西からきた少年について

ねころびた

文字の大きさ
36 / 199
お菓子とエールの街(28〜)

35

しおりを挟む


 教会は国から完全に独立した機関であり、他の権力一切の介入を認めない。当然、神官や修道女のみならず教会で保護された子供に関する義務、責任、権利も全て教会にあり、第三者である住民から教会の子供に関する依頼をされてもギルドでは引き受けることが出来ない。

 つまり、この場合は一旦住民からの依頼は差し戻し、改めて教会か神官名義での依頼申込みをされない限りは受理出来ないという訳である。

 そして、グランツたちが領地管理人の居るテルミリア城ではなく冒険者ギルドを訪れた理由というのも、他者の介入をこばむ教会に対し領主などが表立って動くべきではないと思われるからである。

 領主とは国の最高権力である王の一部であり、迂闊うかつに動けば王が教会に媚びているとも受け取られかねない。例え「辺境伯」なる立場が王政のもとで諸侯より一歩離れたところにあるとしても、守るべきマナーは守らねばなるまい。

 さりげない検問強化や、素知らぬ顔での調査協力程度なら構わないだろう。領地管理人からの協力要請というのも、〈追跡ついせき〉や、他者の嘘を見抜くスキル、もしくは過去の記憶を読み取るスキルを持った人員のを願ってのことに違いなかった。

 レオハルト曰く、耳聡みみざといテルミリアの兵士らは領地管理人のを盗み聞きし、大勢が私服で巡邏じゅんらしているとのこと。ただし、それ以上は王の目がある。いくら風変わりな領主と名高いグランツといえど、流石にその辺りの分別ふんべつはあるのだった。



 「だが──」とグランツは話題を引き戻すように脚を組みかえて言う。

「何故はじめから教会側が依頼して来なかったんだ?」

「周りに迷惑をかけずに解決しようとしたようです。しかし、こちらが言えばすぐに思い直して依頼を出してくれましたよ」

 ポップロンは、有り難いことに、と付け加えたが、グランツは教会の独立体制に辟易へきえきしている。領主どころか国王ですら教会の内側には関与できないのだから困ったものである。

 しかも、神への御礼・・・・・は金をはじめとして食糧から布から靴から掃除用具から際限なく預かる・・・くせに、教会から外へ与えるものは祈りと許しとパンとステータスのみで、現金はいかなる時もびた一文払わぬ世界一の守銭奴しゅせんどでもある。

 だが、ことステータスに関してだけは教会以外ではどうにもできないので、嫌でも尊重そんちょうせざるを得ない。



 その点、アルベルムの街の教会はやや様子がおかしいと言える。
 開放的で、領主や各ギルドマスマーに好意的で、アルベルムの人と街を愛している。
 神官は当然の如く毎日食材を買い求めて市場を徘徊はいかいし、現金で支払う。
 すると、それを評価する住人やポールマン家からさらなるが集まり、神官はその金を使ってより良いものを買い求めに街に繰り出す。

 内政にもずぶずぶに干渉してくる。教育の必要性を説き、教会内にある書庫の一部を一般解放した上に、希望者には勉強を教える。勉強希望者が勉強道具を買う金は、庭の雑草を引くより簡単にポールマンからむしり取る。

 悩める住民の声を聞き、依頼できる事柄は冒険者ギルドへ、政治で解決できる事柄はまとめて城へ提出する。

 こういう具合でアルベルムの教会は街の経済と政治に貢献し、住民だけでなく冒険者からも好かれていて、教会界隈かいわいでは異端とされ、まるで別の宗教団体のような扱いを受けているという。無論、このような教会は世界でもまれである。




「現時点では」と、ポップロンは慎重に言葉を選びつつ話を再開する。

「子どもたちは行方不明になったヨシュア神官とリリアンヌを探しに夜間外出し、かどわかされたというのが妥当な線かと。今のテルミリア教会には成り行きでヨシュア神官の後継となった不慣れな神官が一人しか居ないわけですから、子どもたちの面倒を完璧に見るのは大変でしょうし。ただ──」

 ポップロンは途中で言葉を切り、先を続けるか悩んだ。
 意外にもものごとをはっきりと述べるたちの彼が口ごもるのは珍しい。一同は──菓子に夢中のリュークを除いて──手元の資料からポップロンへと視線を移す。

「ここに居る者たちは皆私が信用できる者たちだ。構わないから続けたまえ」と、グランツが促すと、ポップロンは額や首にじんわりと浮いた冷や汗をポケットから出したハンカチで拭った。

「いえ、すみません。その、実は本当に個人的な考えではありますが──」

 やがてつむがれた言葉に、冒険者とグランツは表情を険しくした。




 
    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

処理中です...