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お菓子とエールの街(28〜)
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しおりを挟む教会は国から完全に独立した機関であり、他の権力一切の介入を認めない。当然、神官や修道女のみならず教会で保護された子供に関する義務、責任、権利も全て教会にあり、第三者である住民から教会の子供に関する依頼をされてもギルドでは引き受けることが出来ない。
つまり、この場合は一旦住民からの依頼は差し戻し、改めて教会か神官名義での依頼申込みをされない限りは受理出来ないという訳である。
そして、グランツたちが領地管理人の居るテルミリア城ではなく冒険者ギルドを訪れた理由というのも、他者の介入を拒む教会に対し領主などが表立って動くべきではないと思われるからである。
領主とは国の最高権力である王の一部であり、迂闊に動けば王が教会に媚びているとも受け取られかねない。例え「辺境伯」なる立場が王政の下で諸侯より一歩離れたところにあるとしても、守るべきマナーは守らねばなるまい。
さりげない検問強化や、素知らぬ顔での調査協力程度なら構わないだろう。領地管理人からの協力要請というのも、〈追跡〉や、他者の嘘を見抜くスキル、もしくは過去の記憶を読み取るスキルを持った人員の偶然の旅行を願ってのことに違いなかった。
レオハルト曰く、耳聡いテルミリアの兵士らは領地管理人の独り言を盗み聞きし、大勢が私服で巡邏しているとのこと。ただし、それ以上は王の目がある。いくら風変わりな領主と名高いグランツといえど、流石にその辺りの分別はあるのだった。
「だが──」とグランツは話題を引き戻すように脚を組みかえて言う。
「何故はじめから教会側が依頼して来なかったんだ?」
「周りに迷惑をかけずに解決しようとしたようです。しかし、こちらが言えばすぐに思い直して依頼を出してくれましたよ」
ポップロンは、有り難いことに、と付け加えたが、グランツは教会の独立体制に辟易している。領主どころか国王ですら教会の内側には関与できないのだから困ったものである。
しかも、神への御礼は金をはじめとして食糧から布から靴から掃除用具から際限なく預かるくせに、教会から外へ与えるものは祈りと許しとパンとステータスのみで、現金はいかなる時もびた一文払わぬ世界一の守銭奴でもある。
だが、ことステータスに関してだけは教会以外ではどうにもできないので、嫌でも尊重せざるを得ない。
その点、アルベルムの街の教会はやや様子がおかしいと言える。
開放的で、領主や各ギルドマスマーに好意的で、アルベルムの人と街を愛している。
神官は当然の如く毎日食材を買い求めて市場を徘徊し、現金で支払う。
すると、それを評価する住人やポールマン家からさらなる御礼が集まり、神官はその金を使ってより良いものを買い求めに街に繰り出す。
内政にもずぶずぶに干渉してくる。教育の必要性を説き、教会内にある書庫の一部を一般解放した上に、希望者には勉強を教える。勉強希望者が勉強道具を買う金は、庭の雑草を引くより簡単にポールマンからむしり取る。
悩める住民の声を聞き、依頼できる事柄は冒険者ギルドへ、政治で解決できる事柄はまとめて城へ提出する。
こういう具合でアルベルムの教会は街の経済と政治に貢献し、住民だけでなく冒険者からも好かれていて、教会界隈では異端とされ、まるで別の宗教団体のような扱いを受けているという。無論、このような教会は世界でも稀である。
「現時点では」と、ポップロンは慎重に言葉を選びつつ話を再開する。
「子どもたちは行方不明になったヨシュア神官とリリアンヌを探しに夜間外出し、拐かされたというのが妥当な線かと。今のテルミリア教会には成り行きでヨシュア神官の後継となった不慣れな神官が一人しか居ないわけですから、子どもたちの面倒を完璧に見るのは大変でしょうし。ただ──」
ポップロンは途中で言葉を切り、先を続けるか悩んだ。
意外にもものごとをはっきりと述べる質の彼が口ごもるのは珍しい。一同は──菓子に夢中のリュークを除いて──手元の資料からポップロンへと視線を移す。
「ここに居る者たちは皆私が信用できる者たちだ。構わないから続けたまえ」と、グランツが促すと、ポップロンは額や首にじんわりと浮いた冷や汗をポケットから出したハンカチで拭った。
「いえ、すみません。その、実は本当に個人的な考えではありますが──」
やがて紡がれた言葉に、冒険者とグランツは表情を険しくした。
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