西からきた少年について

ねころびた

文字の大きさ
138 / 199
洞窟の迷路(134〜)

137

しおりを挟む


「起きないよ」

 そう返されて、大人たちは言葉を失った。
 起きない、の意味するところを必死で考える。まさか、このまま一生……?

「どうして起きないの?」

 男たちより辛うじて早く冷静になったミハルが尋ねた。リュークは数秒言葉を選んでからミハルを見上げる。

「プーパと話してる」

悪魔の人形プーパと? 閣下は今、プーパとお話をしているの?」

「そうだよ。あのね、プーパに回復薬をあげたら?」

「……うん?」

 先ほどもそう言っていた。「プーパに回復薬」とは一体どういうことであろうか? 今度はギムナックが尋ねてみる。

「そのプーパってのは、閣下の腕にある黒い部分のことか?」 

「かっかのプーパにしたんだ。腕をくっつけるから、プーパはかっかと話すんだ。そうじゃないと困るから」

「ほほう……?」

 ギムナックは名探偵のように腕を組み、顎を撫でて寝袋を見下ろした。あまり意味が分からない。が、リュークが一生懸命に説明しようとしてくれたことと、他にも少しは分かるところがある。
 つまり、プーパで腕をくっつけるためには条件があるのだ。そして、その条件とはおそらく。

「精神の対話でしょうか」

 レオハルトが口を開いた。
 精神の対話とは、自身の内側にあるとされる〈精神的空間〉で行われる他者との対話をいう。人の中でこれが行われることは滅多にないものの、有名なところで一つ例を挙げるとするならば、一般的に「神のお告げ」と呼ばれるものがそれに当たる。神が心に直接語りかけてきて、予言や天啓をもたらすというあれである。

 しかし、これまでプーパと精神の対話を行ったなどという記録はどこにもない。そも殆ど泥人形でしかないプーパが何を喋るというのだろうか? あったとして、呪詛なのでは?

 いや寧ろプーパではなく対話の相手が悪魔であるというなら有り得る話だ。何故と言えば、悪魔が人の精神を乗っ取ったという事件は度々起きているし、「神のお告げ」とは比較にならない悪質なスキル〈精神操作〉は字面から察せられる通りの最悪な能力であり、そのうえ悪魔の格によってはほぼ不可避の外道技であるからだ。

 さらにいえば、悪魔でなくとも吸血鬼や淫魔などは人の心をたぶらかす術に長けている。まあ、吸血鬼はともかく、淫魔にグランツが誘惑されるとは誰も思わないが、それでもよりはまだ可能性があるのではないだろうか。

「プーパが話してるところを聞いたことがないんだが、精神的空間では言語は関係ないんだっけか?」

 ソロウが寝袋からグランツを引きずり出して腕を見ながら首をひねった。グランツが着せられている新しいシャツは、怪我の具合を見るために右肩から先が切り取られている。腕についている美しい筋肉こそ衰えている様子はないが、気のせいだろうか、肘下の黒い線が若干歪んでいる。

「言語に依らず、心もしくは感情、思念が直接伝わるものと仮定されています。しかし、プーパに対話の概念があるとは思えません。もしあるとするなら、それはプーパに感情や思念があるということになりますから」

「難しいわね。魔力傀儡に過ぎないプーパに感情や思念……ううん、やっぱり無いんじゃないかしら。でも、そうね、プーパには同じ魔力傀儡であるゴーレムが持つ「かく」の代わりに魂が混ぜられているらしいから、もしかしたら、もしかするのかも? だとしたら……閣下はプーパとどんなお話をしているのかしら、リューク?」

「えっと、仲よくするか、しないか、するか、しないか、体をもらう、あげない、渡す、ことわる──って言ってるよ」

 リュークはグランツのところまで行って、革袋から「救急セット」の木箱を出した。思いがけない少年の返答と行動に大人たちは反応できなかった。ドッ、ドッ、と驚きから心拍数が急激に上昇する。心臓に悪い、と胸を抑える大人たちの様子に気付きもしないリュークは、木箱を開けてどれが回復薬かと瓶を一本一本見比べた。

「殺す、殺さない、殺すって言ってるよ。ねえ、回復薬はこれ?」

 リュークは赤い液体の小瓶を持ち上げてソロウに見せた。ソロウは酷くどもりながら「薄い、青色のほう」と答えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!

川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。 だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。 だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。 馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。 俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

処理中です...