西からきた少年について

ねころびた

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アルベルム〜(10〜)

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 翌朝の冒険者ギルド会館職員寮にて。

 リュークの鞄の容量には底が無く、はじめこそ謎の干し肉や、お気に入りらしい石ころ、小さな草花、木の枝、鳥の羽などがたっぷり出てきたが、それがあまりにもたっぷり出てきて終わりが見えなくなったところで誰かが「もう、ひっくり返して全部出してしまえ」と言ってからは、大量の生きたスライムが部屋を埋めつくし、リュークたちが押し潰される前に数匹が窓を破ってぽろぽろと外に落下したかと思うと、次に鞄の口から巨大な黒いドラゴンの鼻先がぬるりと出てきて、大きな鼻の穴から放たれた息が窓枠のついた壁一面をスライムごと見事に吹き飛ばし、さらに両側の壁も粉砕しながら頬が現れて、放心状態のままじりじりと後退りでドアから廊下へ向かおうとする大人たちの目の前で床も天井も破壊して頭、首、肩、腕、翼と抜け出てくると、それからは恐ろしい爪を持った足で下の階の床か柱を踏み台にして勢いよく大空へと飛び立っていった。

 街の住人の殆どがぎょっとするほど派手な音を立てて崩れ落ちかけたこの建物を支えたのは、次に光のごとき速さで飛び出てきた純白のドラゴンだった。
 大きさは先程のドラゴンに比べるとだいぶ小さいが、あまりの神々しさに街中の人々が目を奪われていた。
 白いドラゴンはゆったりと翼を羽ばたかせて停空飛翔しつつ頭と右の前足を近くの柱に当てており、これは魔法を使って全ての状況を支えていたのだと後に魔法使いらが絶賛する。

 とにもかくにも、白いドラゴンのお陰で全壊を免れた冒険者ギルド会館──二階から六階の南側はほぼ消失した──であったが、その間も開きっぱなしのリュークの鞄からは石や枝や、昨日ギルドの大人たちから貰った菓子の包み紙や、色とりどりの新たなスライムたちや、奇妙な案山子かかしや、しばしばゴブリンが振り回している棍棒や、同じくゴブリン或いはオークの不潔な腰布や、大型のウォーウルフの頭つきの毛皮や、それから死にかけのワイバーンなどが抜けた床を目掛けて次々と雪崩れ、降り積もっていったのだった。

 この未曾有の大事故において、不幸中の幸いは死者が一人も出なかったことだろう。

 黒ドラゴンが飛び出していった今回の事件を、ギルドは「飛翔ドラゴンの衝突事故」と題して発表した。
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