西からきた少年について

ねころびた

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氷竜駆逐作戦(78〜)

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 ヴンダーは、意識を取り戻したことを後悔した。
 背中と後頭部が酷く痛むが、それよりも目の前で巻き起こっている天変地異のような騒動の方が酷い。

 猛吹雪が下から上へ吹き荒れると、上から下へと吹き降ろされた炎が大気を焼き、その都度どこかで大爆発が起こった。
 剥き出しの地面はごっそり抉れていたり底なしの裂け目が出来ていて、空では今にも落ちてきそうな闇が渦を巻いている。
 右では竜巻、左では落雷が絶え間なく発生し、山は揺れたり揺れなかったり、何より黒いドラゴンと青みがかったドラゴンと、黒っぽい銀色の魔狼とそれらに比べれば小さな小さな辺境伯がもみくちゃに取っ組み合っていて、もう滅茶苦茶の破茶滅茶である。

 自分が九死に一生を得たのか地獄に落ちたのか判断がつかないヴンダーは、恐る恐る後ろを振り返ってみた。

「生きてたか、ヴンダー」 

 雷鳴の合間を狙ったかのようによく通る声がした。ヴンダーの目に涙が浮かぶ。

「僕、生きてんですか?」

「俺が死んでるのでなけりゃ、そういうことになるな」軽い口調で返すソロウだったが、その顔は完全に青ざめている。「こっちへ来られるか?」

「ええ。でも、なんでこんなところに……? 僕は向こうの方に居たはずでは」ヴンダーは匍匐ほふく前進でソロウのいる岩影を目指す。

「爆風や竜巻にちょっとずつ運ばれてきたんだ。本当に運が良いな。おそらくは神の御業だ」ソロウに代わって言ったのはギムナックだった。よく見ると、その向こうにミハルとレオハルトもいる。
 だが、少年の姿は見えない。

「あの子は……?」

 聞くと、ミハルが一点を指さした。

 ヴンダーは導かれるままに視線をやった。

 一面が混沌とした荒野と化した広場を、ふらふらと、あてもないような足取りで歩いているちっぽけな赤いコートの後ろ姿がある。ヴンダーは驚きすぎて声も出せず、ただパクパクと口を動かして少年の行動を見つめる。

 リュークは、本当にただ歩いているだけだった。なのに、竜巻や雷は彼を避け、吹雪と炎は互いに打ち消し合って彼を守っているようにさえ見えた。
 何故歩いているのか──。
 彼の目的は、間もなく明らかになる。

「あっ」

 ヴンダーは自分が声を上げたと思ったが、ソロウもミハルもギムナックもレオハルトも同時に声を発していた。

 ドラゴンたちの足元を飄々と歩いたリュークは、おもむろにしゃがむと、そこに落ちていた革袋を拾い上げたのだ。そして、まわりに散らかっているスライムや石や小枝や菓子の包み紙などのと、地面につき刺さっていた奇妙な案山子かかしや丈夫な泥団子などを暢気に一つずつ革袋に放り込み始めた。

「ああ、リューク……!」

 ミハルが悲痛な声で呟く。
 しかし、当のリュークは何も気にしていないようで、ついでに新しく発見したらしい尖った石を見せつけるように高く持ち上げて、ソロウたちに向けて大きく振っている。

 ソロウたちも手を振り返してやるしかない。

 リンは比較にならないほど巨大なドラゴンたちに果敢に噛みつき、引っ掻き、蹴り上げしている。グランツも一歩も退かず、剣で斬りかかり、殴り付け、踏んづけたり蹴っ飛ばしたりしている。よくよく見ると、リンとグランツが攻撃し合っている瞬間もある。
 二体のドラゴンは示し合わせたかのように強烈なブレスを吐いては互いで相殺している。リンとグランツはその衝撃の中にあっても──グランツの服以外は──ダメージを受けていないようである。

 五人がしばらく感情を失ったような顔で災害と少年を眺めていると、少年はあるところでピタリと立ち止まり、落ちていたスライムを持ち上げた。

 宝玉入りのスライム。

 宝玉の魔力が僅かにスライムを侵食しているのか、無色透明だったはずのスライムが微妙に黒ずんでいた。
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