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氷竜駆逐作戦(78〜)
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しおりを挟むそういう訳で、リュークも同行することになった。
マジックバッグだけを預かっても良いのではという意見もあったが、このリュークの革袋は非常に謎めいていて、空間魔法を使えるミハルですらどのように扱えば良いか困り果てるほどなのだ。
ヴンダーなどは気味悪がって、触るのも恐ろしいと言う。
「大丈夫か、皆!」
酷い向かい風の中、後ろを振り返ったグランツが大声を掛けた。
すぐ前を行く先頭のレオハルトが火の魔法で雪を溶かして道を作っているので、後続は滑って転ばないように歩くだけである。
貴族たちが別荘地を作るために山道を設けていたのがかなりの幸運であった。大きな貴族用の馬車が通れるよう道幅は広く、路面もなだらかに整えられている。この世に貴族がいてくれて良かったと思うほどに、この山道は有り難い。
レオハルトの魔法であらかた溶けた雪は、さらに器用な魔力操作にて道の脇に除けられている。それでも、やはり湿地が急に冷凍されたためか、雪の下は氷が出来ていて滑りやすい。
「問題ありません、閣下!」
縦一列の隊列で中間に居るソロウが声を張り上げた。
ソロウの前は、昨日に比べると見違えるように顔色も肉付きも良くなったヴンダーを乗せたリンで、ソロウの後ろにはリューク、その後ろにミハル、ギムナックと続いている。
凍てつく風が吹き付けてくるが、雪はそれほどでもない。積雪も平地の方がずっと多い。山の方は緩勾配でも所々岩肌が見えるくらいで、山道の積雪深は大人の膝程度である。
時刻はそろそろ正午。
高低差の大きな距離を短時間で移動すると体調に異変をきたしやすく危険であるが、優秀な男レオハルトはそこまで計算して結界を張っているので、寧ろ冒険慣れした冒険者たちが不思議に思うほど体調に変化はなく、疲労も少なかった。
また、動物や魔物が一切居ないので戦闘の心配がないのも大きかった。ギムナックはドラゴンの気配にのみ警戒すれば良く、これほど楽な山道があるものかと何故か大地神に感謝を捧げている。
リュークはソロウやミハルに教わって手で小さな雪だるまを作りながら歩いている。
リンに跨るヴンダーとたまたま目があったときに雪だるまを見せてみたところ、ヴンダーはぎくりと顔を引き攣らせながら「上手だね」と褒めた。
「ねえ、そのマジックバッグは君が作ったのかい?」
ヴンダーが意を決して話しかけると、ソロウがリュークを自分の前に行かせた。ヴンダーと話がしやすいようにとの配慮だったが、喜ぶリンの尻尾に殴られないよう気を付けなければならない。
「……違うよ」
いつになくたっぷりと考えたあと、リュークは答えた。ヴンダーはてっきり自分の質問が聞こえていなかったものと思って視線を外そうとしていたため、返答があって驚いた。
「えっ、ああ、そう」
誰かに貰ったの? と続けるつもりだった言葉が出てこず、なんとも間の抜けた声だけを発して再び沈黙する。……と思いきや、リュークは作ったばかりの雪だるまをヴンダーへ差し出した。
短い腕では届かない。
ヴンダーも気まずげに腕を伸ばすが、やはり全く届かない。
すると、リンが足を止めた。かと思うと、おもむろに雪を踏んで振り向き、感心したヴンダーが「お利口だな」と褒める前に大口を開け、誰が止める間もなく雪だるまを一飲みにしてしまった。
「リン……」
リュークの驚きとも悲しみともつかない声が風にかき消される。リンはまるでお礼とでも言うようにリュークの頬をベロリと舐め、上機嫌に鼻を鳴らしながら進行方向へ向き直って歩き始めた。
ヴンダーは何と声をかければ良いか分からず、おろおろとリュークを振り向き見下ろしている。
(え……なに、励ますべき? 話しかけないほうが良いの?)
その時、リュークの後ろから一部始終を見ていたソロウが吹き出して笑った。
「ふっ……ははは! 残念だったなリューク! でも、リンは嬉しそうだぞ。次はもっと大きいのを作るか」
リュークはじっと手のひらを見つめていたが、ソロウがそう言うのを聞いてぱあっと表情を明るくした。
(おっ? なんだ、単純な子だなあ)
ヴンダーは面食らいつつ、どこか懐かしいとすら思える純粋なやり取りに、心の安らぎを覚えていた。
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