西からきた少年について

ねころびた

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ヴレド伯爵領(47〜)

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 ヴレド伯爵領東側の関所は、アルベルムとの領地境である西側に比べると幾らか通過が容易である。
 グランツ一行も、この日は三万文字程度の通行規定の朗読と、相場通りの税を納めるだけで通行許可を得られたので心底安堵した。

 対し、不安そうにしているのは関所に詰めているヴレド伯配下の十二名の兵士たちの方である。

 ヴレド伯爵の自我は殆ど戻っておらず、抜け殻のような表情でただ宙を見つめるばかり。部屋の隅に繋がれているペガサスも、伯爵そっくりの三白眼でずっとソロウを見詰めている。

「ああ、その……あれだ……」

 グランツはヴレド兵への助言となり得る言葉を探したが、口には上ってこなかった。しかし、優秀な男レオハルトはこれを見越して手紙をしたためていた。ヴレド伯爵が城を任せられるほど信頼している人物──側近のハリトン・ツェペシェに宛てたものである。

「これをツェペシェ殿へ。こうなった経緯と、これまでの様子を全て記してあります。後は医師による診察を」

「お心遣い痛み入ります」と、ヴレド兵のうち隊長らしき一人が手紙を受け取った。「急ぎそのように致します。ところで、この先はどちらをお進みになる予定ですか?」

「最短距離を取り、ずっと東へ直進する予定です」

「差し出がましいようですが、北か南から迂回されるのが宜しいかと」

「何かあったのですか?」

「実は、昨日あたりにテヌート城近くの山にアイスドラゴンが巣を作ったらしいのです。城下の街や近辺まで巨大な氷で覆われていて、領主であらせられるテヌート伯爵の安否も昨日の時点では確認出来ていないとのことでした」

「ああ……」

 レオハルトは瞬間的に目眩を覚えてテーブルの端に手をついた。

(我々は一体何に呪われているんだ……)



 この関所を抜けた先にあるテヌート伯爵領の領主ピッツァリアーノ・テヌート伯爵は、まだ二十代と若く、柔軟な発想と感性を持ち合わせていて、グランツのことを高く評価する数少ない貴族である。
 また、彼はグランツの真っ直ぐで快活な人となりと領地管理を好ましく思うだけではなく、彼自身が過去に国王軍に所属した経験から、騎士として名高いグランツのことを尊敬している。

 彼の危機を見過ごすことは出来まい。

 一行は、迂回路をとらず直進してテヌート城を目指すことにした。差し当たっての目標は、アイスドラゴンの撃退ということになるだろうか。冒険者ギルドの設定した等級ではA級以上となる危険な魔物である。
 もしかすると、冒険者たちも依頼を受けて集まっているかも知れない。

「皆、気を引き締めていこう!」

 グランツの掛け声に「おう!」と揃った返事があった。
 こうして、何を考えているか分からない顔を向けるヴレド伯爵とペガサス、そして関所のヴレド兵らに別れを告げた一行は、大半が予想していた展開と全く異なる日々を過ごしたヴレド伯爵領を後にし、テヌート伯爵領へと足を踏み入れるのだった。







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