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元魔王城(142〜)
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しおりを挟む祭壇に横たわったリッチロードは、己の末路を承知していた。
それは、誰が見ても理不尽な結末だと思うだろう。しかしリッチロードからしてみれば不思議なもので、これが当然の成り行きであることを初めから知っていたような心持ちなのだった。
上を見れば、どこまでも続く真っ黒な空間が全ての未練を吸い取ってくれるかのようだった。まるで自分が負の感情などとは縁遠い存在であると錯覚するような、清々しい、正しく胸のすく思いがした。
「辛いことはないだろう。お前はよくやったし、これからも悪いことにはならない」
時の神はとても慈悲深くて中身のないようなことを言った。だが、どんなに空っぽであっても神の言葉とは大抵ありがたく、そしてこの世で最も慈悲深いものなのだ。リッチロードは痛く感動して頭蓋骨を動かすと、供物としては減点とまで言われた大鎌を大事そうに抱え直して、それきり動くのをやめた。
丘のように巨大な祭壇に、巨大なリッチロードと巨大な鎌。
リュークは魔法の神に外套のフードを掴まれたまま、次に起こることを待ちわびている。リンも隣で嬉しそうに息を切らしている。
ふと、向こうの方からソロウたちの声が近付いてきた。魔法の神が驚いて振り向くと、一団が目を閉じたまま少しずつこちらへ進み始めている。
「嘘だろ? お前が呼んだの?」
「呼んでないよ」
リュークが答えると、魔法の神は怪訝そうにしながら長い人差し指をくいっと左へ向けた。
アンデッドよろしく不気味な姿勢で迫りつつあったソロウたちが、一人残らず急に左へ進路を変えて遠ざかっていく。リュークは面白いような寂しいような気分で彼らを見送り、リンとともに再びリッチロードの祭壇を見つめた。
リューク少年は、リッチロードを供物とした召喚の儀式がどのように派手なことになるのだろうと期待していた。ところが、リッチロードが現れたときのような盛大な演出は少しも見られなかった。それというのも、ただ時の神が右手で羽虫を払うような仕草をしただけで、リッチロードの姿は影も形も見えなくなってしまったのである。
少年はがっかりしたが、それでも後に残った巨大な祭壇の下まで魔法の神とリンと連れ立って歩いて行った。
そして、両腕を伸ばすと──。
ひゅう、と微かな音を立てて落ちてきたスライムが、どこか紫がかったような色の液体じみた体を突き破りそうなほど激しく二つの眼球を泳がせた。リュークは手の中のスライムを抱き締め、「おかえり」と微笑む。
それを見た魔法の神が腰に手を当ててほっと息を吐く。
「大切にしてやれよ。そいつの為に、かなりのお釣りを調整してやったんだからな。……あ、大切にしてやると良いんじゃないかってことだぞ。別に、どうしても大切にしろとは言ってないからな。それにしたって可愛いスライムじゃねえか。無事に戻って良かったなあ」
「うん、ありがとう」
「お、おうよ。時の神よ、礼を言われたぞ!」
魔法の神が興奮気味に言うと、時の神は照れ隠しのように「ふん」と顔を背けた。しかしすぐにリュークのそばへやって来ると、ちょんと指先でスライムを突付き始めた。
「スライムは良いものだ。一匹でも良いが、沢山居ても良い」
「バッグに入れてるんだ。いっぱい出すと、建物が壊れるから」
「ああ、そのようだな。建物を壊すまいとすることもまた良いことだ。人の子よ──」
時の神は少し屈んでリュークと視線を合わせた。リュークの澄んだ瞳が危うく時の神を釘付けにしようとするが、時の神は一瞬切なげに視線を切って「また会おう」と言うと、くるりと背を向けた。
魔法の神はスライムを揉むように撫で、リンを撫で、リュークの肩を軽く叩いて明るい笑顔を見せた。
「次会うときまでに、ちっとは……いや、出来たらオベンキョーしとけよな! あと、あそこで歩き回ってる奴らには嫌でもベンキョーしろって言っといてくれ。お前に難しいことは、周りが簡単にすりゃ良いんだから。……そんじゃ、またな。この次はもっとゆっくり話そうぜ」
魔法の神が背中を向けて時の神と並ぶと、またあの眩しい光が現れて、二つの神の姿はその光の中に溶け込み、あっという間に黒い空間ごと収縮して消え去ってしまった。
残されたリュークは、巨大な祭壇に殆どの空間を奪われた元の部屋で立ったまま、そっとスライムを撫で回しつつ、隣のリンと顔を見合わせた後にくるりと振り返り、そこら辺で壁や祭壇にぶち当たって痛がるソロウとミハルとギムナック、レオハルトにヴンダー、フルル、十名の兵士らの苦難を眺めて笑うのだった。
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