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元魔王城(142〜)
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結局、それぞれ二度の睡眠をとった一行は、丁度リュークとフルルが目を覚ましたところで話し合いを行った。
ヴンダー曰く、次の部屋には〈ニジメ〉と〈ネペルン〉なる二体の階層主が居るという。
最悪じゃないか、と思ったのはレオハルトだけではない。特にネペルンは冒険者や兵士ならその名を知らぬ者はないほど有名な魔物で、雲を操って降らせる大雨は時に大規模な水害を引き起こすほどの脅威だ。
また、あまり知られていないニジメという魔物は、知識のない者にとってはネペルンより余程脅威となり得る魔法を使うという。その魔法というのが、闇魔法か時間魔法の一種であるとされる〈即死魔法〉である。これを聞いたとき、すかさず兵士の何名かは恐れ慄き慌てたが、ヴンダーは次のように言って宥めた。
「あ、心配いりませんよ。ニジメ対策は至って簡単ですから」
その対策とは、波長の異なる防御結界を二重に張るということであった。分かりやすく説明すると、ミハルとレオハルトの防御結界を重ねて張ることによって防御結界の目が埋まり、即死魔法を防ぎ切ることが出来るという訳である。ニジメ自体の防御力は皆無に等しいので、あとは適当に攻撃すれば倒せる。
問題はネペルンの方だった。これはネペルンの降らせる大雨が部屋を満たす前に短期決戦で倒す他ないらしかった。ただ、部屋はそれなりの広さがあるので慌てる必要はなく、しかもリンの攻撃力があれば討伐は難しくないだろうという見立てであった。
こうして話し合いも纏まろうかという頃、ふとミハルが閃いてリュークを見た。
「もしかして、あなたが言っていた『虹と雲の居たところ』って、この部屋のこと?」
「うん」と、リュークは迷いなく答えた。まるでお伽噺とは真逆のような魔物たちである。ミハルは「そうなのね」と引きっつた笑みを浮かべて会話を終わらせた。
さて、このように十分な話し合いの末、出来る限りの対策をしてボス部屋へ挑んだ一行。
彼らを出迎えたのはヴンダーのもたらした事前情報の通り、やや真っ直ぐな虹──或いは、奇妙な色味の縒れた手拭いと言った方が近い──にフサフサ睫毛を持った大きな目を一つ縫い付けたような不気味なニジメと、どう見ても小さな雷雲の魔物ネペルンに相違なかった。
対策の甲斐あり、ニジメの即死魔法はミハルとレオハルトの結界によって尽く弾かれ、無効化された。そしてニジメは呆気なく兵士に斬られ、濁った虹色の血を流しながら黒い床に落ちて絶命した。
ネペルンの方は、なんとリンが興味を示さず予想外に手こずる羽目になった。
部屋に雨水が溜まって踝まで浸かり始めた頃にはフルルが懸命に叫んで呼びかけたが、それでもリンは座ったまま、舐めても舐めても濡れ続ける自分の胸と前足の毛繕いに余念がなかった。
「ネペルンが嫌いなのか……?」
ナイフを手にしたフルルが愕然としながら呟くと、リュークがミハルのローブの袖を引いた。ミハルは戦闘の最中であっても半分癖のように身を屈めて「なあに?」と耳を傾けた。
「トレントはね──」
リュークに耳打ちされて、ミハルは顎が外れるかと思うほど驚き、握っていたトレントの杖とネペルンとを見比べた。
ネペルン目掛けてソロウが斬りかかり、ひらりと避けられ、ギムナックの放った矢は雲の体を貫通し、兵士らもあらゆる戦法で攻撃をしかけては雷で反撃されている。レオハルトも魔法で対抗するが、ネペルンは上手いこと防御結界を多重展開してなかなかダメージを与えられない。ネペルンの優れた結界技術これこそがニジメと同居できた理由だろう。
部屋の片隅からは、寝袋と一緒に縮こまるヴンダーのか細い声援が聞こえる。
やがて意を決したミハルは、トレントの杖を振り上げると一直線に駆けて集団の中へと突っ込み、猛烈な勢いでネペルンを殴打した。
「ゥあ゙あ゙あ゙ぁぁああああああ!!」
トレントの叫喚が部屋に響き渡った。
見ると、ネペルンが若干小さくなって水に浮いている。ミハルはトレントの杖に一度視線を落として悲しそうな老爺の顔を確認すると、再び気合を入れて杖を振り上げた。
こうしてみると、この杖は鈍器として何の不足もないように思えた。それどころか、不本意な事に極めてしっくりきた。当然である。何故ならば、これこそがトレントの杖の正しい用途であるからだ。
「ゥあ゙あ゙あ゙ぁぁああああああ!!」と、二度、三度──ミハルがネペルンを殴る度に悲鳴が上がる。それでも殴ることをやめないミハル。
確かついさっきまで魔法使いだったはずの女の狂気に圧された仲間達が後退りを始める中、ようやくネペルンが事切れると同時に部屋の扉を塞いでいた結界が消え、すると夢から覚めたようにミハルが正気に戻り、そのずっと後ろで観戦していたリュークが満足げに頷き、やっと束の間の平穏が戻って来たのだった。
ヴンダー曰く、次の部屋には〈ニジメ〉と〈ネペルン〉なる二体の階層主が居るという。
最悪じゃないか、と思ったのはレオハルトだけではない。特にネペルンは冒険者や兵士ならその名を知らぬ者はないほど有名な魔物で、雲を操って降らせる大雨は時に大規模な水害を引き起こすほどの脅威だ。
また、あまり知られていないニジメという魔物は、知識のない者にとってはネペルンより余程脅威となり得る魔法を使うという。その魔法というのが、闇魔法か時間魔法の一種であるとされる〈即死魔法〉である。これを聞いたとき、すかさず兵士の何名かは恐れ慄き慌てたが、ヴンダーは次のように言って宥めた。
「あ、心配いりませんよ。ニジメ対策は至って簡単ですから」
その対策とは、波長の異なる防御結界を二重に張るということであった。分かりやすく説明すると、ミハルとレオハルトの防御結界を重ねて張ることによって防御結界の目が埋まり、即死魔法を防ぎ切ることが出来るという訳である。ニジメ自体の防御力は皆無に等しいので、あとは適当に攻撃すれば倒せる。
問題はネペルンの方だった。これはネペルンの降らせる大雨が部屋を満たす前に短期決戦で倒す他ないらしかった。ただ、部屋はそれなりの広さがあるので慌てる必要はなく、しかもリンの攻撃力があれば討伐は難しくないだろうという見立てであった。
こうして話し合いも纏まろうかという頃、ふとミハルが閃いてリュークを見た。
「もしかして、あなたが言っていた『虹と雲の居たところ』って、この部屋のこと?」
「うん」と、リュークは迷いなく答えた。まるでお伽噺とは真逆のような魔物たちである。ミハルは「そうなのね」と引きっつた笑みを浮かべて会話を終わらせた。
さて、このように十分な話し合いの末、出来る限りの対策をしてボス部屋へ挑んだ一行。
彼らを出迎えたのはヴンダーのもたらした事前情報の通り、やや真っ直ぐな虹──或いは、奇妙な色味の縒れた手拭いと言った方が近い──にフサフサ睫毛を持った大きな目を一つ縫い付けたような不気味なニジメと、どう見ても小さな雷雲の魔物ネペルンに相違なかった。
対策の甲斐あり、ニジメの即死魔法はミハルとレオハルトの結界によって尽く弾かれ、無効化された。そしてニジメは呆気なく兵士に斬られ、濁った虹色の血を流しながら黒い床に落ちて絶命した。
ネペルンの方は、なんとリンが興味を示さず予想外に手こずる羽目になった。
部屋に雨水が溜まって踝まで浸かり始めた頃にはフルルが懸命に叫んで呼びかけたが、それでもリンは座ったまま、舐めても舐めても濡れ続ける自分の胸と前足の毛繕いに余念がなかった。
「ネペルンが嫌いなのか……?」
ナイフを手にしたフルルが愕然としながら呟くと、リュークがミハルのローブの袖を引いた。ミハルは戦闘の最中であっても半分癖のように身を屈めて「なあに?」と耳を傾けた。
「トレントはね──」
リュークに耳打ちされて、ミハルは顎が外れるかと思うほど驚き、握っていたトレントの杖とネペルンとを見比べた。
ネペルン目掛けてソロウが斬りかかり、ひらりと避けられ、ギムナックの放った矢は雲の体を貫通し、兵士らもあらゆる戦法で攻撃をしかけては雷で反撃されている。レオハルトも魔法で対抗するが、ネペルンは上手いこと防御結界を多重展開してなかなかダメージを与えられない。ネペルンの優れた結界技術これこそがニジメと同居できた理由だろう。
部屋の片隅からは、寝袋と一緒に縮こまるヴンダーのか細い声援が聞こえる。
やがて意を決したミハルは、トレントの杖を振り上げると一直線に駆けて集団の中へと突っ込み、猛烈な勢いでネペルンを殴打した。
「ゥあ゙あ゙あ゙ぁぁああああああ!!」
トレントの叫喚が部屋に響き渡った。
見ると、ネペルンが若干小さくなって水に浮いている。ミハルはトレントの杖に一度視線を落として悲しそうな老爺の顔を確認すると、再び気合を入れて杖を振り上げた。
こうしてみると、この杖は鈍器として何の不足もないように思えた。それどころか、不本意な事に極めてしっくりきた。当然である。何故ならば、これこそがトレントの杖の正しい用途であるからだ。
「ゥあ゙あ゙あ゙ぁぁああああああ!!」と、二度、三度──ミハルがネペルンを殴る度に悲鳴が上がる。それでも殴ることをやめないミハル。
確かついさっきまで魔法使いだったはずの女の狂気に圧された仲間達が後退りを始める中、ようやくネペルンが事切れると同時に部屋の扉を塞いでいた結界が消え、すると夢から覚めたようにミハルが正気に戻り、そのずっと後ろで観戦していたリュークが満足げに頷き、やっと束の間の平穏が戻って来たのだった。
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