西からきた少年について

ねころびた

文字の大きさ
171 / 199
元魔王城(142〜)

170

しおりを挟む

 暖炉の中の空間は、こんもりと積み上がった真っ黒なすすで殆ど埋まっている。
 すぐさまギムナックとミハルとレオハルトとヴンダーが集まり、煤をじっと見つめて魔力を探ったり、手で摘んだり、手の甲に塗り伸ばしたり、匂いを嗅いだり、舐めたりして解析を始めた。

「煤に毒性は無い。燃焼系の罠も無し。だが、確かにどう見ても自然に溜まっていった量じゃないな」と、ギムナックは暖炉の周囲までくまなく観察して言った。ミハルは「そうね」と相槌を打った。

「匂いも味もただの煤だわ。魔力も感じられない……気がするけど、どうかしらレオハルト?」

「魔力そのものは残っていませんが、残滓ざんしのような気配がありますね。しかし、それがこの煤に混じるものなのか、暖炉もしくは部屋全体に散乱しているものなのかは判断がつきません。ヴンダーは何か感じませんか?」

「えっ! いや、何も! っていうか、冗談でしょう? ねえ、冗談だよね?」

 ヴンダーがリュークを振り向いて言うと、リュークは「じょうだん?」と小さく首を傾げた。

「ヴンダーののろいを解いてあげたいんだって、ソロウたちがね」

 ね? と話を振られたソロウは吃驚して口を引き結んだまま瞬きを繰り返した。ソロウの隣に立つフルルと周りに居る兵士たちが「何のことだ?」「知らん」「テヌート伯爵領でそういう話をしていたような」と囁き合う。ソロウはにわかに全身から冷や汗が噴き出してくるのを感じ、同じく顔色を失っていくミハルとギムナックと目配せし合って息を呑んだ。

(もしかしなくても、雪山に登る前に話してたこと……だよな?)

 確かに、雪山の麓の野営地で足湯に浸かりながらそのような会話をした覚えがある。だが、何故、今、この時に──?

 まさか、そのためにここへ来たとでも言うのか。憐れなヴンダー・トイに掛けられた呪いを解くために?

「さすがに……冗談だろ……?」

 思わず呟くと、リュークはまたしても「じょうだん?」と首を傾げ、真似をして首を傾げるリンと相談でもしそうに顔を見合わせた。
 ソロウとミハル、ギムナックは瞬時に頭を殴られたような衝撃を受け、世界が揺れたかのような目眩を覚える。

(やばいぞ、やば過ぎるぞ、これは……! 俺達が呪いを解いてやりたいって言っただけで、わざわざ此処ここへ来るよう仕向けたのか? だとすれば、一体いつから? 侯爵領前のダンジョン入口に突っ込んで行ったのも此処へ来るためか? あそこから元魔王城ここに繋がっていることを初めから知っていて? いや……有り得ないだろう! しかし──)

 これが事実であるならば、なんと恐ろしいことか。そして、リューク少年のなんと優しく健気けなげで、正直で、誠実なことか。ここは感動に身を任せて涙し、少年を心底から褒め称えてやりたい。が、反面、これが事実であるならば、地上に出た途端に極刑に処される可能性すらある大罪を今まさに犯している最中ということになる。

 本来入らずとも良い迷宮へ入って長らく出てこないとなると、王に召集され王都へと向かっていた辺境伯と少年を拉致した犯人とされてしまう可能性が高いということである。

 うう、とトレントの杖のようなしゃがれた声が、苦悩を表現するかのように三人の口からこぼれ落ちた。
 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!

川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。 だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。 だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。 馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。 俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

処理中です...