39 / 199
お菓子とエールの街(28〜)
38
しおりを挟む顔を真っ青にして怯えるジェフリーにいくつか質問を重ねると、漸く話は行方不明となった三人の子どものことに及んだ。
三人の子どもたちは、亜人の中でも極めて希少な種である。エルフは勿論、三毛猫種の男児などは世界中探しても数人しか居ないだろう。
ただ、狼系と犬系の混血であるとされている十歳の女児に関しては、仮に養子に出すとしても引き取り手は限られている。
何故なら、非常に高い戦闘力に恵まれた狼系の獣人は、自分の本能が「上位」と認めた相手にしか忠誠心を抱けないからだ。
これがどれほどのものかと言えば、他人に命令した行動を強制できる違法魔具「隷属の首輪」なるものを装着させても本能が拒否する為、最悪の場合は魔具の強制力に傷付けられて命を落としてしまうほどである。
逆に、本能が認めた相手に対しては絶対の忠誠を誓い、命の危険すら厭わないという。
だが、となると、単に金を積んだだけで跡継ぎや、家事手伝いや、護衛や剣闘士にしようとしても上手くいかないのは明々白々。
しかも、彼女は特別その本能が強いようである。
どこかに彼女の本能が認めるほど強くて優しくて裕福なご家庭があれば良いが、そのような都合の宜しい家は──まあ、まず簡単には見つかるまい。
十歳の女児が類稀なる血統とされながら長らく教会暮らしとなっていたのも、難しい血筋による事情からだった。
「大変でしたよ。私が用意したご飯を食べるのに、何分間も匂いを嗅いでから口をつけていました。近寄ると唸るし、何も手伝おうとしないし、一番困ったのは私の靴を隠してしまうことですね。いつも朝起きたら靴がなくて、いやあ参りました」
「確かにヨシュア様とリリアンヌ以外の言うことは全然きかなかった。でも、あの子は……『リン』は、面倒見が良くて……というか、それも本能なのかも知れないけど、いつも下の子の世話をしてたよ。子どもたちも皆リンに懐いていたし、ヨシュア様たちが居なくなってからも、リンがいたから他の子たちがまとまっていられたんだ」
ジェフリーとフルルの意見を書き留めたミハルは、「三人はヨシュア神官たちを探しに行きたがっていたんですか?」とジェフリーに尋ねた。
「ええ、それは勿論」とジェフリーは答えた。「引き留めるのにも苦労しました。ですが、結局は……。全て私の責任です。せめて残った子どもたちは守らねばと……」
「確か、今ここに残っている居る子どもは四人と聞いていますが」
ポップロンの資料によれば、残っている四人の子どもは皆人間だという。
「え、ええと、そうです。四人とも大人しくしていますよ。三人の子どもたちが居なくなってからは特に。今は廊下の奥の部屋で皆一緒に居ると思います」
「なるほど。貴方がここへ来たのは何故ですか? ヨシュア神官の行方が分からなくなるのとほぼ同時期にこの街へ来られたというのは?」
「私はヨシュア神官に呼ばれて来たのです! その……ヨシュア神官が、もっと広く孤児の里親探しをしたいと仰って……あっ! そう、だから私は彼が失踪したと思ったのです。だって、偶然にしてはあまりにも都合が良すぎるでしょう? 神官である私が、彼と入れ違いににここを訪れることになるだなんて」
大袈裟な身振り手振りを混じえて主張するジェフリーに対し、ミハルは、そうですか、と静かに言ってグランツを見た。
グランツは深刻な表情で俯いていて、かなり深く考え込んでいるか、或いは考え込み過ぎて気絶しているのかも知れなかった。
声をかけるべきか悩むミハルの後ろでレオハルトが「失礼」と口を開く。
「今日はここまでにいたしましょう。ジェフリー神官、もし何かあればエルザの宿屋まで連絡を……ああ、申し訳ありません、あともう一つだけお伺いしたいことが──」
レオハルトはちらりとリュークを見やった。さっきまでしゃがみ込んで床の木目を指でなぞっていたリュークだったが、今はギムナックがその小さな手を取ってハンカチで拭いてやっている。
「現在、埋葬は行われていますか?」
「え……」
ジェフリーは、まさかそのような質問が飛んでくるとは思っていなかったらしく、ぽかんと間抜けに口を開けた。
世界の殆どの地域では、死者の弔いを教会へ依頼する。
教会が伝える神の教えでは、全ての生命は神の導きによって土から生まれ、死ねば土へと還り、再び天へ昇るのだという。
教会は死者を土へ還すべく教会地下の〈墓地〉で魂と肉体を浄化してから一旦埋葬し、死者が土となるまで数日に渡って祈りを捧げる。
そして、神官の聖なる力によって死者の骨の一欠片まで全て土に還ると、遺族はその土に聖水を含ませて持ち帰り、地上に墓を作るのだ。
因みに、この墓地というのは特殊な部屋で、普通は聖属性の魔法で灰となってしまうアンデッドも、墓地の中では土となる。なので、身元が判明しているアンデッドは遺族が大金を積み、墓地で土にして持ち帰ることも珍しくない。
「あ、今は……此処も私もこんな状態ですから……。早く子供たちやヨシュア神官たちがお戻りになるよう、祈ることしかできません」
やっとのことで答えたジェフリーは、悲壮感を漂わせて言葉を濁した。
レオハルトは「分かりました。ありがとうございました」と短く切り上げ、すっかり硬直しているグランツの肩を強めに叩くと、一行は意識を取り戻したグランツを先頭にして教会を後にした。
4
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!
川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。
だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。
だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。
馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。
俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる