西からきた少年について

ねころびた

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元魔王城(142〜)

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「心配いりませんよ。ヴンダーの解呪については皆が望んでいます。貴方たちに責任が及ぶことはないでしょう」

 察しの良いレオハルトが簡単に断言してみせた。しかし、ソロウたちは安堵の色を見せず、苦い顔をする。

「いや、構わねえんだ。出来ることなら王都へ行くよりも先にどうにかしてやりたいって考えてたのも事実だからな。もちろん、こうなるとは思ってなかったが……」

「そうよ。私達、確かに話していたのだもの。リュークは私達の気持ちを一番に汲んでくれただけだわ」

「ああ、寧ろ喜ぶべきだ。これで呪いについて何か分かるかも知れない。どうせ成るようにしか成らないんだから、後のことは後で考えよう」

 ソロウ、ミハル、ギムナックが段々と表情を明るくしながら言った。レオハルトはすっかり感心してほっと息を吐いた。特にギムナックの柔軟さは、堅物といわれていた数年前なら考えられないほどだ。それか、リュークと出会ってより寛容になったように思われる。
 ヴンダーは感涙にむせび過ぎて顔面はぐしょぐしょで、しゃくりあげるばかりで声も発せない様子である。兵士たちやフルルも「本当に良い奴らだ」「さすが保安冒険者」「まったく、お人好しだね」と呆れながらも好感を隠さない。ソロウたちは「すまねえ」と照れ隠しに苦笑した。それからリュークに向き直って、無邪気で優しいこの少年の頭を撫でる。

「ありがとうなあ、リューク。ずっと考えててくれたんだよな」

 どうやって迷宮の内部を知り、ここを突き止めることが出来たのかとは聞かない。聞こうと思えば聞けたのかも知れないが、とにかく聞く気がしないのだ。

 異なる迷宮がこのように繋がるのが不自然極まりないというのは明白で、かといって故意に繋げることなど発想すら出来ないのが普通である。この元魔王城とされる迷宮の位置は王都の遥か東側だ。王都からの距離は、王都の遥か西側にあるアルベルムの街よりも遠いほどなのだ。どうやって魔法のたぐいで実現し得るものか。

 聞きたいが、聞かない。

「この黒い煤がヴンダーの魔力だって言ったな。これをどうにかしたら魔力が戻るのか?」

「うん。でも、呪いを解かなくちゃ」

「んん? この魔力の煤と呪いはまた別なのか? どうやって呪いを解くんだ?」

「ヴンダーの大事なものをあげたら良いよ」

 リュークは、ぐしょぐしょのヴンダー青年を見上げる。ヴンダーは未だしゃくりあげながらも「で、でも僕、もう何も持ってないんですう」といかにもな泣き言をのたまった。

 それを聞いて、リュークは何故か嬉しそうに革袋に手を入れた。ミハルが反応する間もなかった。リュークはそこから大きめの茶色い肩掛けバッグを取り出して抱え直すと、ヴンダーにそれを押し付けた。

「……あっ! これ、まさか、僕のバッグ!」

 ヴンダーは飛び上がる勢いで驚き、涙も鼻水も忘れて「どうしてここに!?」と目を白黒させている。するとリュークとリンが噴き出して笑ったので今度は皆が驚いた。

と遊んだときに見つけた!」

 悪戯に成功した悪童そのものらしく元気に答えると、これにぴんときたレオハルトが「ああ……オローマの街でですか。言われてみれば、貴方たち朝方まで遊び回っていましたね」と記憶を辿るようにやや上を見ながら言った。

「そのときに街なかで見つけたのですか?」

「うん」

 あの雪解けで水浸しの広い街で見つけるとは、なんというだろうかと大人達は大盛りあがりである。
 だが、いや、そんなことがあってたまるかい、と内心吐き捨てながら絶句するヴンダー・トイは、刹那に寒気を催して自らの腕を無意識に擦ったのだった。
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