西からきた少年について

ねころびた

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アルベルム〜(10〜)

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 フォスターは長旅で疲弊している三人の冒険者とリュークに食事の後で風呂を勧め、更に暫くの間リュークたちが五階にあるギルド職員寮を使え るよう取り計らった。

 冒険者たちにはそれぞれ家があるが、ミハルがリュークを一人にできないと言い出し、そうなるとソロウとギムナックも当然帰らず、結局全員で寮に泊まることになったのだ。

 寮の殆どは、飾り気のない木の二段ベッド、机と椅子が二組、それから二人分のチェストがあるのみの簡素な二人部屋だ。

 部屋の奥にある両開きの窓からはアルベルムの街並みがよく見える。

 大通りは街の外から冒険者ギルドを中心に延びているので、部屋によっては中央通りも商業通りも工業通りも見渡せる。

 ギルドの全ての部屋と廊下の天井にはベルがぶら下がっていて、緊急時に鳴る仕組みだ。これがけたたましく鳴ったら冒険者は一階のロビーに集合して緊急依頼を受注する。強制ではないが、かなり報酬が良いので、ベルが鳴る度お祭り騒ぎが恒例となっている。



 ソロウとギムナックに半ば洗濯物のように全身を洗われたリュークは見違えるように綺麗になった。

 ブカブカのシャツを着せられた風呂上がりのリュークを見たミハルは「まあ! なんて可愛らしいの!」と声をあげて丁寧にタオルで髪を拭いてやり、ソロウとギムナックはそこで二人と別れ、フォスターの元へと向かった。

 それからミハルとリュークが部屋に辿り着くまで、リュークはすれ違う職員に大人気だった。何人かに菓子をもらい、頭や頬や腹や背中を撫でられ、さながら愛くるしい子犬のような扱いを受けた。

 漸く部屋のベッドに腰掛けたリュークの髪を、ご機嫌なミハルはお気に入りの人形を扱うかのように念入りに整えると、貰った菓子を一緒に食べながら何とかリュークの保護者探しの手掛かりを得ようと幾つもの質問を重ねたが、これといった手掛かりはついぞ得られず、それどころか不思議ばかりの回答にミハルの頭がどうにかなりそうだったので、この日は早めに就寝した。






 一方、五階の特別応接室ではフォスターとソロウとギムナックの男三人が頭を抱えていた。

 特に剣呑な表情のフォスターは、「あんな称号は見たことがない」と嘆くように言って大きな溜め息を吐いた。

 ステータスに刻まれる〈称号〉は、本人の功績が誰が見ても分かるような言葉で表されるのが常だった。

 例えば、かつて魔王を倒した英雄クラルド・ローグは人里を荒らしてまわるドラゴンを殺したときに〈竜殺し〉、魔王を討ち取ったときに〈勇者〉の称号を授かった。

 あるいは、世界中を巡ってさまざまなものに価値をつけ、人々に商売の知恵を分け与えて回った商人モウケ・マネは〈大商人〉〈有識者〉の称号で多くの信用を得た。

 戦争で傷付いた者を無償で癒し続けたマリー・フロロは〈慈愛の癒し手〉。今ある半数以上の魔法を発明したサイエン・ハーバーは〈賢者〉〈大魔導師〉というふうに。

 それに引き換えリュークの称号ときたら、まるで誰かがふざけてつけたような、とても功績と呼べるところから生まれていないのは明らかなものばかり。寧ろ各々の神が急ごしらえの称号でもって何かを伝えようとした結果だとすれば腑に落ちるだろうか。

「しかも、加護は俺の知る限り全てを授かっている。属性とスキルは靄がかかったように見えなかった。名前もだ。まあ、名前は字数と字形的に『リューク』で間違いないだろう。しかし、そうか……ファミリーネームはないのか。あと、年齢以外の詳細な数字は一切読み取れない。まったく、信じられん! あの子は一体何者なんだ」

「フォスター、あんたでも見れないってのはどういうことなんだ? あいつが特別なスキルでも使ってるのか?」と、ソロウ。

 フォスターは、「いや、恐らくは情報量が多過ぎて読み取れないか、もしくは神の意思か……」と言い淀んだ。

 ソロウは、どうしたものかな、と疲れ切った目で天井を眺める。

「神官も気絶したり泣き崩れたりで話を聞けなかったんだ。また明日会いに行くつもりだったが、あんたにも分からないなら期待はできねえなあ。身元にしたって、リュークのばあさん・・・・の名前が『ユフラ』だってことくらいしか分かってねえしよ。しかし、称号か……。なあ、ギムナックはどう思う?」

「やはり神が何かを伝えようとしているのだと思う。しかし、どこへ導けば良いのかが分からないのではどうしようもない。リュークの装備や持ち物の中に手掛かりはないだろうか」

「なるほど……そういや、あいつマジックバッグを持ってるんだった。ギムナック、お前冴えてるな!」


 冴えている、といわれたギムナックの提案だったが、翌朝リュークの鞄をひっくり返した大人たちは一人残らず後悔することになるのだった。
  
  

  
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