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氷竜駆逐作戦(78〜)
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しおりを挟むミハルはリュークに顔を近付け、「どうしたの」と尋ねた。リュークは、あのね、と声を潜める。
「これに入れる?」
これとは、リュークがぽんぽんと叩いた革袋のことである。マジックバッグで宝玉の魔力を遮断できるというのだろうか?
──それは間違いない。間違いなくそうなのだが。
普通、大きな魔力を放つものはマジックバッグに入れられない。魔法がより強い魔法に打ち負けるのが道理であるように、空間魔法も破壊されてしまうからだ。
ただ、その点はあまり心配ないのかも知れないとミハルは思った。常識では有り得ないことだが、リュークのマジックバッグは生物を生きたまま入れられたり、入れたものが腐らなかったり、限度が見当たらないほど膨大な収納力がある。そもそもドラゴン二体を楽々と収納していたことから、宝玉一つを放り込んだところでリュークのマジックバッグに影響はないのだろう。
そう考えはするものの、リュークは先にも同じことを言って、しかしそれが良くないことであるとも自ら説明している。
マジックバッグに入れると、宝玉を見失ったアイスドラゴンが可哀想だと言うのだ。
「宝玉をそこに入れたら、アイスドラゴンが困っちゃうわ。そしたら可哀想ね」
ミハルは、ドラゴン愛好家のようなことを言った。リュークの先の主張を汲み取ったに過ぎないが、リュークは良き理解者の言葉を喜び、何度も頷いた。そして、「だからね」と続けた。
「アイスドラゴンも一緒に入れたら良いよ」
「ああ、神様。なんてこと……」
ミハルは、今度は敬虔な信徒のようなことを言った。確かにそれで解決と言えば解決ということになるのだろうが、もしもアルベルムで起きた過ち──すなわち、誰かがリュークの革袋をひっくり返しでもしようものなら、飛び出したアイスドラゴンによってその土地は一瞬で凍土へと変貌を遂げるおそれがある。
これまで、少なくとも人間から見て長らくの間、アイスドラゴンが人里を荒らすことはなかった。アイスドラゴンと人々は住処を分け、関わらずやってこられた。その状態に戻したいだけだ。なにも一帯の生物を皆殺して大雪原にするような爆弾をこしらえたい訳では無い。
その上、アイスドラゴンと宝玉を引き離すのは可哀想で、アイスドラゴンと宝玉とを一緒にバッグに仕舞い込むのは可哀想ではないというその発想が悪魔と極端な天才のそれである。
保護者であるミハルは、これを褒めるべきか説くべきか迷った。
そこへ、リュークの左隣に座っていたソロウが「ちょっといいか」と割って入る。
「リューク、お前は頭が良いな。ミハル、ここはリュークの言う通り、このバッグに宝玉ごと封じさせてもらおう。王国からの帰りにどこかの雪山で解放して、それで万事解決だ」
「冗談でしょう。危険すぎるわ。しかも、雪山っていったら霊峰以外だと遥か遠くじゃない。かといって霊峰に放したりなんかしたら私達がエルフに殺されるか、最悪戦争になるわよ」
「でも、それしか手は無い。手に入れた宝玉を馬で遠くに運ぶとしたら必ず死人が出るし、必ず何度かは失敗する。もうテヌート領は限界なんだ。さっき避難者の居る広間や食堂を見て回ってきたんだが、もう手段を選べる状態じゃない。一刻も早くアイスドラゴンをどうにかしないと、城にいる体の弱い者や年寄は明日明後日にでも死に始めるぞ。
今は此処を救うことだけを考えて、他の問題は全部後で考えよう」
「そう……。そうね、分かった。リューク、そのバッグにアイスドラゴンを入れましょう」
ミハルは腹を括り、隣のレオハルトとその向こうのグランツにこのことを話した。
二人は驚いた様子だったが、すぐに頷いてテヌート伯爵へ耳打ちした。
テヌート伯爵はすぐに立ち上がると、アルベルム辺境伯の軍事機密にあたる特殊な作戦だの冒険者の特別なスキルで追い払うだのと適当な言い訳を並べ立てて、「この件はグランツ・フォン・ポールマン・アルベルム辺境伯に一任する」と、あっさり纏めて会議を閉会してしまった。
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