西からきた少年について

ねころびた

文字の大きさ
170 / 199
元魔王城(142〜)

169

しおりを挟む

 トレントも吸血鬼も、自分を装備品に変身させた犯人である少年のことには触れようとしない。被害の度合いからすれば罵詈雑言のかぎりを尽くしても到底まかなわれない理不尽のはずだが、なんとも可笑しなことだ。また、杖とマントのこの態度こそ、周りがこの件において少年の関与を信じ切れない要因ともなっている。

「あなた、本当にさっきのヴァンパイアなのよね?」

 ミハルはいよいよ倒れそうになりながらも、気を紛らわせるためにマントへ話しかけた。

「いかにも」と、吸血鬼はマントをぴんと張って言った。

「もとに戻して欲しいって言わないのは何故? ずっとマント姿のままで構わないの?」

「ははは! 言えるものか! これは因果応報、つまり私が不届きな行いをしたが故の相応しき処遇である。それに、私は好きでマントになった訳では無いが、こうしてマントとなったからには気品あるマントでいたいと考えているのだ。ことを犯しておいて文句を垂れるなど、みっともない真似はしたくないものだね」

「ああ……そう……」

 ミハルは余計体調不良が悪化した気がして、ついにトレントの杖を絨毯について歩く。杖が絨毯を踏むたび、杖から老爺の嗄れた声が上がる。吸血鬼は因果応報だと言ったが、一方のトレントはただ持ち運べるようにというだけの度し難き発想で杖にされたのではなかったか。しかも、トレントは一行に言いたいことがあるといって、「水のやり過ぎが……」と、開口一番に目的を遂げた筈だが。トレントよ、良いのかそれで。ミハルはちらりと思ったが、口には出さずにおいた。

 城の廊下はまだ続いている。遥か向こうに左へ折れる曲がり角があるが、そこまでもまだ遠い。両側には相変わらず度々扉があって、いくら体調が優れずとも興味を惹かれる。しかしヴンダーやギムナック曰く、部屋には罠がある可能性が高いので絶対に入るなと釘をさされている。特にヴンダーはこの迷宮の理不尽なのろいについて身を持って知っているので、しつこいくらい何度も注意を促した。
 それでも、好奇心の化身のようなリュークとリンがよく我慢して開けずにいるものだとミハルは感心する。


 ──と、それもここまでのことだった。

「リューク!」

 ギムナックの悲鳴が聞こえて、後方にいた者たちは一斉に構えた。

「どうした!?」

 ソロウが大声で尋ねると、前方から回答ではなく「部屋へ入るぞ!」という指示が返ってきた。どうやら、リュークが左手にあった部屋の扉を開けて入って行ったらしい。
 一行は、もはや躊躇うことなく部屋へ突入した。


 勇敢な兵士たちは立ち止まることなく部屋の奥まで押し入ろうとしたが、暫く突進してからぱたりと足を止める。

「……広いな」

「広いですね……しかも、なんだか嫌な予感……」

「罠は無さそうだが、ここは……?」

 中年の兵士と、ヴンダーと、ギムナックが言って部屋中を見渡した。
 床には廊下と同じく黒ずんだ赤の絨毯が敷いてあって、古城らしく石壁のしっかりとした内装である。中央に白い天蓋付きのベッドがあるが、支柱が折れるほど朽ちていて、とても寝られそうにない。まるでアンデッドの住処となったかのような朽廃ぶりだ。
 ベッドの近くには、ひっくり返った木製のテーブルと、破れたソファがいくつか乱雑に置かれている。窓はどこにもなく、奥の壁にすすだらけの暖炉が見える。暖炉の左右に大きな絵画がくすんだ金縁の額に入れて飾ってあるようだったが、汚れていて殆ど見えない。もしかしたら形だけで、額には絵画など入っていないともつかない。

 リュークはリンと並んで暖炉の前に立っていて、全員が部屋へ入りきると振り向いて手招きした。

「ヴンダー、ヴンダー」

「え……っ! ぼ、僕!?」

 ヴンダーは、少年からの思いがけない指名に飛び上がるほど驚いた。少年は手招きを続けている。ヴンダーは、フルルからの催促の視線に怖怖としながら、少し背中を丸めて暖炉へ向かった。


「ど、どうしたの……?」

 震えながら聞くと、リュークは暖炉を指さして「入って」と淡白に言った。

「どこに……って、えっ、そこ!? そこ、暖炉ですけど!? しかも下手したら大陸で一番煤を溜め込んだ暖炉ですけど!? 一体何を長いこと燃やし尽くしたらそんなに煤が出るかっていうくらい煤しかないんですけど!?」

「ヴンダーの魔力」

「こんな量の煤、何かの工場でしか……ん? ……ふぁっ!? ぼ、ぼぼぼ、ぼくのまりょく……? 『』……?」

 沈黙が降りた部屋に、上機嫌なリンの激しい息遣いだけが響いた。
 
 
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!

川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。 だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。 だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。 馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。 俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

処理中です...