西からきた少年について

ねころびた

文字の大きさ
77 / 199
テヌート伯爵領(60〜)

76

しおりを挟む
 とにかく本人に会ってみましょう、とミハルが言ったので、全員は小会議室を後にした。
 長い廊下を行く道すがら、ソロウとギムナックが途中参加の二人にアイスドラゴンや宝玉のことを伝える。リュークとリンは、子どもらしくじゃれ合いながら大人たちの後ろを着いてきている。

 それからミハルとレオハルトが驚き疲れた頃。テヌート伯爵は、とある客室らしき部屋の前で足を止めた。


 その部屋は救護室として使われているようだった。奥の壁際には五床のベッドが並び、今は二人の老人が眠っている。窓は無く、右手の暖炉ではしっとりとした火が揺らいでいる。天井は高くない。明かりは蝋燭ではなく、ヴレド伯爵が使っていた魔法と似た丸い発光体が二つ、部屋の中を彷徨うように浮かんでいる。
 所々のカゴやワゴンに清潔そうな白のシーツや包帯が所狭しと積まれている。
 左手の扉は隣の部屋へと続いているようだ。
 部屋の中央には猫脚の丸椅子とテーブルがあって、そこに構えていた四十がらみの背の低い医者は、颯爽と現れたテヌート伯爵とグランツを見て飛び上がるようにして椅子を立ち、

「どどどどうされました! 熱ですか、怪我ですか!」

 と慌てふためいた。丸い光の玉がその動きに連動して揺れると、部屋中の影という影が目まぐるしく動いてリンの本能を刺激したので、リンが動き始める前にギムナックが抱き上げた。
 この頼りなげな医者のしっかりと後ろに流して固めた金髪はまだ若々しく、綺麗に整えたチョビ髭が喋るたびに動いてお茶目に見える。
 
「落ち着け、カルパチオ。ヴンダーに会いに来た。しばらく誰も近付けないでくれ」

「はい、あ、しかし、彼はまだ──」

 カルパチオと呼ばれた医者はもごもごと何か呟いたが、テヌート伯爵は「頼んだぞ」と言って左手の扉を開け、グランツたちを招き入れると、堅く扉を閉め、鍵を掛けた。



 部屋の床には深い臙脂色の絨毯が敷いてある。隣の部屋と同じく広さがあり、ランプの灯が明るい。大小様々な火鉢が無造作に置かれており、その上に焼石が乗っかっている。小会議室にも設置されていたこの焼石は、温めたものを魔法で保温しているらしく、暖炉に火を入れるよりも部屋全体を暖めるのに適しているようだった。
 中央の大きなベッドに設えてある天蓋の深紅のカーテンは閉じられており、中の様子は全く分からない。


 レオハルトとミハルは、部屋へ入る前からこわばった面持ちで言葉を失っている。自分たち以外の魔力を全く感じないのだ。S級冒険者である魔法使いを前にして、こんなことが有り得るものか。


「失礼するよ、ヴンダー」

 テヌート伯爵は声を掛けて三秒後にゆっくりとカーテンを開いた。


 ベッドに横たわる青年は、落ち窪んだ目でテヌート伯爵を見上げた。

 グランツたちは、彼のあまりのやつれ具合に絶句した。
 キラキラと輝いていた淡い茶色の髪はボサボサで、なだらかな曲線を描いていた頬はすっかりこけ、いつも笑みを浮かべていた唇は乾いてひび割れていて、顔全体は氷水に浸けたあとのように青い。

 かつて冒険者きってのと呼ばれた好青年の姿は見る影もなく、此処にはただ弱りきった一人の哀れな男が居るだけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!

川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。 だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。 だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。 馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。 俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

処理中です...