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洞窟の迷路(134〜)
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しおりを挟むヴンダーは訝しがって、兵士たちの間から前方を覗き見た。
(階段じゃなくて、扉?)
本当に扉がある。蛇やトレントの部屋より若干小さな石の扉。何やら絵のような奇妙な文字が刻まれている。
「古代文字……でしょうか」文字の凹凸に触れながらレオハルトが首をひねる。「少なくともエルフ文字ではありませんね。どことなく南方の書体に似ている気がしますが……」
ミハルも文字を見つめて唸る。
「うーん、もしかしたら古代レレミア期あたりの文字かしら? ああ、でも、文法が噛み合わないわね。こことここが似ている気がするのだけど。ヴンダー、ねえヴンダー」
呼ばれて扉のすぐそばまで行ったヴンダーは、二人と同じように文字らしきものの羅列を食い入るように見る。
「これは……ああ、これは……この扉には触れない方が良いですね。さあ、別の道を探しましょう」
あっさりとした口調で言い捨てるなり、さっさと踵を返したヴンダー。逸早くこの場を離れようとする貧弱な青年の行く手を遮ったのはギムナックとソロウだった。
赤髪に無精髭と、スキンヘッドの巨漢。無言だとガラの悪そうな風貌の二人組である。ヴンダーはアイスドラゴン駆逐作戦に駆り出されたことをまだ根に持っていて、いつまた無理難題を押し付けられやしないかと怯えている。
「や、やめてくださいよ、変なことを考えるのは。僕はせっかく助かった命を大切にすると決めたんですから」
「いやいや、まだ何も言ってねえだろうが。というか、この扉を開けない理由を教えてくれ。あの文字が読めるのか?」
「読めませんよ。読めるわけがない。だって、あれは悪魔の文字ですからね!」
「なんだって?」
ギムナックとソロウは顔を見合わせる。悪魔の文字──昔、お伽噺で聞いたような言葉だ。
まさか、と眉を顰めるレオハルトとミハル。
リンは地面に穴を掘り、そこに大きな尻尾を丸めながらお尻を入れて座ってくつろいでいる。緻密な設計のもとに拵えたが如く収まっているところは、実に心地が良さそうである。リュークも真似をしようとしたが、フルルが「手が汚れちゃうぞ」と小さな手を取って止めた。
悪魔の文字とは、ステータスなどを伝える〈聖彫文字〉と、ある点において類似する特殊な文字である。
聖彫文字がステータスの持ち主、或いは専門の解読スキルを持つ神官か、もしくは特別な識字魔道具か最上位の鑑定スキルでしか読み解くことが出来ないのに対し、悪魔の文字は知能の高い魔物にしか読めないとされている。両者に類似する点とは、法則を持つ言語ではないという点である。どちらも言語であって、人が知能で理解出来る言語ではないのだ。
勿論、ヴンダーにだって解読は不可能だ。何せ、悪魔の文字は魔物にしか読めないのだから。
しかし、それでもヴンダーには確信がある。
経験で得た知識が、言語など解さずとも確信させる。
「この文字が刻まれた扉の向こうには、ほぼ確実に〈祭壇〉がありますよ。絶対に避けた方が良い。じゃなきゃ最悪この中の何人かは供物にされるでしょうね。ああ、僕は魔力がないから相手にはされないかも知れません。でも、多分巻き込まれて死にます。絶対死ぬ。間違いなく死ぬ。ということで、僕ぁ行きませんからね。実は祭壇アレルギーなんです。近付くだけで、ああ、ほら、じんましんが」
ソロウとギムナックが呆れ返って溜息を吐き、兵士らに同意を求めた。すると、兵士らは「男らしくない」「祭壇ごとき駆け抜ければ問題ない」「悪魔がなんぼのモンじゃい」「痒み止めを塗るか?」などと口々に批判を始めた。だが、ヴンダーにとって批判などどこ吹く風で、一刻も早く離れようとするヴンダーのローブのフードを掴んで止めるギムナックは気まずげにレオハルトに視線を送る。
レオハルトはミハルを見下ろして、扉を見上げて、リンの顎下に横たわる寝袋を眺めて、少しして、やがて何かを諦めたようにリュークを見下ろした。
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