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元魔王城(142〜)
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しおりを挟む暖炉の中の空間は、こんもりと積み上がった真っ黒な煤で殆ど埋まっている。
すぐさまギムナックとミハルとレオハルトとヴンダーが集まり、煤をじっと見つめて魔力を探ったり、手で摘んだり、手の甲に塗り伸ばしたり、匂いを嗅いだり、舐めたりして解析を始めた。
「煤に毒性は無い。燃焼系の罠も無し。だが、確かにどう見ても自然に溜まっていった量じゃないな」と、ギムナックは暖炉の周囲までくまなく観察して言った。ミハルは「そうね」と相槌を打った。
「匂いも味もただの煤だわ。魔力も感じられない……気がするけど、どうかしらレオハルト?」
「魔力そのものは残っていませんが、残滓のような気配がありますね。しかし、それがこの煤に混じるものなのか、暖炉もしくは部屋全体に散乱しているものなのかは判断がつきません。ヴンダーは何か感じませんか?」
「えっ! いや、何も! っていうか、冗談でしょう? ねえ、冗談だよね?」
ヴンダーがリュークを振り向いて言うと、リュークは「じょうだん?」と小さく首を傾げた。
「ヴンダーの呪いを解いてあげたいんだって、ソロウたちがね」
ね? と話を振られたソロウは吃驚して口を引き結んだまま瞬きを繰り返した。ソロウの隣に立つフルルと周りに居る兵士たちが「何のことだ?」「知らん」「テヌート伯爵領でそういう話をしていたような」と囁き合う。ソロウはにわかに全身から冷や汗が噴き出してくるのを感じ、同じく顔色を失っていくミハルとギムナックと目配せし合って息を呑んだ。
(もしかしなくても、雪山に登る前に話してたこと……だよな?)
確かに、雪山の麓の野営地で足湯に浸かりながらそのような会話をした覚えがある。だが、何故、今、この時に──?
まさか、そのためにここへ来たとでも言うのか。憐れなヴンダー・トイに掛けられた呪いを解くために?
「さすがに……冗談だろ……?」
思わず呟くと、リュークはまたしても「じょうだん?」と首を傾げ、真似をして首を傾げるリンと相談でもしそうに顔を見合わせた。
ソロウとミハル、ギムナックは瞬時に頭を殴られたような衝撃を受け、世界が揺れたかのような目眩を覚える。
(やばいぞ、やば過ぎるぞ、これは……! 俺達が呪いを解いてやりたいって言っただけで、わざわざ此処へ来るよう仕向けたのか? だとすれば、一体いつから? 侯爵領前のダンジョン入口に突っ込んで行ったのも此処へ来るためか? あそこから元魔王城に繋がっていることを初めから知っていて? いや……有り得ないだろう! しかし──)
これが事実であるならば、なんと恐ろしいことか。そして、リューク少年のなんと優しく健気で、正直で、誠実なことか。ここは感動に身を任せて涙し、少年を心底から褒め称えてやりたい。が、反面、これが事実であるならば、地上に出た途端に極刑に処される可能性すらある大罪を今まさに犯している最中ということになる。
本来入らずとも良い迷宮へ入って長らく出てこないとなると、王に召集され王都へと向かっていた辺境伯と少年を拉致した犯人とされてしまう可能性が高いということである。
うう、とトレントの杖のような嗄れた声が、苦悩を表現するかのように三人の口からこぼれ落ちた。
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