西からきた少年について

ねころびた

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氷竜駆逐作戦(78〜)

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 残りの寒さを追いやるように空を染め上げた朝焼けのあと、脅威が去ったことを知らしめるかのように朝日が山脈から昇った。

 一行は、崩落した山道に苦戦しながら下山する途中で、しかもそこは山の西側だったので朝焼けしか拝めず残念がったが、仄かな明るさがだんだんと爽やかな朝の明るさへと変わるのを感じて喜びを噛み締めた。
 その後、魔法とグランツの怪力などを惜しみなく使って殆ど山から落ちるように麓へたどり着くと、雪崩や落石を回避するために野営地を少し西側へ移して待機していたテヌート伯爵らが一行を盛大に出迎えた。
 それがなんと、まだ朝のうちのことである。地面も、凍土で生き抜いた屈強な木々や傷んだ草も、どこもかもがじっとりと濡れていたが、もう防寒具は一つも必要なかった。
 テヌート勢の面々は一つ残らず涙に濡れており、啜り泣く音と嗚咽が騒がしいほどだった。

「アルベルム卿! ほ、ほんとうに、本当に……!」

「ああ、テヌート伯爵。脅威は去ったぞ。ヴンダー・トイが実に良く働いてくれた」

 ヴンダー・トイは寝耳に水で飛び上がる。

「ぼ、僕!? 僕は何も……」

「謙遜せずとも良い。体調が万全でない中で意識が朦朧としていたのかも知れないが、確かに君のお陰でテヌート伯爵領は救われたのだ。君は英雄だぞ、ヴンダー・トイよ」

 ヴンダー・トイがアイスドラゴンを退けた──というのは、朝焼けが始まるよりいくらか前に、ヴンダーを除いた冒険者らとグランツとレオハルト、そしてリュークとリンだけで決めた建前である。詳細なことは説明しなくて良いとレオハルトが言った。只々グランツがそのように押し切れば、全てそのように納得されるものであると。

 ヴンダーは困るだろうが、どうせ意識は混濁していたので、担ぎ上げられているうちに上手く洗脳されていくだろう、との見込みであった。実際、小一時間も経たないうちにヴンダーは照れ臭そうに笑うようになった。

「いやあ、僕も無我夢中だったもので殆ど記憶はないんですけどね」

 などと言うたび称賛を浴びている。

「めでたし、めでたし、って感じね。死人が出なくて本当に良かったわ。街には魔法使いが多いらしいから、家屋が腐り果てることもないでしょう」

 すっかり元気を取り戻したミハルが腰に手を当てて言った。ソロウたちもほっとして頷いた。

「本当に良かったよ。王様への遅刻の言い訳も出来たし、後は侯爵領を抜けるだけだ」

「侯爵領か……」ギムナックがソロウを見下ろした。「大丈夫なんだろうな?」

「な、なんで俺に聞くんだよ。まさか、王に呼ばれてる辺境伯を侯爵が止めたりはしないだろ」

「だといいんだが……」

 歯切れ悪く言って目を逸らしたギムナックに、ソロウは苦虫を噛み潰したような顔でため息をついた。

「コウシャク」

 リュークが呟いたので、ギムナックは表情を明るくして、リュークとリンに爵位のことを教え始めた。隣で聞いていたミハルは苦笑したが、止めはしなかった。ギムナックの分かりやすい説明に、リュークたちは揃って首を傾げるだけだった。



 グランツ一行が伯爵とテヌート兵たちから向けられる引っ切り無しの称賛、謝辞、拍手と敬礼の中で休憩をとった後は、野営地で一泊することなく、来た時よりゆったりとした速度でオローマへ帰還した。

 鮮やかな夕焼けを連れて日が沈んだ頃、松明の火だけで輝くオローマの街は大歓声で溢れていた。街の門前には一万近くの避難者と兵士らが集まっており、グランツたちを熱烈に歓迎し、泣きながら礼を述べた。彼らは、ほどなくしてヴンダー・トイのを知ると、ヴンダーを神と崇め奉る勢いで崇拝した。
 ヴンダーは、もはや満更でもない様子である。

 雪に埋まったオローマしか知らないリュークやリンは、飛んではしゃいで、アルベルムの街と同じように地面の煉瓦を踏んで街並みを楽しんだ。

 外壁に取り囲まれたオローマはとても大きな都市で、赤茶色の煉瓦の家と白亜に塗られた建物が美しい。道幅はアルベルムより広く、馬車が通りやすい造りになっている。古く歴史的な建造物も多く、たびたび巨大なグリフォンやドラゴンや偉人の彫刻があって、眺めていると時間を忘れそうになる。
 外壁の門から城へ続く表通りには洒落た外観の店がずらりと並んでいて、平素であればどんなに楽しめただろうと考えずにいられない。

 グランツは、どこかでヴンダーが胴上げされるたびに豪快な笑い声を上げた。
 オローマの危機は去った。人さえ元気であれば、そのあとはどうとでもなるものだ。さらにグランツは、アルベルムから持ってきた分とテルミリアで手に入れた分の大量の物資をテヌート伯爵へ贈り、自らは冒険者が冒険に持っていく程度のものがあれば良いと言って、旅慣れしているソロウに荷物を厳選させた。
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