直し冷静に頷く。
「ついさっき付けてもらったとこさ。それで、あんたなら分かったと思うんだが……」
ソロウはフォスターの反応を窺うように言葉を切った。フォスターは長く鼻で溜め息を吐いて、再度リュークに視線をやる。
「坊主、名前は」
リュークは部屋を見回していた目をフォスターに戻して、「リューク。あなたは誰?」と無垢な表情で答え、問い返した。
このあまりにも純粋な少年の瞳にフォスターは面食らい、やがて思わず笑みをこぼした。
「ああ、俺はフォスターだ。ここのギルドマスターをやっている」
「『ギルドマスター』?」
「あーあー、ちょっと待ってくれ」
フォスターが懇切丁寧な説明を始める前に、ソロウが慌てて割って入った。危ないところだった。フォスターのギルドに関する説明は恐ろしく長いのだ。何せ、毎年学校で行う講演の台本を毎度そのまま暗唱するのである。分かりやすく、詳細だが、ここで三十分余りも聞かされてはたまらない。
「リューク、それは後で説明してやる。……すまない、フォスター。こいつな、恐ろしく世間知らずなんだ。自分がどこから来たのかも、目的地も、アルベルムのことも、それどころかステータスのことすら知らなかったんだ。全部教えてたら一日じゃ済まないぜ」
「そいつは困ったな。とりあえず迷子ってことで良いのか? せめて出身か、保護者なり関係者の名前でも分かれば助かるんだが」
ソロウはギムナックとミハル越しにリュークを見つめる。
リュークはとてもよく躾をされた犬のように大人しく、くりくりの大きな黒の瞳でじっとソロウを見つめ返して、それから四人の大人が耐えきれず順番に視線を切った頃、ようやく何か言うべきなのだと気付き、おもむろに口を開いた。
「友達ならいっぱい居るよ。シュプランダルと、ケパルプルと、アーモンと、ダダードと、ニョルムオーレンと、ホーリーグレイスリートッドマンと、アンスノウと、ペケと、ミロロと、ガウラスと──」
「ニョルムオーレン」のあたりから、ミハルが急いで紙とペンを用意してメモをとり始めた。
「ヤンネと、イオと、フレンディと、ウィブルスジャックと、イフリートと──」
今、妙な名前があったような──と、聞きながら思う大人たち。
シュプランダルとケパルプルとガウラスとウィブルスジャックは特に有名で、いくつかの神話やお伽噺にも登場する名前だ。アーモンは上位悪魔の代表格であるし、イフリートに至っては最上位の炎精霊と同じ名前である。
リュークの言葉はまだ続く。
「ワンスワイトと、ヴィンチと、ヤングオズボーンと、センキと、パバヤと、マルモットと、ナナイと、ハクと、コーディーと、タロウと、ええと、あとは……ジャルメールと……プエコと、カカステスタ。それから、名無しのゴブリンたちと──」
「『ゴブリン』?」
大人たちは同時に首をかしげた。
それから彼女に連れられて応接室を訪れた一行は、木製のローテーブルを挟んで置かれている大きな黒のソファに並んで座った。
彼らが着席してすぐに部屋へ入ってきた四十がらみの大柄の男は、きちんとしたボタン付きのグレーのシャツと綺麗な黒のパンツで整った身なりをしていたが、やや日焼けした顔にはいくつもの古い傷痕があり、体は鍛え上げられていて逞しく、いかにも屈強な冒険者といった風貌であった。
彼の名はフォスター・ルーデル。アルベルム冒険者ギルドのマスターを務める男である。
フォスターは四人と向かい合ってソファへ腰かけると、ソロウ、ギムナック、ミハルの顔を順番に眺めて「無事で何より、ご苦労だった」と低く、それでいて温かみのある声でパーティーを労った。また、その後で革袋を抱えてきょとんとしている少年リュークの顔をまじまじと見つめ、「こいつは……」と、何かを言い淀み、説明を求めるようにソロウを見やった。
ソロウは困ったように「ああ」と間延びした声を置いてから話し始める。
「クエスト帰りに西の草原で拾ったんだ。本人が言うにはさらに西から来たらしいんだが、まあ、そりゃあ勘違いだろう。で、とにかく近くには親も連れも居ないって言うんで取り敢えず保護した」
「ステータスは?」と、フォスター。ソロウは一寸驚いたようないぶかしむような表情を見せたが、すぐに気を取り直し冷静に頷く。
「ついさっき付けてもらったとこさ。それで、あんたなら分かったと思うんだが……」
ソロウはフォスターの反応を窺うように言葉を切った。フォスターは長く鼻で溜め息を吐いて、再度リュークに視線をやる。
「坊主、名前は」
リュークは部屋を見回していた目をフォスターに戻して、「リューク。あなたは誰?」と無垢な表情で答え、問い返した。
このあまりにも純粋な少年の瞳にフォスターは面食らい、やがて思わず笑みをこぼした。
「ああ、俺はフォスターだ。ここのギルドマスターをやっている」
「『ギルドマスター』?」
「あーあー、ちょっと待ってくれ」
フォスターが懇切丁寧な説明を始める前に、ソロウが慌てて割って入った。危ないところだった。フォスターのギルドに関する説明は恐ろしく長いのだ。何せ、毎年学校で行う講演の台本を毎度そのまま暗唱するのである。分かりやすく、詳細だが、ここで三十分余りも聞かされてはたまらない。
「リューク、それは後で説明してやる。……すまない、フォスター。こいつな、恐ろしく世間知らずなんだ。自分がどこから来たのかも、目的地も、アルベルムのことも、それどころかステータスのことすら知らなかったんだ。全部教えてたら一日じゃ済まないぜ」
「そいつは困ったな。とりあえず迷子ってことで良いのか? せめて出身か、保護者なり関係者の名前でも分かれば助かるんだが」
ソロウはギムナックとミハル越しにリュークを見つめる。
リュークはとてもよく躾をされた犬のように大人しく、くりくりの大きな黒の瞳でじっとソロウを見つめ返して、それから四人の大人が耐えきれず順番に視線を切った頃、ようやく何か言うべきなのだと気付き、おもむろに口を開いた。
「友達ならいっぱい居るよ。シュプランダルと、ケパルプルと、アーモンと、ダダードと、ニョルムオーレンと、ホーリーグレイスリートッドマンと、アンスノウと、ペケと、ミロロと、ガウラスと──」
「ニョルムオーレン」のあたりから、ミハルが急いで紙とペンを用意してメモをとり始めた。
「ヤンネと、イオと、フレンディと、ウィブルスジャックと、イフリートと──」
今、妙な名前があったような──と、聞きながら思う大人たち。
シュプランダルとケパルプルとガウラスとウィブルスジャックは特に有名で、いくつかの神話やお伽噺にも登場する名前だ。アーモンは上位悪魔の代表格であるし、イフリートに至っては最上位の炎精霊と同じ名前である。
リュークの言葉はまだ続く。
「ワンスワイトと、ヴィンチと、ヤングオズボーンと、センキと、パバヤと、マルモットと、ナナイと、ハクと、コーディーと、タロウと、ええと、あとは……ジャルメールと……プエコと、カカステスタ。それから、名無しのゴブリンたちと──」
「『ゴブリン』?」
大人たちは同時に首をかしげた。
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