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無限の迷宮(110〜)
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しおりを挟む最後尾の三人が付いて来ていないことに気づいた他の面々がぞろぞろと引き返してきた。
それから、通路でしゃがみ込んでスライムを眺めるソロウ、ミハルと、その後ろで顔を引き攣らせて突っ立っているフルルを見つけたギムナックが「おーい、どうした?」と声を掛けると、ソロウはスライムに釘付けになったまま手招きをした。
「こいつ、リュークが連れてたスライムだ」
「まさか。何故分かるんだ? 名前でも書いてあるのか? まあ、こんなに変なスライムはそうそういないだろうが……俺は見たことがないぞ」
「ああ、あの時お前は居なかったからな。こいつは『2銀貨』のスライムなんだ」
「……ほ?」
ギムナックは間の抜けた返事をしたが、その隣に居るレオハルトはすぐに合点がいった。周りが「二銀貨?」と怪訝そうに囁き合う中、なるほど、というレオハルトの声を聞いたソロウは、やっと顔を上げてギムナックと兵士らとヴンダーに視線を移し、フルルの鑑定スキルと「2銀貨のスライム」のことを説明したのだった。
説明を聞き終えた全員は、とても信じ難いと言わんばかりの顔付きで穴のあくほどスライムを見詰めた。
見れば見るほどに奇妙なスライムである。これほど荒ぶっている個体が未だかつて存在したものかと思うほどだ。しかもこのスライム、おそらくはもう何十時間も蒸気を上げ続けている。スライムの体力は無限なのだろうか? もしもスライムの体力測定の方法が分かれば、誰かが既に研究しているだろうが──。
この蒸気の正体も不明だ。スライムの体から噴出しているように見えるが、床が溶けて再生してを繰り返しているようにも見える。
ダンジョンを構成している床や壁などは、基本的に壊れない。地面や木々は破壊できるが、この迷路を構成している石材などは切っても殴っても魔法でも壊せないとされているのだ。だというのに、この健気なスライムときたら──。
「この下にリュークが居るとでもいうのか?」
ギムナックは床に張り付いてスライムと床の接地面を見ようとしている。
「一緒に連れて行ければいいけど、さすがに触れそうにないわね」と、ミハル。以前なら絶対に口にしなかったであろう台詞を紡いでいる自覚はない。
「なんだか怖いよ……」
「うん……早く行きましょうよ……」
怯えるフルルに同調するヴンダー。さて、とソロウは無精髭を撫でる。
レオハルトが天井を見上げた。
「ギムナック、この真上は地下一階層のどのあたりですか」
「うーむ、それなんだが──」
と、ギムナックが床に胡座をかいて座り直した。全員がギムナックに注目した。
「地下一階層から四階層までのマップを重ねてみたんだが、どうも綺麗に重ならないんだ。なんというか……階層ごとに広さが違うから確実なことは分からないが、感覚としては階段で真下に移動したはずの場所が、ちょっとズレているような感じだ」
「空間転移のようなものでしょうか?」
「おお! そんな感じだ!」
「しかし、空間転移ともなると膨大な魔力を必要とします。そのような魔力は全く感じられませんでしたが、ヴンダーはどう思いますか?」
急に問いかけられたヴンダーはギクリと驚いて固まったが、やや間を置いて過去の記憶を辿り始める。
迷宮には数多くの仕掛けがある。もちろん、侵入者を転移させる仕掛けも珍しくはない。それらはレオハルトが言うように殆どが魔法仕掛けによる空間転移だが、中には魔力を感知させないような仕掛けもいくつかある。
「そうだとしたら、もう仕様がないですよね。だって、どうせ階段通らなきゃ進めないんだし。それに、通るたびに違う場所になっているならともかく、マップ自体が変わるわけじゃないみたいだし問題ありませんよ。ほら、先へ進みましょう。このスライムは、帰りにリュークと会わせてあげれば良いでしょ」
だいぶ大らかな判断だが、これこそが迷宮攻略のコツなのかも知れない。迷宮では外の常識の多くが失われる。なるほど、それもそうか、と思うメンバーが大半を占めたところで、何気なくスライムに視線を戻したミハルが悲鳴を上げる。
「スライムが消えたわ!」
果たして、スライムが忽然と消えたのではなかった。そうではなく、スライムが溶かそうとしていた床が、ぽっかりと抜けていたのだった。
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