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お菓子とエールの街(28〜)
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一行がギルド会館を出たところで、噴水の縁に腰掛けてグランツを待ち構えていたフルルが飛び付くように駆け寄ってきた。
昨日のパジャマ姿は見る影もなく、軽そうな革のベストに白いシャツと、ぴたっとした黒のパンツの腰の辺りから丸くてフワフワの尻尾がぴょこんと出ている。足もとは飛び跳ねやすそうな柔軟性のある茶色のブーツ。腰に剣でも持たせればまるで冒険者のような出で立ちである。
「あ、あんた……じゃないや……領主様! 今、教会のことを聞いてきたんだろう? ヨシュア様とリリアンヌと子どもたちを見付けてくれるんだよね?」
喋るたびに長い垂れ耳が揺れて、リュークの頭に当たった。ミハルはリュークの手を引いて、グランツとフルルから少し距離を取る。フルルはそれにも気付かないほど興奮している様子で、急なことに面食らっているグランツへ尚も詰め寄る。
「あたしも街中は殆ど探したんだ。あの子達が行きそうなところはもちろん、地下水路も全部見たし、空き家だって見て回った! 街の外だって、行けるところは探してみたんだよ! ……でも、居なかった。多分、別の街に居るんだよ。きっと人拐いに連れて行かれたんだ! ねえ領主様、皆を探してくれるよね?」
「う、うむ、私たちもすぐ捜索に取り掛かる予定だ。もう少し情報を集める必要があるんだが……そうだな、君も一緒に来てくれるか」
グランツはレオハルトが頷くのを確認してから彼女を誘った。どの道、事情に明るい者たちから話を聞いて回るつもりだった。であれば、教会と関わりがあり土地勘もある彼女に着いてきてもらった方が効率が良いだろう。
「ギルドで聞いたと思うけど、三歳の女の子はエルフで、四歳の男の子は三毛の猫系獣人、十歳の子は狼系と犬系獣人の混血だよ。十歳の子は賢い子でヨシュア様の言うことをよく聞いてたし、大人を出し抜くのも上手かった。その子は物心ついてから親を目の前で殺されたんだ。しかも、誘拐目的でね。だから人一倍警戒心が強くて、絶対に夜に外出したりなんかしなかった」
教会へ入るまでの短い時間、フルルは話していく中で思い詰めた表情を滲ませ、語気を強めた。
「私は今の神官様が何か知ってると思ってるよ。だって……」
フルルは言いかけたが、ついに教会のすぐ前まで来たのでその言葉を飲み込み、代わりに「領主様なら皆を見付けてくれるって信じてるから」と真っ赤な目を伏せて言った。
噴水広場に面した教会は高い塀に囲まれていて、威圧感のある分厚い門が日中のみ開放されている。庭は裏側にあって、表は門をくぐるとすぐに玄関口がある。
玄関口から中へ入ると、そこには高い天井から柔らかな光が差し込む荘厳な聖堂──ではなく、ところどころ傷んだベンチや薄く埃の積もった床や壁と、あちこち蜘蛛の巣で飾られた天井が居た堪れない荒んだ聖堂が広がっていた。
ギムナックが埃を舞い上げながら祭壇の前に滑り込むようにして跪き、「おお、神よ許し給え。神聖なる場所の手入れを怠ったこと許し給え──」と神に許しを請う。
ここへは度々顔を出していたらしいフルルも驚きを隠せないらしく「前はこんなのじゃなかったのに……こんなの酷すぎる……あとで掃除をしないと」とぶつぶつ呟きつつ、あちこち見回している。
その後ろでリュークが革袋に手を突っ込んだのを見つけたミハルは、咄嗟にリュークの手を革袋ごと抑えた。
「何を出そうとしているの?」
「スライムだよ。スライムは家を綺麗にしてくれるんだ」
確かに、スライムは埃を食べるのかも知れない。
ミハルは、ふと思い付いて悲しげな顔になった。
(もしかして、リュークの家ではスライムに掃除をさせていたの? おばあさんが寝たきりだから? 考えてみれば、リュークはまだ掃除なんて出来ないわよね。ちょっと……いえ、随分と変わった方法だけど……おばあちゃんの知恵袋ってやつかしら)
考え込んでいるうちに、グランツたちが歩き始めた。ミハルは革袋からスライムを取り出さないように言うと、再びリュークの手を引いて聖堂の奥の方へ向かった。
昨日のパジャマ姿は見る影もなく、軽そうな革のベストに白いシャツと、ぴたっとした黒のパンツの腰の辺りから丸くてフワフワの尻尾がぴょこんと出ている。足もとは飛び跳ねやすそうな柔軟性のある茶色のブーツ。腰に剣でも持たせればまるで冒険者のような出で立ちである。
「あ、あんた……じゃないや……領主様! 今、教会のことを聞いてきたんだろう? ヨシュア様とリリアンヌと子どもたちを見付けてくれるんだよね?」
喋るたびに長い垂れ耳が揺れて、リュークの頭に当たった。ミハルはリュークの手を引いて、グランツとフルルから少し距離を取る。フルルはそれにも気付かないほど興奮している様子で、急なことに面食らっているグランツへ尚も詰め寄る。
「あたしも街中は殆ど探したんだ。あの子達が行きそうなところはもちろん、地下水路も全部見たし、空き家だって見て回った! 街の外だって、行けるところは探してみたんだよ! ……でも、居なかった。多分、別の街に居るんだよ。きっと人拐いに連れて行かれたんだ! ねえ領主様、皆を探してくれるよね?」
「う、うむ、私たちもすぐ捜索に取り掛かる予定だ。もう少し情報を集める必要があるんだが……そうだな、君も一緒に来てくれるか」
グランツはレオハルトが頷くのを確認してから彼女を誘った。どの道、事情に明るい者たちから話を聞いて回るつもりだった。であれば、教会と関わりがあり土地勘もある彼女に着いてきてもらった方が効率が良いだろう。
「ギルドで聞いたと思うけど、三歳の女の子はエルフで、四歳の男の子は三毛の猫系獣人、十歳の子は狼系と犬系獣人の混血だよ。十歳の子は賢い子でヨシュア様の言うことをよく聞いてたし、大人を出し抜くのも上手かった。その子は物心ついてから親を目の前で殺されたんだ。しかも、誘拐目的でね。だから人一倍警戒心が強くて、絶対に夜に外出したりなんかしなかった」
教会へ入るまでの短い時間、フルルは話していく中で思い詰めた表情を滲ませ、語気を強めた。
「私は今の神官様が何か知ってると思ってるよ。だって……」
フルルは言いかけたが、ついに教会のすぐ前まで来たのでその言葉を飲み込み、代わりに「領主様なら皆を見付けてくれるって信じてるから」と真っ赤な目を伏せて言った。
噴水広場に面した教会は高い塀に囲まれていて、威圧感のある分厚い門が日中のみ開放されている。庭は裏側にあって、表は門をくぐるとすぐに玄関口がある。
玄関口から中へ入ると、そこには高い天井から柔らかな光が差し込む荘厳な聖堂──ではなく、ところどころ傷んだベンチや薄く埃の積もった床や壁と、あちこち蜘蛛の巣で飾られた天井が居た堪れない荒んだ聖堂が広がっていた。
ギムナックが埃を舞い上げながら祭壇の前に滑り込むようにして跪き、「おお、神よ許し給え。神聖なる場所の手入れを怠ったこと許し給え──」と神に許しを請う。
ここへは度々顔を出していたらしいフルルも驚きを隠せないらしく「前はこんなのじゃなかったのに……こんなの酷すぎる……あとで掃除をしないと」とぶつぶつ呟きつつ、あちこち見回している。
その後ろでリュークが革袋に手を突っ込んだのを見つけたミハルは、咄嗟にリュークの手を革袋ごと抑えた。
「何を出そうとしているの?」
「スライムだよ。スライムは家を綺麗にしてくれるんだ」
確かに、スライムは埃を食べるのかも知れない。
ミハルは、ふと思い付いて悲しげな顔になった。
(もしかして、リュークの家ではスライムに掃除をさせていたの? おばあさんが寝たきりだから? 考えてみれば、リュークはまだ掃除なんて出来ないわよね。ちょっと……いえ、随分と変わった方法だけど……おばあちゃんの知恵袋ってやつかしら)
考え込んでいるうちに、グランツたちが歩き始めた。ミハルは革袋からスライムを取り出さないように言うと、再びリュークの手を引いて聖堂の奥の方へ向かった。
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